君去らず
*今回はエーコ視点です。
前回のあらすじ
ついに大魔帝ハーレムにに追い詰められたおっさん勇者達、そこに突如シロがあらわれ助けてくれた。
その時、エーコは海の中で息絶えようとしていた。そんなエーコに遠い昔の記憶が蘇る。
遠い昔、荒れ狂う海で、私と彼は木の船にしがみついて風に吹き飛ばされない様に耐えていた。船は高い波のうねりに呑まれ激しく揺れる。
一寸前が見えない様な豪雨と止まらない雷鳴、船を飲み込もうとする渦の中で、海龍神ウラガが怒り狂い暴れまわっていた。
≪人間よ!神聖な海に女を連れ入れるなど何事だ!女諸共、海の藻屑となるがいい!≫
「龍神よ!怒りを収めよ!これ以上嵐を続けるのならば、この神剣でお前を討つ!」
彼が海水を飲みそうになりながらも必死に叫んだ。
≪ハハハッ!船につかまるのがやっとのお前に何ができると言うのだ?≫
駄目……きっと彼は龍神に勝つ事はできない、このままでは2人とも死んでしまう。私が何とかしなきゃ。
私は決意をして、声をあげた。
「私!私のせいで、女の私が一緒にいたために、貴方に迷惑をかけてしまいました。死ぬのは私だけで充分です!」
私は、彼につかまっていた手を放し、龍神に向かって真っ逆さまに落ちていった。
「オトタチバナ!」
彼が私の名前を叫んでくれた、嬉しい……。
昔、私が燃え盛る炎の中に取り残された時、貴方は私の名前を呼んで助けてくれましたね。私はあの時、何があろうと、ずっと彼に付いて行こうと心に決めたのです。
でも、もうお別れです……。
あぁ、もう一度でよかったから、貴方のその胸に強く抱きしめられたかったな……。
≪女!血迷ったか?まぁいい、順番に尊き死を与えてやる!ハハハッ!≫
「龍神、アナタに私の命をあげる!だから永く静かに眠りなさい!」
私の髪が太陽の色に染まり、血が熱を発して燃え上がる。熱が体を燃やし灰になっていくのを感じた。
≪マサカ!キサマは太陽神の末裔なのか!我を封印する気か!ヤメろ!キサマに恐ろしい祟りが降りかかるぞ!!≫
熱が光に変わり、海神龍ウラガを包み込んだ。
≪我が復活するまで何千年もの間!お前は海の呪いを受け、何度転生し愛する者と出会おうとも、お前は溺れ死に、愛する者はお前を忘れて、他の女と結ばれるのだ!ハハハッ!ギャハハハッ!ギャァアアアアア!!!!≫
神龍は封印された。そして私は力を失い、海の底へ沈んでいく。
やっぱり死にたくない、助けて……。
私は、キラキラ光る海面を見ながら彼に助けを求めたけど、私の事を忘れた彼が来ることはなかった。
私は、深海の闇の中に消えていった。
彼が気がついた時には、海は穏やかに静けさを取り戻していた。そして、彼は何か大事な人を忘れている様な気がした。
「君去らず……」
彼は、無意識に言葉を口走っていた……。
………………………………………………
あっ……
アタイは全てを思い出した。
アタイ……いや……私は、前世、その前の前世も、何度も何度も彼に会っていたんだ……。
でも、いつも彼のために深い海に沈んで死んでしまって、彼は別の女性と結ばれていた。
嫌だ!私は彼と結ばれるために生きてきたの!死にたくない!
その時、青銅の鏡が光を放ち天を示した。
≪エーコ!≫
光の先からサメに乗った彼があらわれた。
私は目を疑った。
彼は私を忘れて、助けに来るハズなどないのだから、きっと私の見た幻に違いない。
でも彼は手を伸ばして私を抱きしめてくれた。彼の暖かい感触に、これは現実なんだとわかる。
≪あぁ……アナタはついに、私を迎えに来てくれたのね……ありがとう……!≫
私は、涙を流して、もう離れ離れにならない様に強く、強く抱きしめ返す。
彼がキスをして酸素を送ってくれた。酸素は私の身体中に行き渡ったが、私達はそのまま永遠の時間とも思えるくちづけを続けた。
今回の話は、日本神話を元に書きました。
神話では、とても悲しい話なのですが、生贄になった彼女が、いつか彼と一緒になれたらと思い、こんな話にさせていただきました。
次回はシロの秘密です。
お楽しみに٩꒰๑❛▿❛ ॢ̩꒱




