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無垢なる天魔  作者: 北野 恍斗
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prologue: 紅い夕陽に照らされて

リメイク




城の廊下を歩いていた。

ここへ来て一週間程が経過したけれど、まだ少し慣れない。それも、当たり前だと言うべきなのだろうか。

そもそも今僕がいる“この世界”は、本来僕が居た世界ではない。

パラレルワールドとでも言うのだろか。いや、世界自体が違うという意味で間違っているし、もうひとりの僕が居るような事も無いようだから……



なら、こっちはどうだろう?



『異世界』と。





⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘



召喚された際に聞いた事だ。

僕が今いるこの国の名は『リステニア王国』と言うらしい。

あまり興味はないのだけれど、この国の『勇者』になった僕は当然の如くこの国を救わなければならなくなってしまった。


勇者“だから”救わなければならないという事に疑問を持ったのだけど、彼がそういうものだと言うのならそうなのだろう。


疑問に思っただろうか?

僕の言う『彼』が誰なのだろうと。


召喚されたのが僕だけではないと言う話さ。

むしろ彼に巻き込まれた系の人間で、本来『勇者』ではない筈の存在なんだ、僕は。


彼が少しでも“嫌だ”と思ったから代わってあげただけだけれど、これで良かったのかもしれないね。

なにせ彼は表に出るような性格をしていないし、なにより裏方の方が向いているのだから。




…………ああ、言っておくけれど“僕達”はこの国を救おうだなんて、これっぽっちも考えていないからね。






皮肉な話さ、『殺人鬼』が『勇者』だなんて、ね。






⌘ ⌘ ⌘ ⌘





時は遡って、召喚されるつい数時間前の話。




僕、灰陰仄(はいかげ ほのめ)は幾度目かの殺人(あそび)をしていたんだ。

そのつもりはなかったのだけど、今回の遊びでついに実の両親を手にかけた。


少しの快楽と落胆とが混ざったつまらない遊びだった。


僕は期待していたのだろう。両親を手にかける事の罪悪感と絶望を。


もっと深いものだと思っていた。彼等2人の間に産まれ、愛情を感じながら育てられた。

だからこそ、彼等を殺せば今までより深い快楽と強い絶望を感じる事が出来るかもしれないと思っていたのだ。


けれどもその期待は大いに裏切られ、やけに呆気のないものだったから、愉快な気分ではなかった。



⌘ ⌘ ⌘ ⌘



「……珍しいな」


親友であり共犯者でもある、叶信(かのう しん)がいつものように無表情に呟いた。

無表情なのにも関わらず、何故か僕には彼が酷く驚いている様が見えた。


どうやら僕が不機嫌なことを珍しがってるようだ。


「失礼だな!少し傷つくぞ!」

「……」


呆れたようにため息を吐いた信は、「それより」と言いながら夕陽と血で真っ赤に染まった部屋の中へと躊躇なく足跡を残して行く。


「俺を家に呼んだかと思えば……。まぁ、思っていたより早かったな」

「ん?何か予想でもしていたの?」

「一応。ちゃんとした人達だったようだし、愛されている事は感じていたんだろう?……殺した時はさぞ絶望するかと思ったんだ」

「さっすが信だね!わかってる~!」



人を殺した時のあの絶望感と快感は半端じゃないし、クセになってしまっている節はある。

それをより強く感じようとしての、今回のコレだ。


「僕もまだまだ自制心が足りないね。まだ殺すつもりはなかったのにさ」

「……」


おや、どこからかジトっとした視線を感じるなあ。

まぁ、それは今は横に置いておくとして。


「手を貸してくれないかい?このままでは殺人罪で捕まってしまうからね」


いつものように軽くお願いすると、これまたいつものように頷きが返ってきた。


信は僕にとってなくてはならない存在だ。

彼の能力は、情報収集・分析・拡散・操作……まだまだあるらしいけれどこの4つが主に僕を支えてくれている。

情報は大切だ。それが事実なのか将又嘘なのかを見分ける力も重要だ。そしてその絶妙なタイミングを見極め、事実を織り交ぜた嘘を拡散させてゆき世間を動かして行く。


簡単には説明出来るのだけれど、実際どうやっているのか見たことはないし、多分見させてはもらえないだろうから手伝うこともできやしない。

でも、これだけは分かるんだよね。これがどれだけ難しいことなのか。


信は僕に手伝わさせる気は一切無いようで、全てを1人でやっているようだ。本当呆れてしまうほどに優秀だよね。


何故こんなに僕の役に立ちたいのかはわからないけれど、わかっているの?


僕だって君の役にくらい立ちたいんだと。


僕が殺して、彼がその隠蔽をする。僕はただ好きな事をしているだけだけれど、じゃあ彼はどうなのだろうかと考える。

……好んでやっている事をあながち否定出来ないところが何とも言えないけれど、それで甘えてばかりでは駄目だろう?



信と出会うまでつまらない日々を送っていた。

何の刺激もなくて、これが僕の日常なのだと思うと何かが違う気がしていたんだ。

でもそれが何なのかはまだよく分かっていなくて、ただただ時間を無駄に浪費していたんだ。


けれど、信と出会って様々な物が変わって見えた。退屈だった毎日が、突然色がついたように鮮やかになった。

一体僕はこれまで何をしていたんだとさえ思えてしまうほど、それは劇的だったんだ。


信には本当に感謝しているよ。

こんなに毎日が楽しいのは彼のおかけだし、その最たるモノの“殺人(あそび)”がこんなにも楽しい事なのだと知ったきっかけも彼だった。







……そう、彼が居なかったら僕は殺人鬼になってなどいなかったんだから。








⌘ ← コマンドマークって言うらしい

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