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幽霊の女の子は俺のせいで成仏できない

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/05/10


ある日の夜。

翔琉(かける)(18)は布団の中でエロ漫画を読んでいた。

 

おぉ!ちょーいいシーンきた!


その時。

突如ごそごそと布団が動き出し、足をわしっと掴まれた。


「うわっ!!」


でたぁ!!幽霊だぁ!!!


布団を恐る恐るまくる。

しかし、幽霊は俺の足を掴んだまま微動だにしない。

 

白い着物を着た長い黒髪の女の子。

歳は俺よりちょっと上?

20歳くらいか?顔は・・・前髪長くてよう分からん!!!


エロ漫画読んでる時に幽霊の女の子か。

足を掴まれているということは=触れられるということ。

これはそういう展開に持ち込めるのでは?

スタイルは・・・ちょっと細すぎるが俺、か弱い女の子が好きだし。

ムラムラしてたからちょうどいい。


ポチッとやる気スイッチオン!


ファサッと髪をかき上げ・・・。


「やぁ君、幽霊かどうかなんて俺は気にしないさ。

だから楽しい夜を一緒に過ごそうじゃないか。」

 

すっと手を伸ばし、腕を掴もうとした瞬間。


「わっ!?」


ガッと腕を取られて布団に押さえ付けられた。


「いたたた!!!ギブギブ!!!」


なす術もなくバシバシッと布団を叩く。


ようやく離してくれた・・・。

つか、なんちゅー力だよ。幽霊のくせに!

痛みで性欲吹っ飛んだわ!


数時間後。

俺は何故か布団の上で土下座をしながら幽霊に話を聞いていた。


「あのー、幽霊さん・・・そろそろ成仏してくれませんかね。ずっと部屋にいられると困るんですけど。」


「それは無理よ。」


「え?なんでよ!」


「だって、私が成仏できない原因あなただもの。」


「俺?そんなわけないじゃん!俺、君のことなんっにも知らないんだし!」


「私は昨日の夜、成仏しようとしていたの。

そしたらあなたの部屋からただならぬ念が漂ってきて・・・私はその念に引っ張られてここへ来たのよ。」


「昨日?念?・・・あっ・・・。」


思い当たることは一つしかなかった。


昨日の夜。

俺は呪いの藁人形、と言ってもネット注文で買ったチャチなやつ。

それに釘をカンカン打ったのだ。


「それ、たぶん俺が上司を呪った時だ。」


「どうして呪いを?」


「あいつ、俺ばっかり目の敵にするんだ。

毎日毎日、嫌味ばっかり言われてさ・・・しかも、昨日仕事してたらお茶をわざと倒された。

それで作った書類が濡れてしまったんだ。だからもう我慢できなくて・・・。」


「そうなの。」


幽霊は特に驚いた様子もない。


「あんな奴、居なくなっちゃえばいいんだ!」


「じゃあ、私が消してあげるわ。」


「え?・・・そんなことできるの?」


「ええ、できるわよ。」


幽霊が言うと説得力半端ない。


「いや、う〜ん何も殺さなくても・・・。

呪ったのは俺だけどさ。移動とか転勤とか?顔を合わせないようになればいいなって願ってやったんだし・・・。」


「あなたを苦しめてる相手でしょう?

そんな甘っちょろいこと言ってるから舐められるのよ。」


何で幽霊にそこまで言われなくちゃいけないんだ!


「ねぇ、呪いよか、俺に彼女作ることはできないの?」


「できるはずないでしょう?あなた、幽霊をなんだと思ってるのよ。」


腕を組んで呆れてる幽霊に言われる。


「そこまで言わなくたっていいじゃないか・・・。俺だって彼女がいたら毎日幸せそうだなって思っただけで・・・。」


思わずポロポロと涙が出てしまう。

今まで溜めていた寂しさとか悲しみとか怒りとか。

そういったものが一気に溢れ出してしまったようだ。


「ぎょっ・・・何も泣かなくてもいいじゃない。」


一度出た涙は止まらない。


「もう、しょうがないわね・・・。」


幽霊が俺の頭を撫でる。

その時、ほわっと僅かだが温かさを感じた。

気のせいだろうか?


俺はしばらく泣き止まずに、幽霊に頭を撫でてもらっていた気がする。



次の日の朝。今日は休みだ。

ベッドから起き上がり、あくびをしながら狭いキッチンの方へと向かった。


「んー?なんかいい匂いが・・・。」


テーブルには朝食が用意されて箸も並べられていた。

魚、お味噌汁、ご飯、肉じゃが、卵焼きから美味そうな湯気が立っている。


「おはよう。」


「え、ひょっとして君が作ってくれたの?」


幽霊は、相変わらずぬぼ〜っとした出立ちだ。


「ええ。」


手作りご飯なんて久しぶりだ・・・。

ご飯作ってくれる幽霊なんて最高じゃないか。


「頂きます。」


味噌汁を一口飲む。


あれ?


次に肉じゃがを一口頬張り、卵焼きも同様に食べた。


この味・・・。

思わず座ったまま幽霊の方へぱっと振り返る。


「?」


幽霊はキョトンとしている。


俺は勢いよく食べ終わると、タンスからアルバムを探し始めた。

母さんの若い頃の写真が確かまだ入ってたはず・・・。


ガサガサガサッ。


「あった!」


一枚一枚ページをめくっていく。

そして、幽霊と手と手の攻防の中、隙をつき前髪をふわっと上げた。


「せいっ!」


「あ」


小さく声が聞こえた。


「やっぱり・・・母さんだったんだね。どうりで声が似てたわけだ。」


母親は20歳で俺を産み、37歳の時に急性腎不全で亡くなった。つまり、母さんが亡くなったのは去年だ。

父親とはすでに離婚していて、俺はばあちゃんとじいちゃんの家に引き取られた。


迷惑かけたくないと、

高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めたんだっけ。


37歳の時より若い姿なのがイマイチよく分かんないけど、目の前にいる幽霊は間違いなく母さんだ。

そういや母さんは学生時代、合気道の達人だったらしい。

それでさっきあんな早技を・・・。


「やっと気付いてくれたわね。翔琉。」


「母さん・・・俺、おれぇ・・・。」


翔琉は途端にぐしゃぐしゃになって泣きじゃくり始めた。


「ばかね、男の子でしょう?メソメソしないの。」


「だって、だってさぁ・・・。」


頭を再度撫でられる。今度は先程より少し強めの力だ。


「全くもう・・・一人暮らし始めたって聞いてあなたを心配して来てみれば。

藁人形置いてあるわ、エロ本読んでるわ、幽霊をナンパして襲おうとするわ・・・本当に困った子ねぇ。」


撫でていた手を止め、頰に手を当てながら言う。


「う・・・それは・・・。ん?ってことは呪いに引き寄せられたっていうのは嘘?」


「そうよ。」


「てか、何で若い頃の姿なの?」


「さぁ・・・?私にも分からないわ。死んですぐにあなたを産んだ歳と同じ姿になっていたの。」


「そっか・・・。」


なんか、それを聞いて妙に納得してしまったな。


「母さん、あなたを立派な男にしなきゃ成仏できないわ。」


「え?」


「だから、これからあなたを鍛えてあげるわ。

体を鍛えれば自ずと心も強くなるんだから。」


幽霊(母親)がジリジリと翔琉に近寄って来る。


「何でそうなるの!」


翔琉は後ずさる。


「母さんが成仏する為よ。」


「それを言われると何も言い返せない。」


観念したのか翔琉の動きが止まる。


「安心しなさい、合気道は武術の中でも比較的優しいわ。」


「そういう問題じゃ・・・。」


「あら、なーに?まさか母さんをずっとこの世に彷徨わせておく気かしら?」


「わ、分かったよ!やるよ!やればいいんでしょやれば!」


「やっとやる気になったわね。」


幽霊になった母さんが合気道の先生をするなんて・・・。

 

「さ、先が思いやられる・・・。」

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