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転生悪役令嬢の生存作戦  作者: 芹屋碧
2章 転生悪役令嬢は仲間と備える【3学年】
19/24

19…2つのXX


  







 「――リア…愛してる…これ友愛じゃないよね?」


 ペロっと自分の舌を舐めてから、情欲の籠った眼差しでハリアスは愛を囁く。

 今にもセシリアを食べてしまいそうな欲を必死で抑え込みながらも、彼の指はいやらしくセシリアの唇をふにふにと撫でまわしている。


 

 「……です」


 「ん?…なんて言ったの?」


 言葉を紡ごうと思っても、自分の鼓動が煩くてうまく声が出せないもどかしさで瞳には涙が溜まっていく。

 そんなセシリアが堪らなく可愛くて愛おしくて、ハリアスはわざと聞き返す。



 「――好きです!!‥‥私も…」


 

 「…友愛(・・)じゃなくて?」


 声音の調整すらできず、必死で告げた言葉はあまりにも大きく、自分の声の大きさに衝撃を受けた羞恥で、セシリアの声はどんどん小さくなってしまう。

 それでも嘘をつかず、今の気持ちをしっかり伝えたかった。


 冷静さを装おうとするハリアスも、言葉は冷静なのに、聞いてるそばから期待感で我慢できず、両手でセシリアの頬を優しく撫でまわしてしまう。

 


 「…友愛…じゃないです…」


 いてもたってもいられずにとはこのことだろう…


 ハリアスは撫でまわしていた両手でグイっとセシリアの顔を引き寄せると、もう一度唇にかぶりついた。


 荒々しいハリアスに雄を感じ、思わずきゅっと彼のジレを掴んでしまう。

 呼吸の仕方なんて忘れたかのように、何度も(ついば)むような口づけを繰り替えし、セシリアの柔らかい唇に吸い付いてはちゅぽんっと離し、彼女の唇が真っ赤になるまでハリアスは幾度となく繰り返す。

 満足して離れた時にはセシリアは脱力し、首まで真っ赤に染めたままハリアスの胸にしなだれかかるしかなかった。


 「――絶対誰にも渡さないし、絶対に奪わせない。だから私の愛に溺れて♡」


 (!!!)


 ―――がばっ!!



 力が抜けきっていたセシリアのどこに余力が残っていたのか?

 突き放すようにハリアスの体から離れると、セシリアの目は悲し気に揺れていた。



 「――リア?」



 「…ダメなの!!溺れちゃ・・・ダメなの!!」



 「え?どういうこと??」


 突然のセシリアの言葉にハリアスの思考は追い付けない。



 「…私が守り人なのは、1人の人だけを愛してしまう気質の為なんです!!」


 「…それは良いことじゃないの??…俺は嬉しいけど…」


 ハリアスの言葉に、セシリアは首をぶんぶんと横に振る。


 「…私が愛すると、魔神グリムディアとの親和性が強まってしまうんです…そうしたら…きっと憑依されてしまう…」


 「ぇえ??…それじゃセシリアは俺を愛しちゃいけないって思ってるの?」


 コクンとセシリアは力なく頷く。


 「…う――ん…愛ってそういうものかなー?」

 セシリアの言葉に納得のいかないハリアスは疑問を言葉にする。


 「私は人を愛することが原因で体を憑依されるとは思えないんだけど…」


 「――何故?!」


 「…ん――まず女神ネフレテも愛の神でしょ?普通なら素晴らしいものと捉えるのか普通じゃないかい?

…でも魔神の愛情は執着愛で歪んでいる愛だよね?

自分本位で、自分の好きな相手以外は死んでも良い!みたいな?」


 「えぇ、そうですね…」


 「2人の神は同じ愛でも全く違う。愛が悪いんじゃなくて、受け止め方や表現の仕方の違いなんじゃないかな?

 ――セシリアは魔神のような愛し方を、私に向けているのかい?」


 「いいえ!――私は好きな人と幸せになりたいです…好きな人と一緒になれなくても…恨んだり…陥れたりなんて…絶対しないです!!」


 「それなら大丈夫なんじゃないかな?愛を知ることで魔神と対話はできるだろうけど、憑依される人って気持ちが弱っている時なんだって教えてもらったことがある。

 セシリアが、私の愛を疑って心が弱ってしまわないように、私の愛を信じられるように、何度だって愛を囁くし行動でも示すから心配ないよ。」


 ハリアスは、セシリアを見つめながら彼女のネックレスを優しく撫でる。


 (――そうだ…ハリーは沢山の愛を表現してくれていた…)


 言葉だけじゃないハリアスの愛を感じて、つうっと涙が頬を伝う。


 「私…ハリーを好きになってよかった…きっと溺れても大丈夫…ですね!」


 「ふふ…溺れてくれたら私は嬉しいけどね♡でもきっとセシリアは大丈夫だと思うよ。

 あれだけ私にキスされて呆けてたのに、すーぐに元に戻っちゃう精神力(つよさ)があるんだから。」


 冷静さを折角取り戻したのにも拘わらず、ハリアスの言葉にまた顔が熱くなるのがわかる…



 あれだけ怖がっていた、人を愛するという行為が、ハリアスの愛で包み込まれて



「きっと大丈夫」



 ――何故かそう感じられたのだった。








 ***







 食事の準備ができたと知らせを受けて外へ出ると、東屋で料理人自らが、目の前で肉や野菜を焼いて調理してくれている姿が目に入った。


 「――わぁ!外で調理を見ながら食事できるなんて素敵!」


セシリアはテキパキと準備を進めている料理人たちを前にして歓喜する。


 手をつないでセシリアとハリアスが東屋へ入った少し後に、リュシードとアイも遅れてやってきた。


 「セシリアたちの方が早かったね!…ん――っ良い匂い!!バーベキューみたい!」


 「ーーバーベキューとはなんだい?」


 アイの言葉にハリアスが不思議そうに問う。


 「バーベキューっていうのは、外で炭とか薪を使って焼く料理のことだよ!開放感があって美味しいんだよね!」


 「本当!おいしそうだわ!」

 

 本当はバーベキューの良さを語りたかったセシリアだが、さすがに前世の話題はまずいのでおとなしく同調する。

 4人は椅子に腰かけると、食事を楽しみながら会話を弾ませた。


 「長期休暇入って早々に、こんな素敵な場所で美味しいご飯が食べれるなんて幸せだ――っ♡」


 「――そういえばアイの成績もかなりあがっていたわね!」


 「ふふふん♪頑張ったかいあったよ~!総合で30位ってすごいよね???みんなのおかげ♪」

 

 満面の笑みで喜ぶアイを皆微笑ましく見つめている。

 

 (ーーたとえ今が厳しい特訓の前だろうと…楽しんだって良いはずだよね!)


 料理を噛みしめながら、セシリアも今の幸せを堪能する。

 次から次に運ばれる料理は、目の前で調理されることでより楽しめてあっという間の時間だった。


 「――さすがバトネ公爵家の料理人だね!とてもおいしかったよ!」


 ハリアスも満足そうにセシリアに微笑みかける。


 「お口に合ってよかったです♪――皆さんこの後はどうしますか?」


 「今夜は明日からの特訓に備えて早めに休んだ方が良いだろうね。すでに訓練メニューは用意してあるけど、かなり精神力を使うはずだから。」


 セシリアの問いに、ハリアスは明日からの事を案じているのだろう。初めての連携魔法の訓練なのだから、精神力をごっそり持っていかれるに違いない。

 皆納得して頷き合った。



 「それじゃ明日からよろしくね!!」

 アイは元気よく告げると、セシリアにさりげなくウィンクした。


 (――おや?…これはもしかして???)


 なんとなく察したセシリアはアイににっこり微笑むと別れを告げた。


 「リア…ちゃんとゆっくり休むんだよ?」


 「え?…えぇ、勿論です!」

  

 じいっと見つめてくるハリアスの目は、明らかに疑っている…それでも私が肯定すると、優しく頭を撫でてから額にキスを降らせ、部屋に戻っていったのだった。



 (…あ…甘すぎる!!!)



 お互いの気持ちが通じ合うと、こんなにも甘い空気が漂うものなんだろうか?!

 先ほどのアイの仕草も気になるし…言いようのない高揚感に顔が綻んでしまうのだった。

  






 ***





 ―――コンコンっ

 「…セシリア…起きてる?」


 静かに扉を開けると、そこにはアイが夜着に着替えて佇んでいた。

 2人はベッドの上に腰を下ろすと、案の定アイは今日の話をしたいようだった。



 「…もしかして告白できたの?」

 ワクワクしながら枕を抱きしめながらセシリアは問う。


 「ふふふふ…できた♡」

 アイの照れるような笑いは、間違いなく良い結果だったのだろう。


 「リュシードは…なんだって??」

 セシリアは何となくわかってしまってはいたが、それでもアイの口から聞きたかった。

 なんだか聞いてはいけない話のような気分で少し小声になってしまう。


 「リュシードもおんなじ気持ちだって♡」


 ――きゃぁぁぁぁああ♡


思わず2人は小声で叫び、両手を絡ませ合いながら歓喜する。

 リュシードがどんな返事をするのかすごく気になっていたが、しっかりアイの気持ちに応えてくれたことに、ものすごくほっとした気持ちになった。


 「…最初はお互い好きだったとしても、受け入れてもらえないんじゃないかな…とは思ってたんだ。だけど、リュシードも私がいついなくなっちゃうかわからないから胡麻化したくないって…なんかすっごい嬉しかった!」

 

 アイの喜びが痛いくらいに伝わってきて、自分の事のように嬉しかった。

 正直セシリアも、リュシードがきちんとアイの気持ちを受け入れてくれるのかは案じていたのだ。

 ハリアスに忠誠を誓っているからこそ、「まだいつ何が起こるかもわからないときに恋愛なんて考えてはいられない!」なんて言いかねない。

 だからこそ、リュシードの英断に更に嬉しく感じたのだ。


 「…私もっと頑張るよ。何が起こるかわからないけど、この4人なら、きっとできるよね!」


 「えぇ!私もそう信じているわ!」


 ぎゅっと抱きしめあい喜びを嚙みしめあう。

 



 「―――それで?セシリアは?」



 ――――どきっ!!


 

  聞かれたら答えればよいかな?位に思っていたセシリアは、突然のアイの口撃(こうげき)に抱きしめる腕に力が入る。


 「おやおやおや~?…まーさかセシリアは、私の話だけ聞いて自分のことは話さないつもりだったのかな~?」


 アイの追及には図星でしかない…


 「で?何があったの?」


 「あ――…えっと…その…好きって…言われた…」


 ―――きゃぁぁぁぁああ!!!


夜なのにアイは思わず大きな声で叫んでしまう。


 「ちょっ!大声ダメだってば!!」


 セシリアは慌ててストップをかける。


 「ごめんごめーん♡まさか私たちがいない時に、そんなことになっているとはね~ちゃんと応えた?」


 「…うん…」


 「え?!セシリア返事したんだ!?

そっちのがすごいよ!!あれだけ悩んでたもんね…良かった…」


 わいわいキャーキャー騒いでいたアイは突然ぽろっと涙を零す。


 「え?!…アイ?!」

 アイの涙に驚愕するセシリアの胸飛びついた。

先ほどまで笑っていたとは思えないほどの変わりように、セシリアはアイがいかに自分を案じてくれていたのか痛感した。


 「1人で…悩んでほしくなかったから…良かった…」


 アイだけは気づいてくれていた。私が自分の未来(・・)に怯えていたことを。

 それでも私たちは見守りあって、励ましあって、今を楽しんで生きてきた。


 たった1年の付き合いかもしれないけれど、その1年は私たちにとっては重い重い1年だったのだから。


 


 その夜私たちは抱きしめあったまま、一緒に深い眠りに落ちたのだった。


 

 

 

 

 

  

 




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