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もう、歯車は戻らない

作者: 赤松

とある片田舎の山村、そこには鬼にまつわる伝説があった。

人々は治らぬ病を鬼の呪いとし、恐怖と混乱を恐ろしい手段で克服しようとするーーそれは、患者を片っ端から火炙りで処刑すること。患者自身やその家族は病のことが露見しないよう、必死に隠し通さねばならない。

かつて医師を目指し勉学に励んでいた娘は、独りで帰ってきてからもたびたびこの村について私に話した。

かたくなに守られる因習の狂気、それによって起きた忘れがたい悲劇、そしてそんな中出会った、ある不思議な青年のことを。


自然という巨大なからくりの中で、すべての生き物は歯車として回り続ける。

平等で無慈悲な自然は、時に何もかも己の一片としてしまう。そこに生きている者たちの気持ちさえ呑み込んで。

これは、敗者の物語なのかもしれない。残したところで誰の得にもならないのかもしれない。しかし私には、傍観者としてこの一連の事件を書き残す義務がある。何よりこれを娘にさせるのは酷というものだ。


娘を守ろうとした者たちへの弔いのために。

歯車が回る中で確かに存在していた、生きた人間の痛みが風化してしまわないように。



         ○       ○       ○


命は何より尊いなんて、きれいごとだ。都合の良い時にだけ、『道徳的な人間』というありもしない偶像を演出するための、只の詭弁じゃないか。

少女は叩きつけられた現実を呪い、怒りに打ち震えた。行き場のない怒りは悪質な病のように、健やかな少女の精神の内を巣食っていく。色とりどりの花や、澄んだ川や、優しく道徳的な人間で世界は構成されているなんて、大人のひどい嘘だ。そんな美しい世界が今、どこにあるというのだ。

嘘つきな大人に否定されるのは承知で、言い改めよう。世界は枯れ木と、どぶ川と、夢物語を信じた哀れな被害者の血でできている。


「あの女は鬼の呪いを受けた」

「殺せ、村中に呪いが広がる前に。悪い芽は摘まねば」


彼女の目の前には、村の男たちに今にも火をつけられんとしている、磔にされ荒縄で縛られた母がいる。赤く揺れる松明の炎が、母のか細い命を嘲笑するかのように足元に放たれた。少女は狂わんばかりに叫ぶ。かあさん、逃げて。

騒ぎの渦中にいる母が、数々の怒号の中から娘の声を聞き分けて、哀しげな眼差しを送った。顔や腕に浮かび上がる発疹が、炎に照らされて一層毒々しい赤に見える。ああ、どこを見ても、赤、赤、赤。


「お逃げ、千鶴! 母さんは大丈夫だから、早く行きなさい」


母の呼びかけに、それまで少女に見向きもせず母をいたぶっていた村人たちが、ぐりんと首を巡らせた。少女の目には、頬がこけて血の気のない母を寄ってたかって火あぶりにせんとする人間たちの方が、よほど鬼らしい何かに映る。人の皮を被った恐ろしいものが、次々に彼女を指さした。


「殺せ。あいつも殺せ」

「鬼の呪いを燃やして絶やせ。捕らえて火あぶりだ」


少女は駆け出す。噛みしめた薄い唇には、じんわりと赤く血が滲んでいた。屈強な男たちの手が伸び、迫ってくる。狂気を孕んだ、低い声がどこまで逃げても少女を追いかけてくる。


鬼呪(きじゅ)病患者は、皆殺しだ!」


             ○     ○     ○


千鶴は真っ黒い瞳を開けて、喉の渇いた犬のように荒々しく息をした。男たちはもう追ってはこなかった。磔にされていたはずの母は、千鶴を見て安堵し微笑む。ずいぶん魘されていたわね、と言う母の言葉に、千鶴は漸く自らが見た光景が夢であったことに気が付いた。


「水でも飲むかい」

「平気。ああもう、せっかくの休みなのに、最悪の寝覚めだわ」

「どんな夢だったの」


母の問いに、千鶴は黙って首を振る。縁起でもない夢だが、まだその内容がまるきり出鱈目だったなら、笑い話にできたかもしれない。しかし、笑い話にすらならない悪夢など、話す価値もない。

じっとりかいてしまった嫌な汗を乾かす為に、千鶴は窓を開ける。


(母さんの病気も、夢ならよかったのにね)


口には出さなかった。一番そう願っているのは、恐らく母自身だと感じていたからである。病弱な母の為、必死に仕事をする父の話を、千鶴はいつも聞いて育った。父や娘に心配をかけぬよう、気を遣い元気らしく振舞う母の背中を常に見ていた。そんな環境で育てば必然とも言えようか、千鶴は何時しか医師を志すようになったのだ。


「言いたくないならいいよ。でも、あんた疲れてるんじゃないの。勉強熱心なのはいいけど、偶には母さんを気にせず遊びに行ってもいいんだよ」

「遊ぶより、勉強でもしている方が気が楽なのよ。遊んでいると、怠けている様な気がしちゃうから。それに、一緒に遊ぶ友達もいないし」


そう千鶴が言うと、母はしょんぼりと視線を落とした。


「ごめんね、友達と遊ぶ時間も作れないんだねえ」


落ち込む母に、千鶴はハッとした。忙しいのは事実である。何せ、医者の勉強は恐ろしく難しい。しかもそれだけでなく、満足に家事をこなせない母に代わって、千鶴は掃除や洗濯や買い出しや夕飯の支度までやらなくてはならないのだ。時々、どっと疲労が押し寄せ、それらの仕事を鬱陶しく思うこともある。だが、それで母を恨むのは筋違いだ。


「謝らないで。もし母さんが無理に仕事をして、誰かに見つかりでもする方が大変だわ」

「そうだけど……でもやっぱり、遊んでおいで。母さん心配よ、あんたが私の為に頑張るあまり、自分のことはお構いなしなのが」


あまり母に負い目を感じさせたくない千鶴は、行く当てもなく家を出た。まだ新しい木造の家が、春一番に吹かれ小さく軋んでいるのを見て、千鶴は村までの道をとぼとぼ歩く。


(買い出しでもしようかな、でも、母さんに怒られそう)


ちょうど集落の入り口に差し掛かった時、千鶴はぽつんと道の真ん中に置かれた黒い石に気づいた。普段なら見向きもしない凡庸な石ころだが、暇を持て余した千鶴はかがんでその石を見る。すると、そのつるりとした表面に、文字が彫られているのを見つけた。千鶴の口角は上がる。注視しなくては分からない、小さな発見である。


(えっと、これは隠れるという字ね。その隣は、読みづらいけど<進>かしら)


泥で彫ってある部分が埋まり、二文字目が読めない。千鶴は羽織の裾で石を綺麗に拭った。


(違った、<造>だわ。隠造……?)

「それって、あの変わり者の名前じゃないの!」


聞く相手もいないのに、千鶴は思わず声が出た。しかし、驚くのも無理はないのかもしれない。隠造といえば、鬼を忌避するこの村で、わざわざ鬼伝説のある山を選んで住んでいる変人に他ならない。そのような男の名前が路傍の石に刻まれているのだ。千鶴は打って変わって、石の文字を見たことを後悔し始めた。


(実際に会ったことはないけど、評判悪いのよね、この人。見なかったことにして、戻した方がいいかしら)


そう思った途端、千鶴に葛藤が起こる。この石は、変人が戯れに名前を彫って道に捨てただけの石かもしれない。しかし一方で、名前を彫る程大切で、傍目には分からなくても本人にとっては価値のある石かもしれないのである。その判断は、千鶴にはしかねる。それなのに、勝手に価値がないと決め付けて捨ててしまっては、まだ見ぬ彼が困るのではと思い始めた。

そして、千鶴はいったんそう思うと、あまり会いたくないような相手でも届けに行ってしまう程度には、お人好しだったのである。


山中の獣道を辿ってやっと見えてきたのは、田舎くさい集落とは似ても似つかぬ、森に抱かれるように立ちそびえた立派な屋敷だった。見慣れた木や藁の屋根とは違う頑丈そうな瓦屋根や、門に施された、来客を鋭く睨む龍の彫り模様は、金持ちの別邸を思わせる。しかしながら、門の蝶番は錆びて、触れると鉄の嫌な臭いが手に移るし、建物周辺の庭は荒れて草が伸び放題である。これほど大きく趣のある屋敷を建てる人間が、その魅力を損ないかねないほど管理を怠るなど普通なら考えにくい。しかし、そんなところも変わっているのかもしれないと思いながら、千鶴は門を開けて、人気のない屋敷に大声で呼びかけた。


「もしもし、どなたか、いますか!」


正直、千鶴はあまり返事を期待していなかった。手入れされていない埃っぽい屋敷に、まともに人が生活しているとは思えなかったからだ。あまり村に姿を現さない隠蔵は、きっと村人の知らぬ間に住処を変えてしまったのだろう。そう考えた千鶴が踵を返そうとした矢先、どこからか声がした。


「もしもし、『どなたか』という御人は知らんが、隠造という男なら、ここにおりますぞ」


千鶴は仰天して辺りを見回した。比較的近くから声は聞こえるのに、声の主はどこを見ても見当たらないのだ。慌てる少女をからかうように、声は笑う。古めかしい口調だが、その声音は若そうである。


「上じゃよ」


声に導かれるまま千鶴が見上げると、屋敷の脇に生えていた大木の枝に、その男はいた。茂る葉の陰にいるため多少見えづらいが、やはり若い男には違いなかった。

猿を思わせる身軽さで飛び降りた青年は、どこか人間離れしていて、噂に違わず珍妙だった。肩まで伸びたぼさぼさの髪をうなじで一括りにし、普通ならくるぶしまで隠れる筈の着物の裾を太腿まで切ってしまって、さるまたを履いている。上着もさるまたもウグイス色だが、土や染料の汚れであちこち変色し、元の色は見る影もない。形状としては作務衣に近いが、ジグザグに縫いとめられた、切り口のある肩を見るに、どうも甚兵衛らしかった。

本来夏の涼み着である甚兵衛を春先にまとい、二十歳にも届くか怪しい見た目にも拘わらず老人のような口調で話す。予想を超えた奇妙さに、千鶴は頭が痛くなった。


「初めまして、下の村に住んでいる者です。拾った石にあなたの名前があったんだけど、心当たりはある?」

千鶴の差し出した黒い石をまじまじと見てから、隠造は興味深げに、千鶴に視線を移した。

「持ってきたのか? お前さん、たかだか名前が書いてあるだけの汚い石ころを、こんな山奥の、変人の屋敷まで?」

「なによ、届けちゃいけなかったの」

口を尖らせた少女の言葉を、隠造は豪快に笑い飛ばした。

「いやいや、とんでもない。こりゃあ、いい。大当たりじゃ! 久々に面白い奴が来た」

話についていけず、怪訝な顔をする千鶴に、笑いをこらえながら隠造が説明を始めた。

「なあ、お嬢さん。人間には二種類おる。自分にしか興味のない奴と、他人にも興味がある奴じゃ。別にどちらも否定はせんが、儂は後者の方を好むのでな、ひとつ試すことにしたのじゃよ」

「……まさか、わざと置いたの? 他人に関心があって、大切な物かもだなんてお節介焼いちゃって、わざわざ石ころを届けに来るようなお人好しが来るか試すために」

「そうなるのう。いやはや、察しがよい」

ぬけぬけと言い放つ隠造に、千鶴は噛みつくように叫んだ。

「信じられない、人の厚意を弄ぶようなことをして。そんなことをするから陰口だって叩かれるのよ!」

「おっと、怒ったのか? 儂は何も弄んだつもりはなかったのじゃが」

「つもりがなくても、騙していれば同じことでしょ。じゃあ、さよなら」

荒っぽい足取りで帰ろうとした千鶴の二の腕を、隠造が慌てて掴み、引き止める。勢いよく歩き出そうとしたぶん、反動も大きく、千鶴は危うく反対側に倒れかけた。

「すまん、本当に悪気はなかった。他人の為に無償で動くのが善いとは知っていても、本当にできる人間は限られておるものだ。半ば来ないだろうと思って石を置いたものだから、おぬしが来て純粋に嬉しかったのじゃ」


茶の一杯でも、と隠造に勧められ、千鶴自身、山道を通ってきて喉も渇いていたのもあって、申し出を受け入れ縁側に腰かけた。

先ほど、怒って帰ろうとした千鶴を止めた時の、彼の必死の表情が彼女の脳裏に浮かび、思い出し笑いをする。

風変りであるのは確かだが、そう悪い人でもないかもしれない。そのように彼のことを思い始めていた。

漆塗りの上品な盆に、湯呑みを二つ持ってきた隠蔵は、その湯呑みの端が欠けていないのを確かめて一方を千鶴に渡す。

「それで、おぬし、名前はなんと言ったか」

「千鶴。千羽の鶴と書くの」

「美しい名じゃ。しかし、千鶴よ。時々村に下りる時のことを思い返してはみたが、やはりおぬしのことは知らんなあ」

千鶴が、名前に対する褒め言葉にかすかにはにかみながら答えた。

「無理ないわ。私と母が住んでいるのは村でもはずれの方だし、越してきたのだって去年の話だもの」

「そりゃあまた、どうして。こんな田舎の辺鄙な集落だ。大して住みやすいとも思えんが」

隠造の問いに、少女の表情は曇る。

「母が、病気がちな人でね。元々は街に住んでいたんだけど、空気の綺麗なここなら療養できると思ったから。学校も遠いし、大変じゃないと言えば嘘になるけど」

「学校も行っておるのか、おなごじゃろうに」

「うん、医者になる為の勉強をしてるの。やっぱり、女が勉強するのは変だと思う?」

「ちっとも。母親の為なんじゃろう、立派じゃないか。そもそも、儂みたいのが他人様を変だなんて言ったら、怒られてしまうがな」

隠蔵は朗らかに笑った後、ふっと優しい目つきで千鶴を見た。それは彼くらいの歳にありそうな、若い女性と話す時の色欲を含んだものとは違って、例えるなら親が子を、祖父が孫を見る目つきに似ている。

「なあ、千鶴よ。大変な状況で頑張っているおぬしじゃから、何か困ったこととか、他人に言いたくても言えないようなことがあるんじゃないのか。儂は聞くだけしかできんし、石の礼には安いかもしれないが、良ければ話してみなさい」

「あら、内容を知る前から、聞くしかできないなんて言い方するのね」

「そう、聞くだけじゃ。だが、その方がおぬしにとってもいいだろう。儂がやたら干渉したら、村の連中になんて言われるか分からんぞ」

隠造は、変人と呼ばれる自分が関わり、千鶴の立場が悪くなるのを心配しているのだった。三十人ほどの狭い集落である。一度悪い噂が流れれば、逃げ場はない。

そんな狭い集落内では言いづらいことを、自分になら言ってよいのだと言う隠造は、確かに村やその掟とは一線を引いた立ち位置にいる。それに、前評判がすこぶる悪かった割には、人柄も純朴そうである。千鶴は、重大な秘密を今日会ったばかりの人間に話すなどどうかしているとは思ったものの、彼になら打ち明けても大丈夫かもしれないと考え始める。千鶴自身、自分一人で抱えるには荷が重く感じていた。誰にも言わなかったその苦しみを会ってすぐ察知することのできた彼を信用してみようと思った。


「鬼呪病を知っている?」

「ここらで流行っている風土病か」

「そう。本当は只の病気よ。でも、患者は見つかれば殺される。呪いを村に広めないためにと言って」

「火あぶりで病人を殺すなど、正気の沙汰ではない。じゃが、己の身が危ぶまれる状況では、道徳も善悪もひどくもろい。あの処刑は、その典型じゃな」

久しぶりに見た、異常な処刑に対する正常な反応だった。もしも彼が他の村人と同じように、殺して当然と考えていたなら、千鶴はこの先を話さず有耶無耶にしただろう。しかし彼は越えたのだ。千鶴にとって、とても重要な意味を持った関門を。

千鶴の心臓が、壊れそうに鳴り響いていた。


「母がその病なのよ」

とうとう千鶴は、その一言を口にした。その瞬間、隠造の人懐こい笑顔が凍り、歪に口の端が引きつった。

彼の反応を見た千鶴の体にも緊張が走る。言ったのが失敗だったらどうしよう、と今更ながらに千鶴は思い始めた。もし自分の見込み違いで、この男が悪意的な人間なら、秘密をばらされ母は死ぬかもしれないのだ。

あの、悪夢のように。千鶴の頭は真っ白になった。


「それは、本当か。おぬしの母親は、鬼呪病なのか」

「そうよ! こんなの冗談で言う訳ないじゃない」

秘密を暴露したことでの極度の不安が、今まで必死に千鶴が塞き止めていた、誰にも見せまいとしてきた負の感情を爆発させる。隠造にぶつけても何の解決にもならないのは彼女にも分かってはいたが、もう止められない。

「どうして、神様はこんなに理不尽なことをするの。母さんが何をしたって言うの。引っ越した矢先、風土病に罹るなんて! しかも、治せないから殺すしかないですって? あんまりよ、母さんも父さんも、ずっと頑張ってるのよ。頑張って生きてるのよ。なのに、なのに」

言葉と共に千鶴の双眸から硝子玉のような澄んだ雫がポロリと転がり、頬を伝って土に吸い込まれていった。

「私だって頑張ってきたつもりよ。母さんや、母さんみたいな罪のない人を救う為に。でも、助けられないんだわ。寝ないで教科書にかじりついたって、人ひとり救えないじゃない!」

千鶴を黙って見つめていた隠造が、ぽつりと呟いた。

「優しいなあ。おぬしは、人を憂いて涙を流せるのだなあ」

千鶴の背中をそっと撫でる彼の手は、冷やりとしている。熱い激情をそこから吸い取られてしまったかのように、なぜだか千鶴は気持ちが落ち着いて、涙も自然と止まっていった。魔法でもかけられたかの様であった。

「おぬしが気に病むことではない。すべてを救うなど、初めから到底無理なんじゃよ。どんなに人が足掻いても、死ぬ者は死に、生きる者は生きる。それが自然なのだから」

「それって、無慈悲ね」

「神が慈悲を与えるものだと、本気で思っておるのか? 神は自然じゃ。自然は、何よりも平等に、善き者にも悪き者にも生と死を与える。その者たちにどんな思いがあろうと、構いはしない」

「それは……」

千鶴は一瞬言葉に詰まる。隠造の言っていることは、至極当然のことだ。そして、当然であるがゆえに、否定するのが難しいことだ。

しかし、いつかは死ぬのだから足掻いても無駄という極論を受け入れることは、そのまま今までの千鶴自身の努力をそのまま否定することでもあった。

「それでも、足掻くことそのものをやめたくはないの。だって、それすらやめてしまったら、生きることそのものが、いずれ死ぬのが分かっていることより余程空しくなってしまうでしょう」

「足掻いて、かえって辛くなってもか」

「体は死とは切り離せないけど、それと同じで感情を切り離して生きるのだってできやしないわ。少なくとも私は、何もやらないで後悔はしたくないの。無駄かもしれないけど、皆を救うって理想くらいは持っていたいのよ」

千鶴の言葉に、隠造は堅い表情をようやく崩した。

「なら、やってみなさい。おぬしの好きなように。それもまた、一つの生き方じゃろう」


それから、千鶴は彼と、日が暮れるまで色々な話をした。その中には、隠造自身の話も少なからず出た。隠造は、祖父の代から染物屋を営んでいること。着物を染めるには綺麗な水が不可欠である為、川の源流に近い山奥に住んでいること。帯や紐で体を締め付けるのが苦手で、締め付けのない甚兵衛を着用していること。

彼の事情を知れば知るほど、彼の行動一つ一つにきちんと理由があったのだと知り、それを知りもせずに自分と違うだけで『変人』と彼をくくっていたことを、千鶴は恥ずかしく感じた。

隠造は帰り際、一輪の野花を千鶴に差し出す。白い花びらの先端が薄らと青紫に染まっている、どこか気品のある花である。

「母親の枕元にでも飾ってやるといい。自然の力を分けてもらえるかもしれん」

「ありがとう。麓では見たことがないけど、何という花なの?」

「知らん。今までこの花のことは、儂が区別できればそれでよくて、人に伝える必要がなかったのでな」


家に帰った後、隠造に言われた通り母親の枕元に、千鶴は例の花を活けた。その花の美しさもだが、清らかな水を思わせる、透明感のある芳香を母は特に喜び、こんな香水があったら素敵ね、と言った。

たとえ些細なものでも、母が一日でも長く生きる為の活力になってくれたら、というくらいに千鶴は考えていたのだが、その花が後に起こる大変な事件の引き金になるとは、この時誰も予想だにしていなかっただろう。

開いた窓から吹く風が、実に心地よい夜だった。


「千鶴、千鶴や! 起きておくれ、大変なんだよ」

翌朝千鶴は、母の大きな声で夢から引き戻された。見ていたのはやはり、あの悪夢だった。

「なあに、かあさ……」

言いかけた眠たそうな声が、途中で止まった。千鶴は自分の眼に映る光景を疑う。もしかして、まだ目覚めていないのかしら。あんまり私が願っていたから、夢にまで見てしまうのかも。千鶴はそう思うほど動揺していたが、目に涙を湛えて興奮している母の輪郭は、夢幻にしては妙にはっきりとしている。

「きっと神様が、頑張っている千鶴を見て手を差し伸べてくだすったんだよ。そうでもなければ、こんな奇跡が起こる筈もない」

千鶴はようやく、これが夢ではなく現実なのだと、認識することができた。思わず漏らしたその声は、身の内からじわじわと滲み出すかのような喜びと、それを上回る驚きに満ち満ちている。

「発疹が、消えてる? ……嘘、どうして?」

「きっと、あの花がよかったんだよ。だって、それくらいしか考えられないもの」

千鶴が花に目を遣ると、たった一晩で花はその活力を使い果たしてしまったかのように萎れていた。

どんな薬を使っても消えなかった母の発疹が、花一輪で嘘の様に消えてしまった。物語じみた話ではあるが、事実消えたのである。


(隠造ったら、聞くだけしかできないなんて言っていたけど、きっとこの花の効果を知っていたんだわ)

千鶴がそう思い至ったのも、当然と言えば当然である。普段は絶えない気苦労から、厳しい表情をしていることの多い彼女だが、今この時はすっかり緊張が解れ、年頃の娘らしい明るい笑顔を見せていた。

「学校が終わったら、また隠造のところに行ってくるわ。遅くなっちゃうかもしれないけど、いい?」

「いいとも、ゆっくりしておいで。隠造さんには、よくお礼を言っておいておくれ」


学校での授業が終わり、いつもなら調べ物に精を出している時間だが、今日の千鶴は息を切らして山道を登っていた。着物の中にじっとりと汗をかいてしまっても、木陰のかかった森の内側を時折通る涼しい風が、千鶴の疲労を癒してくれる。どんなに疲れていても、爽快だった。

屋敷まで辿りついた時、隠造は染めた着物を庭先で乾かしていた。踏みしめられた草の音で千鶴の存在に気づき、惚けた表情をする。


「おや、どうしたんじゃ、昨日の今日で。そうか、ここが気に入ったんじゃな」

「何言ってるの。本当は分かってるんでしょう」

「分かっているとは、何のことかのう」

「惚けちゃって、気恥ずかしいの? あなたの花が、母の病をすっかり治してしまったのよ。あんなことを言っていたけど、結局助けてくれるなんて優しいじゃない。薬になると知っていて、くれたんでしょう? そうでなければ、話が上手すぎるものね」

千鶴が褒めても素知らぬ顔で、隠造は軽く否定した。

「儂は薬など知らんぞ。適当にやった花が、たまたま効いただけじゃろう。だが、治ったなら良かったのう」

「随分謙虚なのね。兎も角、あなたは母の命の恩人だわ。これ、よかったら食べてちょうだい。うちは貧乏だし、大したものじゃないけど」

差し出された、竹の葉で包まれた団子を、隠蔵は渋い顔をして受け取る。

「団子をもらう為に、話を聞いた訳ではないんじゃがなあ」

「私だって、そんな風に思ってはいないわ。でも、本当に話を聞いてくれただけだとしても、あなたには感謝してるのよ。ねえ、何か私にできることはないかしら。命のお礼がお団子って訳にもいかないでしょう」

「うーむ、断ってもどうせ納得せんのじゃろうから、一応考えてみるわい。茶を淹れるから、座って待っておれ」

「それくらい私が淹れるわよ」

隠造を座らせ、台所に入っていった千鶴は顔をしかめた。千鶴の胸元まである大きな水釜や、石造りの立派なかまどは、料理に疎い千鶴でも、非常に良い物であることくらいは想像ができる。しかしながら、屋敷の外観と同じで、物が良いのがかえって勿体なく思われるほど状態が頗る悪いのである。

水釜には苔がびっしり生えているし、台所の床は、埃だらけで白くなっており、歩くと足の形がくっきり浮き出るほどなのだ。本当に人が生活しているのか疑わしい有様で、唯一人の生活の臭いがするのは、あちらこちらに置かれている大量の染料の瓶や、その原料であろう植物の束くらいだった。梅やヨモギ、花椿等々……千鶴が見て分かるのは精々それくらいで、見たことのない花や草も多かった。

薬の大半は植物から調合するのであり、植物の知識は医者には必須である。それなのに、医者を目指している筈の自分の知識は、染物屋というまるで畑違いの仕事をしている隠造より、遥かに乏しいことを千鶴は痛感した。本を見ているだけでは、人は救えないのだ。体を動かさねば。


使い慣れない台所で何とか茶を淹れた千鶴が戻ると、隠造は草団子を、渋い表情で食んでいた。

「礼のことだが」

千鶴はその単語に敏感に反応し、耳を傾ける。年若い少女ができることなどたかが知れているものの、多少の無理を通すことになっても隠蔵の要求であれば呑む覚悟でいた。

「一つ、約束をしてくれるか。あの花が鬼呪病の薬になることを、他人には言わんと」

「そんなことでいいの? もちろん約束するけど、どうして?」

「あの花は山に生えているが、そう数は多くないんじゃ。もし多くの者があの花の効果を知れば、根こそぎ摘まれてしまいかねん」

「確かに、そんなことになったら大変ね。学校で習ったわ、一つの種がなくなるだけでも、実は他の色んな種に影響があるんだって」

隠造は暗い面持ちで首肯する。その眼差しはどこか遠くを見つめているようだ。

「一つ一つの種は、歯車のように複雑に絡み合って生きておる。一つくらいなら大丈夫だろうと言って奪われた小さな歯車が、巨大な機械そのものを狂わせることにもなりかねんのだよ。儂はそうして滅びた種を、幾つも見た」

千鶴は、今隣に座っている隠造の姿は仮初めで、本当の彼はもっと遠いところにいるのではなかろうか、と漠然とした不安を抱く。思わず、膝に置かれている青年の拳に触れた。それは、よく幽霊がそうであると聞くようにすり抜けて触れられないということはなく、しかし石に触れているかのような冷たい感触だった。

触れられたことで、隠造はハッと我に返って、今までの暗さを繕うためにか、不安げな少女を安心させるためか、いつにも増して優しげな笑顔を浮かべて見せる。その後にぽつりと漏らした。

「本当は、種だけではないのだ。毒も、病気も、死も、必要だから在るんじゃよ。疎まれようと嫌われようと、存在するということは、それに何かしらの意味や役割があるということ……誰かにとって不都合だからという理由で排除しようとしていいものではない」

「それはそうね。母さんが病気がちなのは、本当は嫌なことだけど、もし病気をしない人だったら、私こんなに勉強しなかったもの」

千鶴は笑う。母の病気が治ったためか、家族以外で初めて心を開ける人間に出会えたからか、その笑顔は突き抜けるような健やかさに満ちていた。その表情を見て、ようやく少し隠造も、安堵した様子である。

「ねえ、隠造。私今まで、母を治すことに必死で、どんな医者になりたいのかってあまり深く考えてなかったの。助けられてこんなこと言うのも単純かもしれないけど、今は隠造のような医者になりたいわ。自分への見返りの為じゃなく、助けを求める人を平等に助けられる医者に」

千鶴の言葉に、隠造は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

「そりゃあ、碌な医者にならんのう」

他愛もないやり取りをして、二人並んで団子を食べて千鶴は家に帰った。

それからというもの、千鶴が学校の帰りに山を登るのは、ほとんど毎日の習慣になっていった。引っ越して新しい環境になった直後から、母の病を知られぬよう常に他人を警戒しなくてはならなかった千鶴にとって、隠造は貴重な友人だったのだ。

母を助けられてから一週間が経ったその日も、千鶴は夕飯の支度をしたらすぐに屋敷に向かうつもりで帰路についていた。

家に帰った千鶴は、そこで異常な光景を目にすることになる。


「……え?」

家は滅茶苦茶に荒らされていたのだ。扉は無理やり引っ張られたのか外れかけていて、床中が泥のついた多くの足跡で汚れている。寝床の近くにあった花瓶は落ちて砕け散り、明らかにそこで争いがあったような跡が残されていた。

そして、一番の異常が、少女を震えあがらせ戦慄させる。

「母さん! ……母さん、どこにいるの!」

病気になって以来、ずっと外に出ることのなかった母の姿が、そこにはなかった。

千鶴は荒らされた家を見て、強盗に入られたのかと直感したが、千鶴の家は泥棒に狙われるほど裕福とは言いがたいし、何よりそれでは母親が消えたことに対する説明がつかない。

その時、千鶴の脳裏に悪夢の残像が過ぎる。千鶴は自分の恐ろしい予感を打ち消す様に首を振った。

(磔にされるはずない。だって、治ったんだから)

発疹が消えている今の母が処刑される理由はない。

しかし、どのみち母の安否を確かめるには、村に行くよりないのだ。千鶴は鞄を家に投げ捨てて、村へ行く道を走った。

杞憂であってほしい。病気が治った母は自分で買い物にでも行ったのだ。その留守を、たまたま泥棒に入られただけだ。そうであることを少女は強く願い、思いこもうとする。

だが、村に着いた少女を迎えたのは、無情に赤く燃える炎だった。


千鶴は、自分が今何を見ているのか分からなかった。

(ああ、きっとまた夢を見ているんだわ)

彼女の理解は現実に置いてけぼりにされてしまった。そうしている間にも、赤く天に伸びる炎は何かを包んですっかり炭にしてしまおうとしている。真っ黒に焦げた何かが炎の間からだらりと垂れさがる。それは、人間の右足だった。千鶴の鼓膜を破りそうな、歪で大きな音が聞こえたが、意識のどこか遠くで他人事の様に、これは自分の悲鳴だと千鶴は自覚した。

狂った様に母を呼び、泣き叫びながら炎に駆け寄ろうとする少女に気づいた村人が、やりきれない表情で彼女を押さえつける。幾ら暴れようとも、毎日鍬を振り下ろす男の腕が、非力な少女に負ける筈もない。


「離して……離してよ! 母さんを、私の母さんを!」

「堪忍だ、堪忍してください。こうするしかねえんです」

「千鶴、諦めろ。少し前に、開いた窓からあんたの母さんの発疹を見たやつがいたんだ。間違いなく、鬼呪病の発疹だったと」

「そうよ……母さんは鬼呪病だったわ。でも、治ったのよ! 発疹は、消えていたでしょう!? どうしてこんなことするのよ!」

千鶴の恨み節に、村人たちも思うところはあったのか、一瞬言葉に詰まる。しかし、母にさっきまで火を投げ入れていた男が吠えるように言った。

「馬鹿を言え、鬼の呪いだ、そう簡単に治る訳がねえ。何かインチキをして、発疹だけ隠したに決まってる。誰だって、家族を殺されたくはねえからな」

所詮は多勢に無勢である。一人が言い出すと、それに便乗する形で他の者も口々に喋り出した。

「そうだ! 俺たちは村の為に正しいことをしたんだ」

「ほっといて、村中にうつったら、俺たちは終わりだ!」


「鬼呪病はうつらないわ! もし傍にいて感染するなら、ずっと一緒にいた私に発疹が出ないのはおかしいでしょう」

千鶴には、このことに関して確証がある。彼女の母に発疹が出たのは、引っ越してから約三週間後のことであった。つまり、遅くても三週間程度で発症する。このことは、いつ罹ったか分からない、長年村に住む人間では計算のしようがない事実でもある。引っ越した直後だったからこそ、推測ができるのだ。

そして、それが正しければ、鬼呪病が人から人へうつる病だった場合、千鶴はとうに発症していておかしくないのである。

「母は村に来た直後に罹った。鬼呪病は、鬼の災いなんかじゃない。村のどこかに原因があるからこそ起こる普通の病気だわ!」

半ば涙声で千鶴は叫んだ。病に罹ってからもずっと気丈に振る舞い、自分を元気づけていた母が、奇跡的に治ってあんなに喜んでいた母が、呪いなどという理不尽な理由で死なねばならなかったことが、悔しくてならなかった。

「俺たちだって、最初は普通の病だと思ったさ! だが、どんな手を尽くしても治らなかったんだよ!」

「本当に鬼呪病が治ったというなら、一体何をしたのだ。この村の者が長年たどり着けなかった方法に、お前のような小娘がたどり着いたというのなら、納得のいく証拠はあるんだろうな」

村人の高圧的な反論に、今度は千鶴が口を噤む番だった。言い返すことはできる。薬なら、あるのだと。あの山奥に生える花が、鬼呪病を魔法のように治してしまうと。だが、それを言うことは千鶴にとって恩人である隠造との約束を破ることに等しい。

(証拠は提示できる。でも、ばらして何の意味があるの)

もう、母親は死んでしまった。一度死んだ者の命は、今ここで千鶴が村人を論破したとしても、戻ってはこないのだ。精々が、千鶴の主張が正しいことを知らしめるくらいだろう。しかし、そうするまでに守りたい人間もいない中、約束を破ってまで、千鶴は自分のちっぽけな自尊心を満たす気にはならなかった。それはどうしようもなく、無意味で空しい行為に思われた。

千鶴は自らの心を巣食う村民への怒りと、母を亡くした悲しみを呑み込んで、口を閉じるよりなかったのである。


悪夢の再現から、十日あまりが過ぎても、千鶴はほとんど食べることも飲むこともできていなかった。眠ることもしない。まどろんだが最後、あの光景が実際に起きているように生々しく、千鶴を襲うのだ。聞いてもいない母の断末魔が、夢の中では聞こえてしまう。寝ても覚めても、地獄である。

これまでどんなに多忙でも休まなかった学校も、めっきり行っていない。机の上の教科書には、薄らと埃が積もっていた。母が治った時のあの前向きな気持ちも、医者を目指すという思いすら、もう自分のどこを探してもないのではないかと千鶴は思う。

治したって、人は死ぬのだ。こんなにも簡単に殺される。なら、自分が努力してきたことは無意味だ。どうせ死ぬのに、少しばかり命を引き伸ばしたって、結局ぬか喜びで終わるじゃないか。

螺旋階段を降りるように、際限なく落ちていく千鶴の気持ちに歯止めをかけたのは、誰かが壊れかけた戸を叩いた音だった。


(……出てなどやるものか)

村の誰が訪れたのかは、戸を叩く音だけでは分からない。だが、どのみち掟に加担している誰かなのだ。

直接手を下した訳ではないにしろ、呪いという幻想に怯えて母を殺した連中の仲間には違いない。

千鶴は、人を助けたいと思っていた自分が、今はこんなにも人を激しく嫌悪しているのが哀しくなった。変な慰めなど要らない。もう私に関わらないで。どのみち、納得なんてできないのだから。

人を憎んで生きることしかできないのであれば、いっそ母のもとへ行ってしまいたい。そうすれば、苦しまずに済む。もう誰のことも憎まなくていい。そう思うほど、千鶴の精神は困憊していた。だが、聞こえてきた声は、予想もしていない人物だった。


「千鶴? いるのか?」

「隠造?」

消え入りそうな声でも、彼の耳には届いたらしい。ゆっくりと扉が開いて、家の惨状と憔悴した様子の千鶴を見て、隠造は暫く言葉を失い佇んでいた。

「おぬしが、急に来なくなったから。最初は、忙しいんじゃろうと……じゃが、段々心配になって。村に下りて、さっき千鶴の家を訊いた時に、分かった。なぜ来なくなったのかも」

隠造は、強く拳を握り、唇を噛みしめ震えていた。まだ感情を整理できていないのだろう、言葉もすらすらとではなく、ぽつりぽつりと、実にたどたどしい。だが、厳しい表情をふっと和らげ、千鶴の近くにしゃがみ、一言漏らした。ひどく優しい声で。

「……大変じゃったな」

その一言が契機となって、千切れそうに張り切っていた千鶴の緊張の糸がプツンと切れる。とうに枯れてしまったかと思われた涙が、思い出したようにまたとめどなく頬を伝い、幾筋も流れ落ちていった。久方ぶりに、大声を上げて幼子のように嗚咽していた千鶴の背を、隠造の冷たい手がさする。彼女の背の熱さが伝導し、その手がじんわりと汗ばんでしまうまで、隠造は長い間そうしていた。

千鶴が落ち着いてきた頃合いを見計らって、彼は大きな木の葉に包まれた饅頭を彼女に差し出す。そして、諭すように言った。

「食べなさい。おぬし、飲み食いをしておらんのじゃろう。死んでしまうぞ」

「食欲がないの」

「感覚が麻痺しておるだけじゃ。人間は食わなければ生きてはいけない」

尚も差し出された饅頭を、千鶴は緩慢な仕草で受け取る。一口食んだ。粉が塗してある柔らかい皮は簡単に千切れて、黒い餡が千鶴の舌先にちょこんと乗っかった。そこがじんじんと甘く痺れ、忘れていたあらゆる感覚が体に戻ってきたような気がした。

そうか、私、今まで半分死んでいたのかも。千鶴は漫然と思った。一口噛んで飲み下すと、思い出したように腹が鳴って、彼女は夢中になって饅頭を平らげる。その後、隠蔵が差し出した竹筒の水も、すぐに飲みほしてしまった。清らかな山の水は、ほんのりと甘い。体の奥から活力が湧くのを感じていた。


「千鶴、今の村の状態を知っておるか」

「いいえ。ずっと家にいたから」

「やはりか。……まあ、今話さずとも、その内嫌でも耳に入るじゃろうが」

「何かあったの?」

隠蔵は、千鶴に話すのを渋っていたが、促され、首を振ってこう告げた。

「おぬしの母が死んでから急速に、村で鬼呪病が大流行しておる。今や村の半数近くが患者だ。最早、患者を処刑する訳にもいかなくなった」

千鶴は驚きの余り、すっかり言葉を無くしていた。鬼呪病は恐ろしい病だが、一度に大量に患者が発生することはほぼない。だからこそ、処刑という恐ろしい処置が取れたのである。

母が死ぬ原因となった病が村中に広がったというだけでも十分すぎるほど衝撃的なのだが、隠蔵は更に畳み掛けるように、事態の深刻さを語る。

「問題なのはここからじゃ。この期に及んでもまだ、呪いだと信じ込んでいる村人たちは、村の中に元凶がおると考えて、鬼狩りを始めるつもりだ」

「鬼狩り?」

「村の中に、人の姿をした鬼がいて、そやつが災いを呼んだと言い出した者がおったらしい。そして近々、怪しい者を処刑すると」

「なんて、馬鹿な真似を」

そんな方法では、村を救うどころか、かえって破滅に追い込みかねない。しかし困ったことに、この村に、そういったことの異常性に気づく者はあまり期待できそうにもない。もしいたのなら、病人を処刑などさせはしないだろう。

「どうか強く気を持って聞いてほしい。最初の処刑の候補は、千鶴、おぬしなのだ」

母の死を経て、こんなひどいことは他にないと思っていた千鶴だが、この言葉は頭を鈍器で殴られたかのように強烈だった。

「おぬしの母が死んだ直後にこんなことが起こったものじゃから、村の人間は、鬼が母親を殺されたことで怒り狂って、村中に呪いを振りまいたと思っているらしい」

「私は、鬼なんかじゃない!」

「無論、分かっておるとも。村人の中にも、寧ろこの緊急事態に、おぬしに助力してほしいと望んでいる者もおるのじゃ。この村で医学の心得があるのは、おぬしだけじゃからな」

「心得って、私まだ学生よ。それに……」

千鶴は言いよどむ。村人たちは、母親を殺した張本人だ。母は抵抗しただろう、助けを求めただろう。それでも、掟の為にと彼らは人殺しをした。母だけではない。それまでも、無実の人間を野蛮な方法で葬った筈だ。それなのに、自分が危なくなったら掌を返して助けを乞うのか。それを救うのは、本当に正しいのか。

彼女の心中を察したのか、隠造も苦渋の表情を浮かべている。


「さぞ憎いだろう、母を見殺しにした連中じゃ。だが今は、何もやらねばおぬしが殺されてしまう。おぬしが村を救えば、誰も鬼などと疑う者はいないじゃろう」

「でも、隠造はそれでいいの? 私が病気を治したら、あの花が薬と村にばれてしまうのよ。大切な花なんでしょう。患者が多いなら、取り尽くされるかもしれないのに」

「知り合う以前じゃったら、儂は花のことを教えずおぬしを見捨てただろう。一人の人間と自然など、秤にかけるまでもない。だが、もう遅い。おぬしの命は、見捨てるには重すぎる。最早、儂自身の命よりも」

かすれた声でそう言われ、千鶴の胸は場違いに高鳴る。こんな状況だが、隠造がそこまで自分を想ってくれていることが、嬉しくてならなかった。

「もし村人を助けたくないなら、一刻も早く村から離れなさい。そのどちらかしか、助かる道はない」

「逃げるってこと? 隠造はどうするの」

「儂は村から離れる訳にいかん。おぬし一人だ」

「嫌よ! 私一人で生き残ったって意味ないの。もう私には、あなたしかいないのよ」

気が付けば、声が震えていた。母を失い、この上隠造とまで別離するなど、千鶴にとって考えたくもない未来だった。

「私、治療するわ。だって、憎いからって私情で病人を見捨てたら、私情で処刑をするあの人たちと大して変わらないもの。幼い理想論かもしれないけど、皆を平等に救える医者になりたい。……約束、守れなくなって本当にごめんなさい」

「構わん。聞くばかりで、何も手伝ってやれなくて済まないのう。精一杯やるといい。やらないで後悔することがないように」

隠造は穏やかな笑顔だったが、それは何かを諦めたような、寂しさを帯びていた。千鶴はその表情に気づきはしたものの、結局本当の最後まで、彼の寂しさに気づくことは出来なかった。


千鶴はそれまでの落ち込み様が嘘のように、はきはきと働いた。まず村中を回って病人の数を把握した後、山へ花を摘みに行く。必要な数以上に、花を摘んでしまうことがないようにである。ここで千鶴は、ある工夫を思い付いた。

(そうだ、花から成分だけを抽出してしまえば、元がこの花だなんて誰にも分からないわ!)

それは画期的な名案だった。そのまま使うより必要になる花が多くなることだけが欠点だが、薬の正体が村中に知れ渡って、考えなしに摘まれてしまう危険と比べれば余程良い。

それに、そのままでも病気を一晩で治せる程の妙薬である。抽出して使えば、より少ない量でも効果は期待できるだろう。病人の数は多いが、うまく使えば花を残せる。千鶴は希望を抱き始めた。

千鶴が屋敷の台所を使って作った薬は、事実少ない量で大変よく効いた。普通、正しい材料で正しい過程で作っても、有用性のある薬を開発するのは簡単ではない。千鶴の並々ならぬ勤勉さが、実を結んだ瞬間だった。

家にこもっていた時は、あれほど憎く思われた村人たちだったが、病人やその家族が涙ながらに感謝を述べるのを見て、千鶴は己の心境の変化を感じていた。

(村人がしたことは許せない。でも、彼らも人だ。間違いを犯すこともある……)

この村の間違いを正す為に、これからの患者たちを救う為に、母は死んでいったのだ。せめてそう考えることが、心の慰めだった。母の犠牲や、花を使うことを許した隠造の厚意を無駄にしない為にも、千鶴は身を粉にして働いた。彼女が、母親を殺されても村を見捨てず、懸命に病人に尽くす姿を見て、もう誰一人彼女を殺そうと口にする者は現れなかった。

しかしながら、自らへの疑念が晴れたことで千鶴は忘れていたのである。病人は治っても、鬼狩りの話そのものが消えた訳ではなかったことを。


ある夜、千鶴は村の重役会議に出席していた。本来なら、ごく一部の大人しか出席できないが、村の病人全員を救った功績が認められ、特別に許可が下りたのである。千鶴は内心、胸を撫で下ろした。たった一輪であったが、花を残すことができたのだ。後はどうかこれ以上、面倒事が起こらぬようにと祈るばかりである。

だが、そんな彼女の思いを知る由もなく、会議は思わぬ方向に進む。


「鬼は、隠造だ! あいつは鬼呪病に罹ってねえし、何より村がこんな事態なのに、手助けすらしに来ねえじゃねえか」

「きっと、山の上から俺たちを笑ってたに違いねえ。考えてみれば、あいつは昔から掟も守らず、自分勝手な振る舞いが目立ってた」

「奴を殺せば、もう呪いもお仕舞いさ。こっちには千鶴先生がいるんだ、怖いものはねえ」

仰天した千鶴は、慌てて鋭い声で言った。

「ちょっと、まだそんな馬鹿なことを! 彼は無実だし、病気は只の病気です、呪いなんかじゃありません」

「ですが、先生。あの山には昔から、鬼が住むという伝説があるんですぜ。だから皆、あの山には行かねえんだ。そこにわざわざ住むなんて、正気の沙汰じゃねえや」

千鶴は、焦りを感じる。これまで住人が病気を呪いだと信じて疑わないのは、自分の発言に影響力がない為だとばかり思っていた。だが、全幅の信頼を置かれた今でも、彼らの考えを変えるのは容易くない。一度根付いた考えを無くすことの難しさを、千鶴は痛感する。だが、難しくてもやるしかない。そうでなければ、今度は隠造を奪われてしまうのだ。

「彼を殺したら、絶対に承知しません。薬の原料を、あなたたちは知らないでしょう。これ以上愚かな真似をすれば、また病人が出て困っても、私の助けはあてにできませんよ」

そう言い放ち、千鶴は席を立った。もうすっかり夜中であったが、千鶴は山に向かって走っていく。自分に村民たちを止められなかった時のことを考えると、一刻も早く、彼に危険を知らせねばならなかった。

夜の山を登るのは、予想以上に困難だった。千鶴は松明を持って歩いていたが、その僅かな明かりだけで辺りを把握するのは難しい。途中石に躓いた時、結局その火も落として消えてしまい、真っ暗闇の中千鶴は山を登っていくことになった。


ようやく屋敷に着いた時、もう月はだいぶ高いところに昇っていた。転んだ時にすりむきでもしたのか、千鶴は腕や足、頬にまで妙な痒みを覚える。だがそんなことに構わず、千鶴は屋敷の中に入った。普通ならばとっくに寝静まっていてもおかしくない時間だが、襖の奥からは明かりが漏れている。

下駄を脱いで、千鶴はその襖に近づいた。白い襖にぼんやりと、男の影が映っているのが見てとれる。

「来るな。開けてはならぬ」

隠造とは思えぬ程、刺々しく厳しい声音だった。たじろいだ千鶴の歩みが止まる。仕方なくその場で、千鶴は言った。

「隠造、大変なの。花は何とか残せたけど、村人があなたを殺しに来るかもしれないわ」

「いずれ死ぬことに変わりない。遅いか早いかだけじゃ」

「そんなこと言わないで、私は――――」

襖に手を伸ばして、千鶴は固まった。これまで闇が深く見えなかった腕が、部屋からの明かりで照らされ、目に入ったのだ。

「……あ、……ああ……」

白い光の中には、あの忌まわしい赤い発疹が、くっきりと浮かび上がっていた。

襖越しにでも、隠造は千鶴の異変を感じ取ったらしい。開けることを禁じた襖を自ら開け、腕を押さえ座り込む千鶴を見て、舌打ちをした。

「おぬしもか」

隠造の頬にもまた発疹が浮かび上がっているのを見て、千鶴の顔がさっと青ざめる。

「そんな、あなたまで」

「千鶴、花を残せたと言っておったな?」

「そうよ。ああ、でもどうしましょう、あと一人分しかないの! お願い、あなただけでも、あなただけでも飲んで!」

気が動転している千鶴の背に、隠造は冷たい手を置く。最早条件反射に近い。魔法にかけられたように、いくらかではあるが千鶴の気持ちは落ち着いていった。静かな、子供を宥めるような声で、彼は囁く。

「安心せい。あの花のことを教えたのは、誰だと思っとる。薬なら、自分が罹った時の分くらいちゃんと取ってあるさ」

「本当に? 本当にあなたの分もあるの?」

「大丈夫だとも。何なら、一緒に飲もうじゃないか」

隠造の口調は落ち着いている。嘘らしくはない。千鶴はすっかり安堵して、薬を取りに行った隠造を待った。数分も経たない内に、隠蔵は薄い青紫色の液体が入った瓶を持ってくる。

「それが薬ね?」

「そうじゃ。さあ、おぬしからやりなさい」

「母さんの時は、見ていなかったの。どうやればいいの?」

「花粉を吸うんじゃよ。花の近くで、思い切り」

千鶴は、花に顔を近づけ、大きく息を吸う。甘く上品な香りと一緒に、鼻から花粉が入り込み、千鶴は何度か大きくむせたが、それから数分後、見事なまでに発疹は消え、同時に花も萎れた。母の時と同じであった。

「私は、これで大丈夫。ほら、あなたも」

千鶴が促しても、隠造は瓶を開けようとはせずに、ただ笑って千鶴を見ていた。とても悲しげで、しかしやりきった、満足した表情。千鶴は嫌な胸騒ぎがした。


「すまぬ」

隠造の手から滑り落ちた瓶は、割れて中の液体を飛散させる。千鶴が作ったあの薬からは、花と同じ良い香りがした。しかし今部屋中に広がる臭いは、花の芳香とは似ても似つかない、染料の臭いだった。

その時やっと、千鶴は悟った。本当の薬は、自分のもので最後だったのだと。隠造は似た色の染料を薬だと偽り、千鶴を騙したのだ。千鶴の命を、助ける為に。


千鶴は隠造の頬を張った。力ない音が響く。

「……どうして。私だって、あなたを助けたかったのは同じなのに。私だけ生き残ったって、ちっとも嬉しくない」

見る見るうちに、黒い瞳に涙が溜まっていく。隠造が、困ったように微笑んだ。

「私は、あなたと生きたかったの。あなたとだから、辛くても生きられると思ってたのよ」

溢れる涙を手で拭う千鶴は、自分が何かにふわりと包まれたのを感じる。それが隠造の腕だということに気づくのに、時間はかからなかった。

ああ、折角好きな人ができて、抱きしめてもらえたのに、これが最初で最後なのか。そう思うと、堪らなく悲しくなる。いつ触れられても冷たく感じた隠造の体が、今は何故だかほんのりと温かい。

「千鶴、知っておるか。鬼はかつて、この辺りの守り神じゃった。伝説で語られる様な大層な力はなく、精々が人々の願いを聞き、それを見守るくらいだったがな」

唐突に語られ始めた、昔物語。彼の意図は分からなかったが、千鶴はじっと聞いていた。彼の一言一句を、記憶に刻み付けようと、集中する。

「数十年前、村で病が流行した時だ。村人は神の怒りだと畏れ、あらゆる手段を用いて鎮めようとした。だが、神にはどうすることもできん。人間に掟があるように、神にも神の掟があったのだよ。死は自然に訪れるべきもので、神がそれを捻じ曲げて、故意に生き物を生かしたり殺したりしてはならぬという決まりがな。だがその結果、村人たちは自分らを救わない神を、鬼だと罵る様になった」

「昔も今も変わらないのね。自分に都合が良いかどうかで、村人が態度を変えるのは」

千鶴の言葉に、隠蔵は小さく笑って、そうだな、と呟いた。


「いつだか、おぬしに神は無慈悲だと言われたことがあったな。神の中にも、情を捨てられぬ未熟者もいるんじゃよ。掟破りになると知りながら、破れば自然の均衡が崩れ、自分も滅びるのを知っていながら……」

隠蔵は自嘲気味に微笑む。

「おぬしのすべてを救いたいという理想は、儂には目映かった。村民がどんなに苦しんでも、ただ聞くことしか許されないのが、辛くて堪らなかった儂にはな。千鶴は儂のようになりたいと言っておったが、他人への無償の優しさは、初めからおぬしの中にあったのだ。だからこそ、儂とおぬしは出会ったのじゃから」

千鶴の涙が、隠造の胸元に吸い込まれていく。

「ずっと、この村は見守られていたのね。人間より人間らしい神様に」

「愚の骨頂じゃよ。人間の娘に肩入れをして村を滅ぼすなど」

「あなたは、心を持つのを悪いことだと思ってるのね。確かに、感情を持つと辛いことは沢山あるわ。気持ちでは納得できなくても、悪い結果は悪い結果として、割り切らなくちゃいけないこともある」

千鶴はにっこり笑って見せた。今笑わないと、後悔するような気がしたのだ。

「例えば、私が母に卵焼きを作って焦がしちゃったとするでしょう。食材は無駄になるし、焦げた炭なんて役に立たないわ。折角意気込んで作ったのにって、私はがっかりする。ここまでは、きっとあなたの予想通りね。でもね、母はこう言うのよ。作ろうとしてくれて、ありがとうって」

「千鶴……?」

「だからね、こんな結果になっても、私はあなたを好きになったこと自体を、後悔したりしない。あなたと出会えて、私は変われたもの。隠造、私を助けようとしてくれて、ありがとう」

千鶴の頬に、一筋の涙が光った。隠造は、目を細めて笑う。その目も微かにうるんでいるように見えた。


「……やっぱり、おぬしの涙は、美しいなあ」


それから幾月かが過ぎて、嵐が去ったかのように思われた村は、段々と様子が変わり始めた。

花の蜜を吸う虫が死に、それを餌とする蛙や鳥が姿を消した。そして、次は蛙や鳥を食べる動物、そしてまたそれを食べる動物と、次々に影響が広がっていく。それが目に見えるところにまで広がり、ようやく村人たちが騒ぎ出した頃には、かつて村の救世主となった少女の姿はもうどこにもなかった。

幾年後になると、人の姿も消え、村の入り口には一つの看板だけがポツリと立つことになる。


『この村は廃村です』


もう、歯車は戻らない。

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[一言] 拙作の批評ありがとうございました。 短くてすみませんが、少しだけ批評しました。 ●構成● ・段落下げがほしいです。やっぱりちょっと読みづらいです。 ・「伝えられた話を書く」という形式にな…
[一言] 気になった点 P4 5行~ 「大人」より「人間」という表現のほうがあっているかなと、一通り読んだ結果思いました。 P4 15行 「かあさん、逃げて」は明らかに磔にされている人に対しては思わ…
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