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ノヴォ・アスターテ:女神の箱庭。あるいは閉ざされた星。  作者: 白煙モクスケ
第3章:オペレーション・ジャバウォック

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42:意識と価値観の相違。

 武器商人と聞けば、小銃から大型兵器まで取り扱う業者を思い浮かべるだろうが、ノヴォ・アスターテにおいて武器商人の最大商品は『弾薬』だ。


 極端な話、銃なんてものは原料の金属と加工機械があれば、町工場でも作れる。性能や安全を考慮しなければ、工具と鉄パイプがありゃ作れる。炸薬を起爆させる機構とその衝撃に耐える強度があれば、銃という機械は最低限成立する。


 ところが、弾薬は違う。

 人類が黒色火薬で遊んでいた頃ならともかく、宇宙技術文明時代の実体弾は火薬の金属薬莢弾薬ではなく、電子励起炸薬を成型した無薬莢弾薬か電磁投射の飛翔体だ。当然ながら無薬莢弾薬の製造には電子励起炸薬を量産する高度な化学プラント、炸薬が完全に機能するよう成型する専用製造ラインを必要とする。


 高等技術で製造される以上、供給元も限られる。

 大災厄以前。統一連合政府は弾薬の製造拠点を惑星内の各所に限定し、年間生産量を厳格に定めていた。熱光学系兵器も軍用レーザーの触媒は流通を厳しく制限していたし、電磁気系投射機の原料や材料も監督下に置かれていた(これだけ管理統制しても火器を用いた叛乱やテロは起きた。水漏れや抜け穴を完全に塞ぐことは実に難しい)。


 当然ながらカタストロフィ後、現在の列強以外で新たに弾薬製造工場などを建設できる国や勢力など存在しなかった。

 つまり、ノヴォ・アスターテの復興圏や停滞圏、文明喪失圏で流通している弾薬は、総じて列強が供給したり売却したりした物か、あるいはそれらの転売や横流し品だ。


 少し脇に逸れるが、カタストロフィで文明水準が後退した地域、あるいは復興できない地域で自給できないものは弾薬に限らない。というか、あらゆるものを作れなかったり足りなかったりしている。


 衣類を例に取ろう。

 戦場跡や廃墟で回収できる廃棄品や異物を除けば、衣類を産業化している勢力は驚くほどに少ない。

 ナノスキンスーツや多機能ヘルメットのハイテク衣料品や装具類は当然として、何の変哲もない普通の衣類や装具、靴すら自給出来ない勢力や国などがいくらでも存在する。


 化学繊維を作れない。合成皮革が作れない。家畜や植物から作る天然繊維や天然皮革も足りない。生地の染料がない。裁縫器具がない。あっても足りない。人手もない。靴にしても皮革が足りない。靴底用のゴムがない。加工できない。

 である以上、他所から入手するしかない。買うか、交換するか、奪うか。


 列強は様々な事情から併呑できない地域や勢力に対し、こうした物資で懐柔し、隷従させ、支配し、現地の資源を吸い上げ、人間を――特に子供や若年者を拾い上げる。

 暴力だけが征服の方法ではないのだ。


 話を主軸に戻す。

 ケイナン大陸は北に惑星再生機構、南にケイナン諸国連合という列強が存在する関係で、武器商人達は両列強の武器弾薬を取り扱っており、両列強の競合地域である大陸中部に流通する武器弾薬も畢竟、両陣営の銃器が市場の絶対多数を占めている。


 皇国や連邦(ユニオン)、三冠王国にムルーディンの武器弾薬もあるにはあるが、完全に少数だ。無理もない。苦労して大碧洋と大翠洋を渡っても、洋上で惑星再生機構と諸国連合に拿捕されたら終いだ。何より価格に長距離運送費や人件費を上乗せせざるを得ない以上、価格で惑星再生機構と諸国連合の“商品”に勝てない。


 絵に描いたようなハイリスク・ローリターンな商売。現実主義的かつ功利主義な武器商人達はウガリタ大陸やアースティル諸島、ムルーディン小大陸からケイナン大陸へ足を運ばない。


 が、このハイリスクな商売に挑む連中が皆無という訳でもない。

 ケイナン大陸でのみ入手できる資源や物資を欲しい連中(御上も多分に関与している)に多額の報酬を示され、賭博的挑戦に臨む中小武器商人達だ。


 なんなら家族を人質に取られて従事させられるパターンだって珍しくない。突然、家族を逮捕されて拘禁されたり強制収容所送りにされたりした商人や業者。彼らは死に物狂いで海を渡り、命じられた物資を搔き集め、やはり死に物狂いで故国を目指す。

 ・・・

 ・・

 ・

「酷いな……これって惑星再生機構(ウチ)でもあるのかな」

 ユーヒチは資料から顔を上げ、鼻息をつく。


「無いとは言わないけれど、惑星再生機構の場合は商人を送り込むのではなく、現地に橋頭保を作って奪い取る方式ね。ララーリング半島とか」

 トリシャは工場産果実を用いたフルーツケーキに小さなフォークを差し入れ、一口分切り取って口に運ぶ。


「そうだった……ウチは侵略国家だった」

 祖国へ皮肉を吐き、ユーヒチはアンリエットに問う。

「それで、俺達が標的にする武器商人は?」


「まだ特定されてないわ。情報を持っていそうな相手は見つけたが……」

 カップを卓に置き、アンリエットは説明する。


 資料の通り、ノヴォ・アスターテにおいて列強外で流通している弾薬は、列強が出荷したものか転売や横流しされたもの。この流通路の要点にいる武器商人達は大抵が金と情報をたんまり備え、流通が管理された『弾薬』に触れられる大物――権力者だ。


 情報部の金看板を使えば会うことは出来るだろうが、アンリエットのような後ろ盾がなく歳若い女性の平課員では間違いなく軽んじられる。よほど手札を揃えなければ、まともな交渉や情報の引き出しが出来るか怪しい。


「手札無しに会っても何も得られないどころか何かに利用されかねない。かといって、この手の人間には生半かな手札は通じないし、要らぬ恨みを買いかねない」

「その通りね」権力者パティル氏の娘は頷く「やるなら、裏表のない名分と相手を頷かせられる手札が欲しい」

「名分の方は三冠王国人の友人を使おう。オリガとかいう女と金星人武器商人を搦めて話を作れば良い。手札の方は……向こうが進んで協力したがるような餌を用意できるか」

「無理だろ」ユーヒチはアンリエットの検討案を否定し「大抵の欲しいものは金と権力で手に入るし、金と権力で手に入らないものを俺達が用意できるとも思えない」


「となると」

 難しい顔のアンリエットへ、トリシャは頷く。

「弱みを握るしかないわ」


 通常の交渉で話が通らないならば、相手の弱点を突くやり方になる。

 どんな人間にも弱みはある。弱みがなければ弱みを作り出す。

 金。家族。感情。ドラッグ。性的嗜好とセックス。


 ただし問題もある。

「こうした弱点を簡単に掴ませるような奴が私達の求める情報を持っているかと言えば、ちょっとね……」

 トリシャはフルーツケーキを突きながら美貌を渋める。


 賢い人間は弱点を掴まれるような真似をしないし、付け込まれるような隙を見せない。つまり時間と労力が掛かる。そして権力者が相手だ。逆に大きな厄介事を招きかねない。


「なあ」ユーヒチは忘れ物を思い出したような顔で「こういうダーティな仕事、王国人の少年少女が承諾するかな?」

 アンリエットとトリシャは互いに顔を見合わせ、眉を下げたり唇をモニョらせたり。


 さて、答えは――


     ○


「そんなの卑怯じゃないですか」若きサムライは即座に反対した。

「そんな悪辣な真似はすべきではありません」姫将校は即座に拒否した。

「ちょっと悪趣味すぎると思う」煽情的金星娘は嫌厭した。

「……」性別不明年齢不詳で表情不明の非人間顔の完全サイボーグは無言。


 ダメだった。


 三人で高級ホテルのスイートを訪ね、プランを説明したらこの有様。アンリエットは若者らしい潔癖を示す少年少女達を諭すように、

「これは諜報戦のよくあるオプションです。決して恥じるものでは」

「恥じるべきです」

 リリアが端正な眉目を吊り上げて被せるように言い放つ。他の面々も大きく頷く。取り付く島もないとはまさにこのことか。


 アンリエットの傍らでユーヒチとトリシャは苦笑を堪えていた。


 ユーヒチとトリシャ、王国の少年少女。両者は年が然程離れていないし、戦場の清濁と人間の善悪、事の正邪を体験している。けれど、精神性はまったく違う。


 ハルト達は祖国の混乱と流血を止めるために戦場へ立ち、同胞と殺し合った。戦禍を悪と見做し、『汚いこと』に対して嫌悪感と忌避感を抱いている。


 一方、ユーヒチとトリシャは仕事として自ら荒事の世界へ足を踏み入れ、人を殺してきた。戦禍は人間の営みと解し、『汚いこと』も仕事と割り切れる邪悪(タフ)さを備えている。

 であるから、ユーヒチ達は武器商人に仕掛ける謀略を『卑怯卑劣』『汚い』と非難するハルト達を『子供の正義感』と苦笑しそうだった。青いわねーと言いたげに。


「貴方達は祖国に戦禍をもたらした悪人の正体を調べるために大碧洋を渡って来たんでしょう? 天蓋膜がグレイグー化した原因を把握するために、惑星再生機構まで来たんでしょう?」

 トリシャは双眸を眼帯(データバンテージ)で覆った麗貌に冷笑を湛える。

「汚いことはやりたくない? 良いわ。なら綺麗な方法で海千山千の武器商人を転がす案を出しなさい。嫌だ嫌だが通じるのは幼稚園だけよ。ぼくちゃん達」


 魔女の辛辣な言葉にハルト達の顔が険しく強張る。が、咄嗟に対案は出せないようだ。まあ、本職の情報関係者が居ないのだから無理もない。ただ険悪一歩手前の雰囲気が漂う。


 アンリエットは『なんでそう荒立てる言い方をするのか』と言いたげに眉根を寄せ、『お前のツレだろ、なんとかしろ』とユーヒチを睨む。

 ユーヒチは小さく息を吐き、ハルト達へ言った。

「綺麗な方法ではないが、君達の希望に近いやり方は一つある」


「どんな方法です?」

 ハルトが噛みつくように問い返す。ハーフエルフな貴族令嬢と日系金星娘も不審の目を向けてくる。性別不明な完全サイボーグは顔貌がないから分からない。

 トリシャが興味深そうに薄く笑い、アンリエットが渋面を湛えている。


 全員の視線を浴びながら、ユーヒチは言葉を編む。

「普通に頭を下げて頼み、説得するだけだ」


 どんな悪どい方法かと身構えていた王国の少年少女は肩透かしを食らったような顔をしたところへ、追撃を加えた。

「ただ説得に『サフィアリ動乱にて国王夫妻を弑したジェーン・ドゥズのオリガが、ララーリング半島で確認された金星系武器商人とつながりがある』という文言を混ぜて欲しい。君達の説得が成功して情報を引き出せれば良し。仮に引き出せなくても、相手の“反応”を引き出せる。あとは通信を盗聴するなり、監視して行動確認するなりすれば良い」


「俺達は当て馬ということですか」

「連係プレイと言ってほしいな」

 眉間に深い皺を刻むハルト達へ、ユーヒチは肩を控えめに竦めた。

「君達が上手くやれば良いだけだし、我々のことはバックアップ・プランとでも思えば良い」

「なんか……上手く誤魔化された気がする」金星娘のヒナコが唇を尖らせる。


「ウチの者が厳しい言葉をかけたが、我々は別に君達を阻害したいわけでも足を引っ張りたいわけでもないわ。そこは理解して欲しい」

 取り成すようにアンリエットは語り、隣で涼しい顔をしているトリシャをぎろりと一瞥し、

「なんなら君達の伝手で情報が手に入るなら、それでも構わない。その辺りを外交団や本国と相談して貰っても良い。是非検討して」

 小さなデータカードを卓に置いた。

「聴取対象候補者のリストよ。簡単な身辺情報も載っている。“説得”相手を見繕ってみて」


 金星系娘がカードを受け取り、タブレットに挿入。壁の大型薄膜ディプレイに写真入りリストを映し出した。その数は14人。

「うわぁ……悪そうな人ばっか」


 西暦時代なら人相の悪い中高年男の顔が並ぶところだろうが、義体化や高度アンチエイジングで若々しい容貌の者も少なくないし、少女のような見た目の女性まで交っている。しかし、どれだけ若作りしても人工物に置き換えても、目や顔に性根が現れる。


「死の商人がこんなにいるんですか」この国はどうなってんだ、と言いたげなリリア。

「惑星再生機構はそこら中に戦線や橋頭堡を抱えているから、裏側で働く人間も相応に必要なのよ。もちろん三冠王国と関わりのある者もいるわ」

 トリシャは薄く口端を曲げ、濃い渋面を浮かべる王国の少年少女へ続けた。

「グレートゲーム・エイジの真っ最中よ。後ろ暗いところのない列強なんて存在しない。動乱中の貴方達が使った物資も“死の商人”から購入したもの、調達してきたものが少なからずあったはずよ」


「彼らは必要悪だと?」リリアが挑むように質す。

「誰かが何としても武器弾薬や兵器を手に入れようと望み、誰かが身銭を切ってでも暴力を行使する者を必要とするから、彼ら死の商人と私達傭兵が存在する。それだけの話。善悪なんて関係ないのよ」


 優美な微笑と共に厳しい言葉を並べていく魔女。再び表情を硬くする王国人達。クレオール系ハーフエルフ娘と首狩人が眉間やこめかみを抑えた。

「……仕事の話を進めよう」


 そして重苦しい雰囲気の中、話し合いが進められる。候補の誰を選ぶか。候補がどんな人間か。交渉に臨むならどんな手札を揃えるか。


 神経の疲れる打ち合わせが終わり、ユーヒチ達が腰を上げかけた時、ずっと無言を通してきた性別不明の完全サイボーグが言葉を発する。例によって老若男女の声が入り混じる。

「訓練の場を提供してもらえないだろうか」


「訓練、ですか?」

 訝しげに鸚鵡返しするアンリエット。よくよく見ればハルト達も困惑している。そんな周囲を無視し、テイラー・ネヴィルは腕組みしたまま言葉を続けた。男女の高低が混じる声で。

「君達も承知しているように、クサナギもオスカリウスもウォーメック・ドライバーで兵士。こちらのチェルトーバもドローンプレイヤーだ。練度を維持するため訓練が不可欠。それに慣れない環境と仕事でストレスも溜まっている。訓練でメンタルを整えさせたい」


 おお。とハルトとリリアが感嘆をこぼす。『ようやく大人らしい振舞いをしてくれた』と失礼な響きがあったけれども。ちなみにヒナコは胡散臭いものを見るような目を向けていた。


「訓練の場を提供すること自体は何とかなるでしょうが……」アンリエットは思案顔で「ミスター・クサナギとミズ・オスカリウスがウォーメックを扱うとなりますと、上に諮る必要がありますね」


「ちなみに、ウォーメックは用意してあるので?」

揚陸艦(フネ)に積んである。もちろん貴国には通達済みで許可も得ている」

 ユーヒチの問いかけに即答し、テイラー・ネヴィルは言った。

「なんなら、貴国のウォーメック部隊と交流試合をしても良いだろう。我が国の英雄達の実力と機体の性能を知る機会、貴国軍隊にとっても有益ではないかな?」


「「え。」」ハルトとリリアが目を点にした。


      ○



 惑星再生機構の首都カルニオンから十数キロ離れたカルニオン基地。広大な野戦演習場。

 好天の下に並ぶ巨人達は一様に悪鬼染みた姿をしている。


 太く長い一本角を生やした頭部。複眼型カメラは口腔のように赤々とした稼働光を発している。

 待ち伏せや罠に塗れた市街戦や難地形突破を前提とした重装甲(運用上、被弾は避けて通れないんだから、とにかく頑丈にしよう)。

 盛り上がった両肩には近接防御用の対人擲弾発射機を装着し、背中にはサブアームと後方警戒用ガンタレットが設けられている(隠れ潜む敵歩兵の不意打ちは火力で潰そう)。

 脚部はいわゆる山羊脚で大重量の胴体を支えるべく厳めしい(この重量と不整地でローラーダッシュなんて図るだけ無駄)。


 自己再生ナノ塗膜ナイトグリーンに塗られた巨大な悪鬼の名は、惑星再生機構製ウォーメック・『LD-Mk3』(開発会社の略号と開発番号)。しかし、兵士達は大抵『ラフィング・デーモン』(口みたいな複眼型カメラが笑っているように見えるから)と呼ぶ。


 そんな惑星再生機構の悪鬼の列に、姿の異なるウォーメックが交っていた。


 どこか有機的な姿の悪鬼『LD-Mk3』に対し、三冠王国の国籍略章(三色三角)が描かれた正しくロボチックな容貌をしている。

 直線が複雑に配された構成の身体。バイザーアイの顔。大きく盛り上がった肩。最大の特徴は大きな背中のバックパックと足元のローラーダッシュ機構だろう。

 被弾前提の重戦車的な『LD-Mk3』と異なり、三冠王国製ウォーメックは『人型機動兵器』の名の通り、機動戦闘を前提にしているらしい。


 三冠王国軍ウォーメック・王立アイバーソン工廠製『ストライカーR2』。

 ちなみに、カラーリングはなぜかアニメみたいな青白赤のトリコロールだった。サフィアリのサムライことハルト機には左肩に日本刀と兜のマーク。リリア機は左肩に捧げ剣のマーク。そして、両機ともに右肩に撃破数を示す星印がいくつも並んでいる。


 演習に臨む惑星再生機構のウォーメック・ドライバーや整備兵、技術士官は興味津々というように、あるいは新しい玩具を前にしたキッズのように、王国製の巨人を注視している。もちろん、王国側は惑星再生機構の悪鬼に同様の眼差しを向けていた。


「……派手だな」

 関係者用テントの下。ユーヒチが王国製ウォーメックを眺めながらしみじみと呟く。

「ひょっとして、あのカラーリングで戦ったのか?」


「違うよ。あれは建国パレード用。今回の派遣までに塗り直す時間がなかったから、そのまんまってだけ」

 金星娘ヒナコが完全にタメ口で応えた。ユーヒチと親しくなったり馴れたりしたわけではなく、演習のデータ収集用ドローンのセットアップに忙しく、言葉遣いに気が回らないだけだ。


「あのローラーダッシュ機構、本当に動くの?」トリシャが派手な機体を興味深そうに眺めながら問えば。

「隠すことでもないから明かしてしまうが、あの機体には重力制御機関が組み込まれている。接地重量や走行負荷を軽くすることでローラーダッシュを実現した」

 テイラー・ネヴィルが美少年声と老人声を混ぜながら説明する。

「技術屋達は次にスラスターを積んで、ウォーメックを飛ばすつもりだ。それに成功したら変形機構を組み込むだろう」


 話を聞いたトリシャは完全に呆れ顔を作る。

「……アニメの見過ぎじゃないかしら」


「違うぞ」テイラーは断言した「これはロマンだ」

「確かに」ユーヒチは深く頷いた「それはロマンだな」

 生まれも育ちも文化も異なる二人、三冠王国の性別不明サイボーグと惑星再生機構のハイチューンドが意見と価値観を共にした。

 が、トリシャは夫の道楽に辟易する妻みたいな顔になり、仰々しく嘆息をこぼす。


 別テントで行われていた演習の説明が終わり、パイロット達が自分の機体へ向かっていく。

 演習の始まりだ。

Q:ウォーメックってどんな兵器?

A:お答えしましょう。

 現行世代の重装人型機動兵器――ウォーメックはロボアニメやゲームみたく、各所のスラスターを吹かして空を飛び回ったり、足裏の小っちゃい車輪で数十トンの巨躯を走らせて挙句に不整地でもローラーダッシュしたり、意味わからないほど人間的な動きが出来たりしません。


 十メートル前後数十トンの巨躯でドシンドシンと地面を揺らしながら二足歩行し、手に持った専用武器や体の各部に装着した固定火器で暴れるだけ。ぶっちゃけ垢抜けない陸戦兵器です。

人類が太陽系外縁まで進出し、惑星を丸ごと居住可能に加工できるほど技術が進んだ世界の兵器にしては、なんとも洗練されていない印象を受けるでしょう。


Q:なんで?

A:お答えしましょう。

 ウォーメックという人型兵器が一部の惑星でしか使われていない非主流派兵器だからです。

 陸戦の場合、歩兵直協兵器なら強化外骨格や戦闘車両、無人装甲兵器で事足ります。なんならウォーロイドの飽和攻撃の方が制圧占領も出来て好都合かもしれません。単純な打撃を目的とした運用にしても、航空機の空爆、超長距離砲撃やミサイル攻撃、ロケット弾や自爆ドローンの飽和攻撃で十分でしょう。


 全長十数メートルで数十トン。こんなバカでかい兵器を扱う軍事インフラとシステムを新たに構築して整えるより、はるかに安上がりです。このためウォーメックは現行兵器体系の主流になれず、発展進歩が停滞しています。


Q:宇宙で使われない理由は?

A:お答えしましょう。

 現在の宇宙戦闘は全長数百メートル級の航宙戦闘艦が最低でも1000キロ単位で大出力熱光学兵器や光速粒子兵器で撃ち合い、大出力反応弾を極超音速でぶつけ合う超長距離砲戦が前提です。当然、索敵系・電情戦系も長距離砲戦に対応した強力なものを装備しており、ウォーメックはもちろん航宙戦闘機すら交戦距離に接近することすら困難です。


 最大の問題は全長10メートル前後程度の兵器が携行する火器では、宇宙軍艦の装甲は抜けないということです。宇宙軍艦は駆逐艦級ですら、極超音速で飛来する小型デブリの衝突に耐える装甲を有しているからです。


 つまり、現在の宇宙戦闘にウォーメックを用いられる場面は酷く限定的であり、前述の運用インフラ整備に莫大な費用を投じるに値しないと判断されています。


Q:じゃあどんなところで使われてンだよ?

A:お答えしましょう。

 ウォーメックは一部の惑星で多目的汎用兵器として利用されています。ウォーメックを使用する惑星の共通特徴は『戦争に費やせる人的資源が少ない』こと、転じて『軍役適齢人口=生産人口の人的消耗を抑える』目的でウォーメックが利用されています。


 つまりウォーメックの採用している星はウォーメックを人型の機動打撃兵器ではなく、高殺傷力の兵器が飛び交う現代戦で兵士を生き残らせるための重厚巨大な鎧と見做しています。


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― 新着の感想 ―
サイズだけはACっぽいがこれはMTだな 地上走行だけでもスラスター使ってクイックブーストできないと只の案山子ですな
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