#02 Burn the life
「ぜっぜぇぇえええあぁっ!」
目の前に両手剣の刃が迫っている。
気合いと共に降り下ろされたその一撃は俺を真っ二つに切断……
するわけでもなく跳ね返る。
ニーナのおっぱいすげぇと感じさせられる。
「クソッ…!なんだこのゲル、まるで攻撃が効かない!!」
目の前にいるこの男はプレイヤーの一人なのだろう。
愚かにもこの俺に刃を向け、敵と勘違いをし、更には攻撃を加えてくる。
もうかれこれ十分は経つだろうが、全くもって諦める気配がない。
「ゲルも倒せない俺なんて…」
泣き言を言いつつも俺に対する攻撃を停止する気配は全くない。
確かにダメージ量が少なすぎて俺の自動回復量と変わらない。
「なぁ、ニーナ。
なんで俺の言葉こいつに通じないの?
あとなんで、こんなに弱いの?」
『恐らくですが、魔物の言語と人間の言語では違うということなのではないでしょうか。
弱さについては分かりません……』
「クソックソックソッ!
なんだよこいつ、低レベルなゲルなら幼稚園児でも倒せちゃうくらいに弱いんじゃないのかよ!」
その言葉を最後に剣を捨て泣き始める青年。
見た目だけで判断すると高校生か大学生辺りだろう。
「なにか、同情を覚えるよ」
『そうでしょうか、それはきっとでろりーぬにの優しさ故ですよ。
ささ、一思いにさっさと殺して食べちゃいましょう。
それも優しさの1つです』
最近、ニーナの方向性が著しく変わってきているのが気のせいであることを願いたい。
「ふぅぅぅ…うぇっうぉっうわぁぁぁぁ」
等々堪えきれずに泣き始める青年。
慰めようにも言葉は通じないので、体で表すことに。
ゆっくりと近づき、ちょいちょいと伸ばした触手でつつく。
「なんだよ!お前まで俺をバカにするのか?
もういやだぁ、家に帰りたい……」
精神的ダメージが頂点に達した為か近くにいた俺を抱き締めながら泣く。
凡そ五分程経つと落ち着いたようだ。
「そういえばお前、全然攻撃してこないね。
もしかして平和主義なのかな?」
その問いかけに答えるべく触手でyesの文字をつくる。
「おおお、言葉がわかる!?
すごいな!」
まぁまぁ、そんな誉めんなって。
恥ずかしさを表すため、触手で感覚的にほほ辺りと思われるを所をポリポリかくと、青年は俺に抱きつく。
「何てかわいいやつなんだ。
よし、決めた!
お前は今日から俺のペットだ。
よろしくな、モッツァレラ!」
名前が嫌すぎる上に男に飼われるとか、よくよく考えてみると抱かれているこの状況は最悪と言えた。
「じゃあ、帰ろうか」
その一言が俺の耳に届くよりも先に俺の体は走り出していた。
幸いにしてまだ戦闘継続中と判断されていたようで、移動系のアビリティが生きていたことに感謝しつつ全速力で湖の方へと向かう。
男同士はない……うん、ない……
ダメ人間ですみません#02 Burn the life
青く生い茂った木々、様々な動物や昆虫の生息地となっているこの場所を、生活の拠点として使っている。
でろりーぬ、それがこの世界で俺についている名前だ。
この森の名前は<ゲルの森>多くの自然溢れる場所である。
この地には名前の通りゲルが棲みかにしており、基本的に魔物はゲルの姿しかみることはできないだろう。
ここに来てもう三日も経つ。
俺はここでひたすら同族を殺し、そしてそれを糧に生きている。
同族を食した数はもう覚えていない程だ。
最初に殺したときはひどく動揺したが、一度経験してしまえばあとは馴れたものだった。
レベルは順調に上がっている。
だが、もうそろそろ経験値効率も悪くなってきており、ここを出なければいけないようだ。
「先程は悪夢だったな。
まさか男に抱きつかれるとは…寒気がする……
そうだ、明日にはここを出ようと思うんだが、どこかおすすめの場所はあるか?」
『ここを出る前にまずはこのステージにいるボスを倒されるのがいいかと思われます。』
「あ、ボスなんているんか」
『はい、でろりーぬ様のステータスですと余裕でしょう』
ニーナは必要以上に俺を持ち上げる。
「ふむ、場所はどこだ?
このステージは結構歩いたと思うんだが」
『はい、実は言うといつも使っている拠点のすぐ近くにあるんですよ』
「ほう、なら拠点からは案内頼む」
ズルズルと歩き出す。
いい加減移動速度を上げたいのだが、なかなか良い案が浮かばない。
触手を足の代わりに使ってもバランスをとることが難しく断念。
四足歩行は二足歩行よりましだったがやはり転けてしまう。
何か良い案がないのか……
ふと、思ういつまでも生物にこだわっていてはいけないと。
そう思って実行したのが四輪車を真似た移動方。
うまくいったのだが、道が舗装されておらずこれも失敗に終わった。
「ニーナ、何か良い移動方ないか?」
『それは以前から試されてますが、私からはムカデのように蜘蛛のような昆虫と同じような移動方法を提案します』
「なるほど、昆虫か。
その発想はなかったな。」
まずはムカデのような体に形を変える。
しかし、触手を作るまではよかったがその量な多すぎて制御不能になる。
次に蜘蛛を試す。
まるっこい体に足を六本生やす。
意外と安定感のある体に仕上がったところで触手で地面を蹴り、ぴょこたんっ、ぴょこたんっと飛び跳ねる。
少しバランスを崩しそうになるものの比較的うまくいった。
「おお、なんだこれ楽しいぞ。」
『成功したようですね。
おめでとうございます』
「ありがとう、ニーナのおかげだ」
『いえ、私は当然のことをしたまでです』
「さぁ、これでボスのところまでいこうか」
あれから途中に出てくるゲルを食べたり、木に成る変な紫色をした実を食べたり、だらだらしながら向かった。
蜘蛛の形態に馴れた頃には拠点につくとボチャンッと湖から音がした。
この湖は未だに何がいるのか知らない。
とりあえず、ここからどういくのか。
「ここからどうやっていくんだ?」
『はい、まずは湖のなかを通る必要があります。
といっても、ほとんど潜ればすぐなんですが。
大きく目立つ岩がありますがそこの真下に通路があるのでそこを通ります』
確かにかなり大きな岩がある。
「ところで、俺は湖に入っても大丈夫なのか?」
『はい、大丈夫ですよ』
なかにはいった瞬間水に溶けてゲームオーバーとかないよな……?
意を決して湖のなかに入る。
ポチャンッと音がしたあと少し沈む。
蜘蛛足の形を少し変え泳げるようにする。
沈んだところが丁度穴の近くだった。
すぐにその穴をめがけて進むとバシャッという音と共に地面へと放り出された。
『無事抜けれたようですね。
ではそこの通路をまっすぐ進んでください。
その先に広場があると思うのですが、そこにボスがいるはずです。』
蜘蛛足をもとに戻し、跳びながらまっすぐ進む。
すると通路を出たところにニーナの言う広場があった。
躊躇いなく部屋にはいる。
するとそこには俺の体より少し小さめのゲルがいた。
核が2つもあり、色が毒々しい紫色をしている。
頭上には[ポイズンゲル]という名前が。
此方には気づいているようだが行動を起こす気配を感じることはない。
牽制に【オーラアロー】を射ち出す。
その一撃を避けることもなく体に受け、穴を開けたポイズンゲルがようやくこちらに進み出る。
その速さはそこまで早くはないが普通のゲルより数倍速い。
さらに、空いた穴はすぐに塞がった。
俺はすかさず【咆哮】を使う。
此方へ向かいながら四本の触手を生やしたポイズンゲル。
あと3メートルというところで触手が攻撃をしてくる。
大した威力もなさそうだが、ポイズンという名前に対する警戒をしておいた方がいいだろうから【ステップ】を使い、避ける。
避けたあと俺は日本の触手を尖らせた形を作り、ポイズンゲルを貫く。
先程と同じように体に穴はあくがすぐに塞がる。
「なかなかしぶとそうだな」
こちらに方向転換した触手が再び俺を狙う。
今度は跳ぶことで避ける。
着地と同時に【オーラアロー】を放つ。
今度は核を狙って射つが、大したダメージは無さそうだ。
「ニーナ、これはダメージ通ってるのか?」
『はい、大丈夫ですよ。
ポイズンゲルはHPこそ異常に高いですが、他目立ったものは名前に入ってる毒しかありません』
なるほど、ポイズンゲルの攻撃を避けつつ、今度は俺の触手を十本突き刺す。
全ては核へと狙いを定め片方に五本づつ刺さり、両方にヒビが入る。
『クリティカルダメージが入ったようですね。
あと一息のようですよ』
反撃を素早く避けてもう一度触手を十本、核へと突き刺したところで両方ともを割ることに成功した。
核の欠片だけを残して体液がどろどろと広がる。
【捕食】を使い、核を体内に取り込む。
<ボス:[ポイズンゲル]を倒しました>
<アビリティ:【毒の体液】を修得しました>
<レベルが10に上がりました>
<イベント:《森の王者ポイズンゲル》を完了しました。APを10獲得しました>
<アイテム:〔ゲルの核×1 〕〔1000G〕を入手しました>
一気にテロップが流れる。
『ボスの討伐、おめでとうございます。
核の捕食で新しいアビリティを覚えたみたいですね。
【捕食】を使うと一定の確率で今回のように、相手のアビリティを獲得する隠し効果があるようですね』
「なるほど、それは便利だ。
やはりクリティカルを出すには弱点部位を狙えば良いのか」
『はい、そうです。』
「なるほどな。
さて、レベルも上がったことだしステータスを弄るかな」
名前:でろりーぬ
種族:ゲル
LV:10(cp0)
HP:200
MP:50
腕力:150
耐久力(硬度):π
知能:30
精神力:80
速度:3
アビリティ(AP20):【液体金属】【スロースターター】【下剋上】【硬度解放】【格闘チャンピオン】【飛脚】【加速】【剛力】【消化活動】【毒の体液】←NEW
スキル(SP0):【咆哮】【ステップ】【ジャンプ】【オーラアローlv5】【オーラシールドlv5】←NEW
アイテム:〔ゲルの体液×34〕〔ゲルの核×1〕
ステータスはMPに少々と腕力、精神力に振る。
アビリティは取りたいものがあるので貯蓄。
スキルはオーラアローのLVを上げ、オーラシールドを修得し、同じくLVを上げた。
アビリティ:【毒の体液】…近接攻撃を当てるか受けた際、相手は状態異常(毒)になることがある。
毒の体液は意外と便利そうだ。
スキル:【オーラシールド】…魔法の盾を発動し、使用者をあらゆる魔法攻撃から守護する。
精神力が高いほど硬度と耐久値が増す。
こちらは低ポイントの割には使い勝手が良い。
対魔法戦闘に有効なスキルだろう。
「よし、これで完了…と」
『ご苦労様です。
このステージは攻略を完了しましたが次はどこにいかれますか?』
「おすすめはどのステージなんだ?」
『適正なのが2つで、1つはゴブリンの森…こちらは隣ですね。
もう1つは魔物の塔ですね。
こちらも遠くはありませんが、攻略に時間はかかりそうです』
「ふむ、ゴブリンの森か、魔物の塔か…」
ゴブリンの森は近くで、モンスターも名前の通りゴブリンしか出なさそうなので対処は楽だろう。
魔物の塔は何が出てくるかは知らないが、良い経験になるだろう。
「なら、次の目的地は……ゴブリンの森かな」
転送され拠点に戻るとそこには先程の男が全身ボロボロの姿で大きな岩にもたれかかっていた。
「ニーナ、どうしてこうなっていると思う?」
『恐らく、ボスのステージへ不幸にも紛れ込み、何とか倒したといったところでしょうか』
なるほど、とりあえずこのままだと何れ死ぬだろう。
口にHP回復の効果がある木のみをねじ込み回復させる。
全回復したところで男が目を冷ましそうになったので急いでその場を離れた。
俺は高校の友人に勧められたオンラインゲーム、FFOでデスゲームに巻き込まれた。
キャラクターの設定ではヒューマンを選択した。
何となく選んだヒューマンはステータスが低く、自動的に選ばれたアビリティは【不屈の心】。
豆腐メンタルとして有名な俺に対してこのようなアビリティが付くことに疑問を感じたが、ゲームなのでよしとする。
ゲームが開始され、街に転送された時点ではこのゲームの素晴らしさを感じていた。
ステータス設定も運の要素が少し強いが、所詮ゲームなので低くても気にすることはなかった。
設定を終え、町を散策していると急にコールがかかってくる。
回りでも同じようにコールがかかっているので全体発信なのだろう。
発信元は運営だったので応答する。
『皆さん始めまして。
私はこのゲームの製作者のレボという。
もちろんニックネームだがね。』
スーツに白衣を着て、頭には穴の空いた紙袋という不振人物がそこに映っていた。
声からして男だろう。
俺は彼の纏う雰囲気に押された。
そして彼から伝えられる出来事は俺達プレイヤーに混乱をもたらした。
なかにはわめき散らす男性プレイヤーや泣き崩れる女性プレイヤーもいたが、俺は泣き崩れたかったのだが男なのでグッとこらえる。
彼からの通信が終了したあとすぐに掲示板へと接続したがやはりそこも混乱の真っ只中。
とても有意義な後論をしているとは言えなかった。
俺達プレイヤーの殆どがその日は街に引きこもっただろう。
俺は初期に渡されたGで宿屋をとり、そこで気持ちの整理をおこなった。
ここに来てアビリティの【不屈の心】が嬉しく思う。
【不屈の心】:攻撃を受けて死亡した場合、一日に一度だけ蘇る。
その際、ステータス値に大幅な補正がかかる。
一日に一度だけだが保険ができた。
デスゲームのなかでこのようなスキルは貴重だろう。
多少の慰めにはなったが、結局のところ根本を解決できていないために、ベッドの上で泣き続けた。
周りのプレイヤー達が落ち着いたのは次の日の昼頃だ。
俺もその頃には落ち着きを取り戻し、泣いていては何も始まらぬとダンジョンに向かう決意をした。
このままでは何れ金がつき、野垂れ死ぬのが落ちだと気づけばあとは早かった。
しかし、一人でいくのは不安を感じ、パーティー募集掲示板にて書き込みをする。
そこには皆それぞれが自分のステータスを載せて募集しているが、そのどれを見ても自分が勝っているということはなかった。
試しに自分のステータスを載せると皆の反応は決まってバカにしたものだ。
「嘘乙wwwww真面目に募集しろww」
「ちゃんとステータス振り分けたか?w」
「振り分けてそれとかwwどんだけwww」
大体このような感じで取り合ってもらえない。
募集に応募してもすべて断られる。
「すまない、そのステータスだと君に背中を預けることはできない。
無理は言わないから外に出るのはやめた方がいい」
比較的良心的な人にも断られる始末。
自分を誘った友人は俺を放って攻略組へ。
これほど惨めな思いをしたことは生まれてきて、経験したおぼえはなかった。
世界が敵になった気分に陥り、そのすべてに絶望した。
しかし、足を止めているわけにはいかない。
残りのお金をつぎ込み、今装備できる最高の装備を整えた。
ゲルの森ならば敵が非常に弱く、ボスもいないため簡単だという情報を信じ、翌日に向かうことにする。
その日はお金がないため広場のベンチに寝転がり、疲れのせいなのか気づけば眠っていた。
朝、ふと目が覚めると朝日が登っており、他の人は活動していた。
歩いて町の外に出る。
ゲルの森は、近くにあるためマップを頼りに進む。
歩き続けていると昼前には森に着いた。
森にはいる。
剣を常に構えながら警戒をして歩く。
ズルズルと体を引きずっているゲルを発見する。
向こうはこちらに気づいていなかった。
俺はその異形の形、気持ち悪い色の液体。
そのすべてに恐怖した。
息を潜めてそのゲルが離れるのを待つ。
ゲルがこちらに気づくことなく通りすぎたのを確認し、俺は大きく息をつく。
木にもたれかかり、心のなかで自分に罵声を浴びせる。
どうして攻撃しなかった!
なぜこんなにも恐怖する!
しかし、怖いものは怖かった。
するとちょんちょんとなにかにつつかれる。
「ん?」
疑問に思いながらつつかれたと思われる場所を見るとそこには紫色のゲルがいた。
一瞬で血の気が引いた。
今のがもし本当の攻撃だったら?
ステータスの低い俺なら重傷だろう。
そう考えながら体はすでに反応し、転がりながらゲルとの距離を取る。
走って逃げたい気持ちに囚われそうに成るが、先の失態を頭に浮かべ体を制する。
剣を真っ正面に構え、ゲルに相対する。
すると、ゲルからジジジーという人ならば到底出せない音をだしこちらに近づく。
来るな!来るな!と心は悲鳴をあげるが、俺がそこを動くことはなかった。
「アアアアアアアアッ!」
言葉にならない思いを声に出し、自分を奮い立たせ剣を振り上げる。
そうして近づくゲルの体に力の限り降り下ろす。
ザシュッという音と共に切れてくれればよかったのだが、あろうことか剣が跳ね返る。
ぽよんっと音がする様な気さえする。
再び降り下ろす。
跳ね返る。
剣を横に薙いだ。
跳ね返る。
切り上げた。
跳ね返る。
突く。
跳ね返る。
蹴る。
跳ね返る。
まるで効かない。
十分程もも続けた。
「ぜっぜぇぇえええあぁっ!」
両手で降り下ろしたその一撃は綺麗にゲルへと向かう。
しかし、またもや跳ね返る。
「クソッ…!なんだこのゲル、まるで攻撃が効かない!!」
声に出し、悪態をつく。
やはりこのステータスでは無理だったのか……
気持ちは深く沈む。
「ゲルも倒せない俺なんて…」
このステータス値にした運営を恨む。
全てはやつらのせいだ。
ここでこいつに殺されれば必ず呪ってやる。
「クソックソックソッ!
なんだよこいつ、低レベルなゲルなら幼稚園児でも倒せちゃうくらいに弱いんじゃないのかよ!」
暗い感情が心のなかで渦巻く。
しかし、いくら嘆いて呪ったところでどうにかなるものでもなかった。
もう、心の中にある殺されるんだという気持ちが押さえられなくなった。
「ふぅぅぅ…うぇっうぉっうわぁぁぁぁ」
決壊したダムから水が溢れるように、目から涙が止まらない。
泣いているとゲルが近づいてくる。
もう俺はこいつに食べられて殺されるんだと思うが、ゲルは俺をその触手でつつく。
「なんだよ!お前まで俺をバカにするのか?
もういやだぁ、家に帰りたい……」
攻撃するでもなくちょいちょいとつつくそいつに腹が立つ。
こんなちっぽけな生物にもバカにされてるんだと惨めな気持ちになる。
しかし、ふと気づく。
こいつは一度も攻撃してこない。
「そういえばお前、全然攻撃してこないね。
もしかして平和主義なのかな?」
そう問いかけるとゲルは触手でyesの文字をつくる。
「おおお、言葉がわかる!?
すごいな!」
もしかしたら俺はすごい発見をしたのでは?
気分の高揚を押さえられない。
こいつは俺と友達になろうとしてくれたんだ!
恥ずかしそうに頬らしき場所をかくゲル……名前はモッツァレラ。
何となくそう感じたから今日から君はモッツァレラ。
かわいさのあまり抱きつく。
「何てかわいいやつなんだ。
よし、決めた!
お前は今日から俺のペットだ。
よろしくな、モッツァレラ!」
今日は探索を中断してこいつを連れて帰ろう。
「じゃあ、帰ろうか」
そう言うとモッツァレラは急にドロリと腕から落ちて物凄いスピードで森の中へ消えていった。
唖然とし、それを見送った俺は暫くそこから離れず座ったまま呆然としていた。
すると気づけば周りにゲルが三匹いた。
先程のような恐怖は感じず、近づいてコミュニケーションをとろうとする。
しかし、彼らがとった行動は俺に敵対するものだった。
触手で殴られ、刺された。
そこからはただひたすら逃げた。
なりふり構わず。
ステータスを見るとダメージは大きくHPは三分の一ほどしかなかった。
止まった場所は広い場所で湖が広がっていた。
大きな岩にもたれかかり休む。
喉を潤すために水をすくう。
が、後ろでガザガサという音がしたと思えば少し離れたところに蜘蛛のようなゲルがおり、血の気が引いた。
ふらりと体が揺れてバランスを崩し、湖のなかに落ちる。
装備のせいで少し沈み、目を開けると大きな穴があった。
上に出るとあの奇妙で不気味なゲルと出会ってしまう。
勝てる自信のなかった俺はその穴に飛び込む。
するとその先は通路だったようでボトリと地面に落ちる。
不思議なことに水は通路に流れることなく壁としてそこにあった。
とりあえずもどることはできないので通路をまっすぐ進む。
すると少し進んだ先に大きく拓けた場所があり、そこにはモッツァレラに似たゲルを見つける。
しかし、こいつはモッツァレラではないようだ。
名前は[ポイズンゲル]というらしい。
広場に入り立ち尽くしているとポイズンゲルはこちら発見したようで襲いかかってくる。
とっさに何とか触手を避けて剣を振る。
初めて敵を切ることに成功する。
ザシュッという音と共に切り裂かれたポイズンゲル。
しかし、その傷はすぐに塞がる。
「大丈夫、攻撃は当たった。
勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てるっ!」
何度も切りつける。
幸いにしてポイズンゲルはそんなに速くなく、何とか避け続ける。
後ろに回り、切りつける。
飛び散った液体が目にかかったので、後ろに飛び退いて拭おうとする。
しかし、体に力が入らず転ける。
おかしい、バグか?
そう思ったがふと思う。
これが毒か。
毒を消すようなアイテムもスキルもない。
ポイズンゲルは俺の腹に触手を突き刺す。
「ガハァッ!?」
HPは一気に減り瀕死になる。
ここで終わりか。
体から力が抜けていく。
頭に浮かぶのはたった一人の家族の姿だ。
両親をなくした俺は妹と二人で生活してきた。
妹はまだ小学生。
俺がいなくなったら泣くだろう。
死にたくない。
そう願う。
しかし、現実は非常でその命は失われた。
<条件クリア、【不屈の心】を発動します>
<条件クリア、隠しアビリティ【人類の可能性】を発動します>
<条件クリア、【狂戦士の心】を発動します>
俺は死んだはずだ。
しかし、いつのまにか立っている。
体に大きな力が巡っている。
ポイズンゲルはこちらに攻撃してくるが触手を手に握っている剣で叩き切る。
瞬時にポイズンゲルへと近づく。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
切る切る切る切る切る切る
何度も剣を振るう。
心が沸き立ち、血肉踊る。
「命をおおおおおお燃やせええええええ!!!!」
<条件クリア、スキル:【オーバーラッシュ】を習得しました>
【オーバーラッシュ】発動
先程までの攻撃よりも更に速い攻撃が繰り出される。
ポイズンゲルは体の液体を飛び散らせ、反撃もできずにただ切られる。
<ボス:[ポイズンゲル]を倒しました>
<種族がハイヒューマンになりました>
<レベルが5に上がりました>
<イベント:《森の王者ポイズンゲル》を完了しました。APを10獲得しました>
<アイテム:〔ゲルの核×1 〕〔1000G〕を入手しました>
どうやら倒せたようだ。
ひたすらに剣を降り回し、がむしゃらに戦った。
一度死んだにも関わらず不思議と心は晴れ、興奮と生きている喜びを噛み締めた。
しかし、体は限界を迎えそこに倒れ意識を失った。
うっすらと意識を取り戻し、目を覚ますと口に木のみをねじ込んでいるモッツァレラの姿が。
しかし、彼は驚いたのか急いで逃げ出した。
HPが全回復しているところを見るとどうやら先程の木のみはHPを回復させるものだったのだろう。
「ありがとう」
そう呟きもう一度俺は意識を失った。