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第9章 開かれるは真実への扉

 昨晩ほどではないが、雪はまだちらほらと4人の身体をなでるように舞い降りている。

 夜が明けると同時に、カナは完全に体力を回復したヒロトの案内のもと、テヰコとジュンも連れて町の壕の入り口までやってきていた。そこは文字通り雪と地面以外に何もなく、その周囲よりも若干窪んでいる程度の場所であった。

 そこに来て改めてカナにわかったことは、その空間をしっかりと囲むように民家が同心円状に建っており、その存在が外側から完全に隠されているということ。

 カナは地―もとい雪に足がつかない思いで壕の開錠を求める。


「―で、この壕が怪しいというわけか。」

「絶対ここがアヤしいの!早く入ろ―。」

「ダメだ。」


 カナの要求を、それが全て口にされる前に拒否の言葉を出したのは意外な人物だった。その言葉には彼の全体重をかけたような重みがあった。


「…なぜだ、ヒロト?もしや―。」

「そうなんだ、ボクとボクの親父は…この壕の第一発見者の子孫なんだよ。」

「!!」


 それが何を意味するのか、テヰコは瞬時に理解した。驚くテヰコを差し置いてカナが理由を訊く。


「じゃあ、どうして開けることができないの?子孫なら開ける方法を知っているんでしょ?」

「昨晩の話でも言っただろう?この町にはこの壕を守り続けている古い習わしがあると。ヒロトの先祖はその習わしの先駆者だったのだ。」


 テヰコがヒロトに代わってカナに説明する。


「つまりそのヒロトがむやみに壕を開錠し、その存在を公に曝そうとするのは、ヒロトの先祖に対する冒涜行為になってしまう。やむを得ない非常時以外は、開けようとしても開けられない理由があるのだよ。」

「…テヰコの言う通りなんだ。ごめんねカナく―、ジュン!?」


 今までの話を傍で聴いていたはずのジュンが、突然その町の住人とは思えない行動に出ていた。

 慣れた手つきで窪みの上の雪と土を払い、そこに隠れていたスライド式の重鉄製の扉を中央から左右に分けるように動かす。するとその奥から真下へ伸びる梯子が姿を現した。

 すなわち、壕を開錠したのだ。


「ジュン!!君もこの町の言い伝えを知っているはずだろう!?君がこの町の最も外側にわざと居を構えているのもその為じゃなかったのかい!?」


 珍しく、ヒロトが強い口調でジュンに問い詰める。しかしその声にゆっくりと振り向いたジュンはきまぐれでも気が狂ったわけでもなく、あくまで冷静だった。


「だからこそだよ、ヒロト。今が開ける時なんじゃねぇのか?」

「なぜそうなる!?先日“オニ”がこの町の存在を知ってしまった今こそ―。」


 ヒロトはそこまで言うと言葉を詰まらせた。


「“オニ”がこの町と壕の存在を知ってしまった。これ以上の緊急事態はないんじゃないか?だったら“オニ”が探しているご先祖様の宝物とやらを、俺らが先に見つけに行くのが筋じゃねぇのか?」

「「………。」」


 ジュンの発言に、幼馴染の2人は言葉を飲んだ。まさしくその通りなのだ。


「“蒼い遺伝子”。」


 カナがボソッとつぶやく。


「ジュンお兄ちゃんもヒロトさんも、このよくわかんない力のおかげでこの町と壕を守ることができたんだよね?失礼なことを言っちゃうけど、その力がもしなかったらって考えちゃうの。」

「…それは否定しない。“オニ”に対抗できる唯一の力だからな。これがなければ俺らは今頃―。」

「その“オニ”も、何のためにこの地にいるんだろう?日本中にある“蒼い遺伝子”を失くすため?」

「…カナちゃん、君は一体何が言いたいのだ?」


 テヰコがカナの不可解な言い回しを指摘すると、カナは3人の前で両手を広げる。


「御伽話っていうのはね、それが例え現実には起こりえないモノであったとしても、登場してくるヒトやモノには何かしらの“意味”があるんだって。それらのやりとりが“教訓”になったり、何かの“例え”になったり色々あるけど…。その御伽話が形として残るということは、作ったヒトが何かしらのメッセージを込めたかったってことでしょ?あたしがずっと持っている本のように。」

「カナ君…?」

「今の世界が“もし1つの御伽話だとしたら”、あたし達が見てきた不思議なことの全てにちゃんと意味があって、それは必ず全部つながっているはずなの。」


 ヒロトはカナの意外な発想に眼と耳を疑う。


「“オニ”と“蒼い遺伝子”、この2つには何かのつながりがあって、その答えが―世界が変わってしまった理由の手がかりがこの壕の奥にきっとあると思うの!だからヒロトさん、お願い。兄ちゃんに会いたいというのもあるけど、それと同じくらいこの世界で本当に起こったことをこの眼で確かめたいの!」

「カナ君…。」


 カナの渾身の願いに、ヒロトはその細い両眼と拳をぎゅっとしめ葛藤する。


「そうだ。それに、カナの探している兄貴も関連している可能性は高い。」

「!!」


 ジュンはカナの方を向き、むしろそこが重要であるというように強調しながら言う。カナはジュンの意外な言葉に眼を大きくする。ヒロトもハッとなり、ジュンの方を見る。


「な、なぜそう思うんだい?」

「ヒロトだって本当はわかっているだろ?この壕の奥にある宝物―いや、奥に続いている場所のことを。」


 ジュンはヒロトにそう言うと、集落の南側にそびえ立つモノを見つめる。


「ま、まさか…。でも、それは大昔の話だろう?本当にそのような場所への道があるのか…。それに伝説では、そこは“普通のヒトでは絶対にたどり着けない”と言われているじゃないか!」


(普通のヒトではたどり着けない―?)


 沈黙を守っていたテヰコが、ヒロトの言葉でジュンが言わんとすることを感じ取り、右眼を大きく開きながら言う。


「―彼も、“蒼い遺伝子”の発現者、ということか…!?」

「そうだ。失われた日本語でできた古本と地図によってカナが導かれた場所は、今では完全に未知の領域となっている。その謎の古本をなぜか読解できるカナもそうだが、もしそんなカナの兄貴があんなところに本当にいるとしたら、言い方は悪いがヤツはとても“普通”じゃねぇ。そして、今の“オニ”の目的は普通のヒトではない“蒼い遺伝子”の発現者を見つけ出しそれを狩ること。…妙に話が上手く出来過ぎていると思わねぇか?」

「に、兄ちゃんが…?」


 ジュンの考察はカナにとって目から鱗であった。しかしもしそうだとすれば、まだまだ不明な点はあるにしろ、クロスや“蒼い遺伝子”の存在理由や“オニ”の行動原理、全てのつじつまが合うことになる。

 今まで壕の開錠を最も拒んでいた者が、決意を示さんとその右拳を握りしめる。


「…ボクも、この力を持つ本当の理由を知りたい。何かを守るためだけじゃなく、自分がそれを守らねばならない理由を―。」


 ヒロトは1人その巨体を揺らしながら開錠された壕の入り口へ向かう。そして3人がいる方に振り向き、言った。


「―行こう、あの壁の向こう側へ。」


 それは、壕の扉を真の意味で開錠する宣言であった。

続きます。

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