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2 苦い思い出と番

さかのぼる事、一か月前___


「”番”が見つかったんだ」


結婚する予定だった幼馴染はそう言って、あっさり私との婚約を破棄した。

結婚式まであとわずかという所で。


「何ですってーー!」


余りの衝撃に思わず横転する。


あれだけ時間をかけて準備した結婚式も、着るのを楽しみにしてたウェディングドレスも準備に掛けたお金も全てが水の泡だった。


特にお金!今すぐにでも返して欲しい。せめて、ウェディングドレス代だけでも!


私は貴族だ。一応。

だけれど、その爵位は男爵と、低い。めちゃくちゃ低い。


日中は農作業に明け暮れ、夜は数人の使用人と共に、うんうん頭を捻らせながら家計簿をつけるくらいには貧乏だった。


それなのに!今になって婚約破棄!?

どれだけお金をかけたと思ってるのよ!!


思わず人目もはばからず叫んだ。

気の弱い私の幼馴染はその剣幕にたじろぎながらも、しっかりと私を見据えて力強く言葉を返した。

 

「でも、決まったことだから」


「”決まった事”ってそれだけ!?」


抗議の声を上げるが、この国は”番”至上主義。

番が見つかる事は奇跡であり、たとえ相手に婚約者がいたとしても、何の痛手も無く婚約を破棄する事が出来る。


婚約破棄はあっという間に受理された。


「”番”なんて、くそくらえよ!!」


怒りのあまり引きちぎった枕の羽毛が部屋いっぱいに溢れる中、気が済むまで叫んだ記憶は未だ忘れられない。


こうして、結婚適齢期にも関わらず婚約破棄された私は、次の嫁ぎ先も見つからないまま領地で農作業に精を出していた。


そんな私に番!?ちょっと、運命の女神様死んでない?


嫌な思い出が脳裏をよぎり、再び叫び声を上げようとしたその時、小さく青年が呻いた。



「・・・ともかく、お父さんに報告しなくちゃ」


青年の目が覚めたことを父に報告しようと部屋を出ようとした時、彼の手が私を引き留めた。

熱を帯びた細い手は見た目よりも強かった。


「行かないで」


小さく呟く彼に後ろ髪を引かれる。


傍にいてあげたい。そんな気持ちが溢れてくる。


でも、医者を呼んで診て貰わないと。


「行かないでって言われてもね・・・」


青年の手に自分の手を重ねて、なだめる様に言い聞かせた。


「すぐ戻るわ。約束する」


病人だから、優しく声をかけたけれど、内心早く行かせてくれと思っていた。

自分でも結構雑に扱っていると思うが、所詮他人だ。


それに、私たちはこの後、彼の医療費で既に痛い頭をより悩ませなければならないのだから。


寂し気に彷徨わせる彼の手を見ない振りして父の元へと向かった。


「お父さん、あの人目を覚ましたわ!早く医者を呼んであげて」


「本当か!?よしすぐ医者を___」


素早く立ち上がる父は机に脚をぶつけて派手に転んだ。

その姿を笑いながら見届け、私はすぐに青年の部屋に戻る。


本当に、本当に理解できない感覚なのだけれど、


早く会って、安心させてあげないと。


何故かその事で頭がいっぱいだった。



「しばらく療養すれば、大丈夫でしょう」


大きな山はとうに越えたと医者の言葉にほっと胸を撫で下ろす。

どうやら医者が言うには、一時は本当に危なかったらしい。


お礼に竜宮城にでも連れて行ってもらいたいくらいだ。


「しかし・・・番とはな」


父が悩まし気に言葉を吐く。


診察中、青年が私の手を取りあまりにも「番」と繰り返すので、父にも番の事がばれてしまった。

 

「リリィ、どう思う?」


「どう思うって言われても」


彼にはきっと、帰る場所がある。それに、婚約破棄の心の傷もまだ癒えてはいなかった。

彼の衣食住にかかる費用も私たちにとっては結構な負担だ。


まあ、一番の理由はお金だけれど。


でも、心の奥底で行かないで欲しい。ここにいて欲しいと叫ぶ声が聞こえる。


本当に、厄介な事になってしまった。


まあ、それでも良いか。相手はイケメンだし!


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