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二日目 紅茶

「もう一回、紅茶汲んでくるね」ティーポットが再び『サロン』から出て行ったところで、理容鋏は洗面台の引き出しを開く。彼女の手には黒色のボトルが握られている。


「なんです、それ?」


「ワックスよ。せっかく整えた葉っぱを、またグシャグシャにされたくないでしょう?」彼女は手のひらに、泡を広げる。


「枯れるほうが嫌に決まってます」


「植物由来のものだから安心よ」怪しい。ボトルを奪い取って、ラベルを確認する。


「息するみたいに嘘つくの、やめてもらえます?」


「ばれちゃった?」理容鋏は肩をすくめると、手に取ったワックスをシャワー台で洗い流す。


「手入れはしっかりしなさいよ。後で泣きをみるんだから」


「どうせ、あと半年くらいで枯れちゃうと思うんで」


「花の命は儚いのね。枯れて散るそのときまで、人生を愉しみなさい」理容鋏は蛇口を止める。そして、「ああ、私達は人じゃないわね」と付け加える。


 物思いにふけていると、ティーポットが戻って来た。ティーカップには、縁のぎりぎりまで紅茶が注がれている。彼女は波を立てないように、ゆっくり、ゆっくり、歩を進め、自信満々にカップを差し出した。


「さぁ、どうぞ。召し上がれ」カップを顔に近づけると、ほんのり甘い香り。さっそく、根っこを紅茶に浸す。


「うっ……」


「どう?」根から吸い上げた液体は、ただ苦いだけの液体だった。呼吸を止めて、ひと思いに吸い上げる。


「苦い」正直な感想を伝えた。彼女は落ち込む代わりに、メイド服のポケットから牛乳パックを取り出した。


「いきなりアッサムのストレートは渋すぎたか。ミルク入れる?」


「うん、お願い」ティーポットは自らの頭の天頂部にある蓋を取り、牛乳を注ぎ入れ、蓋を閉じる。そして激しいヘッドバンディングで紅茶とミルクを撹拌する。彼女が頭を傾けると、泥みたいな液体が『わたし』のカップを満たす。わたしはそれに根を浸す。


「おいしい」甘くて、濃厚で、色もいい。肥沃な土壌みたいな見た目が、食欲をそそる。草食獣の母乳を植物の私が飲むと思うと、背徳めいた気分になった。


「よかった。また、ワタシのお茶を飲んでもらえる日が来るなんて思いもしなかった」よほど嬉しかったのだろう。ポットの中で茶葉が踊る。彼女の手足も悶えている。あと、理容鋏が物欲しげに見つめてくる。


「でも、なんで美味しいって感じるんだろ?」水や肥料なら、まだ分かる。どちらも『わたし』に必要なものだ。でも、紅茶は違う。植物のわたしに、そんなもの要らないはず。


「モノは持ち主に似るのよ」理容鋏の言い方は、いつになく真剣だった。


「どういうことです?」だが、彼女がなにを言いたいのか分からない。


「私達の服装、性格、性癖、趣向……。なにもかも『持ち主』からの影響を受けてるらしいわ。ユリちゃんの持ち主はどんな人だったの?」

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