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三日目 発見

 悲鳴を聞きつけたのだろう。玄関ホールのバルコニーの上に、慌てふためくシャンデリア嬢と、凜々しい立ち姿を崩さないティーポットが見えた。


「馬マスクの声だったわよね。どこにいるか、分かるかしら」理容鋏がうきうきした声で尋ねると、ティーポットが答える。


「おそらく浴場かと。馬マスク様はジョギングの後、入浴されるますので」彼女の堅苦しい言葉遣いに違和感を感じるが、シャンデリア嬢の前ではこのキャラで通していることを思い出す。徹底しているな、と感心する。


 わたし達は階段を上って『浴場(男)』と書かれたキャンバスの前に来た。スペードの3は扉を開け、中に入る。わたしも後に続こうとするが、帽子が『バッ』と両手を広げ、立ち塞がる。


「ここから先は、女人禁制だよ」


「邪魔よ」


「ギャッ!」帽子は理容鋏が押し倒される。そして、わたし達は脱衣所に入る。


 先頭を歩くスペードの3が、曇りガラスの扉をスライドさせると、浴室の中央に立つ人影が見えた。よく見ると、人影は馬マスクだった。富士山の絵をバックに、全裸の馬マスクが立っている。鍛え上げられた胸筋は張ち切れそうで、腹筋の彫りは渓谷のように深い。そして、さすが『馬』なだけあって、その逸物は太く、長く、雄々しくあった。


「キャャァァァァアアアアア!」シャンデリアが悲鳴を上げる。


「汚い、キタナイ、穢れるわ!」そして、扇を広げて盾のように掲げる。そこでよやく、馬マスクはこの場にいる全員に裸を見られていることに気づく。恥ずかしそうに足を組み、股間を隠す。


「ユリちゃん、そんなまじまじと見ないでくれ。どうせ見るなら、筋肉にしてくれ」


「すみません」馬マスクのソレから視線を逸らす。彼はスペードの3からバスタオルを受け取り、腰に巻きつける。


「そんなことよりアレを見てくれ!」馬マスクはわたし達との距離を測り損ねたみたいに、大声を張り上げる。 


「そんな不潔なもの、見たかないわよ!」シャンデリアが叫ぶ。


「大変なんだ!大変なことが起きているんだ!」馬マスクが指差す先には、水の張られた浴槽。その水面に大量のゴミが浮いてる。ゴミの大きさは不揃いだが、いずれもプラスチックの破片のようだ。ドアのレールを跨いで浴室に入る。たくさんの四角い箱が、浴槽の底に沈んでいた。


「なんでしょう、これ……?」まるで、ゴミ捨て場だ。薄型テレビ、液晶テレビ、プラズマテレビ、有機ELテレビ。いろんなテレビが溺れている。


 そして気づいてしまった。ひときわ大きなブラウン管テレビ。その筐体に体と四肢がついていることに。

  

「どいて!」ティーポットが彼の顔を掴む。


「手伝うぞ、熱っ、痛っ!」馬マスクは彼に触れると、火傷したように手を引っ込める。


 ティーポットの力では、ブラウン管テレビを引き上げるのは難しいらしく、彼の体は動かない。だが、頭は動いた。彼の首が捥げたのだ。コードが千切れ、電子基板が散らばる。彼女は胸に抱いたブラウン管テレビを見ると、現実を拒むみたいにそれを投げ捨てる。


「アッ、アァ……、イヤァァァァァアアア!」澄んだ悲鳴。脱力して倒れそうになるティーポットを、馬マスクが抱きとめる。ポットの穴から淡い紅茶が、感情のように溢れた。


「そんなアホな……」スペードの3が呟く。


「嘘……、こんな……」言葉の続きが出てこなかった。


「なにが起こっているのか、教えて頂きたいですわね」シャンデリアが言う。


「そうだ、説明しろ」鳩時計も言う。


「いや……、そんなところに突っ立ってないで、入って来てくださいよ……」わたしの声は掠れていた。


「風呂場は嫌いですわ。水が掛かったら、炎が消えてしまうでしょう?」


「俺様が水没したら、どう責任を取るつもりだ」彼らの我が身かわいさを理解する。


「……壊れてるんです」わたしは答えた。声に出してようやく、事の重大さが分かり始めた。


「どういうことだ?」鳩時計は顔をひねる。


「ブラウン管テレビが壊れているんです」それから、わたし達は言葉を失った。雨の音が、いつもより大きく感じた。

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