緊急会合
「……落ち着け」
キスタンテの声は短く小さかったが、その声は部屋のもの達に届いたらしい。議題内容に驚きの声を上げていた彼らにそう告げ、少しばかり落ち着きを取り戻したことを確認し続けて告げる。
「評議会の監査は形式上のものだ、あちらも強くは出れない」
「しかしホヴィの件が話題に上がったのは事実でしょう!もはや王族が嗅ぎつけたとなれば言い逃れはできません!」
一人の傍系当主が声をあげる。机を叩くその動作に文句をつけるものはいなかった。
空気が張り詰める。
「問題なのは順序だ」
「評議会が最初にこの件を嗅ぎつけ、次に王族までもが気づいたこの流れは不自然だ」
「誰かが情報を流したと?」
「少なくとも意図的であることは間違いないだろうが、おそらくは評議会の連中だ。我々と王族を対立関係に追い込むつもりなのは目に見えている」
沈黙が落ちる。
「だが、それだけではないだろうな」
ここにいる誰もが考えていること___敵が外にいるとは限らない。
厄介なのは政治の場においては事実であるかは重要ではなく、そう見えることが重要だということ。そのように見えてしまえば、理由を与えてしまう。事実などあとからいくらでもねじ曲げられる。
「評議会は疑念を理由に、王族は我々の行動を理由に疑う。そのどちらにも我々は強く出られない」
彼らにススピロ家を攻める理由を与えてはならない。
誰かが低く呟いた。
「……挟み撃ちですか」
「いいや、これは包囲だな。逃げ道を潰し、逃れようともがけばもがくほど、動けば動くほど罪に見える」
政治が苦手なエルムレスにもこれが分かってしまった。わかってしまったからこそ、この重要性が身に染みる。
「当面の方針を決める」
部屋全体を見渡し、キスタンテは告げる。
「評議会には協力的な姿勢を見せる」
「王族にも、同様に」
「そして___」
一瞬、言葉を切る。
「これ以上情報を持つものを増やすな、内部からの情報漏洩の可能性を否定できない」
その言葉には、その場にいた誰もが否定しなかった。ススピロ家が追い込まれている。何世紀にも渡り、頂点に君臨していた我らがススピロ家が。
その事実が、みなを疑心暗鬼に陥らせている。
誰だこんな盤面に追い込んだのは、深く椅子に腰掛けながら天井を見上げ一人キスタンテはそう思った。
答えは出ない、追い込まれている。
ふと隣を見れば自分の息子のマルビーリャは顔色を悪くし、娘のロシータはそれを心配そうに見つめているが、ロシータも顔色が悪い。
子供にはまだ早い場だったか、だがいずれこの家を継ぐものとしていい経験になるのは間違いないだろう。
「今日はここまでだ、マルビーリャ、ロシータ着いてきなさい」
「はい、父上」
「…はい」
キスタンテ様が顔色の悪いご子息のマルビーリャ様とご息女のロシータお嬢様を連れ、会議室を出た直後、侍従やメイドにススピロ家傍系の当主たちが口々になんてことだと不満を言い出した。その様子をかべ際で控えながら見ていたエルムレスは密かにため息を着く。
エルムレスは政治の場が苦手だった。何を考えているかも分からない相手に粗相のないように、かつなんの情報も与えてはいけない。そんな言葉の探り合いが得意でなかった、それは自分が誰よりもわかっていることだ。
だが、そんな自分でも事の重大さはわかる。
「一体どういうことだ、評議会の連中は何を考えている!」
「王族もだ、アデニウム王はご乱心されているのか。このようなことは今まで無かった」
「まさかあの件がバレたのでは……」
机に置かれていた書類は回収されたものの、そこに記された内容は到底頭の中から消えるものではない。議題は二つ、「評議会からの監査通知」「アデニウム王からの非公式な問い合わせ」。
思わずついた溜息が心を沈ませた。




