四日目 檻
「さて、どうしましょうか」わたしは暇そうに金槌を弄る帽子に訊く。
「なんの話だい?」帽子は頭をかしげる。
「みんなが頑張ってるなかで、わたし達だけサボるわけにはいきませんよね」
「へぇー。そうなんだ。頑張ってね」彼の肩を叩く。金槌は床に落ち、鈍い音を響かせる。
言い出しっぺはわたしだ。何もしないわけにはいかない。わたしは玄関ホールにあるテーブルの一つを、二階まで運ぶことにした。見かけの割に重たく持ち上がりそうにないので、引きずりながら階段を上った。あまりの重さに振り回され、壁にガンガンぶつけたので、あちこち傷だらけだ。
「もう休憩かい。こんなもんじゃ足らないよ」重厚な両開きの扉の前に、小さなテーブルが一台。門番を任すには頼りない。
「そう思うなら、帽子さんも手伝ってください」
「ヤダね。肉体労働は性に合わないんだ」バルコニーの手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせている。突き落としてやろうか、と思った。もちろん、実行はしない。
「それに、僕はただ怠けてるわけじゃないんだよ」
「どこからどう見ても、怠けてるようにしか見えませんが」
「僕はお嬢を監視しているのさ。みんなが、せせこましくバリケードを築いてる間に、彼女が逃げ出してしまうかもしれないからね」まともな言い訳だったので、驚く。
「でも、君もたいした偽善物だね。炎が消えればお嬢は壊れる。そして、蝋燭は厨房の冷蔵庫から出てくる。その意味を理解できないほど、君は愚かじゃないはずだよ」
そう。炎が燃え続ける限り蝋燭は短くなっていき、いつか炎は消える。彼女は誰かに手を掛けられることもなく、一人で壊れる。そうなれば、誰も罪を背負わないでいい。
「悪いですか?」
「いいや。罪悪感を薄めることは、精神衛生に必要だよ。特に、君みたいなメンヘラちゃんにとってはね」
わたしは帽子の足を蹴った。ズボンに靴の跡がのこる。
「なにするんだよ!」
「前にも言いましたよね。わたしはメンヘラじゃありません!」帽子の頭を叩いた。彼の頭はへっこんだ。争っていると、まず馬マスクが、しばらくしてティーポットが戻って来た。
「遅かったね。どこで油を売ってたんだい?」何もしてないお前が言えるセリフじゃないだろ、と思う。
「釘が食堂に置きっぱなしなのを忘れて、ずっとギャラリーを探してたんです」
「ほんと鈍くさいね」帽子が言った。わたしは、なんとなしに帽子を叩く。
「さっきから、僕の扱いが酷いよ!」
「じゃあ、そのテーブルをどけてくれ。これじゃあ、板が打てない」馬マスクが言った。
「はい……」わたしは苦労して持ってきたテーブルを動かした。
「これでよし!」馬マスクはテーブルの上に重たそうなチェストを乗せると、バリケードの完成を祝うように、『ぱん』と手を打った。ほとんどの作業は馬マスクとティーポットがやった。わたしは彼らが作業をする横でやることが見つからず、オロオロとしていた。
でも、家具の位置をずらしたり、元の位置に戻したりしていたので、終止だらけていた帽子と違って、やってる感は出ていたはずだ。シャンデリア嬢の部屋の扉は、渡された4枚の板と積み上げられた家具によって、完全に封じられている。扉は数ミリたりとも開けないはずだ。
「みんな、よく頑張った!」馬マスクの額から汗が噴きでる。
「あぁ……、ほんとうに疲れたよ」ティーポットも注ぎ口から黒色の滴を垂らした。彼女はメイド服の袖でそれを拭う。焙煎されたコーヒーのにおいがした。
「お疲れ様です」
「皆のモノ、ご苦労だった。褒めて遣わすよ」偉ぶる帽子を素通りして、わたし達は階段を下りた。




