一日目 食事会 下
黙々と水を飲んでいると他のモノ達がなにを食べるのか気になってきた。チラッと見る。シャンデリア嬢は古い蝋燭を抜くと、その炎を新しい蝋燭に移し、燭台に挿す。ティーポットは頭に入れたティーバックを揺らしている。馬マスクはナイフとフォークで枯草を切り分け、合間にプロテインを飲む。理容鋏は粘っこいオイルを布に垂らし、刃を拭う。鳩時計は電池を交換し、帽子は切れ込みを補修し、毛玉を取る。スペードの3は薄くなったマークや数字をインクでなぞる。そして、ブラウン管テレビは料理などそっちのけで、ゲーム機のボタンを押している。
「今日もマンガン電池か。たまにはアルカリ電池も食べたいものだ」鳩時計が囀る。
「無駄ですわ。貴方は味の違いなんて、お分かりになられないでしょう?この前、利き電池したときも確か、鉛電池とリチウム電池をお間違えになりましたわよね。使いさしの電池と新品の電池をお間違えになりましたわよね」シャンデリア嬢は扇を広げ、クスクス嗤う。
「あのときは、調子が悪かっただけだ」
「ふふっ……、どうだか?」
「僕も最高級の絹糸が欲しいな」帽子は丸まった糸の塊を、手持ち無沙汰にこねる。
「税込み2980円の帽子に、そんなもの必要ありませんわ」
「桁が二つ違うよ!」
「後頭部を見たことがおありで?値札がぶら下がっておりますわよ」
「うう……」帽子はふてくされたように、テーブルに突っ伏す。
にぎやかな会話が途切れると、その裏に隠れた小さな音に気づく。雨の湿った音とはまた違う、乾いた音。一定間隔で響くその音を聞いていると、不思議と苛立ちが沸いてくる。
「ちょっと、そこのブラウン管テレビ。お行儀が悪いですわ」テレビは指揮棒の先端のように頭を振っていた。テーブルの下を覗いてみる。センスがない蛍光色のスニーカーがリズムを刻んでいた。
「聞こえますかしら?」聞こえてないようだ。おそらく、音声入力端子がゲーム機と接続されいるせい。
シャンデリア嬢はブラウン管テレビに歩み寄ると、アダプターを引っこ抜く。画面が不服そうに『プツン』と切れ、『信号がありません』の文字が冷たい輝きを放つ。
「なに?」テレビは心底うっとうしそうに、暗くなった顔を上げる。
「食事中にゲームをするのは、無作法ですわよ!」
ブラウン管テレビは、画面の横についた装置からカードを取り出す。カードには『テレビカード』と『¥500』の文字。寂しい余白を埋めるように、でかでかしと印字されている。
彼はテレビカードをテーブルに置くと、ずっと開かれるのを待っている銀の蓋を持ち上げた。皿には、新しいカードが載っていた。額面は300円。疑り深いネコが餌を確認するように『じっ』とカードを眺めると、それを頭に挿し込んだ。
「食事、終わった」そう言うなり、アダプターを奪い返す。シャンデリアが、諦めの溜息を吐いく。
「貴方はテレビなのでしょう。おもしろい話の一つもできないのかしら?」
「地デジ、対応してないから」端子を繋ぐと、彼は自分だけの世界に戻っていった。
「まったく、礼儀がなっていないモノですわね」
「食事の途中で、席を立つのもマナー違反だよ」帽子が呟きは無視された。
食事が終わると、シャンデリア嬢とティーカップのメイドは食堂から出て行った。男性陣も退出し、光を失った部屋に、わたしと理容鋏だけが残った。
「どう、上手くやっていけそう?」彼女はテーブルに腰掛け、長い脚を組む。ショートパンツの裂け目から魅惑的な下着が覗く。恥ずかしくなり、視線を逸らす。
「どうでしょう?」帽子は意地悪なことばかり言ってくるし、ブラウン管テレビは人とコミュニケーションをとる気がない。馬マスクは汗臭いし、クラブの3は酒臭い。怒りっぽいシャンデリア嬢も、冷たそうなティーポットも苦手だ。あと、理容鋏さんは普通に怖い。
「本当、個性的な連中ばかりで嫌になるわよね」
ご安心ください。あなたも、その一員です。そう言うかわりに、ずっと頭のなかに漂っていた疑問を切り出してみた。
「ここはどういった場所なんでしょうか」人ではないモノ達が意思と体を持って、動いたり、話したりしている。わけが分からない。
「あらっ?シャンデリアちゃんたら、怒ることに気を取られて、一番大事なことを忘れているわね」理容鋏は脚をほどき、跳ねるように立ち上がる。
「ここは異形館。間違って魂を宿してしまったモノ達が最終的に辿り着く場所、らしいわ」
聞き たいことはたくさんあった。しかし彼女は「今日は疲れたでしょう。もう寝るわ。おやすみ」と言うと、行ってしまった。きっと、説明するのが面倒くさいのだろう。
「おやすみなさい」彼女の代わりに閉じた扉と挨拶を交わし、わたしは花畑の部屋、『107号室』に戻った。




