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13 結界

「さあ、大忙しだぞ!」


左右別々の長靴を履きながら、慌てた様子で父が家中を走り回る。


明らかに長靴の長さが違うって、指摘した方が良いかしら?でも面白いから、そっとしておこう。


外はおどろおどろしい怪物でも住んでるんじゃないかと思うほどに暗い。

雨戸を閉めながらぽつりと呟く。


「もうすぐ嵐が来るわ」


吹きすさぶ風はどんどん強さを増している気がする。

遠くの方で雷の音が聞こえたような気がした。


「嫌だわ。あと少しで収穫できたのに」

 

嵐は農家にとって大敵だ。

せっかく実った果実も打ち付ける雨と風に攫われてあっという間に駄目になってしまう。


「ネルどうにかならない?・・・無理か」


ネルがこてんと首を傾げる。ちょっと可愛い。・・・じゃなくて、顔が良い。


流石のネルでも嵐を止めるなんてことは出来ないだろう。

もしそれが出来るのだとしたら、この世に十人しかいない大魔法使いくらいのもの。


「ちょっと来て」


手招きでネルを呼ぶ。

何の疑いも持たずにのこのこと、座って本を読んでいたネルがやって来る。


「勘違いしないでね、絶対そういうのじゃないから」


そう何度も前置きをしてから、ぎゅうとネルに抱き着く。

鬱屈した気持ちがすっと楽になるのが分かる。


”番”ってすごい。研究すれば万能薬が作れるかも。

そしたらがっぽがっぽの大金持ちよ。なんて考えながらも、足元はそわそわと擽ったい。


嵐の日はどうにも落ち着かない。


ネルを拾った日だって、なかなか寝付けずに、ベッドの上でじっと嵐が去るのを待っていたところだった。

大きな音に反応して外を確かめに行った。そして___ネルに出会ったんだっけ。


あの時は必死でいつの間にか嵐の事など頭から消え去っていたわね。


ボロ雑巾。懐かしい響きだ。



「大丈夫。大丈夫だから」


ネルが優しく私の背中を撫でる。

暖かな陽だまりの様な手だった。百合の香りがふわりと漂う。


ああ、どうしよう。好きかもしれない。

浮かび上がる本音にもう少しだけ蓋をさせて欲しい。そう思った。


この嵐が過ぎたら。そう、明日になったらその時は私の本音を___。


ガシャーン


「お父さん!!」


もう、ムードもへったくれも無いじゃない!


文句を言いながらも心配になって様子を見に行く。


家の裏で、父が桶に挟まっているのを見て、私は大きくため息を吐いた。

父の足元で短い方の長靴がぶらぶら揺れているのが酷く滑稽だ。

 

「怪我しないでよ!」


そう言いながら桶から父を引っ張り出す。

見る限り、大きな怪我はしていないようだった。

 

「いやー。危ない危ない。助かったよリリィ」


軽快にスパナを振りながら父は作業に戻って行った。

その後ろ姿を見送りながら、思案する。

あの様子じゃもう三回は何かやらかすわね。


「リリィ」


小さく私を呼ぶ声が聞こえた。


今度はネルか。

振り返ると後ろで佇んでいたネルは何か言いたげな顔で私を見つめている。


「なあに?」


「心配しないで。リリィは俺が守るから」


そう言ってネルが手をスライドさせる。

と、透明な膜が家の周りを包み込んだ。

結界だ。それもかなり高度な結界。


ネルは、私たちが半日かけても終わらない作業を一瞬にして終わらせてしまった。

魔法って本当に憎たらしい。便利だけれども。


というか、出来るならもっと早く言いなさいよ。


「はあ、お父さんを呼んでくるわ。」


また何かやらかす前に。

と、家の外で作業する父を呼びに外に出る。


生ぬるい風が頬を撫でる。


結界を張ってもある程度の風や雨は入って来るらしい。

ガタガタと建て付けの悪い窓が音を立てている。


きっとすぐに雨も降り出すだろう


「なんだ?これは?」


父は突然現れた結界に驚愕し、パントマイムの様にべたべたと結界の表面を触っていた。


その証拠に手跡がそこかしこに残っている。汚いわね。掃除してくれるのかしら?


「ネルが張ってくれた結界よ」


「結界?ネルは随分と力の強い魔法使いなんだね」


父が感心したようにそう呟いた。


「そう・・・みたいね」


視線を逸らしながら答える。

結界を張れるのは、上級魔法使い以上の実力がある魔法使いだけだ。


いよいよ、ネルの正体について考えなければならないかもしれない。


嫌だわ。さっきから嫌な予感しかしない。


シリアスをシリアルに変えるのが私の特技なのに。


「さ、ネルが結界を張ってくれたことだし、家でゆっくりスープでも飲もう」


そっと優しく父が私を抱きしめる。

大きく包み込むようなハグだった。安心する。


少し臭いが、仕方ない。我慢するとしよう。

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