22…女神の真意とは
―――さくっさくっ…
土の上に木の葉が落ちて、歩みを進めるたびに小気味よい音が森林の中に響いている。
夕刻を過ぎて仄暗い道を、ハリアスは光魔法でライトを灯す。
明るすぎない光は心地の良い暖色の明るさで、ふよふよと浮いた状態で2人を追尾して照らしてくれている。
「夜の森林も素敵ですね。空気は澄んでいるし、風も気持ちよいし♪」
安心しきったようにハリーに微笑みかけながらセシリアは散歩を楽しんでいた。
もしこれがチェオリア湖の森林でなければ、獣などの危険性もこの時間帯は考えられただろうが、この区域は厳重に管理されていたため危険性のある野生動物はいないはず。
だからこんなに二人はのんびりと夜の散歩を楽しむことができたのだ。
湖は水がとても澄んでいて、まるで川の水のように透き通っている。
普通であれば湖の水は川の水とは違い溜まった状態なため水も濁りやすいのだが、チェオリア湖は魔力が満ちていることもあり、美しく透き通っていた。
水面に映し出される夜の月は幻想的に美しく、非現実的な美しさだった。
「――チェオリア湖ってこんなに美しい湖だったのですね…。初めて知りました。」
「私も儀式でここを訪れるまではこんなに美しい湖だとは思ってもみなかったね。さすが女神の力が宿る湖と言われるだけあるよ。」
セシリアの言葉にハリアスも同調するように答えるのだった。
「…女神の力…」
「…何か気になることでもあった?」
「――いえ。ただ私は魔神に言われたんです。女神様の力が弱っているのかと…」
「魔神に言われたの?…弱っている‥か…どういうことなのだろう。力を使いすぎているとでも言いたいのだろうか?」
「――私にもわかりません。…ただ…私たちの魔神との戦いはどうやら初めてではないようなのです。」
「それはどういう意味だい?!」
恋人の空気感はいつの間にか消え去り緊張感が2人の間を走るのがわかる。
「ごめんなさい…今までどう伝えたらよいかわからなくて言えずにいましたが、どうやら私たちは記憶はなくとも何度も魔神と戦っているようなんです。」
「すまない。怯えないでよいよ。魔神の言葉を理解することは難しいだろうし、今話してくれるだけでも十分だ。ただ…何度も繰り返しているということは…私たちが負けているからということだろうか…」
「…私にもわかりません。ただ…魔神は私が輪廻の原因になっているような言い方をしていたんです。」
「輪廻のきっかけ…それって…憑依されること…かな」
「…そうだと思うけど…それだけじゃない気も…するの」
「それだけじゃない?」
「…わからないのだけど、私はきっかけかもしれないけれど、女神様が何度もやり直すのはそれだけじゃない気がするんです…
それを繰り返したことで女神様の力が徐々に弱まっているのだとしたら、その為に聖女が聖力を補うためにこの世界に来たのもわかるんです。
ただ…魔神を封印すれば良いだけとも思えない…ってやっぱりまだ私も考えがまとまってなくてうまく伝えられなくてごめんなさい。」
「――私も今まで現れなかった聖女の降臨を考えると、女神様が聖力補を考えているのでなないかとは思う。それに聖女を降臨させても何度もやり直しているのだとしたら、私たち3人が何か見落としているのかな。
実は今までの文献を読んで気づいたのだけど、過去の封印の時には聖力を使っていたのは王族だけだったはずなんだよね。確かに王族の力も女神の加護が今より強かったというのもあるかもしれないけど、それだけで封印が成功したとは思えないんだよ。」
「…どういうことでしょう?」
「もしかしたら魔法石をうまく使っていたんじゃないかなって。」
「魔法石ですか?」
「あぁ。魔法石は魔力をため込むこともできるだろう?幾つも魔法石に聖力をため込んで、封印の時にその魔法石の力も使って魔神を弱体させたんじゃないかなって。」
「――なるほど、確かに魔力増強はできなくても、魔法石による魔力強化はできそうですね!」
「そうなんだ。今アイ嬢と一緒に少しずつ魔法石に聖魔力を込めたものを少しずつ増やしている。今の訓練通りに本番もできれば魔力も強い状況で魔神にじゅうぶん対抗できるんじゃないかなと思うんだよね。ただ、引っかかるのは、その方法は昔の王族もやったのだとしたら、リアがいうように女神様の懸念する原因をどうにかしないと解決できない気はするね。」
「――まだまだ先は長そうですね…」
しゅんと悲し気な声を出した瞬間暖かい両掌に頬を包まれる。
(―――え??)
「諦めないことが大事だろう?私たちは頑張っているだろう?結果も出ている。あとは原因が見つかればきっと問題ない。焦っても仕方ないよ。」
優しい言葉は頭上から降り注ぎ、冷え始めたセシリアの心を染みわたるような温かさを感じられた。
「――女神様に近づきたいときは、女神の力が強いところにいるのが一番。この湖は最適だよ♡少しゆっくりしていこう。」
頬を撫でながら告げたハリアスは唇に優しいキスを降らせるときゅうっとセシリアを抱きしめるのだった。
何も解決はしていないけれど、彼がいてくれるからきっと解決できるようなそんな気持ちに浸かれるのだろう。
心地よい夜風と暖かいハリアスの胸に包まれて、セシリアは【迷い】を手放すのだった。




