24…討伐隊会議
「――セシリア…ちょっとよいかな?」
歩き出そうとしたセシリアを引き留めるハリアスの瞳の奥には何かを訴えかけているかのよう。
「…どうしたんですか?」
「ちょっと確認したいことがあるんだ。いいかい?」
「…はい。」
ただ事では無さそうな雰囲気に思わず声が上ずってしまう。
「バトネ公爵家の中や、石碑の定期調査隊の中で、今日の3体を1人で捕獲できるような有能な魔法使いはいる?」
「あの魔獣3体ですか?…いないと思いますよ…」
「……」
「――何かわかったんですか?」
「――まだ確実ではない。…だけど、このチェオリア湖は許可された者しか入ることを許されていない場所だろう?
たとえ魔獣であろうと、そう簡単に湖まで侵入することは不可能だ。
――しかし突然魔獣は湖付近から現れたようだった。」
「――湖から?」
コクンとハリアスは頷き話を続ける。
「あの魔獣3体は、私たちが封印用に持ってきた魔法石の魔獣よりずっと高ランクの魔獣だろう?そんな魔獣が何故こんなところに突然現れるのか。
モラン山なら魔神のそばということもあるからまだ可能性は考えられるが、ここは神聖な場所としてあえて魔獣が入り込めないように管理していた場所なんだ。
高ランク魔獣が現れることがまずおかしい。
そして、何故今なのか?ということだ。訓練期間中、特に魔獣が発生するような状況は全くなかった。
これは私の推測でしかないが、バトネ公爵がここへ来たことが何か起因しているのではないかと考えている。」
「え?!…まってください!まさか父を疑ったりなんてしていませんよね?」
「――私は違うと思いたいが、もし第3者がここに魔獣を発生させたのであれば、この場所をよく知っていて、且高ランク魔獣を捕獲できるほどの魔法使いであると考えられる。
そんなに優れた魔法使いはこの王国内では限られると思わないかい?」
「……確かに…でも…」
「勿論公爵だけを疑っているわけじゃない。
恐らくだが、バトネ公爵から状況を確認できる者も、その疑いには含める必要があると思っている。」
「……父と同じ位の魔法が扱える人物…それって…あとは大神官様などの上の方々しか…いないのでは?」
「そうだよ。」
「え?……本気で言ってます?…大神官様たちですよ?女神様の下僕ですよ?!」
「…だが一番魔神に近いとも思わないか?女神を心酔している者たちだ。」
「それは…」
確かに教会の女神の信者たちの発言は、明らかに女神様を妄信するが故の発言や行動が多い。
「もし人間が魔神の下僕についているのだとしたら、それなりの能力者だと私は言いたいということだ。
今可能性として考えられる人物は、バトネ公爵・フリード大神官・王国第1騎士団団長・王国第2騎士団団長程度しかいないということだ。」
「もしその方々の誰かなのだとしたら…魔神の内通者が常に私たちを見ている可能性も踏まえなければならない…ということですか?」
「あぁ。出なければこんなところへ魔獣を送り込まないだろう…私はリアの事を信じている。だから調査隊と公爵家の中に裏切者がいないかどうか注視してほしいんだ。」
「…ということは…もう合宿は中断…ですか?」
「――そうだね。今は国王陛下に報告が必要だし、ずっとここにいるのも危険だろう。幸い最終的に能力がどの程度かを確認することが先ほどできたから、終わっても問題ない。」
「そ…そうですよね…遊んでいる場合じゃ…ないですもんね。」
「……」
わかりきったことなのに、割り切れない感情が胸の中を支配していく。
すぐに第3者の存在を確認しなければならないのに、セシリアの理性の裏にはみんなで過ごせる貴重な休暇がなくなってしまったことの空虚感でいっぱいだ。
「――リア、すまない。本当は折角の休暇を大切にしたかった。」
ぐいっとセシリアの腕を掴んで引き寄せると、ぎゅっと抱きしめる。
突然の事に目を見開き唖然としてしまっているのさえ気にせずに、ハリアスはしばし抱きしめ続けた。
ハリアスも楽しみにしていたのだろう。それはよくわかる。だからこそ文句なんて言えるはずない。泣き言だって言いたくない。
4人とも楽しみにしていたからこそ飲み込むしかない。
今まで高ランクの魔獣が複数で発現することがなかったのに、今回の多頭魔獣の襲撃はとても見過ごせるものではなかったのだから。
多頭発現は、魔神の魔獣のコントロール能力値が上がってきている証明といえる。魔神の復活の兆しでもあるのだ。
6月下旬に控えている魔神石碑定期調査の事も考えると対策や情報共有は必須だ。
しかし、もし今上がっている魔神下僕が4名の誰かなのだとしたら、それこそ何か対策を考えなければ定期調査は悲惨なことにもなりかねないのだ。
セシリアは深呼吸をすると、ハリアスの背中に腕を回しハリアスのぬくもりで自分を慰めるしかなかったのだった。
***
セシリアがハリアスと食堂へ向かうと、アイとリュシードもいつもの席で朝食を待っていた。
皆わかっているのか朝食が終わるまで魔獣の話は一切触れることはない。
しかし、食事も済み、紅茶を啜って一息つくと4人の顔は真剣なものに変わっていた。
「皆…折角の休日の予定だったのにすまない。今朝の襲撃はとても後回しにできる案件ではないんだ。」
「――それはわかるよ。あんな魔獣が出てきたらただ事じゃないもん…」
普段一番のほほんとしているアイですらもその声音には真剣さが伝わってくる。
「今回も恐らく第3者による魔獣出現もしくは召喚であったと推測される。
理由はこのチェオリア湖が許可制の立ち入り区域であること。そして湖に突然魔獣が自分の意志で出現は考えられないこと。そして、タイミングが選抜隊を狙っていると考えると絶妙なタイミングであったこと。この3つが考えられる。
魔神の下僕(人間)であれば、状況に合わせ魔獣の出現場所の特定が困難ではないからだ。」
「――確かにチェオリア湖周辺は厳重な警備が敷かれているので人の出入りは限られる。それに魔獣が突然湖から現れるのも違和感しか感じないですね。」
リュシードも魔獣が単独で湖を選んだとは考えられないようだ。
「そうだね。それで、私たちは魔神の下僕探しが必要だと思うんだよ。6月下旬の魔神の石碑定期調査までに何とかしないとカオスなことになりそうだろう?」
皮肉げにジェスチャーもつかって話すが、話の重要度は全員理解できているようで無言で頷くと固唾を飲んでハリアスの言葉を聞くしかなかった。
「先にリアには伝えたのだけど、魔神の下僕と思われる候補は、バトネ公爵・フリード大神官・王国第1と第2騎士団団長の4名だ。」
「は?!!――お偉いさんばっかりじゃん!!」
「――そうだよ。今回の召喚が下僕によるものならば、召喚できる能力はかなり優れていなければ無理なはずなんだよ。例えばセシリアぐらい一人で魔獣を倒せるくらいの魔法使いだね。
そう考えると人数はかなり絞られるんだよ。彼らには”影”をつけて見張るけれど、バトネ公爵の事はリアに任せたけど、フリード大神官はアイ嬢に任せても大丈夫かな?王国第1、第2騎士団団長の2人は私とリュシードでどうにかするよ。」
「そんな…」
愕然とするアイの肩をリュシードは優しく支えるのだった。




