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一話

 俺はギルドの中で一番最弱の勇者だ。


 なのに、ギルドメンバーには何故か好かれている。


 ただ、俺に惚れてる奴等に言いたいことは一つ。

 

 俺は妹にしか興味ない!


「ハルカ。今日は俺と二人きりでデートしないか?」


「好きなもの買ってくれるならいいよ!」


「お兄さま。デートならユメミとしよ?」


「ユメミと行くなら、まず私と。ユメカと二人きりでデートしよーよ、兄さん」


「それならお姉さんの私としない? 年上として刺激的なデートを約束するわ。もちろん、最後は貴方のあまーい声を聞かせてちょうだいね?」


「こんな女たちよりもオレとデートしないか? オレならお前と同じ“男”なわけだし、オマエの気持ちも一番わかってやれると思うんだけどな。だからデートするならオレとだろ?」


「ユメミ、ユメカ、服が伸びるから離してくれ。チトセさんも胸が当たってるし、朝から物騒なことを言わないでくれ。

それとミチビキ。出会った時から言ってるが、俺はそっち系じゃないから、お前とのデートは一生無理だ。というかいい加減、妹と二人きりでデートさせろ!!」


 これが俺のごく普通? の日常。


 まわりからしたら、ハーレムに見えて羨ましいと思われ、あげくの果て、反感を買うに違いない。


 だが、しかし! 俺は養子でも腹違いでもない、しっかりと血が繋がっている実の妹のはるかのことが大好きだ。むしろ、愛していると言ってもいい。


 だからこそ、このハーレム状況はまったくもって嬉しくない。俺にそこを代わってくれというなら、速攻でも誰かに代わってやりたい。


 “現実世界”では、妹と当然のように一緒に暮らしていて、平和な生活を送っていた。


 ……この“異世界”に来るまでは。


 学校という言葉もなんだか懐かしい気がする。


 魔王を倒せば、現実世界に戻れるとは言っても、このギルドメンバーとレベルじゃ無理だろ。つーか、そもそも魔王ってのは何処にいるんだ。


 あと、誰でもいいから早く俺を妹と二人きりでデート出来る環境を作ってくれ。


 それは数ヶ月前、俺たち兄妹が異世界転移したときに話は遡るー


◇ ◇ ◇


「お兄ちゃん、起きて! そろそろ起きないと学校遅刻しちゃうよ? 朝ご飯食べる時間なくなっちゃうよ!」


「う~ん....」


「私、お腹空いた! だから早く朝ご飯作って?」


「んー....確かに、それは俺が起きないとまずいな。俺の愛する妹が飢え死にしても困る。それと、おはよう遥」


「おはよう! お兄ちゃん」


 朝から可愛い笑顔を俺に向けてくる美少女は星崎遥(ほしざき はるか)。今年の四月から俺の通う星ヶ丘高校に入学したての一年生だ。


 俺の上に乗っていても、全く重さを感じないほどに軽い。まるで子猫にでも乗られているような感覚。


 ....あぁ、今日も俺の妹は可愛い。


 身長145cm、胸はAカップ、お尻まである黒髪をツインテールにしている。見た目が童顔で幼児体型のせいもあり、町を歩けば未だに小学生に間違われるほど幼い。俺と歩けば親子に間違われることも度々。

 

そんな少女は義理でもなければ、養子でもない。血の繋がりのある、れっきとした俺の妹だ。


 遥の兄である、俺こと星崎トワは妹の一つ上で高校二年。身長は百七十九センチと高校生にしては高め。自分でいうのも恥ずかしいが、成績は学年でも十位以内をキープしている。運動は人並みだ。


 妹好きが重度すぎるせいか、ある一部からは「残念なイケメン」というあだ名まである。

 

 男子に聞いた話によると、俺にはファンクラブがあるらしい。俺は認めてないから、非公認ではあるのだが。そもそも俺はイケメンじゃない。が、まわりからはそう見えるのか?


 たしかに毎日のように女子から告白を受けるが、「俺には妹がいるから」と言って断っている。


 正直、こんなシスコンを好きになる女子には罪悪感を感じてしまう。俺以外にもっといい男は余るほど存在してると思うんだが……。


 これは俺の偏見がかなり入っているが、妹好きに悪い奴はいないだろ。


◇ ◇ ◇


「いただきま~す! ....ん、やっぱりお兄ちゃんの手料理は美味しいね」


「ありがとな」


 今日の朝食は妹好みの甘い卵焼きと玉ねぎサラダ、ワカメの味噌汁に炊きたてのホカホカご飯。ザ、和食。ちなみに全て俺の手料理だ。


 遥は料理スキルが皆無だ。だからご飯作りは俺がやっている。それ以外の掃除や茶碗洗いといった家事は出来るんだが、飯作りは何度教えても一向に上達しない。別に俺はそれでも構わない。


 何か欠点があったほうがシスコンの俺には遥がより一層魅力的に写る。世間ではこういうのを「萌える」というんだろうな。


 大体、朝はこんな感じだ。可愛い遥に起こされ、一緒に朝食を食べる。俺にとってこれ以上ないくらい幸せな朝だ。


「今日の帰りは一条君に家まで送ってもらうから大丈夫だよ。お兄ちゃんは遅くまで生徒会でしょ? 毎日大変だね、お疲れ様」


「“また”一条か....」


 一条というのは紹介もしたくないが、仕方ないからしてやるか。


 一条流架(いちじょう るか)。遥と同じクラスで、遥がこよなく愛しているらしい相手。遥曰く、「交際相手」らしい。が、俺は認める気は更々ない。


 ただ放課後は一人で帰らせるのは危険だし、その点で言えば感謝してやらないこともない。

 労いの言葉を愛する遥から聞けたのは励みになるが、そのあとの言葉が余計だぞ、妹よ。だが、そんなとこも可愛い。


 無自覚は時に罪だな……なんて思う今日この頃。


「ご馳走様でした。今日もお兄ちゃんの手料理美味しかったよ! って、あー!」


「どうしたんだ?」


「遅刻! 時間、時間見て! お兄ちゃん!」


「今から行ったとしても完全に遅刻だな」


 悠長に話している暇なんて、俺たちにはなかった。ただ、遥と会話しているとすぐに時間が過ぎるのも事実。楽しいと時間が早い。これは誰しもが共感してくれるはず。


「ボーっとしてる暇なんてないよ、お兄ちゃん! ほら、早くっ!」


 グイッっと俺の腕を引っ張り、玄関まで連れていこうとする遥はなんて可愛いんだ……。こんなことをしてくれる遥が見れるなら、俺は毎日遅刻でも悪くない。


 遥は、ガチャっと玄関の扉を開ける。しかし、俺たちの目の前に現れたのは、今までに見たことないが景色だった。


「「……え?」」


 お互いに顔を合わせ、辺りを見回した。


 遥の横顔は今日も可愛いな。さすが俺の妹。と悠長に遥を見ている場合ではなさそうだ。


 上を見ると綺麗な青空で俺たちがいる世界と何も変わらないと思ったのも束の間、空には普通にドラゴンが飛んでいるじゃないか。


 あれ、襲ってきたりしないか? 遥に指一本触れされる気はねぇが、さすがに炎を吐かれれば一溜りもねぇぞ。遥と一緒に死ねるのは悪くないが今じゃない。


 俺が感じた違和感はそれだけじゃない。空には二つの月があった。日本には、まず存在しない。仮に外国だとしてもドラゴンはいない。……その時、俺は全てを察してしまった。これが異世界ってやつか、と。


 ラノベでよく見るやつはトラックに跳ねられて転生したら異世界でしたってのが王道だと思っていたんだが、この場合は異世界転移ってことになるんだろうか。


 なんにしても大好きな遥と異世界に来れたのは不幸中の幸いだ。いや、むしろ遥を危険な目に晒すことになるのか?


 盗賊なんかに襲われて身ぐるみを剥がされそうになったり、触手で遥のイヤらしい姿を目に焼きつけたり……って、俺は何を考えてるんだ。


 遥を守るのが兄の役目。遥のエロい姿なんて……見たくないといったら嘘にはなるが。


「わ~! 可愛い~!!」

「!?」


 遥が何かを見つけ走り出した。見知らぬ土地でそれは危険すぎる……! 

 知らない以前に異世界だったら尚更危ない。


「シャァァァァア」

「きゃっ……!?」


「遥っ……大丈夫か!?」

「モンスターみたいなのに液体かけられただけだからヘーキ。でも制服がベタベタになっちゃった」


「っ……!」


 遥の制服が白い液体で汚れている。普通の兄ならすぐさまハンカチか何かで拭き取るところだろう。


「少しジッとしてくれ」

「う、うん。ありがとうお兄ちゃん」


「あ、あぁ」


 俺だって普通の兄なはず……なんだ。だから、たとえ遥が少しエッチな姿になっても、俺はなんとも思わない。


「にゃっ……なん、で?」

「遥。どうした!?」


「服がねっ、溶けてるのっ……!」

「あのモンスターのせいか……!!」


 俺は急いでジャケットを着せた。

 ……正直、目のやり場に困る。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「な、なんでもねぇ」


 そっぽをむく俺。さすがに直視出来ねぇ。


 なんでかって? 服が溶けるときに何故だかわからないが胸のほうから溶けていったから。いくらシスコンの俺でも遥の胸をまじまじと見るほど飢えてねぇし。


 あやおく遥のピンクの何かが見えるところだったが、服を着せたからギリギリセーフのところで見ずに済んだ。もうすぐで俺の理性が飛ぶところだった。本当に危なかった。


「俺はモンスターを倒してくるから、そこで待っててくれ」

「お兄ちゃん大丈夫?」

「余裕だ」


 とはいったものの、現実世界の日本において、こういったモンスターの類は出会ったことがない。それこそファンタジーのような空想上の生物だと思っていたから。だが、今はファンタジー世界こそが俺がいる現実なんだよな……。


 異世界転移したって実感はないが、遥を守るためだ。カッコいい姿を見せるなら今だろ。俺は近くに落ちてある木の棒を手に取り、構えた。ここが剣とか銃とかならカッコ良く決まったのにな。


「モンスター、かかってこい」


「キシャァァァァァ」


「……っ!」


 飛びかかってきやがった。助走をつけてアタックされたせいで身体が痛い。


「お兄ちゃん!」


「遥は危険だから、そこから動くな」


「う、うん」


 遥が心配そうにこっちを見ていた。今にも泣きそうな表情を浮かべている。

 俺はなんてダセェんだ。こんなモンスター一匹に手こずるなんて。兄として情けねぇ。


 弱い、な。俺にもっと力があれば遥を守ることも出来たのに。


「「「シャァァァァア」」」


「ふぇ……いっぱい集まってきた」


「クソッ!」


 仲間を呼んだのか。あっけなかったな、俺の人生。こんなところで死ぬなんて。あぁ。せっかくなら死ぬ前に可愛い遥とキスがしたかった。


 遥に嫌われるのが怖くて結局、手を握るくらいしかしなかったんだよな。だが、最後に遥の胸も見れたし、案外俺の人生も悪くなかったかも……なんて。


「お兄ちゃんをいじめるな~!!」


「!?」


「ギァァァァァ!」


「お兄ちゃん、怪我してない?大丈夫!?」


「あ、ああ」


「良かったぁ~」


「……」


 ウソだろ……? 俺は夢でも見ているのか。俺の目の前には大量のモンスターが血だらけで倒れている。

 遥には返り血らしきものがベッタリとついている。が、遥に至っては手が少し赤くなっている程度だ。


 一体なにが怒ったんだ? 俺の見間違いでなければ、俺がモンスターに殺られそうになる前に遥が前に出て、モンスターにパンチを次々と食らわしていた。

 俺が木の棒で叩こうとしてもスゴいスピードで逃げられたのに。それどころかモンスターに一発食らっただけでも激痛だったってのに。


 遥は一切のダメージを負わず、モンスター全匹を全滅させた。遥は身長も小さいし、握力だって両手合わせて三十もないのに……。

 お世話にもモンスターを倒せるほど強くはない。むしろ、ひ弱だ。


「遥。俺が知らない間に護身術でも習っていたのか?」


「え? ううん。たまたまパンチが当たっただけだよ。えいっ! ほら。遥パンチ、全然痛くないでしょ?」


「……うっ」


「ごめん。お兄ちゃん。もしかして、強く殴りすぎた?」


「いや、大丈夫だ」


 遥パンチは俺にとって破壊力抜群だ。痛みを感じない。 むしろ、遥から殴られるから心地が良い。


 ただ、勘違いしないでほしい。俺は遥に虐められたいとか、そういう欲望はないぞ。しかし、不思議なほどに痛くないが、これでモンスターを倒したなんて未だに信じられないな。


 なんにせよ、俺の可愛い遥に怪我がなくて安心だ。ここで遥が怪我をする大惨事になっていたら、モンスターの住処ごと燃やし尽くさないと俺の気が済まない。が、今の俺じゃモンスターから返り討ちに合うから、今回はやめておこう。


「それよりも同じ場所に留まるのは危険だ。とりあえず街まで歩こう」


「うんっ!」


 異世界に来て最初にすることといえば、街に行くのがお決まりだよな。遥の破けた制服も気になるし、とにかく街だ。街に行けば武器も揃うし。


 レベルも……わかるんだよな。この感じだと俺のレベルは期待出来ないが。

 せめて遥を守れるくらい、人並みレベルだと有難いんだが。


 こうして俺たちは街に向かうのだった。

この作品が面白い!と感じた方は星をマックスで評価してくれると嬉しいです。今後の作者のモチベにも繋がります。よろしくお願いします。

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