幽霊の女の子は俺のせいで成仏できない
ある日の夜。
翔琉(18)は布団の中でエロ漫画を読んでいた。
おぉ!ちょーいいシーンきた!
その時。
突如ごそごそと布団が動き出し、足をわしっと掴まれた。
「うわっ!!」
でたぁ!!幽霊だぁ!!!
布団を恐る恐るまくる。
しかし、幽霊は俺の足を掴んだまま微動だにしない。
白い着物を着た長い黒髪の女の子。
歳は俺よりちょっと上?
20歳くらいか?顔は・・・前髪長くてよう分からん!!!
エロ漫画読んでる時に幽霊の女の子か。
足を掴まれているということは=触れられるということ。
これはそういう展開に持ち込めるのでは?
スタイルは・・・ちょっと細すぎるが俺、か弱い女の子が好きだし。
ムラムラしてたからちょうどいい。
ポチッとやる気スイッチオン!
ファサッと髪をかき上げ・・・。
「やぁ君、幽霊かどうかなんて俺は気にしないさ。
だから楽しい夜を一緒に過ごそうじゃないか。」
すっと手を伸ばし、腕を掴もうとした瞬間。
「わっ!?」
ガッと腕を取られて布団に押さえ付けられた。
「いたたた!!!ギブギブ!!!」
なす術もなくバシバシッと布団を叩く。
ようやく離してくれた・・・。
つか、なんちゅー力だよ。幽霊のくせに!
痛みで性欲吹っ飛んだわ!
数時間後。
俺は何故か布団の上で土下座をしながら幽霊に話を聞いていた。
「あのー、幽霊さん・・・そろそろ成仏してくれませんかね。ずっと部屋にいられると困るんですけど。」
「それは無理よ。」
「え?なんでよ!」
「だって、私が成仏できない原因あなただもの。」
「俺?そんなわけないじゃん!俺、君のことなんっにも知らないんだし!」
「私は昨日の夜、成仏しようとしていたの。
そしたらあなたの部屋からただならぬ念が漂ってきて・・・私はその念に引っ張られてここへ来たのよ。」
「昨日?念?・・・あっ・・・。」
思い当たることは一つしかなかった。
昨日の夜。
俺は呪いの藁人形、と言ってもネット注文で買ったチャチなやつ。
それに釘をカンカン打ったのだ。
「それ、たぶん俺が上司を呪った時だ。」
「どうして呪いを?」
「あいつ、俺ばっかり目の敵にするんだ。
毎日毎日、嫌味ばっかり言われてさ・・・しかも、昨日仕事してたらお茶をわざと倒された。
それで作った書類が濡れてしまったんだ。だからもう我慢できなくて・・・。」
「そうなの。」
幽霊は特に驚いた様子もない。
「あんな奴、居なくなっちゃえばいいんだ!」
「じゃあ、私が消してあげるわ。」
「え?・・・そんなことできるの?」
「ええ、できるわよ。」
幽霊が言うと説得力半端ない。
「いや、う〜ん何も殺さなくても・・・。
呪ったのは俺だけどさ。移動とか転勤とか?顔を合わせないようになればいいなって願ってやったんだし・・・。」
「あなたを苦しめてる相手でしょう?
そんな甘っちょろいこと言ってるから舐められるのよ。」
何で幽霊にそこまで言われなくちゃいけないんだ!
「ねぇ、呪いよか、俺に彼女作ることはできないの?」
「できるはずないでしょう?あなた、幽霊をなんだと思ってるのよ。」
腕を組んで呆れてる幽霊に言われる。
「そこまで言わなくたっていいじゃないか・・・。俺だって彼女がいたら毎日幸せそうだなって思っただけで・・・。」
思わずポロポロと涙が出てしまう。
今まで溜めていた寂しさとか悲しみとか怒りとか。
そういったものが一気に溢れ出してしまったようだ。
「ぎょっ・・・何も泣かなくてもいいじゃない。」
一度出た涙は止まらない。
「もう、しょうがないわね・・・。」
幽霊が俺の頭を撫でる。
その時、ほわっと僅かだが温かさを感じた。
気のせいだろうか?
俺はしばらく泣き止まずに、幽霊に頭を撫でてもらっていた気がする。
次の日の朝。今日は休みだ。
ベッドから起き上がり、あくびをしながら狭いキッチンの方へと向かった。
「んー?なんかいい匂いが・・・。」
テーブルには朝食が用意されて箸も並べられていた。
魚、お味噌汁、ご飯、肉じゃが、卵焼きから美味そうな湯気が立っている。
「おはよう。」
「え、ひょっとして君が作ってくれたの?」
幽霊は、相変わらずぬぼ〜っとした出立ちだ。
「ええ。」
手作りご飯なんて久しぶりだ・・・。
ご飯作ってくれる幽霊なんて最高じゃないか。
「頂きます。」
味噌汁を一口飲む。
あれ?
次に肉じゃがを一口頬張り、卵焼きも同様に食べた。
この味・・・。
思わず座ったまま幽霊の方へぱっと振り返る。
「?」
幽霊はキョトンとしている。
俺は勢いよく食べ終わると、タンスからアルバムを探し始めた。
母さんの若い頃の写真が確かまだ入ってたはず・・・。
ガサガサガサッ。
「あった!」
一枚一枚ページをめくっていく。
そして、幽霊と手と手の攻防の中、隙をつき前髪をふわっと上げた。
「せいっ!」
「あ」
小さく声が聞こえた。
「やっぱり・・・母さんだったんだね。どうりで声が似てたわけだ。」
母親は20歳で俺を産み、37歳の時に急性腎不全で亡くなった。つまり、母さんが亡くなったのは去年だ。
父親とはすでに離婚していて、俺はばあちゃんとじいちゃんの家に引き取られた。
迷惑かけたくないと、
高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めたんだっけ。
37歳の時より若い姿なのがイマイチよく分かんないけど、目の前にいる幽霊は間違いなく母さんだ。
そういや母さんは学生時代、合気道の達人だったらしい。
それでさっきあんな早技を・・・。
「やっと気付いてくれたわね。翔琉。」
「母さん・・・俺、おれぇ・・・。」
翔琉は途端にぐしゃぐしゃになって泣きじゃくり始めた。
「ばかね、男の子でしょう?メソメソしないの。」
「だって、だってさぁ・・・。」
頭を再度撫でられる。今度は先程より少し強めの力だ。
「全くもう・・・一人暮らし始めたって聞いてあなたを心配して来てみれば。
藁人形置いてあるわ、エロ本読んでるわ、幽霊をナンパして襲おうとするわ・・・本当に困った子ねぇ。」
撫でていた手を止め、頰に手を当てながら言う。
「う・・・それは・・・。ん?ってことは呪いに引き寄せられたっていうのは嘘?」
「そうよ。」
「てか、何で若い頃の姿なの?」
「さぁ・・・?私にも分からないわ。死んですぐにあなたを産んだ歳と同じ姿になっていたの。」
「そっか・・・。」
なんか、それを聞いて妙に納得してしまったな。
「母さん、あなたを立派な男にしなきゃ成仏できないわ。」
「え?」
「だから、これからあなたを鍛えてあげるわ。
体を鍛えれば自ずと心も強くなるんだから。」
幽霊(母親)がジリジリと翔琉に近寄って来る。
「何でそうなるの!」
翔琉は後ずさる。
「母さんが成仏する為よ。」
「それを言われると何も言い返せない。」
観念したのか翔琉の動きが止まる。
「安心しなさい、合気道は武術の中でも比較的優しいわ。」
「そういう問題じゃ・・・。」
「あら、なーに?まさか母さんをずっとこの世に彷徨わせておく気かしら?」
「わ、分かったよ!やるよ!やればいいんでしょやれば!」
「やっとやる気になったわね。」
幽霊になった母さんが合気道の先生をするなんて・・・。
「さ、先が思いやられる・・・。」




