四日目 歯車
鳩時計の部屋は、百貨店の時計売り場のようだった。ガラスケースの中には高級そうな腕時計が、ガラスケースの上にはアンティーク風の置き時計が飾られている。壁は、たくさんの丸い壁掛時計で水玉模様になっていた。
そして、なにより目を引くのは部屋の中央に設置された巨大なガラスケース。わたしの体より大きい箱の中で、見慣れた鳩時計が膝を抱えて座っている。
「恥ずかしいのかい?そりゃ、始めから終わりまでビビり散らかしてたんだから、恥ずかしいよね!」帽子はケタケタ笑いながら、ケースのガラス扉をスライドさせる。壁にもたれ掛かった鳩時計が倒れて、頭が床にぶつかった。鈍い音が響いた。
「拗ねてないで、なにか言いなよ」鳩時計は起き上がらない。動く気配もない。几帳面に時を刻んでいた秒針も、凍りついたように静止している。そして、わたしは説明書の一文を思い出す。『電気の供給を絶たないでください。遵守されない場合は……』
「秒針が……、秒針が止まってます!」わたしは叫んだ。でも、すべてが手遅れだと知っていた。
「こんなときに慌てるのは、プロ失格だよ。AEDはどこにあるんだい?」帽子は部屋を見渡す。
「そんなものありませんし、あっても無駄です。だって……」ティーポットは倒れた鳩時計の胸に、顔を当てる。
「歯車の音が、まったく聞こえないんですから」
鳩時計が壊れた。物言わぬモノになった。彼と過ごした記憶が、濁流となってわたしの頭の中を駆け巡……らない。彼と会ったのは二日前だし、早々に部屋に籠もってしまったので、なんの絡みもなかった。第一印象も、よくなかったし。
「くそっ!壊物鬼めっ!よくもっ、よくもっ!」馬マスクは本当に彼を壊した壊物鬼に対して怒っているのだろうか。ただ、心の内に充満する、どす黒い感情を爆発させたいだけではないのだろうか。わたし達がこの状況に戸惑う中、ティーポットは鳩時計の顔を膝にのせ、彼の小窓を静かに閉め、白色のハンカチを被せた。
「誰が、こんなことを……」ティーポットは消え入りそうな声で、ぽつりと呟く。
「こんな謎、2ピースのパズルを解くより簡単だよ。鳩時計を壊したのはシャンデリア嬢だね」
「本当にそうかしら?鳩時計の部屋に行くにはホールを横切る必要があるわ。でも、それが不可能なのは私と貴方がよく知っているでしょう。私達はずっと、ホールでオセロをしていたのだから。あら、これいいわね」理容鋏はガラスケースに陳列された腕時計を物色する。そして、スケルトンの腕時計を艶やかな腕に嵌めた。
「きっと、なんとかして一階に降りた後、なんとかして館の中に入って、なんとかして鳩時計を壊したんだよ」
「その『なんとかして』を埋めるのが探偵の役割じゃないかしら?」理容鋏に指摘されると、帽子は頭を横にふる。
「答えさえ合っていれば、過程なんて関係ないさ。さぁ、彼女に話を聞きに行こうよ。それで、真相がはっきりするはずさ」そう言って帽子は、鳩時計の部屋を飛び出した。




