喫茶店と、おかしな相談。
絃
どこか不思議な雰囲気の人。 皮肉的な言葉を使うが、本心は面倒臭がりである。しかし、面倒見が良い一面も?
様々な知識を身に付けている。
アオイ
その『喫茶店』なら、ちょっとおかしな相談を聞いてくれる。
そう言われて来たお客さん。
少し切羽詰まった様な、落ち着いた様な。そんな雰囲気を漂わせている。
お客さん
アオイの母親。 特に細かい設定はない。
因みに唯一性別が固定になっている。 どちらかの方が兼役してください。(女性が好ましい…かも?)
_______________________
鈴の音が鳴った。
それ自体はよくある事だ、喫茶店なのだから客が来たのだろう。しかし、今回はそうじゃなかった。
アオイ
あっ…あの、ここは相談が出来るって、本当ですか
絃
(ため息をつく)
アオイ
私、ここでちょっとおかしなことを相談できる。って、聞いてきました。
絃
いえ、当店はそのようなサービスは行ってない筈なんだが…。
アオイ
私は相談できないんですか?
絃
貴方だからとか、そういうことじゃあない。というか、誰か何てモノは関係ないんだよ。
絃
ここは喫茶店であり、お茶をしてリラックスするような場所なのだ。
アオイ
知ってます。
絃
うん。なら、ここは相談しに来る場所では無い事を知っていて来ている訳だ。
なら、おかしなことを相談しに来るのは間違っているのは分かるよね。
アオイ
ですが、ここで相談をしたって友達に聞いたんです。
絃 そうか、おかしな話だ。僕はこの喫茶店のメニューに相談なんて書いた記憶は無いのだが…。
そりゃあ、ここは喫茶店だからね。雑談はするよ、その過程で悩みを聞くこともある。
絃
だが、おかしな相談をするとかいうのは、興味ない。帰ってくれないかい?
アオイ
なら、私がここの客になればお話しを聞いてくれますか?
コーヒーを頼めばその分だけのお話を聞いてくれるんですか?
絃
はぁ…わかった、じゃあ何か頼んでみてくれ?
迷惑な客がカウンターの席に座って、メニューを見る。
アオイ
じゃあ、アイスコーヒーをお願いいたします。
絃
それで……何について相談したいって?
アオイ
私は地獄に落ちるんですか?
アオイ
私は人を殺しました。それも、一番大事だと思っていた大切な友達を。
絃
はぁ…それなら、来るべきは喫茶店ではない。その類いの悩みなら警察にするべきだ。ということで、コーヒーを飲んだらそのまま警察署にでも行けば良い。
アオイ
それが出来ないからここに来たんです。それに、私は友達を……ユリを殺したんじゃないんです。
絃
はぁ…もう話しが矛盾したではないか。君は僕を謀っているのかい?
アオイ
そんなんじゃありません。私はユリを殺したんです。
信じてくれないかも知れないけど…私はユリを呪ったんです。
完成したアイスコーヒーを、カウンター席の前に置く。カランカランと氷がグラスに当たって音がなる。
客が届いたアイスコーヒーにフレッシュを入れ、かき混ぜてから一口飲んで話し始める。
アオイ
私が呪いをかけてから、ユリ…羽黒ユリはどんどん衰弱するように、元気が無くなっていって…
それで、死んじゃったんです。つい最近、私のせいで。
絃
呪い…現実的な方法じゃない。
絃
殺したいなら、もっと現実的な…それでこそ、君が直接手にかければ良いじゃないか。包丁でもナイフでも。ひと刺しすれば済む。
アオイ
殺したい訳じゃ無かったんです。
ただ、私は少し苦しんで欲しかっただけで。
緊張を落ち着ける為かまた、一口飲んで一息付いた。
アオイ
彼女、ユリは性格が良かった訳じゃないんです。いや、天然って言うんでしょうか…思った事をしっかり言うんです。良いことも悪いことも。
アオイ
私がコンクールに入賞した時も、「もっと上手な歌が有ったのに、どうしてアオイのを選んだんだろう」って、私が好きなものを教えた時も…「でも、それあんまり可愛くないよね」って、「もっと可愛いの有るじゃない。」って。嫌でしょう?店長さんだって、嫌でしょう?
絃
そうか、それで呪いを…うん。浅はか…浅はかとしか言えない。
絃
君が言うように、僕にもそんな人間がいた。だが、僕はそうはしなかった。何故かって?可哀想じゃないか。
アオイ
可哀想なんて、店長さん随分と他人事じゃないですか。
可哀想ついでに教えてくださいよ。
アオイ
私は地獄におちるんですか?
絃
はぁ…君は習わなかったのか?嫌なことはしてはいけないと。
アオイ わかってます。だから来たんです。ねぇ、店長さん…。
静かになった店内で、氷が溶けまたカランとなった。
アオイ
私は地獄に落ちるんですか?
絃
分かったよ。君はどうも面倒な上、強情らしい。
絃
では聞こうか。君は地獄についてどれだけ知っている?
絃
まず、地獄と言われる場所は実在している。身近な所だと、温泉だってそうだ。火山だってそう、高熱になる場所がそう呼ばれる事が多い。
君はどの地獄の事を言っている?
アオイ
死んだ人が行く地獄に決まってるじゃないですか。私はユリを…殺したと…そこから分かると思ったのですが…。
ハッハッハと声をあげて笑う。
絃
いや何、少しからかっただけだよ。
絃
それで、君は地獄に行きたいのかい?もしそうなら断言してもいい。
絃
君は地獄に行ける。
アオイ
何でそう思うと?
絃
君が言う地獄とは、仏教の地獄の事だろう。それなら簡単だ、仏教の教えを破った者が落ちる。飲酒でも、嘘をつく事でも、簡単に落ちれるさ。
アオイ
私が地獄に落ちたいと?地獄に落ちたい人が居るわけ無いじゃないですか。
絃
そうかな?例えば、君が嫌な友人。羽黒ユリに会いに行くならば、あるいは…ね。
アオイ
冗談じゃない!
声を荒げたことに気付いたのか、ハッと息を呑んだ客が続けた。
アオイ
すみません…。
絃
いや、すまない。僕も意地悪をした。
アオイ
店長さん、私。最近寝れないんです…ユリが死んでから。
私は呪われたんでしょうか?よく言うじゃないですか。人を呪わば穴二つ、呪い返しって。
アオイ
形見分けで返ってきたんです。ユリに送った物が…悪夢を見るアイテムが…。
ジーッとジッパーを開け抱えていた鞄を広げ、ナニカを取り出す。
それは、綺麗な舞灯籠だった。
アオイ
綺麗でしょ?送った時、喜んだんです。ユリ…かわいいって。
アオイ
返ってきたんです。
それから眠れなくて…。私はどうなるんですか?ユリみたいに…衰弱するんですか?
アオイ
ねぇ、私は地獄に落ちるんですか?
絃
それは君の思い過ごしだ。罪悪感から寝れないだけ…
アオイ
(遮って、捲し立てるように。)でも!でも……。ユリ…言うんです。「アオイも地獄に落ちなよ」って。
「早くおいでよ」って、「地獄においでよ」って…。
アオイ
私は悪くない。私のせいじゃない。私はただ、贈り物した…それだけなの…。死んで欲しいなんて…
絃 落ち着きなさい。
そう言うと、客は少し冷静になった様で、落ち着いてくれた。
アオイ
私は地獄に落ちるんですか?
絃
僕が知ってるわけ無いだろう。
それは、君自身が決める事だ。
絃
ただ、僕が出来る事は…。
そう言い、舞灯籠を持ち上げた。
コーヒーを淹れる時に使うアルコールランプを近付けて和紙に火をつける。
絃
簡単な事だ。気になるなら、無ければ良い。
この舞灯籠は影絵を見せる物でね。君の悪夢もそう、影絵みたいなものなんだろう。
見せる物が無ければ…和紙が無ければ影絵は見れない。
アオイ
そんな…そんな簡単なんですか?
私の悩みはそんなに簡単だったんですか?
満足したような顔で、アイスコーヒーを飲み干した。
アオイ
ありがとうございます。お陰で楽になったかもしれません。
絃
それなら良かった。
料金を精算して帰っていった。
その足取りは来たときよりも軽く、そして軽やかだった。
後日、客がやって来て言った。
お客さん
あの…この間ここのお店に来た子の母なのですが…
絃
はい。どちらの…
お客さん
回り灯籠を持ってきた…。
絃
ああ、はい。それで…。
お客さん
娘が最後に来た店なので、何があったのかって、娘が~~
(絃)
舞灯籠…別の名を、回り灯籠…または、走馬灯ともいうのだったか…。