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第7話 仕事探し7

 イザベルに冒険者ギルドまで連れてこられたマリアは、支部長室で出された紅茶を嬉しそうに飲んでいた。




「香りは薄いですけどリザニア産かしら?」




「あんた、よくこの雰囲気で飲めるわね」




 マリアを連れてきた後すぐに帰ろうとしたイザベルは支部長に呼び止められてマリアの隣に胃が痛そうにしながら座っている。




 支部長の顔にはクマができており、ただでさえ怖い雰囲気に凄みがましている。そんな重苦しい雰囲気の中、マリアをじっと見ていた支部長が口を開いた。




「ほんとうに貴女は昨日ダンジョンに入ったのでしょうか?」




「ええ。親切な方達に案内してもらってお金を稼ぐことができましたわ。そのおかげで私は無事に昨日を過ごす事ができたんですの」




 支部長の質問にマリアはティーカップを持ったまま微笑んで昨日の事を語った。




「その、一緒に入った冒険者だけではなく貴女も魔物を倒したのでしょうか?」




「無我夢中で拾った棒を振り回していたらなんとか倒していたみたいですわ。あの方達は戦わなくてもいいとおっしゃったんですけど怖くてつい。それなのにお2人は私が倒した分だからと報酬をほぼ全部くださいましたの。私が困っていると話していたから気を遣ってくださったのですね!」




 マリアの熱弁を隣のイザベルが胡散臭そうに聞いていた。


 支部長も疑いの目でマリアを見ている。




 支部長が事前にイザベルから聞いていた2人の冒険者の情報やギルド内での評判はマリアの話すものとは逆で、金にがめつく新人いびりをするトラブルメーカーで、決してマリアが語るような親切な冒険者ではない。




「周りに他の冒険者がいて手伝って貰ったとかではないですか?」




「違いますわ。洞窟の中での私の役目は仲間を癒す事だから戦わなくてもいいと言ってくれたのですわ。休憩の時に癒し方をご指導くださるはずだったんですがその前にゴブリンさん達がたくさん出て来てしまって。それで私も手伝わなければと棒を拾ったのですがその後は無我夢中で、気づいたらゴブリンさん達は全滅してましたのそのあと——」




 マリアの話す内容を聞いた支部長はなんとなく状況を察した。やはり噂のままの素行の悪い冒険者のようであると。




 しかし、そうなるとやはりその2人がゴブリンの群を討伐できたとは思えない。




 かといって、目の前のお嬢様がゴブリンを倒したというのも懐疑的だ。




「失礼します」




 支部長が眉に力を入れて悩んでいると、冒険者ギルドの職員が部屋をノックした。




「どうした?」




「騎士団長様がおみえです」




「そうか」




 支部長がチラッとマリアを見たのでマリアは「どうぞ」と笑顔で答えた。




「マリア様ではありませんか! どうしてこのような所に?」




 支部長が返事をして部屋に案内された騎士団長はマリアを向いて驚愕の声をあげる。




「えっと、どなただったかしら?」




「は! 私は昔エン…いえ、マリア様のお父上の部隊に所属していましたシュピーゲンと言います! マリア様が小さき頃にお会いした事がございます!」




 マリアに対して言葉を少し濁しながらも仰々しい挨拶をする騎士団長を見て支部長は疑問を口にする。




「騎士団長殿はお知り合いでしたか?」




「はい。しかしなぜマリア様がこんな所に?」




 騎士団長はマリアから回答を得られなかったために支部長に質問した。




「件のゴブリンの発見者なのです。ただ、このお嬢様がゴブリンを倒したと思えずにお話を聞いていた所だったのですよ」




「マリア様が冒険者に? まさか、マリア様は武器をお待ちになりましたか?」




 支部長の話を聞いた騎士団長は恐る恐ると言った様子でマリアに質問をする。




「私は必死に棒を振り回していただけですわ」




 にこやかに答えたマリアの回答に騎士団長は息を飲んだ。




「周りに人はいらっしゃいませんでしたか?」




「親切な方達が案内してくれましたわ」




「なんと。お気の毒に……」




「騎士団長殿、それはどういう事でしょう?」




 騎士団長の言葉に支部長が質問をする。


 騎士団長は背筋を正して深呼吸をした後「失礼」とマリアに一言入れ、支部長を手招きして一度廊下へ出た。




「どうしたのですか?」




「実は、マリア様なのですが——」




 騎士団長は昔、マリアが昔に訓練中の騎士をコテンパンにのした事を話した。そして、自分もその1人だと付け加える。




「まさか⁉︎ なら、ゴブリンの群れを討伐する事も……」




「できるでしょう。一緒にいた冒険者達は気の毒だったかもしれませんが……」




 2人の間に少しの沈黙が流れる。




「しかし、報告では一緒にいた冒険者達に被害は無かったと」




「なんですと? では、マリア様も成長なさったのか?」




「分かりませんが、私の謎は1つ解決したようですよ」




 支部長はそう言って疲れた笑顔で騎士団長を見たのだった。




 ◇◆




 支部長と騎士団長が部屋の外へ出た後、イザベルがマリアに向かって小声で怒っていた。




「もう、あんたのせいで私はメイクもボロボロじゃない!」




「目のクマもありますし疲れてるのですわ。ローズヒップティーを飲んでゆっくりお眠りになるのをお勧めしますわ!」




 イザベルが怒っている理由が分からずにマリアはイザベルにアドバイスをした。


 そのアドバイスにイザベルの目は更に釣り上がる。




「誰のせいで寝不足になってると思ってるのよ! 騎士団長ってお貴族様でしょ? せっかくの玉の輿のチャンスなのに〜」




 イザベルはイライラした様子で頭を掻いた。




 しかし、支部長達が話を終えて部屋に戻ってくるとイザベルは慌てて手櫛を通して髪を整え、澄まし顔でニコリと笑う。




 マリアはイザベルの行動がよくわからずに、首を傾げたのであった。



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