#00 prologue
俺は落ちこぼれのダメ人間です。
毎日同じことを繰り返す日々が続いて三年ほどの月日がたった。
鏡に向かって自分を罵倒するという謎行動を習慣化してしまうくらいには俺は暇だったのだ。
日本は今、夏のクソ暑い日で外には何を言っているのかは分からないが、朝早くから喚き散らす虫が生息している。
鏡の前にはタンクトップにトランクス。
手にはうちわを持ち死んだ魚のような目をした男が立っていた。
言うまでもなくそいつは俺で、どこからどうみてもダメなやつにしか見えない。
自他共に認める落ちこぼれ系ダメ人間である。
もうかれこれ二年は外に出ていないため、このボサボサで伸びきった髪の毛も気にならずに過ごしている。
俺だってなにも最初から落ちこぼれのダメ人間に生まれたわけではないのだ。
寧ろ生まれや育ちは良い方だと思う。
父はとある大企業の役員で母は喫茶店の経営者。
二人とも容姿は良く、仲も決して悪くはない。
その血を受け継いだ俺も容姿は無難に良く、高校時代ではモテていた。
勉学の方も上位に食い込み将来困るはずなどなかったのだ。
問題が起こり始めたのは大学生の頃、就活を父のコネで無事に終えて遊び呆けていた時のことだ。
運命の相手と出会ったのである。
彼女は小柄な体型に黒色のロングヘアーを赤いリボンでツインテールにし、雰囲気は優しさの化身のようで、純真無垢という言葉がこれ以上ないくらいに似合っていた。
体型に女性らしさは無いものの十二分に可愛いと言える娘。
名前も当然のごとく可愛らしい。
その名は白井萌花といった。
神が産み出したかの様に美しい彼女を見た瞬間、俺の心は鷲掴みにされた。
そんな気分だったのだ。
俺の甘い初恋だった…
そして、彼女に魅せられた俺はアプローチをかけまくり、ついには恋人同士になったのだ。
結婚まで考えるほどには真剣な付き合いだった。
たったひとつを除き、その他はまったく問題などなかったはず。
そう、たったひとつの問題…年齢を除いて。
彼女は属に言う小学生。
少女と呼ばれる年齢だったのだ。
両親に結婚前提の付き合いをしていると伝えたところ案の定猛反対され、付き合いをやめない限り通報すると言われ泣く泣く彼女とは別れることになった。
俺はロリに目覚めた。
いや、いつの間にか目覚めていたのだ。
というよりも隠れた性癖がその時、覚醒した。
そこでひとつの歯車が狂った。
俺はそれから合法ロリなる人種を探すために大都会を毎日練り歩いていた。
そしてとうとうその合法ロリと呼ばれる人種に出会うことができた。
その日は母の喫茶店の手伝いを終えて町に繰り出していた。
お昼過ぎの少し小さな交差点。
信号をわたった先にその合法ロリがいた。
後にわかることだがその娘は名前を遠藤静香といった。
彼女は信号待ちの間、終止携帯ゲーム機に目を落とし、世界から隔絶された雰囲気を醸し出していた。
女性らしい服装をしているがその身長は低く、まるで妖精のように美しかった。
髪は少し染めているのか茶色がかっており、サイドにくくられている。
顔は幼く、女性とも少女とも取れる。
信号が赤から青に代わり一歩踏み出す。
彼女が歩き出すのを確認すると、心臓の音が大きくなっていくのがわかる。
どうして声をかければ良いものか。
そう考えていると横から暴走した車が走ってくる。
彼女が危ない。
そう思った頃には既に走り出していたように思う。
弾かれたように駆け出した俺はすぐに目的に到達し、彼女の小さな体を前へと押し出す。
その次の瞬間体に激痛が走り、俺の体は数メートルの距離を飛んだと思う。
人間は自力でも飛べるのである。
回転しながらそう思わなくもなかった。
俺は痛さの余り、ドMに目覚めるかもしれないと恐怖したことを記憶している。
駆け寄ってくる彼女をみると先程までの世界から隔絶された雰囲気はなく、酷く焦り顔は涙でグシャグシャになっていた。
それを見て一番に思ったのは泣いている顔が酷くかわいいなということだった。
そのとき、俺は靄のかかった意識の中。
俺ははっきりと覚醒した。
新たな性癖、サディスティックに。
次に意識が戻ると病院のベッドの上だった。
隣に彼女が座っている。
またもや携帯ゲーム機に目を落とし、例の雰囲気を醸し出していた。
取り込み中に悪いと思うが状況を知りたいので彼女の細い足を叩く。
ニーソの映えるきれいな足だった。
彼女がこちらの世界に戻ったと同時に泣き出した。
かなり心配をかけたみたいだが、その泣き顔に気分が高揚する。
覚醒した俺に死角はなかったのだ。
自己紹介をし、静香の年齢が19だとわかった。
本当に合法ロリと呼ばれる人種のようで本人も認めていた。
状況を聞くと彼女の顔が再び悲しみに染まる。
止まることのない涙を前に動揺と興奮が俺の心を駆け巡る。
少しすると医師が部屋にきた。
説明を聞くとどうやら左腕と左足を失ったようだ。
彼女はひたすらごめんなさいと繰り返していた。
それから少しすると彼女は帰り、親がきた。
二人ともなんとも言えない…まるで自分達が手足を失ったかのような顔だ。
そんなに心配しなくても俺自身は寧ろ嬉しいくらいだ。
今の時代手足がとれたところで昔と違い、今では自由のきく義手や義足もあるのだから、まったく問題ない。
その代償として静香と出会うことができた。
それからというもの義手と義足を付けた後のリハビリ生活。
そして普通に生活できるようになるまで一年もかかった。
その間に静香は毎日見舞いに来てくれ、これない日でも連絡がない日などはなかった。
静香と恋人になり、両親も認める仲でリハビリが終わり就職すれば結婚。
久々に人生が輝いて見えた。
いくら通常の生活ができても病み上がりみたいなものなので、就職はさらに一年余分を見て遅れることとなった。
その一年は静香と遊び、お互いの仲を深めていった。
彼女はゲームが好きで、インドア派なので外に出る日は少ないが、色々な場所にいった。
遊園地、動物園、水族館、映画館、カラオケ、ボーリング。
あげればきりがないかもしれない。
とりかく就職まで遊び尽くしだったが、両親も納得していてくれたようで特になにも言われず、就職を迎えた。
そこからは忙しい毎日だった。
無事就職をしたのは良いものの新米は雑用としてコキ使われ、休日も少なく先輩方につれ回され、様々な経験をしたが、静香と会える時間が極端に少なくなった。
結婚の約束は就職してから三年後と決めていたので、そのための貯金もした。
先輩にごまをすり、飲み屋代をおごってもらうことでお金を浮かし、そんな日々もとうとう終わりを告げる。
結婚まであと一年、それくらいにると会社での仕事も慣れ始め時間ができることが多くなったので
、静香との時間を多く取ろうと誘うが彼女の方が忙しいのか断ることが多くなった。
たまたま会社が早く終わり、久しぶりに彼女の家にいった。
彼女は独り暮らしをしており、よくこの部屋へ泊に来ていたが、ここ一年はまったくといいほどこれていなかった。
チャイムを鳴らす。
しばらく待つと扉が開く。
久しぶりに会えるな、今日の髪型はどんなだろう、服装はなんだろ?
そう考えていると目の前に立っていたのはトランクス一枚の男だった。
一瞬目を疑った。
部屋を間違ったかとも思ったが奥に静香の姿を見つけて固まる。
心の中が氷のように冷たくなり、体は熱を宿す。
脳ミソが脈打っているのを感じる。
とっさに出た一言。
別れよう。
その一言だけだった。
部屋を見る限り、以前のような整頓されたものではなく、散らかっていた。
清潔な彼女にしてはあり得ない。
ふと見るとシンクの中には洗い物が放置されており、コンロの部分は油で汚れていて、決して掃除してあるようには見えない。
清潔な彼女にしてはあり得ない。
彼女は呆然としながら立ち尽くしていた。
男の方は困惑しているのか静香と俺の方を交互に見ている。
事情を聴いてみると男は大学時代の先輩だ。
それは知っている。
結構前だが俺も一緒に飲みに行ったことがある。
半年ほど前、暇にしているところを飲み会に誘われ、酔った勢いで寂しさと俺と会えない不安のあまり関係を持ってしまったらしい。
その時はいけないと思いつつも寂しさを押さえきれず、それからもずるずると続いていたようだ。
ここ最近は家賃が払えず、途方にくれていた男を自分の部屋に招いて生活していたそうだ。
言葉を失った。
そして、俺は覚醒した。
男同士こそが至高なのだと。
というわけにはいかなかった。
流石に寝取られに目覚めることはなかった。
もちろん本当に男同士の方にも目覚めなかった。
それからというもの全ての気力をなくした。
会社は辞めて自宅に引きこもり、鬱々とした日々を過ごしていた。
自分を罵倒する謎習慣もでき、俺の心と日本の経済状況は氷河期を迎えていた。
ダメ人間ですみません。 #00 Prologue
「この無力なごみくずがっ!!
恥を知れ恥を!
お前のような無力な落ちこぼれ系ダメ人間に存在の価値など欠片もないわ!
あほ!まぬけ!死んだ魚の目!」
今日も自分を罵る。
鏡に写る自分にあらゆる罵倒を浴びせるが、相も変わらず心は氷河期だった。
「やはり、もっと罵倒の語録を増やすべきなのか。
まるで効果があるように思えないぞ。
もしかしてもっと必要なのか?
なんて欲張りさんなんだ、俺は変態だな。
死んだ方がましかもしれないな。」
ふむ、これでもダメか
とすると…
コンコンッ
「あっ、はいどうぞ。あいてるから」
「元気そうで何より、やはりまだダメか?
もうそろそろお前も28だ。
どうだ、社会復帰してみないか?」
息子が落ちこぼれ系ダメ人間だと言うのに父は優しく接してくれる。
「父さん…今社会復帰しても根本を治さない限り、結局は自宅警備員に復帰するに決まってるさ。」
父さんにはすまないが今のこの状態で社会復帰する気は毛頭ない。
「そうか…残念だよ…
あぁ、そうだ。少し早いがお前に誕生日プレゼントがある。
退屈を紛らすためには丁度いいものだ。」
この歳になって誕生日プレゼントは少し恥ずかしい。
しかし、父さんがせっかく用意してくれたものだ。
ありがたく貰おう。
暇潰しに丁度いいらしいし。
「へー、そりゃ丁度いい。」
「まぁ、腐るものでもないし後でも構わんが、どうする?」
大の大人が期待するようにこちらを見つめてくる姿は自分の父親と言えど、ほんの少し気持ち悪かった。
「まぁ、折角だしすぐいこうかな」
「よし!なら行こうか。きっと……」
よし!ってさ…年甲斐もなく…
リビングにつくとテーブルの上に40cm四方の箱がひとつ、プレゼント用の包装を施されたものが置いてあった。
「ほら、少し早いが誕生日プレゼントだ」
それを父さんから渡され、手に取ると結構な重さだった。
「ありがとう。しかし、随分と重いな」
「そりゃあな、VR用のヘッドギアが入っているしな」
VR( virtual reality )は仮想現実空間をコンピュータにより作り出し、体験する技術のことだ。
元々は軍事用に開発された後に様々なことに使われるようになった。
身近なところで言うと今ではゲームのほとんどはこの技術によって作られている。
我が家にはVRヘッドギアはなかったため、俺は学校以外では使ったことがなかった。
これはかなり嬉しいかもしれない。
「おお!これはかなり嬉しい。
てか、こういうのって高いんじゃないのか?」
「まぁ、多少値は張ったがな。
お前はろくに外へ出ないからこんなんでも気が紛れると思ってな」
なんて、息子思いな父親だ。
これを機に外へ出てほしいと言う思惑もあるみたいだが、それを差し引いても素晴らしいプレゼントだな。
「ありがと。だが、これは何かソフトがいるんじゃないのか?」
「あぁ、それなんだが。
会社の若いやつにゲーム好きが居てな、そいつのおすすめゲームを買ったんだ。
中に入ってるんじゃないか?」
ガサゴソと音をたててプレゼントを開封。
中にはついこないだインターネットで見た最新型のVRヘッドギアとソフトケースが。
「へー、Fantasy factory on-lineねぇ。
あれ?どっかで聞いたような」
「なにやら昔は会社…名前は忘れたが。
まぁ、そこでシリーズものとして人気のタイトルだったらしいんだが、その会社から約五年ぶりに新作として出たらしいな。
因みに明日が発売日だ。」
Fantasy factory…確か静香が良くやっていたゲームだったか。
あいつ、今は幸せでやってるかな。
「明日が発売日なのにもう届いたのか?」
そう聞くと父親が待ってましたといわんばかりに胸を張る。
「そうさ!ちょっとしたコネでな!」
狡いことを平然とやってのける父親とか息子は嬉しすぎて涙が出るわ。
「威張っていいことじゃないだろ…」
ため息をつきたくなる衝動を押さえる。
「しかし、実際のところ結構苦労したんだぞ」
それほどまで息子に外へと出てほしいか父親よ。
いや、そりゃそうか。
世間一般的に考えてここまでしてくれる父親もそうはいないだろう。
流石人徳だけで役員になったと言われる男!
かっこいー
「そりゃどうも。
早速やって来るわー、ありがとさん」
「うむ、じゃあ俺は書斎にいるから。
母さんは夕方には帰ってくるそうだ。」
そういい部屋を出た父親を目で追って、箱から必要なものだけを取りだして部屋へ戻る。
「さってと…えー、なになにまずは個人設定からか早速面倒だな。」
カタカタカタカタ…
自分の情報をあらかた付属のコンソールに入力し、FFOのチップをヘッドギアに挿入する。
ヘッドギアを装着し、こめかみ辺りにある電源ボタンを押すと真っ暗な画面にloadingとでた。
loadingの文字が消えたあと、いつの間にか暗色だが明るく、星のない宇宙空間のような場所にいた。
「まず、あなたのためのアドバイザーを選んでください。」
すると空中に十枚ほどの写真が浮かんでくる。
男女五人ずつの写真で、どれも容姿の整った顔である。
選んだのは女性タイプの13才ほどの少女。
指で写真を選択すると目の前に写真の少女が現れ、お辞儀をしている。
「はじめまして、今日から『五十嵐勝臣様』のオペレーターを務めさせていただきます、個体識別番号LUV-217といいます。」
LUV-217はこれまた小柄な少女で、可愛らしいフリルの付いた服を着ている。
髪の毛がショートなのが残念だ。
「そうか、よろしく頼む
ところで君の髪型を変更出来ないだろうか?」
すると、不思議に思ったのか首をこてんと倒す。
「他の髪型の方がよろしいのでしょうか?」
まったく不満もなさそうに聞き返す彼女。
そりゃそうかAIだもんな。
「まぁ、端的に言えばそうだな。
具体的に言えばサイドテール辺りが似合うと思うんだが。」
「かしこまりました。申請……承認…
では、変更いたします。」
パッと一瞬でサイドテールにきり変わる。
予想通りサイドテールは似合っており、彼女のかわいさが際立つ。
「では、始めに私の名前を決めていただけないでしょうか?」
彼女は俺の視線を無視しつつ進行する。
「名前か…LUV……217、217… んー、にいな
ふむふむ、ニーナでどうだろうか」
「かしこまりました。 『名前か…LUV……217、217…んー、にいな。
ふむふむ、ニーナでどうだろうか』で登録いたします。
よろしいでしょうか?」
ギャグか?これは彼女なりのギャグなのか?
そうなのかもしれないが、無表情から産み出されるギャグはシュール以外の何物でもなかった。
それはふとんがふっとんだくらいの低位ギャグを一人寂しい部屋でかますぐらいのシュールレベルである。
という説明をしている俺並みにシュールな存在なのだろう。
「いや、よろしくねぇよ。
LUV-217の名前はニーナだ。
どぅーゆーあんだすたん?」
「かしこまりました。では、ニーナで登録します。」
今度はすんなりと通る。
ニーナがなにか作業をしているとき、焦点が定まらずに死んだような目をしている。
それが妙にそそられる…少女のレイプ目…ジュルリ
「では、まず始めに身体の最適化から始めます
スタート………完了しました。
次にキャラクター設定に移らせていただきます
が、説明はお聞きになりますか?」
ふむ、説明ね…
どうしようか、適当に遊ぶつもりだし行き当たりばったりでいくかな。
「説明はいいよ」
「かしこまりました
ではまず始めに種族の設定をします。
どうぞお選びください。」
結構な数があるな。
ひとつ目に止まるものがあった。
『ゲル』……
すごく気にる。俺のようなダメ人間はこれでいいんじゃないだろうか?
一応説明読んでおくか。
『ゲル』:ゲル状の魔物かなにか。たまに人を襲い捕食するといわれているが基本的に弱いため子供土でも殺せる。
種族ランク#最下位 系統スキル『捕食』
なんと言う弱者設定。
まさに俺にぴったりな種族!
「種族は『ゲル』にするよ」
「かしこまりました。
では次に容姿の設定をしてください」
目の前に現れるゲル状のなにか。
まず形を変えるでろんでろんにしよう。
それから次に固さ?ゲルなんだから柔らかい方がいいんじゃないか。
そう考えた時、電撃が走る!
おっぱいくらいの柔らかさにしよう。
「固さなんだけど、おっぱいくらいの柔らかさにしてみてくれ」
「おっぱい…ですか?」
はははははは!いわせたった!!
幼き少女におっぱい言わせたった。
そして、さらに踏み込む。
もしかしたら今、ここ最近で一番輝いてるかも…
「ああ、ニーナのおっぱいぐらいの柔らかさで頼む。」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
そういいながら服の上から自分のおっぱいを揉みしだきはじめる。
い、意外と大きいなこれは着やせするタイプッ!
というよりも少女であの大きさはどうなんだ…
ロリデカメロンとか…ハハッ、ワロス……
自分のしでかした過ちに少し後悔していると終わったようで、こちらを見つめるニーナ。
「設定しました。」
なおも無表情なのが恐ろしく怖い
「あ、ありがとう…」
気を取り直して他を弄ることにする。
大きさは今10cmほどなので限界の30cmほどにする。
色はどうしようか…紫色にしておくか…?
んで、少し透明にしておこうか。
「はいよ、設定終わったぞ。」
「はい、では設定を適用します…。」
空中を見つめるニーナ
すると画面が現れる。
適応中…61%…
適応中…72%…
着々と適応化が進んでいく中ニーナを見つめていると、ある一点に目がいく。
そう、ニーナの所持する戦略級πo2兵器デカメロンに。
服の構造上胸部は揺ったりとしているので、大きさや形を正確には把握できない。
そう思っていた時期が俺にもありました。
ニーナを観察している間、なんとかそのデカメロンを想像の中だけででも再現できれば…
そう思い、穴が開くほど見つめていたことでレベルが上がったようだ。
私には見える!
その戦略級πo2兵器を起動するためのボタン。
あのボタンを押したいっ……!
ニーナの存在はきっと……素晴らしい未来を与えてくれる……
俺のこの冷えきった人生に輝きと温もりを与えてくれる救世主なのだ。
では俺の存在は?
俺は勇者だ。
そこにあるボタンを押すため、この世界に産声をあげたのだ。
では、そのボタンを押すために産まれた勇者なこの俺が!今もっともしなければいけないこと!
それは何か……答えよう。
それはボタンを押すことだっ……!
俺はその火山の噴火にも似た欲望のいく先を掴みとるため、この手を先へ…
ニーナのソレへと手を伸ばす。
適応中…100%……完了
「適応完了しました。反映します」
空を切る手
縮みゆく体
薄れる希望
迎える絶望
俺はその日ゲルになった。
聴こえる涼しげで凛とした声
「いかがでしょうか?これにてキャラクター設定の方は終了させていただきます。
オンラインサービス開始まで暫しお待ちください。」
ログアウトしたあとはネットを使いFFOの情報を少し見てみる。
どうやらなんのテストもされた形跡がなく、そんな運営で大丈夫なのか?
料金が完全無料だが大丈夫なのか?
噂ではフライングしている人がいるがどうなっているんだ?
などなど、疑問視されている部分が多い。
しかし、公式のサイトに載ってある情報は、それらを軽く消し飛ばしてしまうほどの内容が詰め込まれていた。
種族が多く、転生というシステム。
アイテムの生産はもちろんのことアビリテイキングの幅の大きさやフィールドの広さ。
どれをとっても今までのゲームとはひと味違う。
ただ、サービスは今時珍しく日本人しかプレイできないという謎使用である。
確かに俺もアカウントを作成するときに個人認識番号の入力等をさせられた。
どうやら日本を盛り上げるためという名目で、国が運営の主導を握っているようだ。
サービス開始は明日の20時。
情報を漁って少し期待し始めた俺は部屋の明かりを消して眠りについた。
朝起きてリビングに行くと、丁度母親が仕事に向かうところだった。
「おはよう」
「おはよう、もう起きたの?
ここ最近のかっちゃんにしては珍しいわね。」
年の割には以外と若い母親だ。
ウサギやらネコやらがプリントされたエプロンを畳んでいた。
「はい、そこの皿にあるのお昼ご飯だから暖めて食べなさい。
それじゃあお母さんいってくるから、たまには外にも出なさいよ」
「あいよー、いってらっさい」
「はい、いってきます」
急に静になったリビングでパンを焼く。
「頂きます。」
もさもさ食べる。ここ最近朝食まともに食べていなかったため新鮮に感じる。
やけにうるさいセミども。
ふと視線を感じ、庭に目をやるといつもの光景。
きれいな芝生の先に花壇がありきれいな花が咲いている。
道路側柵の手前には木々が植わっており、そこにセミがいるようだ。
その木の奥、つまり道路からいつも通りこちらを覗いている少女がいる。
忘れたくても忘れられない。
萌花だ。
彼女は俺が引きこもり出してからというものほぼ毎日こちらを覗いている。
どうやらストーカーと化してしまったみたいで、雨だろうがなんだろうがこっちをみている。
今日は土曜日なので、学校が休みなため朝からそこで粘っているのだろう。
会いたい。
会って前のように抱きしめ、前のように好きだといってもらいたい。
しかし、それは許されないことなのだ。
彼女は未成年だ。
社会的に許されない。
彼女の存在が俺を益々憂鬱にさせている。
社会が間違ってるとは言わない。
彼女をみると考えてしまうので、何時ものようにカーテンを閉める。
ここで彼女はいつも寂しそうな顔をする。
しかし、今日はなにかいいことがあったのか満面の笑みを浮かべた顔だった。
いつもならこの時間に父親が家を出るのだが、今日は忙しいのか朝早いにも関わらずいない。
「寝るか」
そうして俺は再び怠惰な生活へ。
ふと、目が覚める。
時間を確認すると時計には17:02と表記されている。
少し寝過ぎたかもしれない。
まだ誰も帰っていないだろう時間。
携帯電話の画面には新着メールを知らせるアイコンが出ている。
どうやら母親からのメールのようだ。
「今日はお母さん18時に帰るから晩御飯一緒にたべよぉΣd(≧∇≦)
お父さんも同じ時間に帰るらしいから晩御飯の支度をお願い!
お肉を買ってあるから焼いてステーキにしてくださいね~」
今日は珍しくステーキのようだが何か祝い事でもあるのかね?
誕生日はまだ先だし…まぁ、いいか
二人が帰るまでまだ少しあるな。
とりあえず謎習慣を済まそうか。
部屋のすみにある鏡の前に立つとそこには代わり映えしないダメ人間の姿。
「このクソヤロウっ!貴様は生きていて恥ずかしくないのか?いつまで経っても、ダラダラ生にしがみついて親の脛をかじりやがって…!
ロリコン!変態!グズ!ゲイ♂…!!」
うん、ゲイ♂は違う。
少し行きすぎた。
しかし、今日は長く寝たせいか顔が少し冴えない。
睡眠は度を越えると確実に体力が
削られてるな。
ぼーっとしていると17時15分になった。
キッチンに立ち龍の書かれた和柄のエプロンを着ける。
かなり厳ついエプロンだが良くこんなもの売ってるな。
というよりも母さんは良くこんなもの見つけてくるな…
サラダと野菜スープが出来上がったと同時ぐらいに二人が帰宅したのでステーキを焼き始める。
時々油が跳ねて腕に当たる。
にんにくも焼き丁度いい匂いがしてきた頃には両親ともに準備を終えて席についてテレビをみていた。
焼き上がり更にのせて配り座ると珍しくテレビを消す。
我が家はご飯中テレビをみながら喋るのが大抵なのだがどうも様子がおかしい。
とうとう説教でもされるか。
そう思ったがそういう雰囲気でもない。
「わぁ、美味しそう!
ささ、食べないうちに早く食べましょう。」
「ああ、いただきます」
親父が手を合わせたので俺も食べ始める。
「今日は忙しかったよ。
もうすぐ会社で今まで用意してきた大きなプロジェクトが始まるからな」
「前からいっていたやつね
大変そう。
勝臣もそろそろ大きなプロジェクトしたら?」
茶化すように笑いながら喋るの母さん。
「未だ準備中さ」
「まぁ、大変そうね」
それから結構喋ったあと時間を確認すると19時30分。
そろそろ切り上げるか。
「んじゃ、俺やることあるから洗い物頼んだ」
「ええ、気にしないでいってらっしゃい」
「ああ、まだ喋り足りんがいってこい」
「あいよー」
多く食べたことにより少し重くなった体を揺らしながら部屋へと戻る。
「さって、まだ早いがゲーム起動しますか。
向こうでニーナとしゃべって待つか」
ヘッドギアを着ける。
こめかみのボタンを押すとloadingの文字が。
Loading…100%
Install…5%
…16%
…56%
…93%
…100%
……GAME START