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5 ネルのわがまま

「リリィの隣がいい。起きた時リリィの隣にいたい。夢の中でも」


夜になると、ネルはいつも私の隣で寝たいと駄々をこねた。

今日も同じ。何度か繰り返された光景だ。


「嫌よ。ぜーったい嫌」


目覚めた時にこの端正な顔が横にあったらいいな。なんて馬鹿な考えを勢いよくゴミ箱に放り投げて言い返す。


ネルが隣で寝るだなんて、死んでも嫌だ。

・・・嫌だわ。なんか、ダジャレみたいになっちゃった。


両親も、「妙齢の男女が同じ寝室で寝るのは流石に・・・」と難色を示している。

しかし、今日のネルはどうしても譲れないとばかりの表情を浮かべている。


「じゃあ、俺はここで寝る」


そう言って、ネルは枕を手に私のドアの前に座り込む。


ちょっと、これじゃあ私が部屋に入れないじゃない。


だいぶ元気になったとはいえ、ネルはまだ病み上がりの身だ。

ここで寝かせてしまって風邪でも引かれたら、再び家計に悩まされる生活に逆戻りするだろう。


かと言って、無理やりネルの部屋に返そうにも、魔法を使っているのか押しても引いても一ミリたりとも動く気配が無い。


はあ、と深いため息を吐いた私は、ある事を思いついた。


「仕方ないわね。後で絶対に返してよ」


そう言って大事にしている百合のブローチをネルに手渡す。

誕生日の日に母から貰った大切なブローチだ。


今思えば、そんな大事なブローチを簡単に明け渡した私は馬鹿だと思う。


「私の代わりだと思って我慢して」


ブローチを受け取ったネルはようやく、その重い腰を上げた。


「分かった。ありがとう」


私の頬にすり寄った時の様に、熱のある、とろけた瞳でブローチをそっと頬にあてがう。

焦がれるようなその視線に思わず頬が赤くなる。


まるで私にすり寄られているかのような気分だ。


(好きじゃない!好きになんてならないんだから!)


呪文の様に呟いたが、それは時間の問題かもしれない。


悶々と行き場のない感情を受け流すことに集中する。


「さあ、そろそろ寝なさい」


母が優しくネルを誘導していく。

今度は素直にネルはその後を追っていく。


「ああ、忘れてた」

 

大事な忘れ物をしてしまったというような表情で、私の方へ戻って来たかと思うと、その細い綺麗な指で私の右手をそっと絡め__


ちゅっと私の頬に優しくキスを落とした。


「っ、」


呼吸が止まる。

心臓が今までで一番大きく跳ねる音がした。


「おやすみ、リリィ」


満足した様子でネルが部屋へと帰っていく。

私はごしごしとキスされた頬を拭いながら、その後ろ姿を思い切り蹴ってやりたいと思い、叫んだ。


「ふざけないで!!」


クスリと小さく笑うネルの声が聞こえた。



「もう・・・これじゃあ、全然眠れないじゃない」


赤くなった頬を誰にも見られたくなくて、急いで部屋に逃げ込んだ。

ふかふかのベッドに顔を埋め、必死に先ほどの記憶を消そうと躍起になるが、忘れようとすればするほどに鮮明に記憶が蘇ってくる。

 

何とか眠ろうとするも、ぱちりと冴えた頭はなかなか眠気を返してくれない。


「・・・ネルの馬鹿」


頬に落とされた柔らかい感触が、まだ熱を持って残っている気がして、思わず手で触れてしまう。


結局眠気がやって来たのは明け方近くになってからだった。


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