疑念の配置
薄暗い部屋の中、机の上の小さなランプだけが灯りを放っていた。灯りに照らされた机の上には色とりどりの薬剤が置かれ、使用用途の分からない実験器具が乱雑に散らばっていた。
そんな部屋で一人机の前の椅子に座り、ローズマリーは考え込む。
「……想定より早い展開、ですが支障はありません」
昼間の灼熱はどこに行ったのか、今は静まり返り寒気のするような寒さだった。
手元に情報はなく、書簡も書類も何も無い。けれど手の内には既に十分な程の情報が揃っていた。
評議会は監査を決定した。
王族は非公式に探りを入れた。
ススピロ家は動けない。
「三者とも互いに互いを疑い、的だと確信している。そのための疑う理由も十分」
背後で、無礼にも椅子の背に腰掛ける気配がした。
「それって成功ってこと?ローズ」
「それは定義によります」
ウェルウィッチアは足をぶらぶらと揺らしながら、あまり深刻そうにもせず笑った。
「ススピロ家可哀想じゃない?」
「同情や感情は評価軸には影響しません」
「わお、即答!」
ローズマリーはそれを気にせず、始めた実験の結果を眺めていた。目の前には枯れ、萎んでいた様子のホヴィはどこにもなく、艶々とした花弁にエネルギーに満ち輝く、正しく黄金の花があった。
「彼らは選択を誤ったわけではありません、愚かではないですから。ただ…“正しい選択をする余地”を失っただけです」
それは淡々とした事実の列挙だった。そこに怒りも、嘲笑もない。無感情なローズマリーの評価だけが表されていた。
「評議会は権力を誇示したい」
「王族は民の責任から逃れたい」
「ススピロ家は家門を守ろうとしている」
ローズマリーは小さく息を吐く。
「三者の利害は、もう二度と噛み合いません。敵対を止めることもできないでしょうね」
「へえ。じゃあ次は?」
問いかけに、ようやくローズマリーは振り返った。その瞳には、ほんのわずかに興味の色が宿っている。未来の話というのはいつでも心躍るものだ。退屈を和らげるとんでもない予測不能事態が起こるかもしれない。
「次は事件が起こるでしょうね、三者の溝がより深くなるような」
「誰がやるの?」
「誰でも関係はありません、重要なのは__」
先生が生徒に教えを解くように、ローズマリーは言った。
「誰の責任に見えるか、ですよ」
その言葉にきょとん、とした表情を見せるウェルウィッチアは少ししてから楽しそうに笑った。
彼はいつも楽しそうに見えるが、いつもの笑みとは違っていた。
「ローズ、君ってほんと世界が壊れるって言うのに、今までで一番楽しそうな顔をするんだね!」
「おや、笑っていました?」
「んーん、でも僕にはわかる」
にやにやとした笑み、そしてその言葉に今度は彼女がキョトンとする側だった。
他人に理解されたように振る舞われるのは腹立たしいが、きっと彼のことだ何かを感じ取ったのだろう。昔から妖精のようだ。好奇心旺盛でイタズラ好き、このたまにするにやにやした笑みもそっくりだ。無性に腹が立ってくる。
「さ、そんなに暇そうなら仕事をしてもらいましょうか」
「え、もう!」
「ええ暇なんでしょう?」
「この間終わらせたばっかりだってー!」
「大きな声で叫ばないでください、黄金花祭まであと一週間ですよ」
はぁーい、と一気に元気を無くした彼に気分が良くなる。こういう所は自分もまだ子供だと実感する。
欲しいものは手に入れる、知りたいことは解き明かす。依頼された花の件はもう既に解決している。あとは様子を見るだけ。
外を写す窓に目を向ければそこにあるのは太陽の沈んだ闇だけ。砂漠は静まり返っている。
さあ、次は何が起こりますかね。彼女はそういった。
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