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ノヴォ・アスターテ:女神の箱庭。あるいは閉ざされた星。  作者: 白煙モクスケ
第2章:壊れた世界にも花は咲く。

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33:ナイト・ダイビング

 ユーヒチ・ムナカタと3機の女体型ウォーロイド達は熱光学迷彩を解き、頭の先から爪先まで闇色の装備と装束で包んだ姿を露わにしていた。とはいえ、ユーヒチの五眼式多機能フルフェイスヘルメットはアニメみたく素顔が見えるものではないし、女体型ウォーロイド達はそもそも無貌タイプだ。透明な幽霊達が闇色の怪人達に変わったに過ぎない。


 ユーヒチは倉庫の壁際に並べたクズ共を見下ろす。鬼灯色の目には蔑みも侮りもない。路肩に落ちているゴミを侮蔑しても意味がないからだ。


 生け捕りにした水没地域のゴロツキ組織フラッド・ボーイズ、そのフロント企業『ジョニーズ・サルベージ』の社員達は倉庫の一角に並べて転がされていた。

 社員全てが地球系。人種は多様。男9人、女が1人。全員、両手を頑健な結束バンドで拘束し、事務所にあったガムテープで両目と口を塞いである。

 3人のサイボーグは1人が刺突電撃で生命保護モードにオチており、残る2人はウォーロイドの持つ消音器付き散弾銃のスラッグ弾に手足を破壊され、抵抗できない。


「――了解。始める」

 ユーヒチが声に出して通信を終えれば、生身の連中がびくっと身を震わせる。目と口を塞がれていても、耳は音を拾う。無機質で温度の無い声に不安と恐れを搔き立てられていた。もっとも、一番怯えているのは、サイボーグ男達だった。


 荒事の世界に生きるサイボーグは大抵理解している。

 拷問に晒された時、どんな目に遭わされるかを。


 サイボーグ達の危惧は正しかった。

 ユーヒチが小さく顎を振ると、ウォーロイドの3番機がコレル・ダンウッド拉致誘拐に参加していたサイボーグ男の上体を強引に起こし、2番機が両手でその頭を押さえ込んだ。サイボーグ男は血相を変えて身を捩り、銃撃で短くなった手足を振るって暴れるも、戦闘用アンドロイドの膂力で抑えられた頭は微動にしない。


 3番機が腰からナイフを抜き、2番機が固定するサイボーグ男の額に刃を走らせて人造皮膚斬り裂き――


 べりべりべりべりべり。


 倉庫内に頭皮がミカンの皮みたいに剥がされていく音色と、口を塞がれたサイボーグ男のくぐもった悲鳴が響く。肌の裂け目から人造皮膚の赤い保湿液が飛び散り、人工頭蓋骨の頭頂部が剥き出しになった。

 保湿液で赤く汚れた頭頂部には脳殻収納蓋があり、これは特殊器具以外で開閉できない。3番機は人工頭蓋骨と収納蓋のわずかな隙間に切っ先をごりごりと無理矢理差し入れ、テコの要領で強引に収納蓋をこじ開けていく。


 からん、と音を立てて床に落ちる収納蓋。

 頭蓋と脳殻の間に充填された保護ゲルが、倉庫の照明を浴びてぬらぬらと輝く。


 口を塞ぐガムテープがめくれ、サイボーグ男の悲鳴が溢れた。

「ひぃいいいいいいいいいいいっ!? やめぇろおおおおおおおおっ?!」

 恐怖に満ちた絶叫を聞き、びくりと震える生身の連中。女と若い韓国系が泣き始める。


「は、話すっ! そっちの知りたいことを何でも話すっ! 俺の知ってることを全部話すっ! 嘘なんかつかないっ! お袋の墓に誓って本当のことを話すっ! 話すから脳殻に直結はやめてくれっ! お願いでっすっ! 話させてくださいっ!」

 ユーヒチはサイボーグ男の哀願を無視し、無言で2番機に小さく顎を振った。

 2番機は傍らの3番機が背負う大きなバックパックから太いケーブルを引っ張り出し、その先端にあるソケットを、サイボーグ男の脳殻にある接続口へ差し込む。


「やめろ! やめろやめろっ! やめてやめてやめてっ! やめっもががが――――っ!」

 1番機が小娘のように泣き喚くサイボーグ男の口へ、改めてガムテープを重ね貼りする。


 サイボーグ男の脳殻は攻性防壁付の電情戦ユニットに直接繋がれ、電子の世界で待ち構える魔女の解剖台に差し出された。


    ○


「ハッカーのくせに強制接続対策をしてないなんて、なってないわね。だいたい何なの、この貧弱なプロテクト。民生品じゃない。攻性防壁と論理迷路の立体多層プロテクトくらい自作しなさいな」


 SIWGの偽装拠点『ウォーターナイン・ワーカーズ』のスーパーグレード端末の作業スペースにて、トリシャ・パティルはぶちぶちと文句をこぼしながらも、電情戦のタクトを神速かつ精密に振るっていた。


 魔女の指揮にトリシャ謹製の手作りプログラム群がフルオーケストラのように応え、様々な作業を同時並行で進めていく。


 電子世界で一人の人間が有する記憶情報――宣言的記憶、非宣言的記憶、感覚記憶、短期長期記憶、陳述記憶、非陳述記憶、過程化情報群の片っ端から切除摘出し、サイボーグ男の人格や自我に強い影響が出るレベルまで細かく解剖し、心理的精神的問題が生じる水準まで細断し、取り出した情報を両界曼荼羅図のように広げていく。恐ろしく速く恐ろしく精確で、どこかアーティスティックですらあった。


「こんな腕前で監視カメラのリアルタイム映像改竄なんてよく出来て……あら」

 魔女は完璧な演奏に混じる一音の外れを見つけたように、細断したサイボーグ男の膨大な情報群から気になるものを拾い上げ、すぐさま分析に掛ける。


「ふぅん……外部に情報格納システムと補助電脳を組みこんで。これが手品の種ね」

 サイボーグ男はいくつかの義体臓器類を児童用義体の小型な物にすることで体内に空きスペースを設け、外付けの記録機材と補助電脳を搭載している。身体的にかなり負担の大きい“拡張手法”で1・5人力の電情戦スペックを発揮していたようだ。二流ハッカーなりの創意工夫といったところか。


 だが、それは魔女の強い不興を買った。

「そこまでして、やっていることは性奴隷売買の片棒担ぎ、ね……貴方、気に入らないわ」

 玲瓏な美声にゾッとするほど冷酷な響きが宿る。


 直後、精密美麗なフルオーケストラが海賊共の宴会演奏のように荒々しくなった。

 サイボーグ男の電脳に接続された外部システムを切開し、収納している情報を次々と切り取っていく。サイボーグ男に後遺症が残ろうとお構いなしの乱暴さは『凌辱』としか表現しようがない。


 両眼と両手をスーパーグレード端末に直結した魔女が、口元を加虐的に歪めた。

「貴方の全てを暴くまで何分掛かるかしら」


 脳殻に直接接続から7分14秒22。

 サイボーグ男の脳に収まっていた情報が残酷なまでに摘出された。


 トリシャは暴きだした全てを解析と分析に掛けて細分化し、コレル・ダンウッド拉致誘拐に関わる全情報、水没地域の犯罪組織フラッド・ボーイズに関連する全情報を詳細に整理し、データベース化。報告用に電情戦ポートフォリオとレポートを製作。

「おしまい、と」

 会議スペースに居るアンリエットへ届けた。全て合わせてわずか十数分だった。


 そして、内容に目を通し終え、アンリエットがトリシャに問うた。

『アクチュアルよりマー・シンヒ。この情報の精度は?』


 そんなこと聞かれるの、久し振りね。トリシャは微苦笑して言葉を紡ぐ。

「解剖台の患者が誤認識していない限り、記憶情報に齟齬は生じない。それに外部情報格納システムから取り出した方の情報は記憶過程の処理を得ていない非主観情報だから、いわゆる『見たまま聞いたまま』よ。なんならもう一人のサイボーグを解剖する?」


『いやこれで十分だ。御苦労様』

 トリシャの説明に納得し、アンリエットはそのまま現場のユーヒチへ告げた。

『アクチュアルよりシンハ1。HVPの捜索に必要な情報を手に入れた。そこはもういい。撤収よ』


『撤収しても良いが……もう一人のサイボーグと生身の連中を調べなくて良いのか? ここの社長役の男は組織幹部だろう? 直結したサイボーグの知らない情報を持っている可能性があるし、情報の裏取りにもなるんじゃないか?』

 ユーヒチが疑問を呈す。命令に不満を抱いたわけではなく、純粋な疑問だろう。


 もっとも、ユーヒチという人間の理解がまだ足りないアンリエットは、反発されたように感じたのか、些か堅い声で応じる。

『それは……だが、拉致誘拐から既に12時間以上経過し、犯罪組織の本拠点に移送されている。迅速に救出へ向かうべきだ』

 人質救出が最優先目的だから、アンリエットの判断も間違っていない。ただ少し看過できない問題点もある。


「これは反論ではないけど、即応では動けないわ」

 トリシャはアンリエットの面目を気遣いつつ、ララーリング半島でコマンドを務めていた時のように言葉を紡ぐ。

「今のシンハは市街戦装備よ。水没地域内に対応できなくはないけれど、水陸両用装備ではない分、リスクは高くなる。救命装備もいざという時は救急車を呼ぶことが前提だったから、コレル・ダンウッドの命が危険な状態だった場合、対応が難しいわ」


 言葉を区切って紅茶を口に運んでから、続ける。

「それと水没地域管理所の手当て。徹頭徹尾この件を秘匿して関わらせないのか、不測の事態が生じた場合は協力を仰ぐのか。その辺りを“上”に伝えて、判断と対応を求めておいた方が良いわよ」

『同意見』ユーヒチが賛同し『上と協議している間に尋問を済ませれば、効率的だ』


 同年代ベテラン2人から諭されるように言われ、アンリエットは渋面を作りつつ、決断を下す。

『……分かった。でも、やり過ぎないように』


 言葉にこもる少し拗ねた響き。トリシャは失笑するように官能的な唇の端を上げた。

 あらあら。お可愛いこと。


     ○


 窓のない会議室。楕円形のテーブル。病的なほど厳重な防諜設備。

 列強・惑星再生機構の情報機関“中枢(トップテーブル)”に座る者達は、手元のタブレットや視界に浮かべた拡張現実(オルタナ)映像でレポートとポートフォリオに目を通し、砂を噛んだような表情を浮かべていた。

「まさか迷子探しからこんな事実が判明するとは……」


 情報の中身は想像以上に酷かった。

 宇宙技術文明水準の高度情報化社会を保持する惑星再生機構の首都――自分達の庭の中で、ドブネズミ共が数年前から規制薬物や違法ナノマシンをこさえて売りさばき、挙句に大事な出産適齢女性を少なくとも30人以上も犠牲にしていたのだ。

 これはもう安全保障上の大問題だった。


「現場の水没地域管理所は、いや統括保安部や治安維持局はこれを把握してなかったのか?」

「仮に把握して放置していたなら、最悪ね。保安筋一連に綱紀粛正の嵐が吹き荒れるわ」

「時期も不味いぞ。この問題は政府を揺さぶる。“大事業”にも影響を与えかねん」

「9区を放っておくからだ。さっさと大掃除して再開発しておけば――」


 情報機関の高官達がぶつくさと言い合う中、会議卓の上座に座る地球ナイロート系の初老男性が小さく手を挙げて高官達のやり取りを止めた。

「杞憂と懸念はそこまでだ。この件の目的はまず以って“牧師(ヴイカー)”の娘の確保。水没地区の問題は後で良い」


 鉄色の肌を持つ男性は文明復興圏独立国キャッスルラントの高価値協力者の暗号名(コードネーム)を挙げた。


 牧師、ね。高官の一人は密やかに眉根を寄せる。

 捜索対象コレル・ダンウッドは“牧師”が妊娠中の愛人を惑星再生機構へ渡らせ、産ませた子供だ。親子の触れ合いは偶の映像通話だけで、娘は父に抱きあげられたことも頭を撫でられたこともない。


 そして、“牧師”が愛人に惑星再生機構内で娘を出産させた理由は、娘に正規市民権を生得させるためだ。もしもキャッスルラントから逃れる時、娘が正規市民権を持っていれば、父親である“牧師”の亡命申請や外国人帰化法制度の制度外特例措置が通り易いから。


 だからこそ、“牧師”はきな臭い情勢と相まって娘の行方不明に焦り、情報部へ“相談”を持ち込んだ。自身の大切な『保険』だから。


 そんな男の暗号名が“牧師”とは。高官は誰が付けたか知らなかったが、確信する。名付けた奴は無神論者を通り越して神を憎んでいる。


 上座(トップシート)の老人が高官達を見回して話を続けた。

「このレポートによれば、“迷子”は違法ナノマシンを投与された後、震顫譫妄状態に陥っているとある。おそらくナノマシンが健康チューニングに過剰効果を発揮しているのだろう。情報通りならば、ナノマシンの効能時間が切れれば回復すると思うが……症状が悪化していく可能性も否定できん。早急な救出が必要だ」


 アジア系壮年女性が細長い煙管状の電子タバコを吹かしつつ、告げる。

「捜索を担当したSIWGの現場チームは、装備等の支援と“迷子”の緊急搬送の備えがあれば、今すぐ水没地域内へ動ける、と言っています」


 白人系壮年ドワーフ男がタッチペンを神経質に弄り、タブレットの情報を見直す。

「例の三冠王国人と組ませる予定のチームだな。今はまだ新米部員とPMC出向員2名しかいない。“迷子”の消息を迅速に特定した実力は認めるが、救出までは任せられんだろ」


「待て」同じくレポートを読み直していた別の高官が口を挟み「出向員はブルーグリフォン社が寄越した例の“じゃじゃ馬”ハッカー娘……」高官達の顔がなんとも言えないものになりつつ「それと現場要員は“揺り籠”の出だ。ララーリング半島ではウォーロイドの強行偵察チームを率いて戦功を挙げている。何より、SIWGの発足もこの2人が廃墟から持ち帰ってきた情報が元だ」


 “揺り籠”という言葉に、高官達は本当にごく僅かながら緊張を見え隠れさせる。上座の黒人男性も眉間の皺を蠢かす。


「……やらせてみてはどうです?」

 アジア系壮年女性が完全無臭の蒸気を吐き、

「通常なら軍か保安部の特殊に協力を仰ぐところですが、首都で軍の特殊を動かすことは目立ちすぎます。かといって保安部の方は……迷子探し自体が彼らの頭越しかつ内密に進めたことを考えますと、話がややこしくなります。それに彼らが水没地域の実情を知っていて放置していたなら、協力を求めてもサボタージュを行う可能性があります」

 どこか斜に構えた目で言葉を紡ぎ続ける。

「“迷子”を拉致監禁している水没地域内の犯罪組織は構成員約20名。うち大半は生身。少数の違法改造サイボーグも軍用レベルに比べれば、子供の玩具のようなもの。ブルーグリフォンの選抜強行偵察チームならば十分対処可能です」


 高官達は気難しげな表情を作りながらも異論を口にしない。

 鉄色の肌を持つ老年男性は完全に白くなった髪を撫で上げ、決定を告げる。

「分かった。欲しいものは全て与えろ。緊急搬送の件は軍が熱光学迷彩装備(カメレオン・)飛翔艇(ポーコイス)の“夜間秘密訓練”中に人道的観点から緊急対応した、という筋書で良いだろう」


 アジア系壮年女性が目礼し「ルッソ管理官へ決定を通達します」

「では、私が軍へ渡りをつけよう」白人系ドワーフ男性が言った。


 上座の黒人老年男性は手元のタブレットに映る現場要員の顔写真を見つめ、口腔内で密やかに呟く。

「揺り籠、か」


     ○


 蠢く碧空から疑似陽光が弱まり、夕方が訪れる。グレイグー化した天蓋膜に覆われる辺境惑星ノヴォ・アスターテには西に沈む太陽は無く、夜空に浮かぶ月もない。

 星の自転に合わせた疑似陽光の強弱が昼夜を生み、天蓋膜の蠢きが夜色の空に光帯を生む。


 夜を迎えた第9大管区のヤマモト街区。

 熱光学迷彩を展開した特殊作戦用のポーコイス級飛翔艇が『ウォーターナイン・ワーカーズ』の駐機場に音もなく着地し、リアハッチが開く。


 ユーヒチが女体型戦争人形達を伴い、オルキナス級飛翔艇よりだいぶ小型のポーコイス級飛翔艇のキャビンへ素早く乗り込む。


 キャビンには搭乗員の他に軍医と衛生兵が乗っていて、緊急搬送に備えたステッチャーと各種医薬品が用意されていた。軍医と衛生兵は何も聞くな尋ねるなと言われているのだろう。口を堅く引き結び、こちらと目を合わせようともしない。


 リアハッチが閉ざされ、内線が届く。

『御搭乗の皆様、本日は御乗船ありがとうございます。私は艇長を務めますブレンダンです。本日のフライトはマイレージ100ポイントをプレゼントします。万一御気分が悪くなったらシート前の紙袋をお使いください』

『止せよ、ログに残るんだから。また監査部に私語で怒られるぞ』

 コクピットから届く内線の軽口。


『飛翔開始』

 エレベーターが上昇を始める時のような浮遊感。熱光学的にも電波的にもマギ波的にも完全に隠密で、船体表面が科学的透過状態の小型飛翔艇が水没地域隔離壁を越え、冠水し、水没した沿岸地域へ向かっていく。


「あんたらへお届けものだ」

 船上貨物管理担当員がユーヒチ達を呼び、頑丈な貨物ボックスを開けて“荷物”を渡す。


 ユーヒチは肺みたいな形をした鰓肺(さいはい)式水中呼吸器(エアシステム)を積層スキンスーツの両脇に装着し、どこか蛙面っぽい水陸用多機能フルフェイスヘルメットを被り、呼吸器から伸びるダクトを接続。通気と機密を確認。

 3機の女性型ウォーロイド達も頭部装備を五眼式多機能ヘルメットを外し、無貌を晒しながらユーヒチと同じく水陸両用の蛙面に変更する。


 大型バックパックを開けて中身を確認。事前に申請していた武器弾薬、医薬品やその他道具が正規軍の収納法通りに収められていた。


 ユーヒチはヘルメットのバイザーを開け、夜間作戦に備えてパワーバーを齧る。高カロリーで高タンパクな可食固形物を手早く齧る。パサパサになる口腔内に辟易しつつ、繊維製ビタミン剤を数錠飲んだ。


 燃料補給と呼ぶべき軽食を取り、ユーヒチは思う。

 おにぎりが食いたいな。熱々の白米にパリパリの海苔。具は明太子と昆布。付け合わせはタクアン。ネギと豆腐の味噌汁が付けば言うこと無し。


『エントリーポイントだ。ハッチ開放よし』

「了解。ハッチ開放します」

 内線通知に応じ、船上貨物管理担当員がリアハッチを開放する。


 ステルス化した小型飛翔艇は水面近くまで降下していた。どす黒く見える数メートル下の水面。光帯の明かりを浴びて煌めく波間。水面から生える廃ビルの林と瓦礫の岩礁。

 大災厄で押し寄せた津波に食われ、内海に呑み込まれた沿岸地域。ここの水底にはどれほどの骸が眠っているのだろう。


「よい狩りを」

 声を掛けてきた担当員にサムズアップを返し、ユーヒチはウォーロイド達と共に真っ暗な水面へ向かって飛び降りた。

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 彼は悪名高きロッフェロー

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