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第13話

 楽しかった撮影の余韻を残しつつ、週末はあっという間に過ぎ去ってまたいつものスクールライフを過ごしていた。

 なんだかんだで週も後半で残すところあと二日となっていた。


 撮影した写真はといえば……、控えめに言っても最高……!


 そりゃぁもう、このまま写真集にしてとっておきたいくらいにエモい。


 姉ちゃんも、投稿用の写真の選定に頭を悩ませていた。嬉しい悲鳴ってやつだな。


 そんなこんなで姉ちゃんも喜んでくれたし、俺も楽しかったしでめでたしめでたし……、のはずなのに、俺はあることに頭を悩ませていた。


 あること、というのは……、言わずもがな中条のこと。


『そっか……よかった……』


 俺がひよりと付き合う気はないと聞いて、あいつはほっとした顔でそう言ったんだ。


 それはつまり、中条は……ひよりのことが好きってことだろ。


 思い返してみれば、思い当たる節は、ある。

 俺がひよりと話してると必ずと言っていいほど間に入ってきたし、掛け合いは阿吽の呼吸のごとく息はぴったりだし、俺のタイプなのかとか探りを入れて、ひよりが俺のことを構うのは好きだからだろって突っかかってきた。

 極め付けは、女子にはいつも紳士な中条がひよりにだけ塩対応ってことだ。


 そう、あれだ。

 好きな子の前では素直になれず、ツンツンしちゃう典型的な男子。


 その時々は、気にもしていなかったけど……。


 点と点が繋がって、一つの線になった。


 中条にとってひよりは特別な存在なのかもしれない、と。


 彼女にしたい理想はmicco(俺)だって言っていたが、誠に残念ながらmiccoは男だったわけだし……。そうなれば、身内から見てもかなりハイレベルな美少女であるひよりなら、中条のお眼鏡にかなうことも十分あり得る話だ。


 そこまで考えて俺はひどく憂鬱な気持ちになった。

 こういう身近な人の恋愛沙汰に巻き込まれるのは得意じゃないどころか苦手だ。


 というのも、中学3年の時、一番仲の良かった友だちを俺は恋愛がらみで傷つけてしまったことがあるからだ。

 友だちが思いを寄せる女子が俺のことを好きだった、というよくある話だったし、俺と友だちがそれで仲たがいしたとかそういうことはなかった。


 それでも、事実を知った時のそいつの傷ついた顔は、鮮明に俺の記憶に刻まれたまま、今でも忘れられない。


 自分のせいで、大切な人を傷つけてしまったという事実は、消えることなく俺をひどく臆病にさせた。


 だから、俺は極力地味に目立たず過ごすことを選んだんだ。


「はぁ……」


 重たい気分のまま登校した俺は、教室の前に人だかりができていることに気づいて足を止めた。


 廊下側の窓を覗く人、人、人。

 押し合いへし合い、どうにか教室の中を一目覗こうと人で溢れていた。


 そこで俺は思い出した。


 そうだ、昨晩中条が写った画像をリンスタに投稿するって姉ちゃんが言ってた。


 でも、もう? 早すぎじゃね?


「やっぱりそうだよ! 中条先輩だよ!」

「え、なんでmiccoと? ヤバくない⁉」

「全然見えないー!」


 人だかりに近づくにつれて、興奮した女子たちの声が聞こえてこの騒動の中心がやっぱり中条で、リンスタにあげたmiccoとの写真が原因だと言うことがすぐに判明。


 俺は、急いで人混みをかき分けてなんとか教室に入ることに成功する。


 中は中で、中条を取り囲むようにして人が集まっていて、肝心の中条の姿は見ることができない。


 人だかりの中からは、「miccoと知り合いだったの?」「miccoはどんな感じだった?」「またモデルやる気になったの?」など質問が飛び交っている。

ゆう

 俺は、ものすごく申し訳ない気持ちになった。


 俺と姉ちゃんの頼みをきいたばかりに、こんな面倒ごとに巻き込まれて……。

 中条は大丈夫だろうか。


 席に着いた俺はスマホを取り出して、中条に大事になってしまって申し訳ないという謝罪をメッセで送った。きっと今はそれどころじゃないと思うが。そのうち気づいてくれるだろう。


「おはよー」


 俺に気づいた太一が振り向く。それにおはようと返してから、「なんの騒ぎ?」と素知らぬ振りをしておく。


「これこれ」


 太一が俺に向けてきたスマホの画面には、案の定リンスタのmiccoの投稿写真が映し出されていた。


 昨日の夜8時に投稿されたそれは、俺(micco)と中条のツーショット写真。一枚目はソファに座る中条の膝上にmiccoが座っている写真。姉ちゃんが悩みに悩んだ一枚。


「すげぇ……」


 俺はその投稿のいいね数とコメント数を見て目ん玉が飛び出るかと思った。普段のmiccoの投稿の数倍もの数がついているではないか。しかもこの一夜にして。


「なんでも、miccoはこれまで誰ともコラボしたことなかったんだと」


 太一が親切に騒ぎの理由を説明してくれる。

 俺、当事者なんだけどね。

 とはもちろん言えないので、俺はほうほう、と興味津々の振りをする


「micco初のコラボ相手が、ほぼ無名でしかも国宝級イケメンで、誰だ誰だって騒ぎになってるらしい。もちろん、うちの学校のやつ等は誰かなんて一目でわかるよな」


「……だなぁ」


 今頃、アカウント見て姉ちゃんぶっ倒れてるかも。 


 この後少しして、騒ぎを聞きつけた先生が数名現れて人だかりは散り散りになって静けさを取り戻したものの、HRの後に中条は呼び出しをくらってしまった。

 まぁ、事情聴取くらいだとは思うが、本当に申し訳なくなってくる。


 ほとぼりが冷めるまでしばらくかかりそうだな……。


 これは埋め合わせしないといけない、と思った。







「ちょっとみっくん、これはどういうことなの!」


 昼休みにひよりにMainで呼び出された俺は、人気のない特別棟への渡り廊下にきていた。

 俺を待ち構えていた目の前の人物は、仁王立ちして水戸黄門の印籠のごとく腕を目一杯伸ばして俺の目の前にスマホを掲げている。


 近すぎて、見えないんだが。


 一歩下がってピントを合わせると、それはmiccoのリンスタの投稿。

 そう、今朝から騒がれている例のアレだ。


「あー、どういうことって……そういうことなんだけど」

「イケメン先輩がなんでmiccoのこと知ってるのかって聞いてるの!」

「バレたって言ってなかったっけ?」

「聞いてない!」


 めんどくせぇな……。


 口から出そうになる言葉を飲み込む。

 なにをそんなにツンケンしてるのか、知らんが、事を荒立てるのは得策ではないと知っている。

 俺は平和主義者だからな。


「ごめんって、ちょっと前に顔見られてバレて……、そしたら姉ちゃんが撮影に連れてこいって言うから連れてったらこうなったわけ」


 あくまでも、俺が望んだことではない、ということは強調しておく。

 しかし、目の前のひよりは目を吊り上げて、はいそうですか、と引き下がってくれそうにない。


「たまちゃん……ひどい……miccoとイケメン先輩を一緒になんて……。みっくんもみっくんだよ! なにのこのこ連れてってちゃっかり一緒に撮影してんのよ!」

「いや、だってお前、俺が姉ちゃんに逆らえるわけないだろ」

「それはそうだけど! なに嬉しそうにいちゃいちゃしてんの?」


 そう言ってひよりはスマホの投稿を横にスライドしていく。


「見つめあったり手つないだり、抱き合ったり! これなに⁉ なんでほっぺにちゅーされてんの? しかもめちゃくちゃノリノリで! 意味わかんない!」


 ずけずけと事実を言葉にされて、俺はもういたたまれない。


 こいつの存在をすっかり忘れていたけど、こいつからしたら男同士でなにやってんだって話だよな。そう考えたら、急に羞恥心が押し寄せてきた。


 うわ、めっちゃ恥ずかしい。


「しょ、しょうがないだろ……、姉ちゃんの頼みだったし。てかさ、なんでひよりに怒られてんの俺」


 黙ってたことは、百歩譲って良しとするが。

 なんで中条と一緒に写真を撮っただけでこんなにがみがみ言われなくちゃならないんだ。


「だって嫌なんだもん!」

「だからなにが」

「みっくんとイケメン先輩がいちゃついてるのが!」


 ……んん?

 なんで?


 俺の頭の上にはてなマークがポンポンポンッと立つ。


「いや、そもそも俺とあいつは男同士なんだけど……」

「それでも嫌なものは嫌!」


 俺があいつと仲がいいのが嫌?


 ――あぁ! そういうことか!


 ひよりも中条が好きなんだ!


 俺ってば、なんで気づかなかったんだ!

 ひよりが俺に会いにくる理由、それは中条だったんだ。それならいろいろとつじつまが合うじゃないか。

 ずっと、なんでだろう、と思っていた謎が解けて胸がすーっと晴れていくような気分だ。


「悪い……今度から気を付けるよ……。でも、俺とあいつはお前が思ってるような仲じゃないから安心しろ! な!」


 毛を逆立てたリスみたいなひよりの肩に両手を置いて念を押せば、ひよりは表情を緩めてぽかんとした。


「安心……していいの?」

「もちろんだ! お前の気持ちはよーくわかった!」


 そうだよな、いくら中身が男でも、見た目女のmiccoと自分の好きなヤツがいちゃいちゃしてれば気分いいわけない。


 そうと決まれば善は急げだ!

 相思相愛なら、手っ取り早くくっつけてやろうじゃないか。

 よし、俺に任せておけ、二人とも!


「ひより、今度の土曜日予定空けとくんだぞ! また決まったら連絡するから!」


 まだ口をぽかんと開けてあほ面を晒すひよりに「じゃぁな」と言って俺はその場を後にした。


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