28…悪役令嬢は策を練る
「――リア、私は石に魔力を込める時に確かに君を想って聖魔力を込めたよ。
私はリアの事を愛しているから。」
真剣な眼差しで告げるハリアスの耳は赤いまま。より深くセシリアへの想いを感じ、心の中が日溜りのようにぽかぽかと暖かさが広がっていくのを感じる。
あの暗闇の中でも、ハリアスの想いはずっとそばにあってセシリアを守っていてくれた。
女神様に出会えたのもハリアスの想いのおかげだったのだと今ならわかる。
「ありがとうございます。暗闇の中、このネックレスだけが私の救いだったんです。」
ネックレスの魔法石を握りしめながら微笑むセシリアを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめるハリアスの胸は大きくて暖かくて安心できた。
「――もし魔法石がきっかけで女神様が現れたなら、この力は魔神に対抗できる力なのではないか?」
「対抗できる…力ですか?」
「あぁ、魔神を弱らせられるのは女神様の力だから、その力に近い力っていうのはやっぱり”愛”だと思うんだよね。」
「…そうかもしれません。
女神様も、私たちがやりなおしている原因は、【愛】を失ったからというようなことをおっしゃってました。」
「…確かに。〈リアが魔人になってしまった後、私たちが魔神を再封印しても【愛】を失った〉というのは私でも想像がつくよ。」
目を逸らし辛そうに告げるハリアスの瞳には、自分たちの知らない過去であっても耐えられないような憤りが感じられた。
きっとすでにその未来は想像したことがあったのだろう…
「私は魔人になりたくないです。私が魔人になることがこの世界の滅亡のきっかけになるのであれば、私は憑依されないように魔神と向き合います。」
「私だって絶対リアを守りたい。
リアがいない世界はいらない。君を必ず守って魔神を封印しよう。」
「あのっ…女神様がおっしゃっていました。今回は魔神を再封印ではなく、消滅させてほしいと。
難しければ封印でも構わないとおっしゃっていましたが、封印した場合はまた”やり直し”を繰り返すことになるので、魔神の力がより強くなってしまうらしいのです。
後世の為にも、私は消滅させる事を目標にしたいです。」
「再封印ではなく消滅…とても難しい話だね…」
「――はい、女神様は何度も”やり直し”に力を使ってしまったらしく、今では力が殆ど使えないようなのです。ですから魔神をこのまま再封印するのは危険だと懸念されているようで…消滅させることも難しい話なのですが、私たちに魔神討伐を託したいようなのです…。」
「女神様は今は力が使えないのかい?」
「そうだと思います。私と話した後消えてしまったので…多分本当に殆ど力は残っていないのだと思うんです。」
「――それも踏まえて国王陛下に報告をしなければならないね…。
それにしても、魔神に対抗できそうな方法が少しだがわかったのは良かったよ。あとは下僕となったものどうやって見つけるかだね…。」
ハリアスが考えを巡らせる中、セシリアはふと思い出す。
――たしか小説の中でフリード大神官は、アイがセシリアに虐められていたことを誰よりも憤慨していた。そのこともあったからこそ、婚約者という立場を追い込まれていたはずだ。
ということは、セシリアであればフリード大神官を怒らせて本性をむき出しにさせることも可能なのではないだろうか…。
(――まさに悪役令嬢にピッタリの寸劇ができるんじゃないの?!)
セシリアはハリアスに、自分の策を耳打ちすると目を見開いて驚かれたが、「信じるよ!!2人にも話を通そう!」と、意気揚々と賛同してくれた。
国王陛下への謁見で報告をした後、下僕を探すセシリアの策もあらかじめ告げ、3日後の魔神の石碑定期調査報告会の向けて準備を進めるのだった。
***
昨年に引き続き今年もローランド大教会の神殿の談話室で【魔神の石碑定期調査報告会】が行われている。
すでに全員揃い、今回は選抜隊としてセシリア・アイ・リュシードの3名は、王太子の横に並んで座っている。左側は王国騎士団。右側はバトネ公爵率いる調査隊。そして向かいに座るのはフリード大神官と数名の神官たちである。
「――皆今回も定期調査を誰一人命を落とすことなくよくぞ使命を果たしてくれた。」
ハリアスの言葉から定期調査の報告が始まっていく。
まずバトネ公爵からの報告が入り、魔獣の状況が告げられる。そして王国第1騎士団団長ルーヴィッツは王都周辺の魔獣状況の報告、また、調査隊へ派遣した騎士たちからの報告を告げる。第2騎士団団長は王都だけでなく王国内の魔獣発生状況含め、定期調査でのモラン山での状況報告を告げる。
そして最後にフリード大神官がモラン山含め王国内の魔獣状況報告を行い、いかに聖女や神官が尊い聖魔力を使って尽力したかを告げ始めたのだった。
「――ですから、聖女様の働きは非常に尊いものでございました。しかし調査隊の皆様も、王国騎士団の皆様方も、聖女様の聖魔力に頼り切っている状況は非常によろしくないといえるのではないでしょうか?
特に守り人でもあるセシリア嬢は、闇に囚われ王太子殿下に救われ王都に逃げ出す始末…これが王太子殿下のご婚約者様のされる行動とは思えません。」
淡々と告げるフリード大神官の言葉は、教会以外を否定する言葉しか紡がない。一同が苛立ちながらも様子を伺うことしかできない。
何故ならば、今回の調査にて一番活躍したのは間違いなく聖女であったことは皆周知していたからだ。
聖魔力を使い、多頭発現した魔獣たちを次々と聖魔法で弱らせ、他聖魔力で攻撃できる者たちが筆頭となって仕留める。その繰り返しだったのだ。
他の騎士たちは傷をつけることはできても、なかなか致命傷を与えることができず、1体倒すのにも非常に時間がかかってしまっていた。そんな状況で教会に反論などできるはずがなかったのだ。
「――はっ…何を偉そうに言っているんですの?冗談にも聞こえなくってよ?」
鼻で笑い明らかに馬鹿にするように吐き捨てる声が静まり返った部屋の中に響き渡り、一同は1人の令嬢に一斉に視線を向けたのだ。




