5:文明なき土地の基本ルール。
無人だろうと有人だろうと関係ない。
敵の戦車に出くわした歩兵の取るべき行動は一つ。
逃げる。それだけだ。
ユーヒチとウォーロイドは尻に帆を立てて雑居ビルの廃墟内に逃げ込む。大出力レーザーがお構いなしにぶち込まれて建材が蒸散爆発。爆発の高熱圧衝撃波に薙ぎ払われ、跳ね転がされて小汚い壁に叩きつけられた。が、ウォーロイドと同じくユーヒチも平然と立ち上がる。
レイヤードスキンスーツの耐衝撃機能を以ってしても、骨まで伝わる衝撃だった。
当然ながら痛みはある。痛いという理解はある。しかし、痛みは感じない。
死にかけたという恐怖も無い。恐怖や怯懦を抱いていることは理解しているけれど、感じてはいない。
過酷な環境で戦闘に、任務に集中して継続するべく感情や感覚を適応調整されている。地獄に合わせた人為的不感症。ユーヒチの心と感覚は幾層にも強く硬くマスキング済みだ。
自身に身体被害なし。ウォーロイド達の損傷は活動に影響なし。ならば、このまま逃げの一手を継続するのみ。
爆煙と粉塵が漂う中、ユーヒチとウォーロイド達は雑居ビルの奥へ駆けていく。
図体のデカさが仇となってビル内へ侵入できない無人戦車は、ビル内へレーザーを断続照射し続ける。
『! これは制圧射じゃない。ビルの基部や主要構造部を狙って撃ってるわ。直ぐにそこから退避してっ!』
トリシャの官能的な美声が耳朶を打つ。
おそらく『射線が取れないなら、ビルごと倒壊させよう』と判断したのだろう。ユーヒチは思わず毒づく。
「殺意が高すぎる。なんなんだあいつは」
単純で、意味のない疑問。
先行するウォーロイドが吹き抜けの先にある防火扉に体当たりし、無理やりぶち破った。
身を起こすウォーロイドを待たず、ユーヒチは裏口を目指して廊下を駆け続ける。繰り返されるレーザー砲撃と爆発でビル全体が悲鳴を上げ、揺れ続けている。老朽化して久しい建物だ。長くはもたない。
ユーヒチとウォーロイド達が裏口から小路へ飛び出す。瓦礫やゴミが散乱し、藪が繁茂する小路に出て、向かいの建物の地階――喫茶店だったらしい店舗のショーウィンドウを割り砕きながら飛び込んだ。
直後、雑居ビルが腰を抜かしように倒壊を始めた。
降り注ぐ瓦礫と粉塵の豪雨。大質量の落下と倒壊によって生じる風圧が喫茶店内にも襲い掛かり、再びユーヒチとウォーロイドが軽々と吹き飛ばされる。
調度品やらなんやらと共に建物の床を跳ね転がり、ユーヒチとウォーロイドは奥の調理場まで行き着く。
まったく散々だな。
ユーヒチは上体を起こした。身体のあちこちから痛みを解するけれど、それだけだ。ガラス片と瓦礫片を浴びたにもかかわらず、頑丈なレイヤードスキンスーツは裂けも破れもしていない。おかげで手傷を負わずに済んだ。
システム上で把握する限り、ウォーロイド達も細かな傷を負っただけで問題なかった。
不幸中の幸いと良かった探しすべきか。
『無人戦車は崩落現場に留まって周辺をスキャンしてるわ。動かないで』
守護天使の忠告に従い、ユーヒチとウォーロイド達は地下に潜って以来、バックパックに詰めていた可変色迷彩ポンチョをまとう。マギ・テク繊維が周囲の色相に合わせ、さぁっと変色していく。
ポンチョを目深にかぶったまま、ユーヒチは五眼多機能ヘルメットの索敵系を用い、ダウンバーストでぐっしゃぐしゃになった喫茶店の外、濃霧のように立ち込める粉塵の向こうを探る。
倒壊したばかりの雑居ビルはいまだ瓦礫が崩れる音色や、建材やらなんやらが倒れる音が続いていた。増幅系は分厚い粉塵を見通せない。熱探も動体捜索追尾も反応なし。聴音系と臭気系は雑反応が多すぎる。
アクティブで探るか。いや、逆探されると不味い。ここは大人しく様子見に徹しよう。
『不味いわね』トリシャが砂を噛んだような声をこぼし『今のビル倒壊で街の内外が騒がしくなった。いくつかの敵性民兵組織が皇国軍に通報、無人機も発進させたわ。10分以内に街の上空まで到達する』
「こっちは?」
『惑星再生機構も本社も事を大きくする気はないわ。だからこその私達よ』
つまり、敵は増えるが、味方の応援はなし。長距離偵察と強行偵察にありがちな事態。
「分かった」ユーヒチは鼻息をつき「無人機が飛来する前に撤収してくれ」
『どうするつもり?』
怪訝そうに問いかけてきたトリシャへ、ユーヒチは昼食のメニューを決めるような気軽さで答えた。
「ポンコツ野郎を始末して、徒歩で安全距離まで踏破する」
多機能ヘルメットを操作し、周辺地図を表示。ラ・シャンテ市から4~50キロほど離れた丘陵線を示す。
「この辺りまで行ったら、迎えの連絡を出すよ」
『そんなのダメ』トリシャが鋭い声を放つ『危険すぎるわ』
「オルキナスⅣとトリプルA級ウィザードを失う危険の方が問題だろ。本社は俺の判断を支持するさ」
経済的判断で言えば、高価な強行偵察用飛翔艇と天然ダイヤより貴重なトリプルA級ウィザードを失うより、有能な第一級現場オペレーターと経験を蓄積したウォーロイド4機を失う方がマシ。
「それに」
ユーヒチはいまだ晴れる気配を見せない粉塵の先を注視しながら、ヘルメットの中で極めて男性的な微笑を浮かべた。
「ちょっとした切り札がある」
数秒の沈黙。
『……分かった。撤収するわ』
トリシャが折れた。もちろん、憎まれ口も忘れない。
『ただし、生意気言った罰として、今回は無事に帰還してもエッチしてあげないから』
「一度も寝たことはないだろ。誤解を招く通信記録を残すのはやめてくれ。また呼び出しを食らう」
ユーヒチは淡白にぼやきながら、手信号でウォーロイド達に指示を出す。
突撃銃装備のウォーロイド2機がロケットグレネードの発射筒に、対センサー煙幕弾を装填。1機が手榴弾パウチから対熱光学兵器用妨害煙幕弾を用意。
そして、自身はタクティカルギアの胸部内側ホルスターから私物の回転式拳銃を取り出す。
削り出しの角型5インチ銃身。弾はケースレスの44口径マグナム5発。いずれも特別弾頭。
『死んじゃダメよ?』
「また後でな」
通信を切り、ユーヒチはウォーロイド達と共にゆっくりと立ち上がり、音もなく動き始める。
まるで幽霊のように。
○
雑居ビル一棟を倒壊させた無人戦車“ムト”114号は、不快な駆動音を奏でながら薄まり始めた粉塵の中へ歩みを進め、出来立ての瓦礫の山に登ってセンサー系を働かせる。
憎き惑星再生機構の走狗共は死んだであろうか。いや、あの程度で死にはすまい。きゃつらめは兎角しぶとい。友よ、我が友514号よ。彼岸より我が戦いを見守ってくれい。
音響探査で瓦礫の下を探りつつ、索敵系を総動員して周辺ビルもじっくりねっとり探っていく。やはり瓦礫の下に仇敵の骸は見つからない。周辺ビルも探り切れない。
我が配下たる随伴支援機が居てくれたならば、捜索も容易かろうに。1919号、4545号。お前達がこの場に居らぬこと、悔やまれてならぬ。
右後脚が足らない無人多脚戦車は砲塔をぐりぐりと動かし、周囲を見回した後、渋々と言いたげに瓦礫の山を下りていき――
突如、向かいの建物の屋上に影が生じ、二つのロケットグレネード弾が発射された。
砲塔上部の近接防御レーザーシステムが瞬時に稼働。発射された全てを精確に撃墜した。
熱光線を浴びたグレネード弾が破裂し、靄のように立ち込める粉塵を塗り潰すように濃密な煙幕を広げる。
煙幕が“ムト”114号を包み込んだ瞬間、全てのカメラ系が塞がれ、全索敵系がまともに働かなくなった。
ぬっ!! 我が耳目を潰すかっ!? 猪口才なりっ!! こういう時は煙幕の効力圏から速やかに脱っし、仕切り直すが吉っ!!
“ムト”114号が瓦礫の山から逃れようとした刹那、別の雑居ビル屋上から機関銃の斉射が降り注ぐ。
装甲が激しく叩かれ、貼りついている汚れやら苔やらが削ぎ落とされていく。
笑止っ! その程度の攻撃など――ぬぁああっ!?
煙幕弾を打ち込んできた向かいの建物の屋上から再度、グレネード弾が発射され、今度は近接防御レーザーシステムに阻まれずに直撃した。思いの外強烈な衝撃。ダメージ処理システムが35ミリ自己鍛造弾と評価。爆発成形侵徹体に第一外殻が抜かれたが、第二外殻までの空間とマギ・プレートが運動エネルギーと熱量を受け止め、熱量の吸収に成功。
なにィッ?! センサー系がボケているとはいえ、全周近接防御レーザーシステムは稼働したはずっ!? なぜロケットグレネード如きを打ち落とせぬっ!?
“ムト”114号は混乱する。センサー系が欺瞞されたため、対センサー煙幕が巻かれた直後に対熱光学兵器妨害煙幕が加えられたことを、把握できていなかった。
迎撃がままならず、一方的な機関銃掃射とロケットグレネードの斉射を浴び、“ムト”114号はごく当然のようにその場から後退より、即応反撃を選択する。脅威の排除に優る安全策無し、というわけだ。これぞ皇国精神的プログラムである。
ぬわああああんんんっ!! 小賢しいわっ! 吹き飛ばしてくれようぞっ!!
動きを止め、“ムト”114号は砲塔を巡らし、脚部を動かして姿勢を制御。ビル屋上を狙える射角を取るや即座に大出力レーザーをぶっ放す。
が、放たれた熱光線は思いの外大きく減衰し、蒸散爆発を起こすどころか命中したビル壁面を焼き焦がす程度だった。
これはっ!? ――謀られたっ!! 対センサー煙幕に紛れ、熱光学兵器の妨害煙幕までっ!! なんと卑怯卑劣なっ!!
賢い人工知能が即座に正答へ達し、“ムト”114号がこの場から撤退を選んだ、その時。
不意に掃射と砲撃が止み――
ゴッ、と砲塔基部のターレットリングに何かが固いものが当たった音を拾う。
ぬっ?
瞬間、車体上部に轟音がつんざき、ターレットリングがぶち抜かれて車体内に小型弾体が侵徹。“ムト”114号の視界が警告表示とダメージレポートと対策要請表示など無数のウィンドウに埋め尽くされた。
ぬぁあああああっ!? 抜かれただとっ!? ばかなっ!? 車体に登り上がって肉薄射撃っ!? そんな、いつの間
再びの轟音と衝撃が走った直後、“ムト”114号の戦争が終わった。
○
完全に稼働停止し、その場にゆっくりとへたり込んだ無人多脚戦車の背中の上で、ユーヒチは両手で構えていた回転拳銃を下げた。
身体強化とレイヤードスキンスーツのアシストがあってなお、発砲した手から痛みを理解する。
44口径マグナム・チタン被甲ヒヒイロカネ合金弾頭のスーパーホットロード。
バカみたいにクソ高価な合成金属ヒヒイロカネをチタン・ジャケットで包んだ特注弾頭を、過剰装薬でぶち込むという頭の悪すぎる銃弾だ。
強引に運動エネルギーを詰め込んだ超高密度質量弾は、肉薄距離なら戦車のターレットリングすらぶち抜ける。まさに奥の手。
問題があるとすれば、銃だけでなく弾も私物だから、この費用は完全に持ち出しということ。
『赤字になっても、死ぬよりゃマシ』という切り札。
出来れば最初の一発で仕留めたかった(費用的な意味で)。
「上手くいったな……」
ユーヒチは五眼多機能フルフェイスヘルメットの中で、集中を解いて大きく息を吐く。勝利の達成感も生き延びた安堵も無い。ただ、集中力を解くだけ。
対センサー煙幕は二重の搦手だった。一つは対熱光学兵器妨害煙幕の展開を気づかせないため。もう一つは自身の肉薄接近を気づかせないため。
俊敏かつ機敏に動く必要があったから、突撃銃やタクティカルギアやその他一切合切を置いてきた。リボルバー以外はヘルメットとスキンスーツとナイフだけ。
肉薄攻撃にしくじっていたら、死んだのは無人戦車ではなく、自分だっただろう。
ユーヒチが左手を上げて合流のサインを送ると、ウォーロイド達は屋上から迷わず飛び降り、古びたアスファルトを踏み砕きながら着地。何事も無かったようにユーヒチの許へ集結し、2番機が預かっていたユーヒチの荷物を渡す。
「4。このポンコツを修復できないよう中身を吹き飛ばせ」
ユーヒチが装備や荷物を身にまとっていく間、ウォーロイド達は周辺警戒に当たる。命令を受けた4番機が戦車のメンテナンス・ハッチを力任せにこじ開け、内部に爆薬をセットしていく。
ユーヒチが支度を終えると同時に、4が爆破準備を終えた。
『爆破準備を完了しました』
「よし。撤収する。充分離れたら爆破するぞ」
で。
ユーヒチ達が可変色偽装ポンチョをまとい、幽霊のように戦闘現場から立ち去ってから間もなく。
生き延びたスカベンジャー達が物陰からそろそろと現れ、用心深く息絶えた戦車の許へ近づいていく。無人戦車が完全に息絶えていることを確認すると、彼らは小汚い顔に欲望塗れの笑みを浮かべた。
「無人戦車をあっさり仕留めやがった……正規軍の奴らかな?」
「ンなこたぁどうでもええわ! 今はこのお宝を確保が優先じゃいっ!! ちゃっちゃかバラさねェと、他の奴らに横取りされっちまうぞっ!! 最低でも反応融合電池と電子系部品は回収すンだっ! 急げ!!」
野良の無人兵器は大抵が反応融合電池を持っている。インフラや産業が壊滅状態の文明喪失圏において、半永久的に稼働する反応融合電池は貴重なエネルギー源として、どこの勢力に持ち込んでも高値で売りさばける。文明喪失圏で製造が不可能な電子部品も同様だ。
というより、金にならないところなど無い。ポストアポカリプスな文明喪失圏では、精確に規格化されたネジ一つ、配線一本だって価値がある。この“ムト”114号は一週間も経たぬうちに完全に分解され、あらゆることに再利用されるだろう。
つまり、スカベンジャー達の言葉通り、この“ムト”114号は厄介な脅威からお宝に化けたのだ。
スカベンジャー達が嬉々として“ムト”114号に取りついた時だった。
彼らのことなど気にもかけていないユーヒチが、ウォーロイドに設置した爆薬の起爆を命じ――
“ムト”114号が爆発炎上。諸共にスカベンジャー達を吹き飛ばした。
そして、数時間に渡って炎上したムト“114号”の残骸とスカベンジャー達の死体の装備品などを巡り、別のスカベンジャー達とレイダーが抗争を繰り広げ、新たに増えた亡骸を土地の獣や虫達が貪り食らう。
ポストアポカリプス的食物連鎖。
ノヴォ・アスターテの文明喪失圏は実にプリミティブだ。
弱肉強食。
○
「ユーヒチさん、ヤベェっス」
班付メカニックの赤毛ドワーフ娘、シドニーがユーヒチの対戦車戦闘ログを確認して絶句する。
「そりゃ確かにセンサー系と熱光学兵器系をスモークで欺瞞すれば、肉薄出来るでしょうけど、そんなの基本的には博奕っス。センサー系や熱光学系を本当に誤魔化し切れるかどうかはスモークの密度次第と相手の性能次第だし、そもそも相手がスモーク内に留まってくれるかどうかも定かじゃないっス」
シドニーはディスプレイに表示されたログを凝視しながら、言葉を紡ぎ続けた。
「それにいくらヒヒイロカネ合金弾頭が最高クラスの硬度と密度を持つからって、所詮は拳銃弾でしょ? 砲塔のターレットリングが構造的に弱いっつっても抜ける保証はないっスよ。仮に抜いたとしても、弾丸が無人戦車の中枢部を確実に破壊しなきゃ意味無いっス」
しかも、とシドニーはディスプレイを指差した。
「見てくださいよ、これ! 呼吸も心拍も脳波もまったく乱れてないっス! 精神適応調整を受けてるからって、対戦車戦闘でこの数値はヤバいっスっ! イジョーっスっ!」
シドニーが言いたいことはこうだ。
ユーヒチ・ムナカタは伸るか反るかの博奕をいくつも重ね、万馬券を当てるような確率に命を懸けているのに、不安も恐怖も興奮も――それこそまったく冷静冷徹のまま、戦車に肉薄し、戦車をよじ登り、戦車のターレットリングに銃口を押しあて、戦車の中枢部を打ち抜き、ただ集中力を解く息を吐いただけ。
いくら精神や心理を弄られたハイチューンドにしても、これはちょっと、いや、割とガチ目にあり得ないことだった。肝っ玉が太いとか度胸があるとか、そういう次元でもない。
「私達のアルファ・オスはとっても素敵よね」
双眸を大きな眼帯で覆ったトリシャが、端正な顔立ちに妖艶な微笑を湛えた。
柔らかな唇を三日月状に曲げて上品に喉を鳴らすトリシャに、シドニーは絵本に出てくる悪い魔女を思い浮かべる。
ヤベェ……この人もヤベェの忘れてたっス。
○
凶暴な肉食動物や捕食性ミュータント、危険な土着コミュニティ、凶悪なレイダー、油断ならないスカベンジャー。
ケモノとまつろわぬ者達の目を掻い潜り、自然の征服が進む世界を4~50キロほどトレッキングし、ユーヒチとウォーロイド達は競合地域内でも比較的安全が確保できる丘陵線に到達した。実に三日掛かりの歩き旅だった。
蠢く碧色の空を覆うように鈍色の雲が広がっており、今にも泣きだしそうだ。
怪しげな変異樹が並ぶ森林を見下ろす丘陵線は、背の高い藪が繁茂していた。よくよく見れば、簡素な塹壕跡が残っており、回収が諦められた戦車や装甲車などの残骸がいくつか横たわっていた。どうやら第三次ララーリング半島戦争の古戦場らしい。
迎えが来るまでの暇潰しに、ユーヒチは錆塗れになった戦車の残骸を調べる(もちろん、ウォーロイド達は厳格に周辺警戒中だ)。
惑星再生機構のエレファンティⅥ型。
西暦時代のイスラエル軍主力戦車メルカバの流れをくみ、車体前方にエンジンを搭載したもので、搭乗員の生存性を重視している。
ちなみにエンジンやらなんやらも取り外されていた。惑星再生機構の回収員が持ち帰ったのか、スカベンジャーやレイダーに持ち去られたのか。
死して屍拾うもの無しというけれど、文明喪失圏では死骸は資源であり、お宝だ。
ここでは死も無駄にならない。
と、迎えより先に雨粒が落ちてきた。
マギ・セルを含むアスターテの雨は水面に浮かぶ油膜のように遊色で、角度によって様々な彩を見せる。それを美しいと思うか、不気味と感じるかは、人それぞれ。
ユーヒチ自身はこの七色に顔を変える雨を、宇宙文明世界から隔絶された女神の箱庭――ノヴォ・アスターテの特色と思っている。
美しくもあり、不気味でもあり――
『シンハ1。そろそろ着くわ。周辺に異常は?』
魔女の官能的な美声に鼓膜をくすぐられ、雑念が途切れる。
「少なくとも、俺達の観測圏内に脅威はない」
ユーヒチは通信に応じ、物言わぬ残骸の許を離れた。
そろそろ帰る時だ。
文明がまだ残っている世界に。
序章はここまで。
オマケ。
主人公が使ってるヘルメットは素顔が見えないタイプ。
理由はワイが創作物にありがちな、顔が見える透過型フルフェイスヘルメットが大嫌いだから。
主人公達が使っていたブルパップ式突撃銃のモデルは、クロアチア製VHS2のグレラン付きモデル。
ウォーロイドが使っていた機関銃のモデルはペチェネグ。
主人公が使っていた拳銃の外見モデルは、S&W:M627のパフォーマンスセンター
主人公のチーム名『シンハ』はヒンドゥー語でライオンの意。
主人公以外のメンバーが女性ばかりで、ウォーロイドが女性声に設定されているのは、ライオンの群れが数頭のメスとオス一頭で構成されるから。
ちなみに、チーム構成はトリシャが決めた。
ポンコツ戦車の元ネタは大友克洋の『武器よさらば』に出てくる無人戦車。
戦時中は戦車の114号と514号、随伴支援機の1919号と4545号。で隊を構成してた。という設定。




