大学生女子が自宅でタイツの上にスク水を着て自撮りしていたら妹が来訪したので……
本番も行為も無いからセーフでしょう。
多分。
わたし古川佳は、幼なじみの白沢奏子の術中に嵌り、すっかりとある性癖の虜になってしまっていた。
タイツの上から水着を着用する、奇妙な性癖の虜に。
「……」
鏡にスマホを向けて、内股にポーズを取る。
タイツは太ももの付け根にランガード付き。
白い肩紐に、紺色で生地の薄い水着――某界隈では“競スク”と言われている水着だ。
(ちなみにarenaのロゴは剥がれて消えかかっている。ちょっと前まで無事だったんだけどなあ……)
で、タイツの中にベージュのサポーターを穿いている。
つまり……紐ぱんつ、黒タイツ、競泳用スクール水着の順番で着用。
それが今のわたしの服装だ。
腰骨への絶妙な拘束感がたまらない。
肩紐の頼りない細さが、生地のすべすべした肌触りが、そして腰回りを三重にも包まれる感触がたまらない。
泳ぐのでもなく、寒さを凌ぐのでもない、奇妙な組み合わせがたまらない。
靄の掛かった思考で、スマホのシャッターボタンを押す。
自撮りとは、自分の動的な時間を固定された瞬間へと切り取る行為だ。
立ちポーズは何パターンか撮った。
足を思いきり内股にしてみたり、左足の膝を少しだけ曲げてみたり。
腰をひねって後ろ姿を撮ったり。
ここまでの写真を見る。
よしよし、黒い脚と紺色の胴体は、しっかりとコントラストを彩っているね。
じゃあ、次は四つん這いで……。
おしりを、ぐいっと上げて撮ってみよう。
角度はどれくらいがいいか、な――
「――姉貴~、ちょっとシャワー貸してくれない? ふいぃ、暑っちい……あれ、え? ちょ」
この突然の闖入者は、わたしの妹だ。
半袖シャツに膝上数センチの短いスカートの格好だから学校帰りなのだろう。
服装に反比例するようないかにも優等生っぽい利発そうな顔に汗を浮かべ、背中まで長く伸ばした黒髪は少し汗ばんでいる。
……って、ちょっと待て、観察してる場合じゃない。
母さんこいつに合鍵持たせたの!?
嘘でしょ!?
「藍、来るなら連絡くらい――」
「――ていうか姉貴その格好……マジやばくない?」
あのねぇ、実家いた時からそうだけど、部屋にノックしないで入ってくるわ、人の話を遮るわ、けっこう鬱陶しかったからね?
あと、指差すな。
というか、格好がどうかしたって?
格好……。
「……あ」
うわあああああああ!!
そういえば、水着にタイツを重ねた格好のままじゃないか。
やばい……見られた……。
瞬く間に、わたしの顔が熱を帯びる。
呼吸が、心拍数が、せっつくように速度を上げた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
何か、言い訳を考えないと!
例えば、えっと……えっと……!!
「え、えぇ演劇の衣装で、つっ、使うんだよね、これ」
我ながら死ぬほど苦しい言い訳だなオイ!
くっそ、こんな事になるくらいならバレのパターン別言い訳リストでも作っておくんだった……っ!!
「そーなんだ……変わった演劇なんだね……」
とか言いながら、なんでスマホ構えてんだよ。
お前それ被写体に許可取ってないだろ……。
わたし許可出してないよ……。
「とりあえず演劇の宣伝も兼ねて姉貴のその格好、撮るね」
「やーめーい!」
渾身のチョップ!
「うわっとと! つーか姉貴、そうじゃないんだよ!」
「何が」
「シャワー借りたいんだよ」
パシャ!
……シャッター音を、わたしは聞き逃さなかった。
「撮ってないで、さっさとシャワー浴びといで」
「だめっすか?」
「そりゃそうでしょ。画像、消してね」
「せめて個人で楽しもうかと。あー嘘、嘘」
「うーるせーバーカヤロ」
「いてっ」
コツンとゲンコツ一発。
意外としっかり入っちゃったのか、藍は頭を押さえる。
藍はしばらくそうしてから、急にわたしをまじまじと見つめてきた。
お水でも飲もう。
そう思って、わたしは冷蔵庫からミネラルウォーター(コンビニのくじ引きのオマケのやつ)のペットボトルをふたつ取り出して、ひとつは藍に投げ渡した。
「……ねえ、姉貴」
「なに」
わたしは、お水を口に含む。
「その格好、気持ちいい?」
「ぶっ!?」
不幸中の幸いか、噴水は免れた。
けれど、思いきり胸の間に垂らしてしまった。
「いきなり何を言い出すかと思ったらこの子ったらやだよ~もう~」
「ウケる。キャラ崩壊するほど焦るか? フツー」
「だいたい、なんでいきなりそんなこと訊くの?」
「匂いがするんだ。アレした後の。微妙に、だけど」
「うっ……」
いや、わたし……あそこ弄っていないからセーフだよね?
頼む、セーフと言って欲しい。
「てゆか、演劇で使うなんて嘘だよね? 小学校の頃、学芸会で演技下手すぎて役を降りたって自分で言ってたじゃん」
「よく覚えてるね……」
「そりゃそーだよ。あんときクラスのみんなに自慢して回ったのに、帰ってきたらそれだもん。
ショックだったし、マジめっちゃ恥ずかしかったからね?」
「そりゃ悪うござんした」
「それでさ、どうなの? その格好、気持ちいい?」
目を合わせられない……。
必死に顔を背けても、藍は藍でこっちを覗き込んでくる。
ああもう、ばかっ!
あっちいけ!
「どう……って訊かれても……日常と日常を組み合わせたことで非日常になって、自分が自分じゃなくなったような、不思議な気持ちになって、テンションが上がってくるというか」
「ぶっちゃけるとエロい気分になってくるって事か。よしきた」
「何がきた」
「着る。姉貴、予備の水着とタイツ貸してよ」
「はぁ……ま、いいけど。あとサポーターも要るでしょ。未開封のやつあげるよ」
「いいんだ!?」
「うん。どうせなら、着替えた後にシャワーしたら? 布団、洗濯しちゃおうと思ってたし」
「すげー……すげーよ姉貴……久々に尊敬した」
「じゃかあしいわ」
なんだかんだで甘やかしてしまうから、いつまでも距離が近いままなのかもしれない。
昔からこの子は下の毛が生えてきたこととか、生理が来たとか、ブラのサイズが合わなくなったとかで、事ある毎にわたしの部屋に報告しに来ていた。
母さんに言うよりも先に。
そんなに母さんに言うのが嫌か……。
まあ、わたしもあの母さんの下で育ってきたから、気持ちはわかるけどさ。
* * *
こうしてわたしは、藍が漫画本を読んでいる間に、奏子から貰った紺色の水着と、もう一着のタイツを用意した。
サポーターは先んじて穿き替えて貰ったけど、スカート無しの半袖シャツが、何ともチグハグな印象だ。
「はい、お待たせ」
「うーい、サンキュ」
今更、恥じらうような間柄でもない。
この場で着替えても別に、気にはしない。
「やっぱ汗でタイツが上がりにくいや。えっと、破けたらごめんね」
藍は大股開きで、ぐいっ、ぐいっ、とタイツを引き上げていく。
色気もクソもあったもんじゃない。
「いいよ別に。消耗品だし、そんな高いやつじゃないから。わざと破いたら殴るけど」
「そりゃそうだ」
藍はタイツを何度も伸び縮みさせながら、膝から腰まで少しずつ上げていく。
生地の擦れる音と、湿り気でよく透けるタイツの表面。
太もものランガードが引っ張られて伸びているから、透け感が解りやすい。
こうして客観的に見ると、とんでもなく……えっちだ。
やっぱり、黙っていると綺麗なんだよな、わたしの妹は。
「次が、水着かあ……」
ベッドの縁に座りながら、水着を広げる。
前側に水抜き穴が付いている。
俗に言う“旧スク”と呼ばれる学校指定水着だけど、もちろんわたしの世代には既に廃れている。
ブルマとかと一緒で、二次元だけのレジェンドアイテム(友人の奏子いわく)だ。
「ねえ姉貴、これどっちが前? タグの位置からすると、穴があるほうかな」
「正解」
でも穴に腕を通すな。
「よっしゃ」
「ゆっくり着てね。あんたなら丁度いいサイズだと思うけど、それ、競スクと違って生地が伸びないからさ」
「姉貴の身長158くらいだっけ」
「そ。あんた152だっけ?」
「151しか無いよ。いいなあ、姉貴は。姉貴があたしと同じくらいの歳にはもうその身長だったじゃん」
「ククク……不摂生が祟ったな、我が妹よ」
「まあ、胸はあたしが勝ってるけどね!」
などと、シャツのボタンを外して得意げに見せびらかしてくる。
ブラは黒か……近頃のシャツは透けないのかな。
いや、こいつの学校は確かベスト着用だった筈だ。
「うっせ、バーカバーカ。ふんぞり返ってないで、とっととブラ外して着替えろ」
「うーい」
どうせわたしはBですよ。
Fのお前には及ばないよ。
だからゆっくり着ろっつったんだよ、わたしはよう。
「姉貴、ごめん」
「破けた?」
「いや、着せてもらってもいい? 頑丈そうな生地には見えるけど、イマイチ不安だからさ……」
「やだねえ、手間の掛かる子だよ」
「おばあちゃんの真似?」
「そ。似てた?」
「あんまり」
……それにしても。
自分で着る事は何度もあったけど、人に着せるのは初めてだったな。
わたしは水着を小さくまとめて、後ろに立つ。
前からよりも後ろからのほうが着せやすい。
「足、上げて」
「うん」
左右のつま先を順番に上げてもらって足を通したら、シュルシュルと水着を上に持っていく。
脛、膝、太もも、股、尻……。
紺色のエレベーターが妹の肉体を昇っていく。
少しずつ、ゆっくりと。
何度か、わたしの親指が藍の脚に触れた。
そのたびに藍は悩ましげに身を捩る。
「姉貴っ……触り方……」
「うん?」
ちょっといじめたくなって、じらしてみた。
藍が肩越しに振り向いた。
「触り方……んっ……エロい……」
潤んだ目をして、眉尻を下げて懇願してくる。
可愛いなぁ。
本当に可愛い。
やがてタイツの腰のゴムの所まで、水着の上端が辿り着いた。
素肌とタイツの境目は、この腰の所にしか存在しない。
これすらも、今から水着の分厚い布に覆い隠されてしまうのか。
こんな淫靡な冒涜を、わたしは何度も繰り返してきたのか……。
実の妹にまで、その愉悦を説くのか。
眷属でも増やすみたいに。
わたしは唇の乾きを、舌なめずりで癒やす。
「ふふ……ほら、両手下ろして。肩紐通すよ」
「うん」
蕩けきった表情は、わたしの下腹部に不埒な感情をムクムクと生じさせるに充分すぎた。
するり、するり。
右手と左手をそれぞれ通したら、肩紐を同時に引っ張り上げる。
わたしより幾らか大きなお尻に、水着がほんの少しだけ食い込んだ。
おっと、完全に上まであげちゃうとブラが取れなくなる……。
「姉貴? この後はブラを外せばいいんだよね……あ、姉貴? ん、な、何してる、の……?」
我慢しきれなくて、左ひざを、藍の両足の間に挿し込む。
スリスリ。
スリスリ。
「あぁ、ごめんね。ちょっとだけ見させて」
ブラがスクール水着の背中から見えている。
藍が普通の格好をしていた名残だ。
この布を取り払えば最後。
藍がもともと身に着けていた布が一枚もなくなる。
まっとうに意味を成している布が一枚もなくなる。
「わたしに、取らせて……」
「いいよ……」
ホックを外す。
水着の肩紐をくぐらせて、ブラの肩紐を片腕ずつ外す。
横から引っ張った。
「……っ」
水着の肩紐を、しっかりと肩に引っ掛ける。
これで、完成。
藍とわたしが、ほぼお揃い。
嬉しい……。
「予想してたけど、胸のあたり、キツいね……」
振り向いた藍の顔は、少し赤くなっていた。
呼吸が心なしか浅い。
苦しいのかな。
恥ずかしいのかな。
「着心地は、どうかな?」
今度は真正面から抱きついて、わたしは耳元で囁く。
腰のくびれを遠慮なく撫でる。
黒い薄皮に包まれた脚を絡ませる。
わたしの水着は表面がツルツルしていて、この子の水着は表面がザラザラしている。
脚同士、お腹同士の擦れ合う感触、音、それからナイロンの匂い……気持ちよくなってきた。
水着の股と、タイツの両脚。
その三角地帯に、わたしは右脚を少しだけ動かした。
藍もまた、同じようにしている。
「水着の下に、たった一枚重ねただけなのに、なんで、こんな……えっちだよ、こんな格好……」
「そうでしょ……さ。シャワー浴びよ? この格好のまま、ね」
「うん……お姉ちゃん」
この子は、わたしと同じ所へと、堕ちてきた!
シャワーで濡れそぼった身体で抱き合う感触は如何程のものだろう。
ああ……楽しみで仕方がない。
「お姉ちゃん、その前に……」
パシャリ。
藍は、わたしとのツーショットを自撮りした。