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~One More~  作者: 七福 船
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9話 姉妹。

聖者(エクソシスト)は人類を未知の恐怖から守り、世界の秩序を守ることを宿命としている。


その為、如何なる者でも聖家によって“悪”と判断されればそれは抹殺する必要がある。


なぜなら、それは世界の秩序を守る為に。


もしも、この山の道の先に夜猿の棲み家があり、その正体が徐米の姉だった場合、一はどんな決断をすれば良いのか。


取り分け、今回は抹殺だとかそう言った指定はないが、それが“悪”なのか、どうかは判断し徐米の為にも判断をしなければならないのかも知れない。


「ふぅ……」


「疲れましたか?少し、休みましょうか」


「えぇ、ありがとうございます」


一と徐米が夜猿を追って山へ入ってから1時間が経過しようとしていた。


山は青青としていて、この山が自然豊かで良い山であることがわかるが、所々が荒れている。


枝が折れていたり、地面が抉れていたり。


それは間違いなく夜猿が通った証拠であり、これを辿れば夜猿の棲み家にたどり着くことができるだろう。


だが、ここは山であり足場の悪さや坂が徐米の体力を必要以上に消耗させた。


「すみません。私のせいで時間をくってしまって…」


側の木陰で腰を下ろした徐米は額に汗を垂らしながら、一に謝罪の言葉を口にした。


山の足場が悪いこともあるが、きっと徐米は精神的にもプレッシャーを感じており、体が重いのかも知れない。


恐怖や不安がいつも以上に心拍を上げているのだろう。


「いえいえ、まったり行きましょう。まだ日も高いですし」


「ありがとうございます。姉が……姉さんが夜猿なのでしょうか?」


「……それはわかりません。ただ、可能としてあるだけで確かめてみないことには」


「そうですよね……」


折れている枝や抉れた地面はまるで道のようであり、夜猿は自分で自分の手掛かりを残し見つけて欲しがっているようである。


いや、本当は誰かに見つけて欲しいと思っているからこそ村へやって来ているのかも知れない。


そう、それも孤独にならないように。


徐米は自身の鞄に入れていた水筒から水分を摂取すると再び、立ち上がり歩き始めた。


徐米の歩みはゆっくりであるが、確実に真実へと向かっている。


村人に追放された徐米の姉が村人を憎んでいてもおかしくはない。


確かに、徐米の姉がやったことは許されることではないのかも知れないが、人は誰しも何かにすがりたいもの。


一も今は立派なエクソシストとして活躍しているが、これもすがり付いているだけで、それしか道がなかったことに違いはなかった。


「道が開けて来ましたね」


休んでたから30分ほど進んだ時、木々がなく開けた空間を少し先で一は捕らえた。


ついに、この山のゴールへたどり着いたことを実感すると徐米は一と視線をぶつけた。


徐米の瞳は少し揺れており、迷いを感じるように感じるがその瞳の奥には光が灯っている。


それも、とても強い光が。


「桜之さん、行きましょう」


徐米は一にそう言うと、急に駆け足になり開けた場所を目指した。


「徐米さん、走るのは危険だ!」


駆け足になった徐米に対して、一は手を伸ばしたが徐米はそんな一の忠告を聞かず一から離れていく。


ここはただの山ではなく、夜猿の住まう山。


夜猿は夜に村へやって来るが、昼間に姿を現れないという確信はない。


その為、一は走る徐米を追い掛けて、その手にブラックボックスを強く握り締めた。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


呼吸を見出しながら、開けた場所を目指す徐米。


その胸の中にあるのは不安と恐怖に違いはないが、そこには少なからず希望もある。


──夜猿は姉ではない。


──姉は村人を殺していない。


そうして、山道を踏みしめながらその先にたどり着いた徐米は足を止めた。


そんな徐米の瞳に映ったのは古い一軒家だった。


瓦は所々、欠けており、白い壁は黄ばんでいる。


人が住むにはしんどい部分があると思われる一軒家だが、庭らしき空間には小さい畑がある。


小さな畑には大根やキュウリといった野菜が育っており、どれもこれも青々としている。


それは間違いなく誰かが育てた証だということを徐米にはすぐに理解できた。


「徐米さん!急に走ったら危険ですよ」


「すみません……でも、ここ…誰かが住んでるみたい……」


「誰かが……?」


一は徐米の視点に操られるように目の前にある一軒家に目をやった。


目の前の家からは邪悪な気配を感じないし、夜猿のように強い気も感じない。


「…夜猿の気配を感じない。眠っているのか……?」


一は徐米を守るように徐米の前に立ち、辺りを見渡した。


付近は木々で囲まれており、どこから何が飛び出してくるかわからない状況。


油断を誘っているのか、と一は深読みをした時、目の前の家の玄関がガラガラと音を立てて開いた。


一はすぐにブラックボックスを展開できるように気を送ろうとしたが、家から姿を見せたのはみすぼらしい格好をした1人の少年だった。


少年を目にして、一は目を丸くした…。

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