10 迷子の迷子の子猫ちゃん
花冠を買った後は露店を楽しむ。
花占いなど花にまつわるものから射的などの遊戯も人気だ。
「なにをしようかしら」
なんて考えながらうろついていると、ふと隣に誰の気配も無い事に気が付く。
「あれ。ネルは?」
キョロキョロと周りを見渡すが、ネルの姿は無い。いつの間にかはぐれてしまったらしい。
困ったわ。
迷子の迷子の子猫ちゃん。唯一言えるのは名前だけ。
犬のおまわりさんも遠吠えするほど困ったことになったと頭を抱える。
それに___
”番”と離れてしまった。その喪失感が私を襲う。
基本的にネルは私の傍から離れなかった。
だから今まで気付かずにいた。
初めてネルの、”番”の大切さが分かった。
片時も離れがたい。そう強く思わせるものがある。
「早く見つけてあげなくちゃ」
迷った時はまず最初の場所に戻ればいいのよ。
花祭りの通路は一本道だ。入口に戻ってしらみつぶしに探し回ればきっと見つかる。
そう思って踵を返した時、誰かに腕をつかまれる。
「リリィ!」
ネルじゃない。本能がそう告げていた。
「パトリック・・・久しぶりね」
重い空気が流れる。”番”が見つかったというくだらない理由で私と婚約破棄した幼馴染。
気弱な彼がもじもじと言いにくそうにしながら私の腕をつかんでいた。
「あのね、リリィ。すごく言いずらいんだけど・・・婚約、元に戻せないかな」
「はあぁぁぁ!!??」
散々、私の心と金を弄んでおきながら、まだそんなくだらない事を言うのだろうか。
百年の恋ももう冷めました!綺麗さっぱりと!と言ってやりたくなるがそれよりも気になるのは彼の”番”の存在だ。
「”番”が見つかったんじゃないの?」
そう問うと、また言いにくそうにもじもじと体を揺らす。
ええい。じれったいわね。はやく言いなさいよ!と睨みつけるが彼の視線はぐるぐると泳いで重なる事は無い。
「実は、違ったんだ」
「違った!?」
あれだけ啖呵切っておきながら!?
馬鹿じゃないの。番に夢を見すぎたのでは?と真剣に彼の頭の心配をしてしまう。
「番じゃなかった・・・」
しょんぼりと彼は小さく呟くが、私の心はもう決まっている。
「お断りよ!」
一切合切もう関わらないで頂戴!と叫ぶ。それだけの事を彼はしでかしたのだ。
しかも、最近やっと古い農機具を買い替える算段が付いた所で、私は今、結婚どころではないのだ。
「待って!!」
執拗に私に迫るパトリックの手を叩き落とす。
「触らないで!」
と叫んだその時、ふわりと百合の香りがした。
「何やってんの?」
ネルだ。
ネルが私を見つけてくれた。
緊迫感のある雰囲気に似つかわしくない感情が溢れる。
(見つけてくれた。やっと見つかった。私の大切な片割れが)
心臓がぎゅうぅっと詰まって音を立てる。
嫌で嫌で仕方が無かった感情なのに、今は何故か自然と溢れてくる。
ネルは私の肩を抱き、一歩前に出た。
「あ・・・」
気弱な幼馴染が怖気づき、後ずさるが、ネルは気にせず言い放つ。
「こいつには俺がいるから無理だよ」
パトリックを鼻で笑うネル。
いや、私はまだ誰の物でもないですけど!?と思いながらもあえてその場は何も言わずに静観する。
「そう・・・だよね。ごめん」
私を追いかける手がすっと下がり、パトリックは私に背を向け逃げ出した。
やーいやーい!偽物の番を掴まされた道化師ー!まるで負け犬ね!と嘲笑ってやりたかったけれど、ネルが邪魔で出来ない。
「心配した。すごく焦った」
私の両手を取りそして、ぎゅっと抱きしめる。
首筋に何度もキスを落としながらネルは私の存在を噛み締めていた。
お前は吸血鬼か。と言いたくなるが、その真剣な眼差しに言葉が詰まる。
「行かないで。ずっと傍にいて」
そっと唇が重なり合う。
息が止まった。
「っ、」
「約束。お願い」
縋るようなその言葉に私は何も返す事が出来なかった。
プチざまぁのつもりなんですが・・・少しでもスカッとしていただけたなら幸いです。
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