普通の終わり
俺は高校生の雪風勝人、ごく普通のいじめられっ子だ。
母は女手一つで俺を育ててくれた。
親父は俺が生まれてすぐに死んでしまったらしい。
これまで退屈に過ごしてきて、退屈に過ごそうとしていたのに、ある時、俺の全てが無駄になった。
時は2026年、日本は某軍事国家からの威圧により、反戦争派と軍事力拡大派の二つに分かれていた。
国内でテロが頻発し、その恐怖から民衆までもが凶暴化してしまっていた。
とはいえ俺は学生、それも虐められているクソッタレだ、どんな犯罪者も俺を相手にしないだろう。
しかし、校内のヤンチャには絡まれる。
「金よこせ」だの「殺すぞ」だの色々言われる。
ひどい時には「プロレスの技の研究」だとか言って散々ボコボコにされる。
ひどい有様だ、どこもかしこもクズみたいなのがはびこってる。
普通に生きたかったのに、何故かうまくいかなかった。
ある日、軍事力拡大派が「日本国防軍」と言った憲法を踏みにじるような組織を創った。
国内ではデモが起こり、これまで以上に生活しにくくなった。
それと同じ日、恐ろしいことをしでかしてしまった。
おそらく、我が家の名に末代まで落ちないくらいの汚れをつけてしまった。
いつも通り昼休みにご飯を食べていたら友達が慌てて俺を呼んできた。
俺は虐められてはいたがそれは先輩からだ。逆に同い年からは、「面白いやつ」とよく言われる。
慌ててた友達は「新城先輩がお前を探してたぞ?」
と言っていた。
あぁ、運が悪い。よりによって校内で一番危険な人間に目をつけられた。
俺の高校はまるで未開の地のようなど田舎にある私立の高校だ。
生徒はみんなヤンチャでヤンキー漫画に出てきそうだ。
昼休みにはあちらこちらでタバコの煙がムンムンと上がっている。
先生なんて終わりものだ、ありえないが勤務中に酒だタバコだ、去年逮捕された先生なんてシャブ(覚せい剤)なんかもやっていた。
そんな高校をしめているやつに目をつけられた。
とりあえず隠れているよりは自分から出て言った方が殺されずに済むはずだ。
そんな軽い気持ちでその新城先輩のところへ言った。
…ヤバかった。
体育館の裏でタバコを吸っていた新城先輩は俺を見るなりポケットからギラギラ光るモノを出した。
刃渡り5センチはあるナイフだった。
そして新城先輩は叫びながら俺に突進してきた。
目の前にナイフの刃が来て視野がいきなり赤くなった。
「俺の人生詰んだ。」
そう思っていると、不思議と俺は立っていた。
逆に立っているはずの新城先輩が俺の足元に転がっている。
自分の学ランには紅模様が付き、スケバンみたいなヤンチャ女が叫び回っている。
新城先輩を見ると、首にナイフが突き刺さっている。
首元の動脈を斬られて血が大量に吹き出していた。
ナイフを持っていた手の手首は完全に折られて、腕の関節がまるで増えたようだった。
早い呼吸を抑えて気持ちを落ち着かせると、だんだんスケバンみたいなのが叫んでいる内容が聞こえて来た。
「雪風が新城を殺した!新城が殺された!」
さっぱり理解できなかった、しかしあのスケバンのビビり方は演技じゃない、小便まで漏らしていた。
「ざまぁねえな」
と喜んでいたのもつかの間、勿論先生が来て警察に通報、俺は警察の手縄にかかった。
警察は勝手に俺が犯人だと決めつけたりはしなかった。
しかし、目撃者がいたのでそれの証言で俺は裁判に引きずり出された。
これまでになく初めてのケースだったようで少年法が適用されないらしい。
それはともかく俺は何もしていない、目の前にいて何が起きたかわからないのもおかしいが本当に分からない。
それを裁判で言っても検察は高校生の与太話としか考えなかったのだろう。
そもそも金がなく弁護士も雇えない状態で裁判に勝てるはずもない。
結果は目に見えていた。
「雪風勝人に別命あるまで終身刑とする。」
理解できなかった、いや、できるはずもない。
してないことをしたと言われて法令特別扱いで鑑別所を通り越して刑務所行きである。
おかげで高校には通えず、高い金を払って入学したのも無駄になり、何よりも母親が一人で貯めてきた貯金を丸々墓穴にぶち込んだ。
腹が立って仕方なかった、やったやってないはもう問題ではなかった、殺してやりたかった。
スケバンも検察も裁判長も、警察という概念がなければ臓器でも売り飛ばしてバラにしてから殺してやっていた。
しかしもう遅い。
今するべきは刑務所でどう過ごすか考えることだ。
まぁ学校より少し荒れているだけだろう。
1日
2日
3日
1週間
面会にきた人がいたが身に覚えがない人だ。
「国防軍に入らないか?」
と言ってきた。
悪い冗談だ、なんで俺がアメリカのB級映画みたいに
ハジキを握って人体に銃槍を開けなければいけないのか。
虫唾が走る。
しかし次の日にきた人は違った。
軍服を着ていて軍帽は後ろ向きにかぶっている。
刑務所の中は禁煙なのにあまりの威圧感に看守も声を出せない。
その男は俺に言ってきた。
「君の話は聞いている。雪風勝人君、学校のクズを体術で始末したそうだね。」
「俺はそんなことした覚えはない」
少し強めに言ったが殺されると思った。
「いいや、君がしたんだ。そして俺は君の実力を買おうとしているんだ。」
そんなこと言われてもここからは出られない。
そう言おうとした。
「確か「別命あるまで終身刑とする」だったな?別命あるまで…」
何が言いたいかわかった。
「これが別命ってことか?」
「その通りだ。実に感がいい。」
この男は俺の何かを知っているようだった。
男の鋭い視線は俺の眼球を焼き尽くすかのようだった。
しかし、この男は嘘も言っていない。つまりは
「おれについてきたら刑務所から出してやる」
と言いたいのだ。
まるで司法取引だ、でも面白い。
この腐った国を変えるにはちょうどいい。
俺は銃を握ることにした。
しかし何故か銃を握るということに運命のようなものを感じる。
銃を握ると決めた時何か変なものを感じた。