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第5話 仕事探し5

「私はなんて素敵な人達に巡り会えたのでしょう。あの人達に巡り合っていなければこうしてベッドで寝ることもできず、お食事も頂けずに倒れていたかもしれませんでしたわ」




 マリアは宿を取り、食事を済ませた後に部屋のベッドで横になっていた。




「宿の奥様に寝巻きまで貸していただいて、庶民の方々はいい方ばかりですわね」




 マリアは自分には合っていないブカブカの袖を見てまた顔を綻ばせる。


 男達に紹介された宿屋に着き、泊まりたいと申し出た時にはそれはそれは驚かれた。




「ここはアンタみたいなお嬢様の泊まれる所じゃないよ?」




 宿の奥様の最初の言葉だ。


 しかし、マリアが事情を話すと「大変だったんだねえ」と優しい顔をして、部屋を貸して下さった。




 勿論お代はちゃんと払っているが、マリアが着の身着のままだという事を理解して寝巻きを貸してくれたり、汚れた顔を見て体を清めるお湯と布をサービスして下さった。




 マリアはダンジョンで疲れていたのか、今日助けられた人達に感謝をしながら微睡まどろみに落ちていった。




 ◇◆




 その日の冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。




 夕方に1組の冒険者が大量のゴブリンの討伐証明と素材を持ち込んだのだ。




 量は大袋2つ分。




 それだけならば朝からダンジョンに入ったやる気のある駆け出しの冒険者が持ってくる事はある。




 しかし少しランクが上がって強くなれば、ゴブリンよりコボルトなどの素材がおいしく見入りのいい魔物を倒すのでゴブリンがこれだけ持ち込まれるというのは稀だ。




 とはいえ所詮はゴブリン。1番安い魔物であるし買取でトラブルが起こる事もなく、スムーズに買取は行われた。




 ではなぜ冒険者ギルドがこんなに大騒ぎになっているのか。それは買い取ったゴブリンの中に灰色のゴブリンの討伐証明部位が含まれていたのである。




 灰色のゴブリンはメスのゴブリンだ。ゴブリンはメスの出現率が極めて稀だ。




 ゴブリンは繁殖力が強いがメスが少なく、通常は他の魔物や人間を母体に繁殖する。




 しかし魔物で1番弱いため、魔物にしても人間にしてもゴブリンの母体になるようなヘマをする者は稀。なので劇的に増える事はなく、ダンジョンで単独で動き回る程度にしか増えない。




 ただ、ゴブリンのメスが産まれると話は違ってくる。


 ゴブリンのメスはゴブリンの繁殖に適した体を持っている。つまりゴブリンのオスの繁殖力に耐え、大量にゴブリンを産めるのだ。




 しかもそれだけではなく、ゴブリン同士の子供は他の種のメスを母体にした子供よりも能力が高く強い。




 それに、大量のゴブリンが産まれるという事は滅多に産まれることのないメスのゴブリンが産まれる確率も上がってしまうという事である。




 1番弱い魔物のゴブリンであろうと、群れとなれば話は変わる。




 駆け出しの、いや、そこそこの冒険者でも数の暴力に敵わない事もある。


 人と違ってゴブリンには恐怖心がなく、引くという事を知らないのだ。




 討伐証明部位があるということは1匹のメスは討伐されている。ただ、他にもメスが増えている可能性は否定できず、今も尚ダンジョンではゴブリンが増殖しているかもしれない。




 となれば明日からのダンジョン入場に規制をかけなければいけない。


 それに急いで討伐チームを組んでゴブリンを一気に討伐しなければならない。このまま増え続ければダンジョンから溢れるという事もありえる。


 溢れれば被害は冒険者だけでは済まない。一般市民もそうだが、この街は王都であり、貴族も住んでいる。




 討伐チームにかける予算、騎士団への応援要請。他にも、やる事は沢山ある。




 そんな中、1人の受付嬢がギルドの支部長室に呼び出されていた。


 名前はイザベル。問題のゴブリンの買取処理をした受付嬢であった。




「それで、メスのゴブリンを持ち込んだ冒険者を覚えているのかね?」




「はい。長く冒険者をしている2人組ですから」




 イザベルの言葉に支部長はゆっくりと頷いた。




「では、その冒険者にも討伐チームに加わってもらおう。戦力は多い方がいい」




「でも支部長、あの2人は万年ゴブリン狩の低ランクです。コボルトを倒したくらいで自慢げに話してくるような」




 イザベルからの追加情報を聞いて支部長は難しい顔をする。




「そんな冒険者があの量を?」




 メスが混じっていたという事はメスの断末魔がオスを呼んだと考えていい。


 ならばあの量のゴブリンを一気に相手にしたという事。今聞いた情報ではとてもそんな芸当ができるとは思えない。




「とりあえずその2人に話を聞いてみるか。こんな時間だが急いだ方がいいだろうな」




「あ、あのう……」




 支部長がブツブツと呟きながら頭を整理していると、イザベルが申し訳なさそうに声をかけた。




「2人はもうこの街には居ないと思います。あれだけの稼ぎがあった後なので食事を奢ってと言ったのですが、2人は命が惜しいからこの街を出ると言って夕方の馬車で……」




「な、なんだと!」




 ガタリと音を立てて支部長が立ち上がった。




「それが本当ならその冒険者達はこの事態を理解していて報告もせずに逃げたということか!」




「それは……分かりませんけど……」




 イザベルは支部長の圧に言葉尻を小さくして胸の前で両手の人差し指をくっつけたりはなしたりする。




「その2人に手配書だ! 王都を危機に陥れるなんて反逆罪と言われても仕方がない!」




 怒りを露わにした支部長が書記を取っていた秘書に伝えると、秘書は慌てて部屋を出ていった。




「しかし、どうやってそのような弱い冒険者がゴブリンの群れから生き残れたというんだ?」




 残った謎に首を傾げる支部長の前で、何かを思い出したようにイザベルは手を叩いた。




「そういえば、今日はその2人と一緒に没落令嬢がダンジョンに入りました!」




「没落令嬢ぅ?」




 脈絡のない人物に支部長は素っ頓狂な声を上げる。




「ご飯の話をした時にはもういなかったですけど冒険者登録をして一緒にダンジョンに入ったはずです。買取の時にはいましたし」




「ぬぅ、よく分からんが今は情報が欲しい。その没落令嬢とやらにも話を聞いてみよう。何人か連れていっていいから探し出してくれ」




「私がですか?」




「君しか顔を知らないのだから当たり前だろう」




「……はぁい」




 支部長の命令を受けて、イザベルは行方のわからない令嬢を探すこととなる。




 冒険者ギルドの慌ただしい夜はまだまだ続きそうであった。




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