表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

第1話

初なろう投稿作となります。お気軽にコメント等いただけたら嬉しいです。


「ちょっと試させて?」


 俺は、会話の前後から、その言葉の意図を理解できないまま、横にいるそいつを見上げる。

 俺よりも10センチは遥かに高い所にある顔は、とても綺麗で……、男に向かって綺麗だと言うのはあまり喜ばれないかも知れないけど、俺の目にはそう映った。


 明るく染められた茶髪と、耳に飾られた幾つものピアス。そのどれもが見劣りすることなく、よく似合っていると思う。


 試すって、何を?


 俺たちは今、掃除当番でごみ捨てに来ているだけなのだ。何を試す必要があると言うのか、疑問に思ってそう言おうと口を開いたとき――――


「んんっ?!」


 俺の口はなにか、柔らかいもので塞がれていた。

 言うまでもなく、それがそいつの唇で、ぬるっと差し込まれたのは舌であることにはすぐ気づく。

 何度も漫画やテレビで見ては、どんな感じなんだろうと想像していたキスだ。


 自分の身にそれが起こっていることに驚いた俺は、条件反射のようにそいつの胸を押しのける。しかし、腰をがっちりとホールドされていてびくともしない。顔を逸らそうにも、後頭部をがっしりとつかまれていてそれも無理だった。


「ん……ふぅっ……はっ」


 あ、やば……。


 ――キスって、こんなに気持ちいんだ……。


 初体験からの発見。

 なにがどうなってこうなっているのか、わからないけど。

 抵抗なんか忘れるくらいの快感に支配され、俺の頭にはそんな感想だけが浮かんでいた。


 甘い刺激に、脳が蕩けてしまいそうだ……。


「……っ……ふ……ん……」


 どのくらい、キスしていたのか。

 ようやく頭が現実を見始めた頃、俺は解放される。


「――はっ……はぁ……っ」


 しかし、俺は突然与えられた刺激的すぎる快感と酸欠とでふらついてしまう。


「大丈夫か?」


 ――しっかりしろ、俺!


 俺は男で、そいつも男だということを忘れてはいけない。

 しかも、ここは学校。


 恥ずかしいのに、朦朧とする頭で見上げれば、こちらを見下ろすそいつと目が合った。


 頬を上気させ恍惚とした表情に、不覚にも胸がドクン、と跳ねる。


 あぁ、忘れてた。

 こいつが、学年、いや学校一のイケメンだってこと。


 そのせいで、俺のファーストキスを奪ったやつを怒るべきなのに、そんな感情はなぜだか沸き起こってくる気配がない。


 「そんなに良かった? 俺のキス」と言わんばかりのドヤ顔に、見惚れてしまう。


 くっそ……。

 悔しいけど、言い返せない。(言われてもないけどな)


 俺がなにも言えないでいると、そいつはとんでもないことを口にした。


「あー……やば……、その顔めっちゃそそる、もっかいしてい?」


「いっ、いいわけないだろ! バカやろぉぉぉおおおお!」


 俺は走って逃げだしていた。





 時はさかのぼること1カ月前の4月。

 うららかな春の陽気に包まれたこの日は始業式だった。

 無事に進級を遂げた俺は、「2-2」というプレートの掲げられた教室にいた。


 学年が変わり、クラス替えがあり、担任も変わり、心機一転新学年を迎えた教室は、階が変わっただけでつくりは何一つ変わらない。


 そのせいか、俺はなんの感慨深さも感じられない高校2年生がスタートを切っていた。


 俺の名前は、片瀬尊かたせみこと。青春を謳歌する花の16歳。

 ……と言いたいところだけど、そんなリア充とは縁遠い存在の俺。


 瓶底黒縁眼鏡に、ぼさぼさ頭。身長だって男のくせに170もない低身長の、いわゆる女子からは見向きもされない地味男子だ。

 顔のつくりは悪くはないと思うけど、訳あって学校ではあえて隠していた。


 その訳とは、俺のある特殊な趣味によるものだ。


「ねぇ、miccoみっこのリンスタ見た?」


 朝の教室で一人静かに過ごしていると、クラスメイトの女子のトーンの高い声が耳にストレートインする。


 miccoとは、特に女子高生に人気のファッション系リンスタグラマーの一人で、miccoが着た服は高確率でバズる、と言われている。


 小動物を思い起こさせる可愛いさと清廉さとで男女問わずフォロワー数を伸ばしている。投稿は写真のみで、動画や声の発信も行っていないというミステリアスな一面も好奇心を煽っている一因かもしれない。


「見た見た! 今回も神コーデ!」

「だよね! てか、あのトップスのブランド知らなかった」

「あぁ、あれね、駅ビルに入ってるらしいよ! 気になって調べた」

「さすが、仕事が早い! 放課後寄っちゃおうかな~」


 きゃっきゃとスマホを見ながらはしゃいでいるクラスメイト達の話を聞いて、俺はちょっと誇らしく感じていた。


 なぜかって。

 それは、彼女たちの話題の「micco」がこの俺だから。


 え? よく自分で、小動物を思い起こさせる可愛いさと清廉さがある、なんて言えるなって?


 誤解しないでほしい。それは、世間からの評価であって、俺が言ったわけじゃない。


 言えてせいぜい「そこそこの顔」ってだけ。


 俺のもう一人の姿であるmiccoが、俺が顔を隠している理由であり、俺の趣味は女装だということをここに宣言しよう。


 だけど、誤解の無いようにこれだけは言わせてくれ。


 俺の趣味は女装だけれど、恋愛対象は女性だと言うことを。


 ややこしいヤツと言われても仕方がないけど、俺は、可愛いものが好きなだけなんだ。


 だから、決して俺の恋愛対象が男だとは思わないように。


 女装が趣味なんて、こいつ頭おかしい。と思われても仕方ないけれど、これには深刻な歴史的背景があることも言っておく。


 俺には、3つ年の離れた姉ちゃん・たまきがいる。

 あぁ、もうここで察しがついた人も居るかもしれない。

 そう、俺は生まれた瞬間から姉ちゃんの「お人形」という宿命を背負っていた。


「ままぁ、たまちゃんがみっちゃんのおむつかえたげるね」

「はい、みっちゃんあーんして」

「みっちゃん、髪の毛結んであげる―」

「お洋服はたまちゃんが選ぶね」

「みっくん、肌綺麗! ちょっと化粧させて」

「え? ヤダ? お姉さまの言うことが聞けないの?」

「尊、これ(スカート)着て買い物行こ」


 慣れとは恐ろしいもので、物心つく頃には女装に抵抗は全くなく、今では俺自身も可愛いものを見たり集めたりするのが好きになってしまった。


 そして、幸か不幸か、俺の愛らしい顔と華奢な体が相まって、それ(女装)も違和感がないどころか、こう言ってはなんだが、そこら辺の女子よりもしっくりと似合うのだ。


 さらに、それが環の琴線に触れたのか、彼女は小学生高学年の頃から俺に自分で作ったものを着せるようになる。


 それはヘアアクセなどの小物から始まり、スカートやワンピースなどに派生して、本格的なゴスロリなどまで作れるようになっていったから驚きだ。


 好きこそものの上手なれ。


 もう、その一言に尽きる。


 それを証明するかのごとく、趣味が講じて今は服飾系の専門学校に通いその道を極めようとしているから天晴れだ。


『だって、尊の可愛さを最大限生かせるのは私しか居ないでしょ』


 彼女曰く、そういうことらしい。


 ちなみに、俺(micco)のリンスタグラムの運営はすべて姉ちゃんがやっている。


 もともとは、姉ちゃんのオリジナル服ブランド【micco】(そのまんま)の宣伝用アカウントとして開設したのだが、モデル担当の俺(micco)の人気に火が付き、あれよあれよとフォロワー数が増えていき、いつの間にか俺のアカウントになってしまった。


 姉ちゃんの作る服はどれも即買い手が付くし、姉ちゃんと俺の趣味で載せたコーデもどこのブランドのものなのか教えてほしいというコメントやらDMが殺到する。(今は逐一ブランド名から下丁寧に商品名まで載せているため問い合わせは減ったし、晴天ルームを活用して収入を得ているチャッカリ者の姉。もちろん俺も協力料としておこぼれに預かっている)


 だから、さっきクラスの女子たちがmiccoの話で盛り上がっているのを聞いて誇らしく思ったというわけだ。


 でも、俺=miccoは、絶対に誰にもバレてはいけない企業秘密。



「あっ! 佑太朗ゆうたろうくん来た!」 


 女子の声って、どうして否応なしに聞こえてくるんだろうか。思わず耳を塞ぎたくなる衝動をぐっと我慢する。


「同じクラスとか、最&高なんだけど」

「もうさ、今年度の運使い果たした気分」


 俺は、女子にそこまで言わしめる注目の的「佑太朗くん」を盗み見た。


 中条佑太朗なかじょうゆうたろう

 明るい茶髪のマッシュヘア。

 両耳には複数個のピアス。

 その装飾に負けることのない、端正な顔は、月9の主役級。

 つまり国宝級イケメン。

 街中でスカウトされたこと星の数。


 しかし、本人は至って興味が無いらしく、気が向いた時だけ単発のモデルを暇つぶし&小遣い稼ぎに受けているとかいないとか。


 性格も明るくて社交的。交友関係も広く、トラブルを起こすわけでもなく教師からの評判もいい。

 強いて言えば、女と言う女は手あたり次第たらし込む博愛主義者なのが、玉に瑕。

 芸能界に入りたくない理由が「女」にあるのでは? と推測されるほどの女たらしでもある。


 そんな理由から、この学校でヤツの存在を知らない人は居ないと言っても過言ではないだろう。

 友だちもろくにいない地味男子の俺ですら知っているのだから。


「あ、良かった、結構知ってる顔いるー」


 顔見知りのクラスメイトの肩に腕を回してそう言いながら、彼は安堵の笑みを浮かべた。


 ――きゅうぅぅん!


 女子たちは両手で胸を押さえて国宝級イケメンを見つめている。

 その健気な姿に、聞こえてくるはずのない、乙女たちの胸キュン音が聞こえてくるようだった。


 わからなくも、ない。


 中条は無邪気で屈託がないのだ。

 こんなにも、天真爛漫な男子高生を俺は他に知らない。


 だからなのか、生粋の女たらしでも、大きな(ここは重要)トラブルもなく、周りから愛されている。

 今だって、中条が教室に入ってきただけで、照度が上がったかのように空間が明るくなるんだ。


 まるで、春の陽だまりのような人だ。


 教室にいるだけでキノコが生えそうなくらいジメジメとさせてしまう、The陰キャの俺とは関わらない存在。


 ――――の、はずだったのに……。


 まさか、この国宝級イケメンとあんなことになろうとは、この時の俺には知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ