明け暮れる二人
川はコーヒー牛乳をいっぱいにしたかのように濁っている。
青く澄んだ空と川に挟まるように所狭しと家屋が犇いていた。
コーヒー牛乳の中ではじゃぶじゃぶと遊ぶ子供がちらほらいる。
家屋の前では真夏のビーチで見るようなパラソルや八百屋みたいな厚いビニールカバーで空を遮る露店が並んでいる。
建物からはちらほらと何かいけないものを覗く少年みたいに蘇鉄が顔を出している。
僕と亮介は橋の端に並んで呆然とコーヒー牛乳の川を眺めていた。
この様子からどういう結果になったかは察してほしい。
「俺としたことが……。スリにはめちゃくちゃ慣れてんだけどな」
亮介が物憂げな声を出す。
亮介は三年前から独りで世界を放浪しているらしかった。
当然、スリに合うような場面もたくさんあり、僕と出会ってからも何度かそういう経験はあった。
しかし、結果として盗まれたのは今回が初めてだった。
「取り巻きから逃げ切って隙があったのかねぇ。まさか振り切った後にまた振り切られるとは。イタチごっこかよ」
さすがの普段からあっけらかんとしている亮介も少女にスリされたのに若干の傷つきを見せていた。
基本的にお金は亮介の財布で一括管理していた。
今の時勢、携帯情報端末で支払いを済ませるため現金を持ち歩かない人もいる中、僕たちは携帯情報端末を持っていない。
さらに電子通貨も発達している中でベトナムでは依然として現金支払いで済ますしかないところも多かった。また、財布の中にカードも入っていたので本当にお手上げ状態になってしまった。
亮介はあまり自分の身の上話をしないが一度通帳の残高を見たときに0がめちゃくちゃ並んでいたのを見て、得体の知れないものを感じた。もしかしたら実家は大富豪なのかも知れないが約一回り近く離れた亮介の素性はあまり知らない。
なんでそんな金持ちなのにこんな貧乏くさい旅をしているのかは謎であったが、もしかしたらその実家と何かしらの関係があるのかも知れない。
しかし亮介も積極的に話そうとしないところからタブーな話なのかなと思い聞けずにいた。
二人旅、相棒、結婚パートナー。
長続きをするためにはあえてお互いに秘密にすべきところ、立ち入ってはいけないところに入らないことも重要だと僕は感じていた。
「とりあえず現金はもう諦めるとしてあの財布ん中にはカードも入ってるしな。暗証番号わかんねー以上あの女も手は出せねーし心配ねぇんだけど、何せ俺らが困る。とりあえず国際の金融機関にでもいくかぁ」
そう言って亮介は立ち上がった。
僕も付近にあった石ころを拾ってコーヒー牛乳の中に投げ込んだ。




