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The GUN  作者: 中井
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さようなら

気がつくと真っ暗なところにいた。

どこまでも続いているような空間に何故か俺だけが立っていた。

誰もいない。


少し遠くに一筋の光が見えた。


その一筋の光の中には俺の愛銃が悲しげに倒れていた。

自分の愛銃を拾わない道理はない、と思って俺は愛銃を拾い上げた。


その瞬間、声が聞こえた。

聞き覚えがある女の声だった。


「死んじゃダメ!ここで起き上がれなかったら貴方は自分を否定したことになる!お願い、目を開いて!」

「何言ってんだ、俺がどうして死ななきゃいけない。」


冷静に口ずさんだ瞬間、目の前に光が差し込んできた。

真っ暗な空間にあるはずのない光が見えた。










「ピーーーーーーーーー、ピッ、ピッ、ピッ」

「心肺が戻りました。ありえない、あんな状態から蘇生するなんて。」


なんだ、何故俺はこんなところに寝込んでいる。


俺にはやることがあったはずだ、あの糞野郎どもを蜂の巣にしてブチ殺すと決めたはずだ。


俺は銃を握ったはずだ。


俺は、


思い出した、俺はシルビスとの戦闘で全身打撲、出血多量に脳しんとうで意識を失った。


あいつをブチ殺せたが俺も殺されかけたんだ。


それよりも、あの声のことが気になる。

あの暗闇のそこから聞こえたあの声が。















…っ!!

めぐみ!!


あの声はめぐみのものだった。

確かにめぐみのものだった。


「すこし、用があるので….」

「こら、安静にしてなきゃいかん。」


軍医の言うことも聞かず、全身からベキベキと鳴る関節を無理やり動かしてめぐみのところに行く。


何故、臨死とも言える状態でめぐみの声が聞こえたのか。

不思議で不思議で聞き出したくなった。


基地の中庭にむけて足を進めていると、ピッタリめぐみに会った。

「めぐみ!」

「あ、勝人、無事だったんだ。」


めぐみはまるで女神のように俺に微笑みかけてきた。


「聞きたいことがあるんだ、なんて言うか…」


「それ以上言わなくてもわかるわ、私の声が聞こえたのね。」



図星だった。

「何故、お前が…」

「あの研究所で私も実験を受けたの。運動能力を上げるとかじゃなく、人の心の中に侵入するための実験。」

「まさか、お前はすでに被験体に…」

「ええ、そうよ。色々な実験をうけたわ。」


めぐみのすこしきつめの言葉が俺に突き刺さった。

これまで何をされてきたかわからないが、ダイレクトに触れてはいけないのは明白だった。


めぐみはすこし気分がたかぶっている、下手な言動はできない。


「勝人も私を被験体って呼ぶの?あいつらと変わらないじゃない!」

「すこし落ち着け、お前は誤解してる。」

「誤解?誤解も何もこれが事実よ!私がどれだけ辛かったかもわからないくせに!」


「…俺にはお前の気持ちがわかる、俺も…お前と同じくらい苦しんだ。」


思わず軍人になる前の話を口走った。


「俺は軍人になる前、人間扱いされなかった。」

「…え?」

めぐみの興奮も少し収まった。


「先輩に虐められて、同級生も先生も、学校の理事長でさえ俺の味方をしなかった。」


嫌な話のはずなのに口から滑りだしてくる。


「俺は生きる価値も見出されることなく、先輩に殺されかけた、ナイフでだ! それを俺は無意識のうちに反撃して殺していた。

普通なら正当防衛が認められるはずだ。

やっとこの地獄から解き放たれたと思えば、今度は法律と金が俺の敵をした。

無一文に等しい俺からすれば弁護士を雇う金もない。これで有罪判決を受けたら今度は終身刑だ!


この警察沙汰で当時の恋人には別れを告げられ、社会からは暴虐の使徒扱いだ。


母親に見せる顔もない、俺はクズ以下の親不孝ものだ。」


「……….」

めぐみは黙り込んでいる。


「でも俺の味方をできた人間もいたはずだ、学校の生徒会長、先生、警察、正しいはずの人間が俺の味方をしない、要は自分の不利益に首を突っ込みたくないんだ。

自分のことしか考えていない、それなら俺もそれなりの生き方をさせてもらおうってんだ!

俺に逆らう平民は撫で斬りにでも蜂の巣にでも首チョンパにでもしてやるって!





俺はこれまで仲間がいなかった、いるように見えたのは俺の勘違いだ、甘い汁を啜り出すだけの害虫だったんだ。


どうだ?こんな俺にお前の苦しさがわからないと思うか?

俺ならいや、俺だからお前の辛さがわかる。

生き地獄で暮らしてきた俺ならばわかるんだよ。」


感情に任せて必要ないことをついつい口走ってしまった。

めぐみの反応が気になる。


「…よっぽど苦しかったんでしょ?」

「あぁ、苦しかった、どこに行っても安心できないのが嫌だったさ。」


何故だかさっきまでのギスギスした感じの雰囲気は消え失せていた。


「ごめんね、勝人も辛い思いをしてきたんだよね。私だけが辛いんじゃないよね。」


「俺も言いすぎた、悪かったよ………。

参ったな、こんな辛気臭いのは嫌いで仕方ないんだ。」


「私も辛気臭いのは嫌いよ。クスクスッ」

「へへへっ」


なんだかお互いに分かり合えて要人と護衛の関係の中にある溝が消えた気がした。

しばらく2人で楽しんでいると火虎隊長から無線が入ってきた。


「雪風勝人少尉、今すぐ食堂に来てくれ。」


何かあったのか、急いで食堂に向かった。

食堂では隊長がいつものようにタバコを吸っている。

しかし、いつもいるうるさい隊員がいない。

食堂のおばさんもいない。


「来たか勝人。」

「はい、隊長。何か御用でしょうか。」


おそらく護衛対象と親しくしすぎるな、そんな言葉が来ると思っていた。

しかし、内容は150°ちがっていた。


「勝人、お前は今日で退役しろ。」


意味がわからなかった。


「何故です、俺はヘマなどやらかしていない。それどころか敵の司令官を殺害して功績を得ました。」


「さっき、国防軍本営から連絡があった。

ハンブラビ帝国の攻撃がはじまった。

研究所の件で雪風勝人の名前が上がればおまえは確実に奴らの襲撃を受ける。」


そんな…馬鹿な。

直接的なことしかできない脳筋の連中と思っていたが、まさかこの国に攻め込んで来るなんて。


「身柄を預かっている人たちの避難も済ませたいが、お前だけは万が一の為に優先的に逃す。」

「何故俺なんかを…」

「この国が万が一落ちた時、戦況を回天する軍人はお前しかいない。

この前の戦闘で明らかだ。

それにお前には未来がある、ここは俺たち忘れられた亡者に任せてもらおう。」


この人たちはどうかしてる。


「お前の書類偽装に時間がかかる、一緒に逃がせるのは上手くいって2人だ。」

「それは、命令ですか?」

「そうだ。」


「それは、火虎ただ影としての命令ですか?それとも火虎大佐としての命令ですか?」

「火虎としたの命令だ。」


「わかりました、本日より雪風勝人は軍役を離れます。短い間ありがとうございました。」


俺は涙目を隠しながら言った。

なんせお世話になった人を置き去りにして俺だけ逃げるんだ。

合わせる顔がない。


「貴官の功績は二度と忘れん。ご苦労!!

幸せにな。」


隊長はそう言うと俺に背を向けて武器庫に向った。


俺はとっさにめぐみのもとに戻った。

「めぐみ、ここから逃げるぞ。」

「え、ちょっ、なんで…」

「あの糞野郎どもが軍勢率いて攻め込んで来やがった。隊長からのご命令だ、逃げるぞ!」


遠めにはハンブラビ帝国のものと思わしき照明弾のようなものが光を放っている。


俺は、隊長からの命令を完遂する為に、フェンリルコンバット大隊基地をめぐみとともに後にした。


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