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無垢なる天魔  作者: 北野 恍斗
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第1刻『王の覚悟は』



1話ダヨ









「という訳でやってきました!謁見の間!!」


デデン!っと扉の前でばっと腕を広げたのだが、即座に信に叩かれて元の位置に戻っていった。

叩かれた腕は若干赤くなっている。


「痛いよ信。暴力反対だよー?」

「不敬になっても知らないぞ」

「酷いなぁ……」


そりゃあ、扉の前でやるならともかく王様を前にしてやるわけがないじゃないか!……多分。


この扉を開ければ、僕は正式にこの国の『勇者』となるのだろうね。

勇者がどう言うものなのか信に聞いてみたのだけど、なかなかに面倒な存在だと思ったよ。

だって僕らとは正反対の存在なんだもの。いや、元々正義がどうののモノだって言うのは知っているけれど、他人に聞くとまた違って見えてくるものもあるからね。


とは言うものの、どちらにしろ『勇者』と僕達はかけ離れた存在な訳で……


「勇者ねぇ……」

「……すまん」

「ん?……あぁ、信が悪いとかじゃなくてね。僕達以外にも、他の国に勇者が居るってのを聞いてねー…………」

「……?」

「ふふっ、なんでもないよ。さて、ここ一週間王城に居るのも大変だったし、ここいらでお暇させて貰おうか!」

「そうだな。そろそろあいつらも気づくだろうしな……」







⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘





俺の名は、リューズヴェルド・リドル・エ・リステニア。この名の通り『リステニア王国』の王をやっている。


勇者召喚の儀を計画したのは、約一年程前だっただろうか。

それから実行に移し、今までとは違う『正なる勇者』の召喚ではなく『悪なる勇者』を召喚しようと試みた。


それを計画時家臣たちへと告げれば、それはもうほぼ全員が反対したものだ。

説明すれば納得はしてくれたが、いい顔はしなかったなぁ。


ああ、何故『悪なる勇者』が欲しいのかと言えば、それは勿論、面白いから……と言うのも少しはあるが冗談で……我々は今、昔と違い“魔物”ではなく“人間”と争っている。


魔物とは、世界各地どこにでも生息する獣たちだ。訳あって昔は狂暴な性格をしていたが今では穏和で、縄張りを荒らさない限りは襲っては来ない。


昔は脅威と認識されていた魔物が、今では脅威などではなく人によっては愛玩動物として認識している者もいるくらいだ。


そのため、世界規模で“敵”と認識されていた魔物が敵でなくなった今、人々は何を求めるだろう?


人とは貪欲だ。隣の芝生は青く見えるとも言うし、持っていないものを持っている人間を見ると欲しくなるだろう?

それを大きく括って見てほしい。


人ひとりの範疇で見れば小さなものだが、国として見ればまた違う。


俺はこう考えた。


国同士の戦争が起こる、と。


元来、増えすぎた魔物や大昔に出現した魔王なる輩を掃討するために呼ばれる『勇者』という存在は、その魔法陣の性質や儀式を行う術者の種類によって『正の勇者』を繰り返し召喚するに至った。


なればこそ、問題であるその魔法陣の性質と術者を悪の性質にとりかえたらどうなるか……。

こればかりはやってみなければ分からないが、面白そうだろう?


ここで話を戻して、何故悪を望むのかだが……結論を言おう、対人間の場合『正の勇者』では我々に手を貸さない場合があるからだ。

扱いづらいと言っていいだろう。彼らは『勇者』である事に誇りを持ち、正しい事を成そうとする。

それは悪いことではなく、国としてそんな勇者であれば歓迎だ。

だが我々が今望むのはそんな正しい勇者ではなく、どろどろになったこの国家関係の間を平然と歩き、その道までも真っ黒に染めてしまえるような勇者だ。


それに、正では俺と反りが合わないだろうしな。


ま、『悪の勇者』も扱いづらい事だろうは承知しているが、正よりはましだろうと思うことにしよう。



ここまで話せば察せるだろう?

そう、端っから俺は平和なんぞ望んじゃいないんだよ。

俺は奴らと争い、そして“勝つ”ために手段は選ばない。だからこそ、キレイな勇者は要らないんだ。



例え俺が死んでしまったとしても、最後に俺の国が勝ってさえいればそれでいい。



さて……俺達の勇者はどんな狂気の色をしているのだろう?


楽しみだな。




⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




『勇者』が『リステニア王国』へ召喚されてから一週間が経った。


突如異世界へと招かれた彼らは、突然の事に事態を把握しきれないとの事で、この一週間俺の城で休みを取らせていた。


それも仕方の無い事だろう。気づけば突然見知らぬ場所に連れてこられていたのだ。拉致と言って相違ない。

成人しているかすら怪しいほどの年齢に見えたし、何より普通の青年にしか見えなかった。あまり期待は出来ないかもしれないな。



「あら嫌だわ。リズったらそんなムスッとした顔をして、勇者くん達が逃げちゃうわよ?」


謁見の間でホノメ達を待っていると、フリルのついた紅いローブを着た妙な口調の“男”が部屋に入ってきた。


「呼んだつもりはないぞ……ギュレヴィ」

「リリィよ!!その名前で呼ばないで頂戴!……何よ折角手伝ってあげたのに」

「お前もノリノリだったろ」

「当たり前じゃない、この国の王に貸しを作れるにこしたことはないわ」


フフンと鼻を鳴らして、意気揚々と笑うギュレヴィ……もといリリィ。こいつは俺の学生時代の同級生であり、俺の悪友だ。

どうやら俺にと言うかこの国の王に貸しを作りたいらしく、だからなのか今回の話に飛びついてきた。……まさか昔の事をまだ気にしているのかとも思ったが、聞くわけにもいかない。


「おいギュレヴィ。あまりリズを煩わせるな」

「あら、誰かと思ったらリンクじゃない。黙って突っ立ってるからお人形さんかと思ったわ」

「っ貴様!!」

「あーあー、相変わらず五月蝿(うるさ)いわねあんた」


リンクと言うのは俺の幼馴染でありこの国の宰相、リンクスフェルト・クウィンティス。

こいつもリリィと同じ学生時代の同級生だ。

そして見て分かるとおり、この2人は仲が悪い。


「はぁ……お前らが揃うと何でこうも五月蝿いのかねぇ」

「嫌ねぇ、あたしじゃないわよ?リンクよ」

「なっ……!?私ではない!貴様がっ!!」


はぁ……またギャーギャーと俺の後ろで喧嘩を始める2人。五月蝿いったらない。主にリンクが。


「なぁ、そろそろ勇者くんが来るんじゃないか?」

「あら、そうなの?」

「……もうすぐ時間ですね」


手元の時計を確認すれば、リンクの言う通りそろそろ指定した時間になろうという所であった。


「……一応、あたしの弟子にここの周りを見張らせてあるわ。それに最近の事は聞いているわよね?」


眉根を顰めながら小声でリリィが呟いた。

最近の事と言うと、敵国からの諜者の話だろう。

奴らは目立つ事を嫌うため、比較的人が多くいるような場所は好まない。そのため城下町ならまだいいが、手練れになると城の方へ侵入するケースも多々ある。それが最近は城へ侵入する諜者の人数が増えてきているのだ。手練れが多く来たのかとも考えたが、それがどうも違うらしい。


ざらな警備と言われればそうだが、俺の警護は勿論の事、要人の警護や重要機密事項などは厳重に管理を行っているつもりだ。


「諜者が増えてきている件と……その死体が増えた件だろう」


そうなのだ。

諜者が増えたなら死体が増えるのは当たり前の事ではあるのだが、ここで問題なのは俺達の手の内の者が殺した数と、実際の死体の数が合わない事にある。

正確には、実際の死体の数が多いのだ。


「……誰が犯人かなんて分かりきっている事なんじゃない?」

「そう、だな」


リリィの言葉にリンクが嫌そうに同意した。

基本的に仲は悪いが、何故か意見は一致する2人だ。それも今回の場合は簡単だ。


なにせ、事の起こりは約一週間前。



一週間前と言えば……





――――――コンコンッ




どうやら、待ち人が来たようだ。





⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘





謁見の間には、王であるリズと側近の私。そしてリズが呼んだ勇者のホノメと、その友人だというシン。ついでにギュレヴィが居た。



ホノメは召喚直後から変わらずニコニコと何が面白いのか微笑んでいる。反対にシンは感情があるのか分からなくなる程の無表情。


最初は面白い2人組だと思った。

けれどだんだんと、怖いと思ってしまっているのも確かだ。それが何故なのかは分からない。端から見れば普通の青年達だ。しかしどこか歪だと感じてしまうのだ。


不意にホノメが周りをキョロキョロと見渡したかと思えば、可愛らしく首を傾げた。男の癖になかなか様になるのだから、手におえない。


「謁見の間と言うから、もっと人が居るかと思ったのだけれど……そうでもないのかな?」


王の前で話すには少し不躾な口調と、何故か嫌味に感じさせないキザな貴族のような芝居掛かった話し方。当初より彼はこんな話し方で、独特な雰囲気を持っていた。


「今回の話し合いは、俺と勇者の非公式な場だ。観客は要らないからな、不満か?」

「ううん。そう言う事であれば構わないよ。先に言ってくれれば良かったのに……」


いけずだなぁと小さく溜息を吐いた彼は、ふと何も無いはずの天井を見上げた。


「ふうん?なるほどなるほど」


言いながら何度もコクコクと頷いている。

なんだ?あそこに何がある……?


取り敢えず、ギュレヴィの弟子でないことは確かだ。あいつは“見張らせている”としか言わなかったし、何より気配を悟られるような奴をあいつが使うわけがない。

それに隣をチラリと見れば、奴も変な顔をしていた。……いや、これはいつもか。


「どうかしたのか」


リズが探るような目でホノメを射抜いた。

訊ねる言葉であったのにも関わらず、断定的であったのは気のせいか。どうやらリズもこの勇者には緊張しているようで、いつもより少し声が硬い。


天井から視線を外し、その目にリズを捉えた彼は先程とは違う笑みを浮かべていた。そんな彼が、悪いいたずらを思いついた子供を連想させた。



「そう言われると、どうもしていないと答えたくなってしまうけれど……そうだね。君達はどうやら、もう気がついているようだし」



彼はシンへと振り向き、


「ねぇ、シン。僕の獲物を捕まえてきてよ」


と、嗤った。





1ヶ月に1話が限界

ギリギリな感じ?

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