31…愛のチカラ
学園の長期休暇も終了し、授業が再開してからは学園での聖魔法のアレンジの特訓が始まっていた。
結局神殿での魔獣殲滅翌日の王宮会議では、選抜隊のハリアス・セシリア・アイ・リュシードと、宰相とで今後の魔神の対策を考えることとなった。
重点的に話したのは聖魔法をいかに利用して強力な攻撃を生み出すかということだった。
聖魔力は、基本浄化や悪しき心を弱らせる力、そして治癒の力だが、魔法剣として攻撃に転じることも可能ではあった。
魔法剣えを最大限行使できるのは、現時点でセシリアが一番だと皆理解していた。
本人に聖魔力はなくとも、魔法石の魔力を自身の魔力と融合させて強い攻撃を与えることができた。その攻撃力は魔法剣を発現させることができるハリアスの攻撃力よりも上回っていた。
しかし、セシリアがいかに強い聖魔力での攻撃ができたとしても、体力がついていっていないことから、昨日のように魔力を使いすぎて体力切れを起こし、倒れてしまうことも懸念される。
その状況を踏まえた上で、全員の魔力アップの為の体力作りと、聖魔力のアレンジした戦い方の訓練が必要だと話がまとまったのだった。
魔神への対策以外にも気にしなければならないことはあった。
教会の最高責任者がいなくなった状況で、誰が教会をまとめるかということである。普通であれな大神官のすぐ下についていた神官が就任するのが通常ではあったが、現時点で教会の信用は地に落ちている。大神官を慕っていた者たちが、全くの”潔白”であるとは到底思えなかったからである。
その為、大神官の後継となる予定であったトーマス・レギゼント神官がしばらく大神官代理を務めることとなり、その傍らには王家から選出された監査役としてヘイル・バーザンド卿が大神官代理と同等の立場で就任することが決まった。
ヘイル卿は現国王陛下の側近である武官バーザンド伯爵の次男であり、王国第1騎士団に所属しているものの様々な訓練も裏で積極的に受けており、影としても優秀な人材である。
そのことをハリアスは理解していた為、今回監査役としてヘイル卿を抜擢したのだという。
バトネ公爵に関しては、守り人として一番魔神のそばにいるにも拘わらず、これまでと態度が全く変わらない点や、フリード大神官の豹変ぶりを見ても動じていなかったことから下僕とは考えられないという結論に至った。
他騎士団の団長に関しても、闇魔力に魅了されているようには見えないと判断されたらしい。
現在、魔神の下僕となってしまったのは元大神官のみのようではあるが、今後、魔神の力が強くなってくれば更に状況は悪くなってくるだろう。もしかしたら来年の定期調査を待たずして魔神の復活も考えられる。
神殿での戦闘を見ていた宰相や公爵、団長2名も、現状選抜隊のみに任せっきりになる状況はよろしくないと危機感を持ってくれたらしく、すでに動き始めていると宰相からの報告も受けている。
自分たちにどこまでできるかはわからないが、今は聖魔力をどう扱って攻撃するか。実践を踏まえて行動していかなければならないのだろう。
「――リュシードは大分魔道剣の扱いにも慣れてきたようだね。」
「そうですね。かなり馴染んできました。」
「そうか…それなら聖魔力を魔道剣以外の魔法石から補填したり増強させてみないかい?」
ハリアスは学園の訓練場でリュシードと手合わせ後に次のステップアップの話を切り出す。
「それは…セシリア嬢のように…ということですか?」
「そうだよ。セシリアは聖魔力を自分で発現させた魔法剣に注いで聖属性の魔法剣を作り出したけど、魔法剣を発現させるのは魔力センスが優れていないと難しいんだ。だが、リュシードは魔道剣があるだろう?
ないものを1から作るのは難しくても、あるものに対して吸収した魔力を移すことはリュシードでもできると思うんだよね。」
「――なるほど…」
「それでもすぐにできることではないだろうし、訓練は必要だけど、強い聖魔力で攻撃できるのが私とリアだけでは心もとない。リュシードにも更に強い聖魔法での攻撃ができるようになってほしいから、魔法石の扱いを特訓してもらえるかい?」
「承知しました!魔法石はあるのですか?」
「あぁ!毎日私とアイ嬢で聖魔力を魔法石に注ぎ込んでいるからね!かなり数も増えてきたよ。
――ただ、より身近に感じられる聖魔力の方が馴染みやすいようなんだよね。――言っていることわかるかい?」
「――?…いえ…」
「本当にわかんないのかい?……自分を愛してくれている者の魔力は自分に馴染みやすいらしいんだよ。
…だからリュシードはアイ嬢の魔法石を受け取った方がよいだろう?っていう話さ!」
「――なっ!!…わ…わかりました…」
もうすでに選抜隊の中ではわかりきった関係性ではあるが、それでもあけすけにハリアスに言われたことでリュシードは動揺を隠せない。
「…殿下ははっきり言いすぎではないですか?」
「私は1分1秒でもリアとの時間に使いたいからね!無駄な長い説明なんてしている暇ないんだよ。」
はははと笑いながら手を振ると、ハリアスは体力づくりをしているセシリアのの下へ向かう。
リュシードはふうっとため息を吐いた後、ハリアスに続きセシリアの横で一緒に訓練をしているアイの下へ歩みを進めるのだった。
「――リア!調子はどう?順調?」
「ハリー!えぇ、…順調…かな」
笑顔で歩み寄ってくるハリアスに気づくと思わず笑みが零れてしまう。
今日も学園の訓練場の脇で体力をアップ左折ために筋トレや運動をアイと共に奮闘しているところだ。
「――殿下!体力は1週間やそこらじゃすぐに増えないんですよ!セシリアを焦らせないでくださいね!!」
むすっとした面持ちでそう告げたアイは、後ろからやってくるリュシードに目を輝かせる。
「アイ嬢…そんなことはわかっているさ。私は応援しているだけだよ。」
「―――ま…いいですけど?セシリアの邪魔はしないでくださいね!
あっ♡リュシード―――!訓練終わったの?」
ハリアスをあっさりスルーしたアイは、こちらにやってくるリュシードに向かってブンブンと両手を振って花が舞うような笑顔を向ける。
「―――…アイ…」
あまりにも違う態度に思わずセシリアが苦笑してしまうのを、ふふっと微笑みながらハリアスは見つめている。
「あの位はっきりの方がわかりやすくていいでしょ?私もリアにだけ微笑みかけてもらえたらそれで充分♡」
「――…私も…ハリーだけで十分です。」
気持ちが良いくらいまっすぐに好意を向けてくれるハリアスにセシリアも頬を染めつつ好意を言葉にしてしまう。
多分これは女神様の言葉を真摯に受け止めた結果なのだろう。
魔神に対抗するためには揺るがない愛がなければ女神様の力は発揮できないから。
形から入る感じではあるが、良い意味で結果は出ていると実感はある。
聖魔力をあれから魔法石を使って使う訓練をしているが、アイの魔法石とハリアスの魔法石では全然使いやすさが違うのだ。
ハリアスの魔法石はセシリアの身体に馴染み、自身の魔力との絡みが凄く相性が良くて自分の魔力のようにすら感じるのだから。
アイの魔力も勿論使えるのだが、絡み方が微妙に意識して使っている感じがわかる。
まだ感覚でしか表現はできないものの、女神様がセシリアを転生させることはハリアスの為にも必要だったのだとわかる。
(――私はこの世界も…ハリアスも守るために強くなる!!)
ひたすらに基礎訓練を積み重ね、聖魔力を扱えるだけの体力と魔力強化を私たちは地道に続けるのだった。




