うだつの上がらない博士
「この機械は、意識さえあればどんな言語でも翻訳出来るんだよ」
博士はそう言ってボリュームのつまみのようなものを回した。
機械はしばしキュルキュルと鳴った後、一つの信号を拾った。
「チキュウジンニ、テンバツヲクワエテヤレ」
平坦な声だった。データ取りの針はフラットに近い波形を描く。
「ニーサン、ナンテコトイウンダ。カレラハユウコウテキナイキモノダヨ」
「オマエ、チキュウジントシャベッタコトアンノカヨ」
「イヤ、ナイケドネ、カレラノ、フルマイヲミテタラワカルダロ」
「オロカモノメ」
それまで、フラットだった針が「モノメ」という言葉あたりから揺れだした。
博士に目をやると横目で僕の様子をうかがっている。
「チキュウニ、バクダンヲオトスノダ」
また針がぶれた。
「博士」
「コノハジ知らズのスムソウクツニ」
「博士」
「ワレライカりの~」
「博士ー!」
「なに?」
「つまらない。実験失敗ですし。子音の違いによるピッチの変化がテーマなんですから」
「ほんとだ、ごめん。またやり直しだね」
博士はそう言って声紋のデータをゴミ箱に捨てた。