魔力溜り
「あ!見て見てローズ!川だよ!砂漠なのに果トの村は水辺が多いよね」
「ええ、おそらくですがこの村には世界樹の根の一部が通っています。その根から漏れ出た魔力がこの地を潤しているのでしょう」
「やっぱり砂漠は光が強いから水面も綺麗だ!」
「あれは!?」
「ただの畑ですよ」
「ねえ、これ他のやつと様子が違うけど、元々そういう植物なの?葉っぱが黄色だし全体的にパリパリしてる!」
「ああそれは肥料焼けしているんでしょう、土壌中の肥料濃度が高くなりすぎているんですよ」
あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
この男の行動範囲は定まらない、まるで子供のようだとウェルウィッチアとはそれなりに付き合いのあるローズマリーは考える。
屈んでいる彼に合わせて自分もしゃがみ、頬杖をつく。予想のつかない物事は好きだ。この世の大半のことは未来が予想出来てしまって実につまらない。
「貴方、私より一回りも年上なのに、まるで子供のようですね」
「ん?そう見える?」
「子供っぽくて我慢ができない、幼稚です。これではどちらが保護者か分かりません」
「ははは!そりゃあローズ、君に比べたらこの世界の殆どは幼稚だろうさ」
あ、あれも気になる!そう言って走り去っていく姿を見つめる。
今回の仕事にウィチアが必要でなかったらもうすでに置いていったものを、今回ばかりは一人でするにはあまりに大がかりな仕事であるから置いていくわけにはいかない。
もう少し遊ばせたら帰ろう。
そう思い彼を観察するものの、そろそろ飽きが来た。暇潰しがてら腰のポーチから先ほど渡された箱を取り出し、蓋を開ける。中に入っているホヴィは様子が変わる事なく、少量の金も変化はない。
気まぐれにホヴィを取り出し先ほどの川辺で、ホヴィを水に浸す。この川は他の川よりも魔力濃度が高い、その水に枯れたこれを浸ければどうなるのか。
ひんやりと砂漠の熱で熱せられた体に、冷たい水が気持ちいい。
ホヴィに変化はなかった。当然と言えば当然だ、枯れたものにこれ以上の変化があるはずが無いのだから。ただ少し、何か予想と違ったことが起こればいいと思っただけで、期待していたわけでもない。
「…ウィチア、帰りますよ。宿に帰る時にはもう夜になってしまいますから」
「はーい、宿はどっちだっけ?」
「……いいえ、気が変わりました、少し寄り道をしましょう。どうせ三日後は“|黄金の花都”に向けて発つのですから、夜遅くなっても問題ありませんしね」
川を辿っていけばこの水の魔力の源である世界樹の根に辿り着くだろう。
この中流でも魔力濃度が高いなら、上流はもっと上質な魔力を含んでいるはず、実験に使えそうだ。
「寄り道?いいね!また面白そうなこと見つけたの、ローズ?」
「個人的な研究に使えそうな材料を取りに行くだけですよ」
「えー、でも依頼のほうは?」
「それならもう目処が立っています、行きますよウィチア」
村の外れに向かって歩みを進める、その途中で果トの村は水に恵まれているがその恩恵は均等では無い事を知る。
立ち止まって地面の砂を掬えば乾いているようで奥が湿っている。魔力を含んだ水が不自然な偏りを生んでいる証拠だろう。
「さ、着きましたよ」
「この根でっかーい!」
五メートルほどはあるだろう高さの根が地面から剥き出しになっている。
そこの近くの川の水をボトルで掬う、これで目的は達成した。
ボトルの中で水が揺れる。水を掬う前には気づかなかったが、透明な水の奥に不自然な水を帯びているのが見える。
「…やはり濃いですね」
ボトルを目の前まで持ち上げもう一度じっくりと見る。
世界樹の根のすぐそば、ここでは中流の川とは違い魔力が流れているというよりも停滞しているといった方がいいでしょう。
「ねえローズ、それただの水かい?」
「おや、勘いいですね。いいえこれは水の形をとっているだけの魔力の溜まり場に過ぎません」
「じゃあそれ飲んだらどうなるの?」
「自殺願望がない限りはやめた方がいいでしょう。私たち人類は魔族のように体の中に魔力器官を持っていませんから、溜め込まれた魔力を魔法という形で排出できません」
そう言ってキャップを閉めポーチに仕舞う。
「つまり死んじゃうってことだ?僕たち人類にとってはとんでも無い劇薬だね」
彼の声に驚きはなく、重要性を理解していない、どこまでも無邪気な子供のような声だったがウェルウィッチアは楽しげに笑っていた。
「さて戻りましょうか、これ以上ここに留まる理由はありませんから」
村へと引き返す。
背後で木が風で軋む様な音がしていた。




