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5話

 アンセムは自由に設置できる簡易住居アイテムを所持していた。

 

 バニラ(MOD未導入状態のこと)の時は簡素な山小屋だったのだが、アンセムが所持しているものはMODの影響でかなり豪華な作りになっている。休もうと思えばいつでも休めるのだ。それにも関わらずアンセムが人里へ向かうのには理由があった。


 ずばり食事だ。


 ゲームの仕様が現実化した際、魔法やスキル、装備はそのままの効果を持ち実体化したのだが、唯一現実化しなかったのが食料アイテムだった。


 レーヌと出会う前に、小腹がすいたアンセムは食料アイテムを取り出し愕然とした。

 見た目こそゲームでよく見たものだったのだが、プラスチックのように固く、食べることができなかったのだ。食品サンプルと言えば分りやすいだろうか。飲み物さえもその状態で出現したのだ。


 不思議なことにポーションや身体強化用の薬品は無味無臭だが飲むことが出来た。

 UIが使用できなかった事といい、アンセムは法則性が掴めないでいる。ただ、薬品系が無味無臭であったことと、食料品が中途半端な現実化だったことから、味覚に関するアイテムに制限があるのは確かだった。


(最後に食べたのが自室でゲームしながら飲んでいたビールとスルメイカだったか。どれくらい森のなかで倒れていたのかは分からないが、流石に腹が減った)


 そんなことを考えながら黙々と街道を歩く。

 ちなみにレーヌが乗っていたユニコーンは、鎧と同じく目立ちすぎるという理由で召喚を解除していた。

 解除する際にユニコーンはしょんぼりとした様子だったが、どうせ『もっと処女に跨がられていたい』とかのクソみたいな理由だとアンセムは判断し、気にしないことにしていた。

 実際にユニコーンはそう考えていたのだが、なぜアンセムが的確にユニコーンの気持ちを的確に汲み取れたのかは、触れないほうが懸命であろう。


 ※


「アンセム様、村が見えてきました! あそこが『フロベール村』です!」


 レーヌが指差す方向に、寂れた村が見えた。

 

 そこからまた暫く歩き村に着くと、ポツポツと民家が立ち並んでいた。いかにも農村部と言った感じで、木造家屋に藁葺き屋根を載せただけの簡素なものだった。

 村人たちは雪掻きをしたり洗濯物を取り込んだりと、各々の作業に勤しんでいる。


(どうやらこの村は盗賊に襲われていないようだ)


 レーヌも同様のことを考えていたようで、ホッとした表情を浮かべている。2人が村の入口に近づくと、村人達がアンセムの顔を見てぎょっとする。皆一様に怯えた表情で、家の中に入ってしまった。


「…………そんなに怖いかな」


 アンセムの呟きに、レーヌは気まずそうに顔をそらした。アンセムは微妙な顔をしながら村へと入る。


 「宿屋はあっちの方だったと思います!」


 レーヌは微妙な雰囲気を払拭しようと、明るい声でアンセムに声をかける。


「あぁ、その前に寄りたいところがある。商店か金物屋、もしくは鍛冶屋などがこの村にはあるか分かるか?」

「たしか鍛冶屋があったと思いますが……。何か買うのですか?」


 アンセムの問に、レーヌは不思議そうな顔をしている。


「欲しいものがあるわけではないんだが、少し買い取りして欲しいものがあってな」


 この世界がトワイライトと関係ない世界だとすれば、当然トワイライトの通貨は使用できない。それを確認するには、まずはこの世界の通貨を確かめる必要がある。

 幸いにもアンセムはゲーム時代に集めた素材を大量に持っている。その中には鉄のインゴットや銀のインゴットなどの当たり障りのない素材もある。これらを買い取りしてもらい、この世界の通貨を入手しようという算段だった。ついでに宿屋の経費を捻出できる。


(我ながら冴えている)


 アンセムは心中でガッツポーズを決めているが、レーヌは対称的に複雑な表情を浮かべていた。


(そうだ。私、お金持ってない)

 

 アンセムの買い取りという言葉を聞き、レーヌはそのこと思い出した。

 盗賊から逃げるのに必死で着の身着のまま家を出たレーヌは、一文無しの状態であった。貸して欲しいと頼みたいが、すでに多大な恩があるアンセムに対して無遠慮すぎるとの思いから言い出せずにいた。


「……心配するな。レーヌの分の宿代と飲食費も払ってやるから。もちろん貸しだ。もっとも買い取りが上手くいけばだけどな」


 なんとなく状況を察したアンセムがそう声をかける。彼としては別に貸しでなくても良いのだが、遠慮がちな人間にはこの方がいいだろうという判断だった。奢られて当然と言って憚らない女性もいるが、短い付き合いではあるもののレーヌがそういうタイプではないとの信頼もある。


「ありがとうございます。必ず返済します」

「ああ。忘れないからな」


 アンセムが冗談まじりにそう言うと、レーヌは少し困ったように笑みを浮かべた。


                  ※


「買い取ってもらえて良かった」

「はい!」


 2人は鍛冶屋を出て一息ついた。

 

 アンセムは始め革の袋を取り出し、その中に鉄のインゴットを数本入れた状態で鍛冶屋に入店した。これは中空からいきなりアイテムを取り出すのを避けるためだ。

 店内にいたのはアンセムに負けず劣らずの強面の爺さんで、アンセムの顔を見ても怯えることはなかった。地味にアンセムは感動していた。

 鉄のインゴットを見せた所、爺さんの食いつきは凄まじく、全部買い取ると言いだした。なんでも、この村に来ていた行商が積雪のために往来頻度が減少し、鉄の在庫が底をつきかけていたそうだ。

 

 買い取りの際、日本のように身分証明の提示を求められるかと危惧していたが、それも全くの杞憂であった。爺さんは何も言わず料金を渡してきたため、藪蛇だと思ったアンセムはそのことについては一切触れないでいた。


 退店したアンセムは、渡された数枚の銀貨と銅貨を眺める。


(やはりトワイライトで使用していた硬貨ではない)


 そもそもトワイライトは金貨のみの統一通貨であった。銀貨や銅貨は存在していない。ゲームは分かりやすさに重点を置いていたので当然ではある。なんにせよ、この世界でトワイライトの通貨が使用できないのが確定した。


(きん)その物の価値はあるだろうが、偽造通貨だと訴えられた場合に言い逃れ出来ない。いつの時代も偽造通貨は重罪だ。用途が思いつくまでは封印しておこう)


 アンセムは硬貨の入った袋を懐にしまい、レーヌに声をかける。


「レーヌ、そろそろ宿屋へ案内してくれ」

「分かりました!」


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