果トの村
____ホヴィ砂漠 西部 果トの村
果実と種子の保存・加工を生業とする一族”果ト”が取り仕切る集落。
決して治安がいいとは言えないそこは百にも満たない少数人が住む小規模の集落だが、ホヴィ砂漠の西部には果トと同じように「狩り」や「農耕」を生業とする一族が数多く存在するため、昼間の市場は常に人が絶えず賑わっていた。
狩猟の”巡ナ”、農耕の”ラ継”など多様な一族の者が酒場で情報収集をし、出店の店主と値切り交渉している。
傭兵の屈強な男たち。風俗店のバルコニーから人の群れを見下ろす女たち。その女に見惚れている幼いとも言える年齢の男子。何も買わずに去っていく客に舌打ちする出店の女店主。
その人の群れの間をくぐり抜け足早に去っていく小さな影がひとつ、身長は市場集っている男子たちと変わらないくらいだ。
風に吹かれるローブを抑える手、垣間見える靴の大きさ、大人とは言えずとも子供と言うほど幼くもない年齢の少女だろう。
少女は誰にも気づかれることなく市場の中央を通りすぎ人気の少ない路地裏へと入り込んで行った。
表通りは華やかでも一歩裏に入れば貧困層の悲惨な現状が剥き出しなのはどこでも変わらない。
彼女が迷いなく進んで行く道の途中にも、元々奴隷でどこかから逃げ出してきたのだろう男が行き倒れていた。
鼻につくアンモニアと血の匂い、ハエが集っている様子からしても死後二週間は経過しているのだろう。少しくらい反応を示してもいいだろうに、彼女はそんな様子を気に止めることもなく、一瞥もせずにその場を通り過ぎてしまった。
十分ほど足を止めることなく入り組んだ路地裏を歩き回った少女は、ようやく小さなバーの前で足を止めた。
三等地の外れ。周囲には崩れかけたあばら家や、扉もなく中が薄暗い料理店ばかりが並ぶ通りで、その小さなバーは明らかに浮いていた。
木製の扉にその横で静かに揺れるランプ、壁に掛けられた簡素なBARの文字、そして何より周囲と比べてこの建物だけが妙にしっかりしていた。
少女が扉の取っ手に手を掛け、開けようとした瞬間。突然内側から、つまりバーの中から扉が乱雑に開けられた。
現れたのは柔らかそうな赤褐色の髪を三つ編みで纏めた男で、まるで劇でも演じているかのように大袈裟な動きで彼女の手を取りバーの中に迎え入れた。
「久しぶりだ、ローズマリー!一年?二年?何年ぶりだろう!まあそんなことは置いといて、腹心の友よ!そう私こそ、君のウェルウィッチアだ!!」
奇想天外、風変わり、奇天烈、突拍子もない、そんな言葉の羅列がこの男ほど似合う者もいないだろう。
そんな思考を感じ取ったのか、はたまた全く別の要因故か目の前の男はチェシャ猫のように笑っていた。
「……貴方がホヴィ砂漠に向かってからたった二ヶ月しか経っていませんよ、ウィチア」
「そうだっけ?まあまあ、いいじゃないか。僕たちの感動の再会に乾杯!!」
余程機嫌がいいらしい。果トの村に送り出す前は行きたくないと駄々をこねていたので、頑固なところがあるこの男が未だに引きずっている可能性も考慮していたのだが、その心配は必要なかったようだとローズマリーはひとり安堵する。面倒なご機嫌取りが無くなった。
しかし、この男は機嫌が良すぎる時は良すぎるときで面倒だ。
「貴殿がローズマリー殿か」
肩から約一メートル程の剣をぶら下げた屈強な男、日に焼けた肌に刻まれた古傷の数々が、彼がただの用心棒ではないことを雄弁に物語っている。
酒場の薄暗がりの中でも、その存在感だけは際立っていた。
「ええ、そうです。あなたはホヴィ砂漠を実質的に支配している大富豪ススピロ家の傭兵長、エルムレスさんですね」
お噂はかねがね、お会いできて光栄です。
ローズマリーは作り物じみた綺麗な笑みを浮かべながら、砂漠には似つかわしくない細く白い手を差し出した。エルムレスはじっとその手を見つめた後、短く息を吐き、渋々といった様子で手を取った。
「そう呼ばれているが肩書きに意味はない。実際は、俺に力はなく形だけの均衡を保っているに過ぎん」
その言葉に、ローズマリーはわずかに口角を上げた。均衡。それはこの地で最も脆く、最も価値のあるものだ。
「あなたの言うその均衡が、最近少し揺らいでいると聞きました。」
「……誰から聞いた。砂漠の外から来た者が知り得る情報では無いはずだが」
「さあ……市場の噂、酒場の独り言、夜風に紛れた愚痴。まあつまり、色々です。人の口に戸は立てられませんから」
ローズマリーはそう言って、ウェルウィッチアが座っていた椅子の隣に腰を下ろした。
ウェルウィッチアは二人の間に漂う緊張を楽しむように、にやにやと笑いながら酒を注いでいる。
「評議会の重鎮の爺が一人殺された。一ヶ月ほど前のことだ」
しばしの沈黙の後、エルムレスは視線をローズマリーから逸らすことなく言った。
「この砂漠の王族は権力を持たない形骸化した集団に過ぎない。疑いの目が向けられるのは自然とススピロ家になる」
「それはそれは、犯人は捕まったのですか?」
「ああ、其奴に協力してもらってな。犯人は捕まった」
「へえ、ウィチア、貴方が?」
「そ!ちょーと頑張った!!」
エルムレスの後ろに控えていた数人の部下はその言葉を聞き、憂鬱な雰囲気を漂わせていた。この事件のせいでススピロ家と評議会の関係は悪化、いつ後ろから刺されるか分からない状態が続いているのだ。
「その事件でこの砂漠の均衡が崩れかけていると?ですが、双方の関係は元から良くなかったでしょう」
「ああ、原因はそれだけじゃない。重要なのはもうひとつの方だ。貴殿を秘密裏にここに呼んだのもこちらの用事だ」
ひと呼吸おいてエルムレスは部下に声をかけ、木製の小さな箱を持ってこさせた。それを机の上に置き蓋を開けると、中にあったのは枯れた花と少量の黄金だった。
「これはススピロ家の所有するホヴィの一部だ」
「ふーん、でもこれ枯れてない?可笑しいよ」
「……そうだ、これが二つ目の原因、枯れるはずのないホヴィが二ヶ月ほど前から急に枯れ始めた。もう既に現存する花の七割程度がこの状態だ」
ホヴィは枯れない。これが砂漠での常識だ。開花した後は一週間程度で巻き戻るように蕾になる。そしてまた開花のときを待つのがホヴィだ。
故にこの状態は異様という他ない。ホヴィ砂漠はホヴィの金によって栄えた土地であり、大陸で強い権力を有してきたのも無くなることのないホヴィという収入源があったからこそ。
「……ススピロ家の研究員ではこの問題を解決するのは無理がある。かと言って世界樹学環に頼ることはできない」
「頼ってしまえば必然的に大陸の国々にホヴィの問題を知らしめることになる。そうなればこの砂漠は終わりですね」
「……ローズマリー殿、貴殿はその若さでありながらあの学舎で最も優秀な学者だったと聞いた。現在は学舎と縁を切ったとも」
話を進めていくにつれてエルムレスの口は次第に重くなり、言葉を選ぶような沈黙が増えていった。
「ええ、その通りです」
「じゃ、君たちはローズにホヴィの謎を解いて解決することを依頼したい!つまりそういうこと?」
「…ああ」
その瞬間、手をパンとウェルウィッチアは叩いた。
「決まりだね!お祝いしなくちゃ!!」
「ウィチア、勝手に決めないでください」
「いいじゃないか。どうせ元々この依頼を受けるつもりだったんだろう?」
お祝いだ!お酒飲もうよというウェルウィッチアをローズマリーは押しのけながら「私はお酒を飲める年齢じゃありませんよ」なんて会話を交わしていた。
「で、ではこの依頼を受けてくれると?」
「ええ、仕方がありません」
「感謝する!この恩は忘れない、報酬も勿論出す」
「じゃあ改めて自己紹介だ!私はウェルウィッチア、この名前は気に入ってるんだ!長いからって省略しないでね!こっちはローズ!」
「ローズマリーです、どうぞお好きなように呼んでください」
ああ、それとその箱の中身よく見させてもらっても?そう言ってローズマリーは体を傾けた。
「ホヴィは七年に一度咲く花であり、開花時には少量の金を合成排出するため黄金の花とも言われています」
この街の権力者である富豪はホヴィの所有権を主張し続け、評議会もその権利を欲しがっている。この砂漠周辺を治めている王族はススピロ家に逆らえない。
「まあ、私はこの黄金に興味がある訳ではありません。生命エネルギー学的観点から見たホヴィの価値には興味がありますが」
ここで少し授業をしましょうか、そう言ってローズマリーはエルムレスを見上げた。
「生命エネルギー学の一説によると、この世の動植物には皆一定のエネルギーを有しているそうです。それは人間でも鼠でも変わらない」
「不思議だよね〜!身体の大きさは全く違うのに持っているエネルギー量も消費するエネルギー量も変わらないなんて」
「ええ、ですがこのホヴィという花に関してはその説が立証されず、凡そ十六倍程のエネルギーがこのホヴィ一つ一つに結集しているのです。有り余ったエネルギーを黄金に変えているのか、黄金という形でしか外へ放出できない溜め込まれた“歪み”なのか。その点はいまだ結論が出ていません」
ローズマリーは目の前にあるホヴィが創り出した黄金を眺めながら口を閉じることなく説明を続ける。
「生命エネルギーは、本来循環するものです。芽吹き、育ち、枯れ、土へ還る。しかしホヴィは、その循環から外れている。溜め込みすぎた結果、開花という一瞬に——」
「パーン!!っていう感じで全部出ちゃうんだ?」
ウェルウィッチアが大きな声を張り上げた。
「ええ。黄金として」
ローズマリーはウェルウィッチアの方に顔を向け少しだけ微笑んだ。
ホヴィ。それは富であり、祝福であり、同時に大きな争いを産む火種でもある。
「これ、一旦預からせていただいても?」
「ああ、構わないが」
「持って帰って調べてみます。ああそうだ、一度ススピロ家の花畑のほうも見てみたいのですが」
「……二週間後首都”黄金の花都”で黄金花祭がある。その時期なら一般人でも見ることができるだろう」
「分かりました、ではまた二週間後。そうですね…フィオ川の大橋の下で落ち合いましょう」
箱を手に取り腰につけていたポーチの中に手早く仕舞うと椅子から立ち上がり、出口に向かう。それを焦った様子で追いかけるウェルウィッチア、その二人をエルムレスは追いかけることもせず見ていた。
「分かっているとは思うが、この件は他言無用だ。言えばすぐ分かる」
「肝に銘じておく事にしましょう。心配する必要はありませんが、では」
「待ってよローズ!!置いてかないでって〜!」
二人がいなくなったことで無意識に張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう、エルムレスは疲労感を感じバーに置いてあったソファーに座り体をあずけた。
背後に控えていた部下に巡回をするよう促し、バーテンダーの居ない空間であの男と知り合えたのは幸運だった、と独り言ちる。
ウェルウィッチアと言った男と知り合えたことであの学者の少女に繋がれたのだ、一歩ずつこの現状から回復に向かっているのを感じる。
あの男と知り合ったのは一ヶ月ほど前のことだった。
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「何…?スギナ議員が何者かに殺されただと?」
「ハッ!フィオ川の水路の石積に死体がかかっているのを早朝発見!犯人は不明、足取りは掴めておりません」
不味い。真っ先にその言葉が出てきた。私の傭兵団が活動するここはススピロ家の管轄の地だ、その場所で評議員が死体となって発見されたとなればどうなるかは火を見るより明らかだ。ただでさえ最近の政治は主人の一強ではなく、力関係がいつ逆転してもおかしくない不安定な状態だというのに。思わず苛立ちが抑えられない。
「死体の身元は確定しているのだな」
「ハッ、間違いありません。心臓部に刺し傷があり、水死体にしてはあまりに綺麗なことからも溺死などではなく、殺されてから川に運び込まれたのかと。死んでから時間は然程経っておりません」
「そうか、調査に戻れ。何かあればすぐに知らせるように、私はキスタンテ様に報告に行く」
広大なススピロ家の屋敷を囲む城壁、その防衛塔のひとつに設営されている傭兵団基地。それほど大きくは無いものの、資材や武器を保管しておくには十分な広さだった。
石造りの階段を下り、敷地内に繋がる扉をひらけば、照りつける日差しの強さに今の時間帯が真昼間であることがわかる。砂に反射する陽光に目を細める。
「チッ……」
評議会の重鎮、老獪なあの男、スギナ議員がよりにもよってフィオ川で死んでいるなど、偶然で済ませられる話ではない。明らかな殺意で心臓を一突き。
屋敷の奥へと続く回廊を足早に進む。
白い石柱と華美な装飾に彩られたこの空間は、ススピロ家の富と権威の象徴だ。しかし今は、そのどれもが薄っぺらく価値の無いものに見えた。いくら壁を高くし、兵を置き、金で飾り立てようと内側から崩れるものは防げないのだと言われているようだった。
キスタンテ様の執務室の前には、常に二人の近衛が立っていた。
「入れ」
低く、重い声が中から響いた。
近衛が扉を開けると、上等な香の焚かれた室内に緊張が満ちていた。この香の匂いを嗅ぐ度に、主人の前に経つ度に、なんとも言えない緊張感が体を駆け巡る。
「キスタンテ様、報告致します、フィオ川にてスギナ議員の死体が発見されました。刺殺の後遺棄と見て間違いありません」
「……そうか、あの男が…場所が悪いな」
「……ええ」
まるで嵐の前の静けさ。キスタンテ様は頭が痛いといった様子で眉間のシワを揉んでいる。
「必ず評議会は嗅ぎつける、いやもう既に知っているだろうな」
「はっ、…疑いの目はこちらに向くかと」
「ただでさえホヴィの問題が解決しておらず、状況が悪いというのに」
ギリッと歯を噛み締める。評議会の連中に好き勝手されてしまえば砂漠の民が困窮するのは目に見えている。
「エルムレス。傭兵団を動かせ、ただし評議会に餌を与えるような真似はするな」
「承知しました」
一礼して執務室を後にする。
胸の奥に重たい物が沈んだ心地だ。執務室に向かっていた時の速さとは打って変わって、沈んだ気持ちを表すかのように足取りが重くなる。
「傭兵長!フィオ川の辺で怪しい男を捉えました」
「!…詳細は?」
「川のほとりを流れに沿って、何かを探すように歩いていたところを確保。年齢はおそらく二十代後半、この辺りでは見ない服装です」
「今は牢屋か、このまま向かう」
「了解です」
きっと偶然ではない。手がかりになるはずだ。そのはずなのになにか嫌な予感がする。
牢屋の前に立った瞬間、その予感は正しかったと実感する。拘束されている自覚があるのかないのか、男は牢屋内の簡素なベットに腰掛けくつろいでいた。赤褐色の髪を三つ編みにまとめ、砂漠ではまず見ない柔らかな布、顔には気味の悪い笑み。
「へえ?君がここ黄金の花都の傭兵長?随分歳いってるんだね!」
「……名を名乗れ」
「おっと!失礼失礼!礼儀を忘れるのは悪い癖だ、あの子にもいっつも言われてしまう」
男をベッドから立ち上がり大袈裟に胸を当て、芝居がかった仕草で一礼。
「私はウェルウィッチアだ、今の君たちにこれ以上言うことはないかな」
「ふざけているのか」
「まさか!礼儀は大事だ、特に名前はね!でもこれ以上情報を与えることはしない」
「貴様の身柄は私たちススピロ家の傭…」
「あ、そういうのいいから!どうせ君たちは私を解放せざるを得ない」
どこまでも軽く現状に不安を抱いている様子が見られない。その軽さがあまりに不気味で気味が悪い。こちらの思う通りに制御ができない相手はどうも苦手だ、私は人を思うままに操るような政治に向いている質ではない。
「フィオ川の周辺をうろついて一体何をしていた」
「あの川は素敵だね。水が綺麗で思わず水の反射に見とれてしまったよ!」
「質問に誠実に答えろ、もう一度その様な口を聞けば貴様の首は飛ぶと思え」
「うーん、じゃあ探し物をしていた」
私は一歩牢屋に近づいた。光の加減で目の前の男に影が落ちる。
「死体さ」
その一言で空気が凍りついた。動揺した部下たちを片手で制す。
「貴様何を言っている」
「だから言っただろう探し物だって。ああ、言っておくけど、私はあの男を殺した犯人じゃないよ。どちらかといえば被害者だ」
目の前の男は肩を竦める。
「昨日の夜ようやくこの街についてね、大橋を渡っていたら橋の上に大荷物を持った人影が見えたんだ。そしたらそいつ川に向かって荷物を落としたんだ」
「まさか犯人を…」
「見たよ?そいつはこちらに気づいて逃げてったけど、川を見たら流れてるのは人の形してるんだから予想は着くよね」
事実をただ述べているだけです、と淡々と話す男に開いた口が塞がらない。この話を簡単に信じることはできない、けれど目の前に天から手がかりが落ちてきた、そんな心地だった。
「逃げてったやつを尾行してアジトっぽいところは見つけたけど、今もいるかはわからない」
部下のひとりが声をあげる。
「傭兵長!こいつは危険です、これ以上話を聞くべきではありません!」
「まあ、待て」
自分でも驚くほど低い声が出た。
「その場所に案内しろ、全てを信じることはできないが、試してみる価値はある」
その言葉を待っていたとばかりに男は笑みを浮かべた。
そこから犯人確保まで、なんとも簡単な道のりだった。ウェルウィッチアと名乗った男の言葉に嘘はなく、犯人は中央から外れた三等地のさらに外れ。なにかに怯えるように荒屋に隠れていた犯人は存外大人しく捕まった。
結局のところ評議会の手先だったことが犯人の男の口から判明したことで、評議会の自作自演だったという結果だった。しかし評議会はそれを認めず関係は悪化の一途を辿るのみ。
「問題がひとつ解決したと思ったら、また別の問題が出てくる。ホヴィの件だって解決どころか手がかりすら見つからん」
どうしたもんかな。そう独り言を言おうとして、後ろからほかの声に遮られた。
「どうやらお困りのようだ。…いい学者を紹介しようか?」
男の黄色の瞳は、楽しげに細められていた。
その笑みを見た瞬間、思考の奥を撫でられるような不思議な感覚に陥っていた。
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外に出るとバーの薄暗がりから一転。昼の熱を帯びた風が吹き、ジリジリと肌を焼く強い陽射しが容赦なく照っている。市場の騒々しさは幾分か落ち着いたものの、それでも人の流れは絶えない。
ローズマリーは表通りに戻ると無言のまま歩を進めた。その隣でウェルウィッチアが上機嫌に腕を広げ満足気に語り出す。
「いやあ、久々に楽しい仕事になりそうだね!黄金の花に、秘密の依頼、きな臭い政治話。役者は揃ってる!」
先程までの緊張感は欠片も残っていない声で話す。
最近はずっと辺地に行っては現地調査だかなんだかでつまんなかったし!こういう仕事の方がやっぱり好き!
さっきまで会話にあまり割り込まずに黙っていた反動だ、とでも言うようにペラペラと喋りが止まることの無いウェルウィッチアをローズマリーは一瞥した。
「どうしたの?ローズ」
「……いいえ、ただ」
唇を僅かに歪めて囁くように言う。
「貴方は本当に嘘が上手だなと」
一瞬。
そして、ウェルウィッチアは声を上げて笑った。
「ハハハ!それはお互い様だろう?」
「いいえ?私は事実を述べているだけですよ」




