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第4話 仕事探し4

 棍棒を握ったマリアは胸が高鳴るのを感じた。




 普段は大人しい人間が馬車の手綱を握った瞬間荒々しい言葉を吐くようになるように、マリアは好戦的な笑みを浮かべた。




 軍人に『武』のエンリエット家の三兄弟で1番強いのは誰? という質問をすれば末娘のマリアは置いておいて、将来有望な騎士団のエースである長男か若くして魔法師団の一つを任される長女で意見が分かれるだろう。




 しかし




 エンリエット騎士団に所属するベテラン騎士達は口を揃えてマリア様だと体を震わせるだろう。




 昔、兄の稽古を見ていたマリアが自分もやってみたいと言って一度だけ木剣を握った時に、鎧の上から気絶するまでコテンパンにやられたベテラン騎士達は……




 マリアが戦闘禁止を言いつけられて箱入り娘として育てられたのは武器を持って好戦的になったマリアは理性的で無くなるから。




 ヒールを履いているにもかかわらず軽やかに走り出したマリアは、楽しそうな笑い声を上げて一足飛びにゴブリン達の元へ飛んだ。




「やぁってやりますわ‼︎」




 男達に迫っていたゴブリンの頭に向かって棍棒を振り抜くと、ゴブリンの頭が見事に吹き飛んだ。




「はい⁉︎」




「お、お嬢さん?」




 男達は目の前で起こった事が理解できないと目を見開いた。


 ゴブリンの頭を棍棒で吹き飛ばすなどそれなりの冒険者でないと無理である。




「快感ですわぁ」




 男達がマリアの背中を見て息を飲み、もう一度口を開きかけた瞬間、マリアが少し色の入った声でそう呟いた。




 うっとりとするマリアに向かってゴブリン達が迫るのに気づいた男達が反射的に叫ぶ。




「「お嬢さん、あぶねえ!」」




「しゃらくさいですわ!」




 マリアが棍棒を横一戦に振り抜くと、複数のゴブリンが吹き飛び、巻き込まれたゴブリン達も倒れていく。




「今度はこちらから行きますわよ!」




 その後は、マリアが楽しそうに笑いながらゴブリンを蹂躙するという時間がゴブリンがいなくなるまで続いた。




「終わってしまいましたわ」




 ゴブリンを倒し終わると少し寂しそうにしながらマリアが呟いた。




 マリアががゴブリンを蹂躙しているところを見ていた男達は先ほどまでの態度は見る影もなく、震えて2人で抱き合っていた。




 マリアが2人に近づいてくるほどに、男達の震えは大きくなる。




 男達の所まで来たマリアは戦闘が終了したと思ったからか、棍棒をその辺にポイっと捨てた。




「……」




 男達を見ながら無言のマリアが男達の恐怖を煽る。




「怖かったですわ!」




 先ほどまでの楽しそうで好戦的なマリアの姿を見ていた男達はお淑やかにおよよと怖がるマリアを見てすぐさま「嘘つけい!」とツッコミをいれた。




 男達の言葉にマリアは目をパチクリとさせているが、それをしたいのは男達の方である。




「ところで、静かになりましたし私にもできる癒しというのを教えていただけますか?」




 静寂が訪れた後、マリアが思い出したように男達に質問をした。




「あああ、あれはやっぱ無しだ!」




「そ、そうだ! やっぱりお嬢ちゃんに人を癒すのは無理そうだ!」




 お淑やかなお嬢様だからと人気の無いところで色々理由をつけて最後は少し強引にいけばいけるだろうと邪な事を考えていた男達であったが、先ほどマリアがゴブリンを蹂躙する姿を見て抵抗でもされようものなら自分達の命が危ないと震え上がってしまった。




「それでしたら、私には冒険者は難しいのでしょうか……」




 またもや仕事に就けないのかと肩を落とすマリアの姿に男達はそれこそ取れるのではないかというスピードで首を振った。




「1人であれだけゴブリンを倒しましたししばらく生きていくには十分かと思います」




「そうです! 俺達と一緒でなくても十分に冒険者をやっていけるでしょう!」




 敬語で話す男達の「俺達と一緒でなくても」という部分に全てが詰まっていた。


 これまで娼館で働かせようとした事や、癒しの隠語をマリアに気づかれてしまうと色々ヤバそうだとパーティでいる事を拒否したのであった。




「そうなのですか?」




 しかし、マリアはその事に気づかず、よく分からないと首をコテンと傾げた。




「それじゃ、金になる所を回収しよう! 最後に教えますから!」




「はい! よろしくお願いしますわ!」




 男に教わりながら、ゴブリンの討伐証明部位と魔石、意潰せばお金になりそうな金属類を回収すると2つの袋がパンパンになった。




「それじゃあ俺達が運びますね!」




「ありがとうございますわ」




 男達が進んで袋をサンタクロースのように担いでダンジョンの道を帰る。




「私1人になったらこの道も覚えないといけませんのね」




 先程の開けたところまで真っ直ぐ進んだがダンジョンには他にも色々と脇道があり迷路のような構造である。




「大丈夫ですよ。地図も売ってますしすぐ覚えられますから! それにこれだけあればしばらくはダンジョンに来なくていいでしょう」




「そうなのですか?」




「そうです! その間に地図を覚えておきましょう!」




 早口で話す男達の親切に感謝しながら、マリアは冒険者ギルドへ戻るのであった。

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