死ぬ事が名誉でも死ななくていい
旺田少佐たちが帝国の最高都市に攻め込むことを決定した。
「既にこの本拠地は帝国にバレている。バレている以上は裸も同然や、皇都に攻め込むぞ!」
かなりいきなりだがセルビックの襲撃で既にこの事務所がバレていると判断し、帝国に攻め込むようだ。
旺田少佐たちにはもう守るものは自分自身の意思しかない。
でも俺は違う、俺がめぐみを守らなきゃいけない。
俺しかめぐみを守れない。
「死にたくないものはここで籠城戦でもやっとけ、俺はこんなところでメソメソ死にたくないからな、突撃をかけたるわ。」
少佐はヤケクソともなんとも言えない言い方で生き残った兵士に言い聞かせた。
冗談じゃない。
俺には守るものがある。
「勝人、お前はどうするんや。」
「…俺は…俺は行けないです。」
少佐は驚いた顔をしたがすぐさま平常を取り戻し、俺に冷たく言った。
「死ぬのが嫌か、死ぬのが怖いか。」
「違う…」
「弾丸を打ち込まれて死ぬのが怖いか。」
「違う…」
「守るものを守れずに死ぬのが嫌か。」
「俺には…守らなきゃいけないやつがいる。」
言っちまったよ。
「俺は死ねない、あいつをいつまでも守ってやらなきゃいけない。」
俺が言うと自分でも思わなかった。
「お前は、間違ったお前自身を正当化しようとしている。」
佐々木兵曹長が俺に言った。
「お前は死にたくないという理由を無理につくっている。死ぬのが怖いのは仕方がない、これは本能だ、どうにもならん。」
「自分を正当化しようなんて思ってない!」
「甘ったれるな!」
佐々木兵曹長の一喝が入った。
「人間は死ぬのが運命なんだよ!お前は永遠に生きるのか?いいや、あり得ない。なぜなら人間は死ぬからだ!そもそも永遠なんてない、あるとすれば時間だけだ。時間に制限なんてない!しかし、形あるものはいつかは崩れていく。」
「いつか死ぬなんてどんな餓鬼でもわかる!本心をぶちまけりゃいいならぶちまけてやる。」
上官に対する口調じゃなかった。
「俺は高校の頃、死にたいと思っていた!でも自分で自分の人生を終わらせられるほどの根性がなかった!殺してほしかった。でも心のどこかで生きたいと思ってた!
したいこともなく、ただ殴り続けられ、自分でそれを終えることもできない。とんだクズだよ俺は…でもここに来てやらなきゃいけない事がやっとできたんだ。やっとできた目的をまた無に戻すなんてごめんだ!」
旺田少佐たちは俺を見て驚いている。
これまで下僕のようにいうことを聞くだけだった俺が自分の意思を突き通そうとしている。
「どうしても死ねないのか」
「もしも、めぐみと会わなければ俺も皇都に少佐たちと攻め込んでいたでしょう。」
「そうか……勝人、お前は残れ。」
俺はとりあえず残れる、しかし気持ち良くはなかった。
そりゃそうだ、俺は上官を戦場に駆り立ててその背中を見つめるだけなんだから。
気分が悪い、とても気分が悪い、今にもゲロ吐きそうだ。
「俺は…正しい…ハズだ。」
「勝人、あなたは間違ってるわ。」
振り向くとめぐみがいた。
「勝人はやるべき事とやらなきゃいけない事が完全にわかれている。あなたの身体と気持ちが別離しているわ。」
「間違っているだって?俺は正しい、これでよかったんだ。俺はお前が心配でお前のために…」
「私のことを思うなら旺田さんたちと行って。私は勝人が自分のあり方に苦しんでいる方がつらいわ、だから私のことを思うなら、奴らを倒して。」
「それじゃ、お前が無防備になる。本拠地を割られている今はここの方が危ない。」
「私は大丈夫、既に逃げるところは考えているわ。」
「俺がいなくても大丈夫か?」
「もちろんよ。」
「俺が死んでも大丈夫か?」
「勝人が死ぬなんて考えていないわ。」
やっと俺の気持ちを割り切れた。俺はあいつら帝国人を殺してやる。
めぐみは俺のように銃を撃つことはできない、でも俺よりも雄弁に生きている。それなら俺もあいつ以上に雄弁に生きてやる。
「少佐、俺も行きます。行って生きます。」
「よぉし、それでこそ勝人や。あのままヘナチンやったらどうしようかと思った。」
俺は死なない、死んでたまるか。
あいつの安全が確保される国を取り戻してやる。
あぁ、やっとわかったよ。俺はめぐみが弱くて心配だから一緒にいてやらなきゃと思っていたわけじゃないんだ。
俺はめぐみが好きで一緒にいたいと思っていたんだ。
長いイジメ生活の中で好意を寄せるという当たり前の感情をなくしていたんだ。
とんだ無駄な人生だったよ。
これからこの遅れを取り戻すのはこれからの俺次第か。
それなら死なないように頑張らなきゃな。