20…連携魔法
「――それでは今回の連携の訓練の詳細を説明するよ」
翌日朝食を朝7時には済ませた4人は、外の訓練場に向かうとハリアスが訓練の説明を始める。
「今回まずは、魔神グリムディアのみと対峙した場合の想定で、魔法連携を訓練したいと思う。
流れとしては、まずセシリアの防御魔法、強化魔法で全員のアシスト。その間に私とアイが連携で圧縮させた聖魔法を発動させる。
発動目標時間は魔神に対して3分以内だ!
その間のガードをリュシードが行うが、ただの剣では魔神にも魔獣にも効果が期待できない。そのため、リュシードでも効果的に相手と戦えるように魔道剣を用意した。」
「――魔道剣とは何ですか?」
初めて聞く名前に、思わずセシリアは質問してしまう。
「魔道剣とは、魔法が込められた魔法石がはめ込まれた剣のことだ。この剣は、魔力を持つ者であれば聖魔法を発動させながら敵を斬ることが可能だ。
リュシードの剣の腕はマスタークラスだ。そこに魔法が付与されれば、ガードとして十分敵とやりあえる。
圧縮聖魔法を発動させる3分の間は、私もアイも無防備になってしまうからね。リュシードは、魔法使いが魔法の展開をする間の命綱だ。
セシリアには、その間魔法で積極的に攻撃をして相手を弱らせてほしい。
そして、圧縮聖魔法を発動させれば、その後はセシリアに封印魔法を発動させてほしい。
魔獣程度であれば、圧縮聖魔法で簡単に消滅させる事も可能だろうが、魔神は間違いなく無理だろう。せいぜい弱らせる程度だ。
リアの封印魔法にかかっている。
新しく研究中の封印魔法はどの位で発動できそうだい?」
「――封印魔法は圧縮聖魔法と同じように、高濃度の魔力を圧縮させた状態で封印魔法を放ちます。その際逃げられないように、捕縛魔法も掛け合わせて行いますので、即座にすべての魔法をかけるのはさすがに難しいですが、1分以内には用意はできるかと思います。」
「――1分以内???…本当に?」
3人とも呆気にとられ、セシリアを信じられないものを見るように見つめる。
「…え?…遅いですか???」
「…いや…相当早いよ?…いつの間にそんなことができるようになったんだい?」
信じられないようにハリアスは問うが、セシリアは不思議そうに見つめ返している。
「封印魔法の専門書は読みつくしましたので、5月の間に空き時間を使って実技訓練は1人でしてきました。
ただ、問題は、封印魔法の前に、どの位の魔法を使用するかによって、封印魔法の魔力が残るか心配だということですね。」
「…確かに…最初の強化魔法や、防御魔法だけでも4人分なのに、その後攻撃魔法で相手を弱らせるとなると、かなりの魔力消耗が必要になりそうですね…」
リュシードも納得するように呟く。
「そうなんです。魔力回復用の薬も万が一の為に持っては行きますが、たとえ魔力回復薬を飲んだとしても、体力消耗もありますので、その後が持つかは少し不安です。
その確認のためにも想定した実地訓練は行いたいところですね。」
セシリアはおおよそのイメージで自主訓練は行っていたが、強い敵になればなるほど実技が重要だと理解していた。
「――実は今回訓練用に捕まえた魔獣を数体持ってきているんだよね。」
「え??魔獣を?…持ってきているって…どういうことですか?!」
ハリアスのとんでもない発言に、セシリアは声を荒げてしまう。
「あぁ。…実は前回の魔神石碑の定期調査の後から、定期調査隊隊長クラス数名と、王国第2騎士団隊長と副隊長、バトネ公爵は王宮から支給された魔法石を使って、魔獣を捕獲することを国王陛下から勅命を受けている。
だから他のものが知らなくて当然だ。
訓練用に国王陛下より捕獲済みの魔法石を10個近く持ってきているからそれを使う。」
「・・・・・」
確かに実技は必要だと思っていたが、まさか本物を用意していると思わず、セシリアとアイは目を丸くする。
「敵の強さとしては第2騎士団が捕獲できる程度の魔獣だから脅威ではないから安心してよいよ。」
ハリアスの言葉にホッとするものの、魔法石が魔力を込めるだけでなく、魔獣まで閉じ込められるということには衝撃的だった。
「魔獣を殺すことが目的ではなく、あくまで封印することがもくてきだから、そこは注意してほしい。今から魔獣を開放するが確認したいことはあるかい?」
「――私は大丈夫です。万が一にも逃げられないようにシールドは張ってしまって良いですか?」
「その方が安全だろう!リア頼めるかい?」
「承知しました!」
セシリアはハリアスの言葉で訓練場をドーム状のシールドで囲う。
「よし!それじゃ出すよ!皆よろしく頼む!!」
「「「はいっ!」」」
――ぶわぁんっ!!
ハリアスが、魔法石を魔法で解き放つと、4足獣に翼の生えた3mはあるであろう魔獣キメラが一体現れた。
すぐにセシリアは身体強化と防御魔法の魔法を全員にかけると、リュシードは魔獣の足をあえて狙って魔道剣で切りつける。
殺さない程度に調整しているようだが、刃の切りつける素早さは尋常ではない速さであった。
セシリアは魔獣のランク的に自分が魔法を放つと殺してしまう可能性があったため、攻撃はリュシードに任せ万が一にのみ備える。
ハリアスとアイも圧縮聖魔法も膨大な魔力は必要なかったため1分ほどで圧縮聖魔法を作り出し、アイが魔力の塊を受け取り魔獣に圧縮された聖魔法で魔獣を囲い込む。
明らかに魔獣が聖魔法で弱体化した所でセシリアも封印魔法をいくつかの魔法で組み合わせて圧縮してからキメラに向かって放ち封印魔法はキメラを包み込む。
あっという間の出来事に皆固唾を飲んでみまもると、封印魔法に覆われた魔獣はどんどん小さくなり、飴玉サイズにまで小さくなってしまった。
「――ハリー!最初魔獣が入っていた魔法石にこの封印された魔物を閉じ込めてしまっても良いですか?」
「あぁ!そうしてくれ!」
セシリアの問にハリアスは頷くと、彼女は落ちていたカラの魔法石に、飴玉ほどの大きさにまで小さくなった魔獣を閉じ込めてしまう。
通常魔法事態は、イメージができれば形にしたり操ることは可能なのだが、普通の魔法使いには難しい魔法の組み合わせになると、イメージが困難となり魔術式を組み合わせて高度な魔法を使えるようにしているのだが、セシリアはイメージして魔法を使うことができた為、特に魔術式を組み合わせて使ってはいない。
今回の魔法石への魔獣捕獲も、セシリアのイメージで全てやり遂げている。
タイムを計っていたハリアスも、予定の5~6分に対して3分かかっていなかったことで、幸先のよい滑り出しに期待で胸を膨ませるが、魔獣1体と魔神では力さが雲泥の差であったので、何度もシュミレーションできるように1日4人は繰り返し訓練を行ったのだった。