尋常じゃないほどの異常
刑務所を出て国防軍の基地にきた。
基地には戦争するためだけに軍に入ったような人がたくさんいた。
右目に傷がある関西生まれの人が旺田少佐
スキンヘッドの日本刀使いが桜木大尉
古い銃を使う喋らない人が犬神中尉
兵器のカスタムが得意な佐々木兵曹長
そして俺をスカウトしたあの男は火虎大佐
遠距離狙撃、中距離射撃、近距離体術全てを心得た国防軍特別大隊フェンリルコンバット大隊の大隊長。
俺は部隊に入ったばかりの時は二等兵だったが、有力人材育成計画という作戦の一環として演習に参加し、特別に准尉まで昇進した。
とりあえず能力は認められた。
体術でも射撃でも作戦行動でも身体が勝手に動く。
実力というよりは持って生まれた才能というのだろうか、とにかく上層部からの信頼はある程度得た。
昇進して喜んでいたのもつかの間、某超軍事国家ハンブラビ帝国からの亡命者を護衛、敵追撃隊の駆逐という任務が下された。
この時代では帝国主義が再び多くなっている、いや、国が減っている。
アフリカなどもはや一つの国となり変わってしまった。
アフリカの末端で成立したハンブラビ帝国は国際連合に属さず、国際連合以上の軍事力によってアフリカ全土を侵略、統括している。
今回の任務はそこから日本に亡命してくる集団を護衛して無事に連れて帰ってくることだ。
旺田少佐は
「普通の舞台なら難儀な仕事やけど、まぁ前衛と後衛は揃っとるし、一人で迎撃隊に匹敵する化け物もおるから大丈夫や。」
っと言っている。
それにしても皆んなおかしい、全員が実戦初めてのはずなのに恐れる様子はない。
むしろ桜木大尉に至っては喜びの笑みさえ浮かべる。
おかしいんじゃねえの?
作戦区域はアジアのとあるジャングル。
護衛部隊は桜木大尉、旺田少佐、犬神中尉、俺、そして数名の兵士。
駆逐隊は火虎隊長と佐々木兵曹長の2人。
2人で駆逐隊だなんて沙汰の外だ。
一人ひとりの装備もおかしい。
俺は標準的なMP5を使うが、隊長はL96スナイパーライフル。
旺田少佐はデザートイーグルとジェリコ941の二丁拳銃。
桜木大尉は近距離戦を考えて日本刀の二刀流。
犬神中尉に至ってはモーゼルc96などという骨董品だ。
第二次世界大戦よりも前にできた銃をこのご時世に使うか?
あまりにもここの人はおかしすぎる。
おちあいの場所に亡命者たちが20名ほどきた。
モタモタしてると追撃隊が追いつくのであまり時間が取れない。
隊長は900メートル後方から狙撃の準備をしている。
そんな遠くで当たるのか?
不安になり旺田少佐に聞いてみた。
「あんな所から正確に当てれるんですか? 1キロ近く離れてますよ?」
「大丈夫や、あの人は普通の人間の中でトップクラスのリアルチートや。 当てるのなんか余裕や」
それでも信用できない。
200メートル少々ならまだしも、1キロも離れてる。
そうこうしていると旺田少佐が出発の合図を出した。
作戦は緊迫している…ハズ?
アレ? おかしい、追撃隊がすぐ近くにあるかもしれないのに隊員は皆んな喋ってる。
それどころか隊長の無線に至っては麺をすする音までする。
まさか、ここまで常識が通じないとは。
ここにいるとやがて殉職する気がする。
「!?…なにか、いる」
何かがいる
後ろに30ほど展開されている。
おそらく追撃隊。
しかしエンジン音や物音は聞こえない。
戦車や装甲車はいないハズ。
そうなると展開されているのは歩兵部隊。
「桜木大尉、後方に敵部隊が展開されています。」
「あぁ、そろそろおっぱじめるか」
桜木大尉がいきなり短刀を後ろの茂みに投げ入れた。
それとともに叫び声が聞こえる。
「ぎぃゃやゃぁぁぁぁぁ!!」
「伏せろ!」
旺田少佐が叫んだ瞬間に始まった。
いきなり弾丸が茂みの向こうから銃声とともに飛んできた。
聞き分ける限り発砲している敵は3人、残りは後ろから亡命者たちを撃ち殺そうとしている。
俺も間髪入れずにMP5で反撃しようとしたが遮蔽物に隠れられた。
ガガガガガガガッ チャリンチャリンッ
カシャッ ガガガガガガガッ
「グハッ」
銃声と断末魔が同時に聞こえる。
桜木大尉たちが囮を制圧し、第二撃を加えようとしていると、何か液体が飛び散る音がした。
飛び散る音がしたと思うと一際甲高い銃声が聞こえてきた。
隊長の狙撃だった。
「ターゲットA ヘッドショット、 次ターゲットB
遮蔽物より頭部が5センチほど露出、ヘッドショット」
ズドンッ
隊長が精密な射撃で追撃隊を空き缶のように撃ち抜いていく。
敵の後衛が発砲を開始するもすでに桜木大尉が日本刀を両手に突っ込んでいった。
「あの感じやったら終わりやな、帰るぞ。」
茂み能力は向こうからは叫び声が聞こえる。
もうすぐ安全地帯という所で旺田少佐が一服入れると言い始めた。
旺田少佐はかなりのヘビースモーカーだ。
一日中アメリカのタバコをスースー吸っている。
当然俺は吸わないので周りの索敵をする。
敵が出てきて部隊が全滅なんて冗談にもならない。
索敵をダラダラしているとみんながいるところよりも少し離れたところに同い年ほどの女性がいた。
見た目は明らかにアジア人、いや、日本人である。
とりあえず話しかける。
「みんなと楽しまないのか?」
「タバコは嫌いなの。」
なんか暗いイメージだ、しかし顔は可愛い。
「俺は雪風勝人ってんだ、まぁもうしばらく護衛することになるから名前くらいは覚えといてくれよ。」
「私はめぐみ、あの施設のように番号で呼ぶのだけはやめて。」
どうやらハンブラビ帝国の施設で実験台にされかけたんだろう。
「もしいいなら何があったか教えてくれないか」
タブーに触れた気がしたが、まぁどうでもいい。
用心棒として知っておいて損はないだろう。
「私達はとある人間の可能性についての研究のために実験台として誘拐されたの。」
興味が湧いてきた。
「人間の可能性?なんだそれ、人間の可能性って言っても人間は人間だろう。」
「ハンブラビ帝国の支援を受けている財団が開発した薬を投与して薬に適性があった人間は人間の域を卓越した能力を手に入れることができる。」
薬を投与して運が良ければ特殊能力が手に入るらしい。
「適性がなければ一体どうなるんだ。」
「薬に適性がなかった場合は激しい苦しみを伴って最悪の場合…死ぬ。」