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ノヴォ・アスターテ:女神の箱庭。あるいは閉ざされた星。  作者: 白煙モクスケ
第1章:野蛮人達のゲーム

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12/20

12:スペースエイジ・ニンジャ。

 砕け散った窓の向こうから差し込む炎光。煌々と燃え盛る炎が夜空を焦がしていた。そこら中から部下達の怒号や絶叫、宴に用意された女達の悲鳴が聞こえてくる。


 トシオ・ホランド・イジューインはぐしゃりと酒杯を握り潰し、両脇の酌婦を突き飛ばしながら仁王立ちし、怒号を上げた。

「なんじゃあこりゃあああああああああああああっ!!」


 54歳。地球系欧亜混血の初老男性。元皇国陸軍の強化外骨格部隊指揮官で現民兵組織の頭目。

 白髪の目立つ顔貌は半端に彫が深く、人生の苦労が如何に多かったか示すように深い皺が刻まれている。強化外骨格操縦用に局部義体化が施された体躯は贅肉が目立つ。

 第三次ララーリング半島戦争後、トシオは部下と共に軍を離れ、この文明喪失圏(ヴォイド・エリア)の盆地に根を張って久しい。彼にとって、この拠点は自身の誇りと直結した城であり、何者にも汚されてはならない自尊心の現れであった。


「参りましたね、これは」

 酒席の客である金星系紳士が酒杯を傾け、高級スーツを着込んだ肩を竦めた。実に厭味ったらしい所作だった。


「取引の品はともかく、帰りのアシが無くなってしまった」

 金星系紳士は燃え盛るユニオン製貨物機を一瞥し、長い赤髪を指で梳くように掻き上げる。実にきざったらしい所作だった。


「ぬぁにを暢気なこと抜かしてやがる!」トシオは噛みつくように怒鳴り「襲撃を受けてんだぞっ!!」

「ええ。ええ。ここまで強硬な手段に出てくるとは、私も想定していませんでした。いえ、蛮地のゲームルールを甘く見ていた、というべきでしょうか」

 仄かに青い右手人差し指で耳角から頬に掛けて生えた蒼い鱗を撫でながら、金星系紳士がくつくつと自嘲的に喉を鳴らす。実に鼻持ちならない所作だった。


「ムカつくほど余裕ぶっこきやがって。まさか、テメェの仕込みじゃあねえだろうなぁ……っ?!」

 トシオが露骨な猜疑心を露わにすると、部屋にいた部下達が拳銃を抜き、突撃銃を構えた。酌婦達が悲鳴を上げて部屋から逃げ出していく。

 殺気立つトシオとその部下達から銃口を向けられても、金星系紳士は動じない。トシオの神経を逆撫でする微笑を湛えたままだ。


 背後に控えていた2体のユニオン製ウォーロイド――金魚鉢頭にメカメカしい直線と平面で構築されたボディの戦争人形も戦闘反応を見せず、金星系紳士の隣にちょこんと座っているメイド装束の小柄な少女も平然と座っていた。


 金星系紳士は演技がかった所作で懐から銀ケースを取り出し、細巻きを口にくわえる。となりのメイド少女がコケティッシュな装束のポケットから金のライターを取り出し、紳士の細巻きに火を点した。

 濃密な紫煙と香りを漂わせ、金星系紳士は口角を薄く曲げる。

「私は貴方を仕留めるためにこんな派手なことしませんよ」


 お前如きに、と言外に告げられ、トシオのこめかみに浮かんだ青筋が蠢く。

 ヤクザな商売はナメられたら終わりだ。言葉より腕っぷしがモノをいう非文明的蛮地においては特に。部下の前で迂遠な侮辱を受けたトシオは眼前のキザ男を殺すと決めた。今後の物資調達だのなんだのは後で考えれば良い。今はこのクソ金星人を殺す。ウォーロイドはぶち壊す。隣のメスガキは部下達に与えて死ぬまで犯す。

 そう決めた。


 だが――

 トシオが殺害命令を放つことはなかった。


 なぜなら、()()()()()()()()()()()()だ。


      ○


 アシュタロス皇国は特殊部隊をニンジャと総称している。

 このニンジャは日本の中近世時代に存在した間者を意味しない。アシュタロス皇国が標榜するニンジャは名優(マエストロ)ショー・コスギが20世紀に全世界へニンジャというミームを広めたムービーや、かつて地球で世界的ヒットしたニンジャ・アニメ『NARUTO』などに登場する、超人戦士達のことだ。

 つまり、アシュタロス皇国は『うちの特殊部隊はニンジャみてェにちょー強ェから!』と謳っているわけだ。


 21世紀の地球で生きる人達からしたら、アホかと思うかもしれない。

 しかし、宇宙文明技術を保つ列強国家アシュタロス皇国はマジのマジであり、皇国軍特殊部隊はガチの最精鋭部隊なのだ。


 ララーリング半島の作戦に投入されたアシュタロス皇国軍特殊作戦軍団第2グループ・通称『コゥガー・ユニット』。そのコゥガーから選抜されたチーム7。


 全員がハイエンドの軍用高機動サイボーグであり、自動可変迷彩のナノスキンスーツと要所を守る高分子素材製プロテクターで身を覆い、アニメチックなデザインの透過型フルフェイスヘルメットを被り、10ミリ小型短機関銃とニンジャソードで武装した、スペースエイジ・ニンジャだ。


 カミカゼドローンの突入に合わせ、極めて軽装な8人のニンジャ達が夜の森林斜面を疾風の如く駆けていく。ツーバイツー・ツーチームの隊形を維持しながら、一瞬たりとも速度を減ずることなく木々の間を駆け抜け、軽々と大樹の梢を飛び越える。その姿はまさしくムービーから飛び出してきたニンジャそのもの。


 ニンジャ達は闇に包まれた森林斜面を激走しながら、近距離通信を交わしていた。

『“迎え”が到着するまでに拠点を制圧し、目標を確保するぞ』

『余裕だぜ。3分も掛からねェよ』

『気を抜きすぎだ。イレギュラーも居ることを忘れるな』

『惑星再生機構の不正規戦オペレーターか。オマケで捕まえていくか?』

『必要ない。下っ端は大した情報を持っていないからな。現物のサンプルに人形の頭を一つ持ち帰るだけで十分だ』

『無駄口はそこまでにしろ。突入するぞ』

『了解!』


 森の斜面を一直線に駆け抜けた8人のニンジャ達は、そのまま拠点へ向かってさらに加速し、強力な人工筋肉を動員して高々と跳躍。なんと拠点周囲の地雷原と鉄条網をひとっ飛びで越え、跳び箱のように防壁の天辺でさらに高く飛び、いとも容易く拠点内へ侵入。


 さらには着地するまでの数瞬の間に10ミリ小型短機関銃を発砲。不安定な落下中の射撃にもかかわらず、弾丸は一発たりとも外れることはなく、射界内に居た民兵達を一人残らず撃ち殺す。

 アニメやムービーから出来たようなムーブメントで拠点内に降り立ったニンジャ達。


 第三次ララーリング半島戦争後に加入した若い民兵達は銃を構えながら、ニンジャ達に口汚いスラングを無数に飛ばす。


 しかし、皇国出身の古参民兵達は突如現れたニンジャ達に戦慄していた。

 彼ら古参組は知っているのだ。皇国軍特殊部隊――ニンジャ達の恐ろしさを。第三次ララーリング半島戦争にて、惑星再生機構の特殊作戦群(ゴースト)と並んで恐怖の戦場伝説をいくつも築いたことを。その目で見てきたのだ。

「ぶぶぶ、ぶっこ……ぶっ殺せえ―――――――――――――っ!!」


 現場指揮官の絶叫を合図に、ニンジャ達は2人組に別れて殲滅戦を開始した。

 正面地階から突入し、民兵達を殺戮しながら上階へ向かっていくペア。

 壁を跳び登って屋上を制圧。民兵達を戮殺しながら階下へ向かっていくコンビ。

 強化外骨格部隊の残余を撃破に向かう一組。

 広場で派手に大暴れし、民兵達の注意を引き付ける2人。


 8人のニンジャ達はまるでゲームのタイムアタックに挑んでいるかのように、民兵組織サムライ・オブ・ブラックアーマーの拠点を一方的に蹂躙し、民兵達を一方的に殲滅していく。


 そこには常識的な戦術も一般的な戦理も一切存在しない。

 一言でいえば、無茶苦茶だった。


 民兵達が斉射弾幕を張ろうとも、ニンジャ達は止まらない。

 高性能な電脳と義体は『発砲を見てから回避余裕でした』を実現し、針孔を通すように猛烈な弾幕の中を一瞬で正面突破。逆に短機関銃の超精密射撃で民兵達を薙ぎ払うように撃ち殺していく。


 民兵のサイボーグやチューンドが射撃戦を諦め、軍刀や義体武装で白兵戦を試みるが、近づくことすらできない。

 なにせ、ニンジャ達の小型短機関銃が扱う10ミリ拳銃弾は、全て高初速の熱破砕弾。着弾後に高熱量を発して創傷部を熱損させる非人道的な弾だ。二線級サイボーグやチューンドがこの残虐な弾を食らえば、ひとたまりもない。

 運よく肉薄に成功しても、旋風染みた高速機動戦闘(ハイベロシティ・コンバット)を為すニンジャ達にしてみれば、民兵の古臭いサイボーグや半端なチューンドの動きなど老人の太極拳体操のようにベリベリスローリィ。

 皇国陸軍式サイボーグ・カラテメソッドで容易く撲殺で抹殺、殴殺で滅殺。ニンジャブレードを抜くまでもない。


 カミカゼ・ドローンの爆撃を逃れた強化外骨格ホーテン製タイプ5達が押っ取り刀で登場し、ニンジャ達を迎え撃つ。

 巨腕が抱えるビッグサイズの機関銃から大口径弾がばら撒かれた。轟く大きな銃声。ボール紙の如く穿たれる建材。飴細工のように破砕される調度品。流れ弾を浴びた民兵の屍が木っ端微塵に爆ぜ、血煙をまき散らす。


 しかし、やはりニンジャは止まらない。止められない。

 第三次ララーリング半島戦争時の旧式とはいえ、強化外骨格に拳銃弾は通じない。ニンジャ達は短機関銃を脇に下げ、代わりにニンジャブレードを抜刀。さらに速度を上げ、大気摩擦によってナノスキンから蒸気が曳かれる。ばら撒かれる大口径弾を置き去りにして強化外骨格へ肉薄。ブレードの電磁膜が碧の励起光をまとう。


 ニンジャの斬撃が強化外骨格の複合装甲を薄紙の切り裂き、切っ先が内殻骨格の奥へ滑り込んでコクピットへ到達。瞬間、刀身を覆う超高熱プラズマが鳳仙花のように弾け、搭乗者を一瞬で焼き殺しながら、強化外骨格を内部から撃破する。


 ――強 化 外 骨 格 (アームスーツ)・ 忍 殺(スレイ)――


 ニンジャ達は強化外骨格を斬殺するという、コミック張りの無茶をさらっとやってのけていく。


 デタラメな強さ。テクノロジーと練度が到達した一つの極地と言えるほどに。

 民兵達が駆逐掃討され、ニンジャ達がトシオと金星系紳士のいる広間へ到達するまで、わずか2分47秒しか掛からなかった。


      ○


 広間の壁が次々と切り裂かれ、四方からツーマンセルでニンジャ達が現れた。

 右手にブレードを持ちながら、左手で小型短機関銃を構えるニンジャ達は素早く一連射。広間内にいた護衛やウォーロイドが一瞬で無力化される。


 銃声の残響が溶けていく中、トシオは顔中の皺を大きく歪め、激昂した。

「俺はこのクソ野蛮地で皇国の影響力を広めてきたんだ……っ! 皇国のために尽くしてきたんだ……っ! それを、それを……テメェらふざけんじゃあねェぞっ!!」


 短機関銃の照準(ポイント)を重ねられているというのに、トシオは臆することなく罵倒を発する。第三次ララーリング半島戦争後に営々と手間暇かけて築き上げてきた組織を、カップラーメンが茹で上がるより早く壊滅させられた男の叫び。


 一方、金星系紳士は動じることなく細巻きの紫煙を楽しんでおり、隣の小柄な少女メイドも澄まし顔を湛えている。


「両手を頭上に上げ、膝をつけ」

 ニンジャの物言いは淡白だった。チーム7のリーダー・ヒロモト大尉が告げる。

 トシオではなく、金星系紳士へ向けて。


「断ると言ったら?」

 金星系紳士が紫煙を燻らせながら面白みを見出すように問えば。

 即座にニンジャの銃口が火を噴き、金星系紳士が指先に挟み持つ細巻きの先端だけ撃ち抜かれていた。

「両手を上げ、膝をつけ。三度は言わぬ」


「やれやれ。野蛮なことだ」

 ニンジャの警告を受け、金星系紳士は細巻きを卓上へ投げ捨てた。煙草の塵で汚れた手を小柄な少女メイドに拭わせながら、小さく嘆息する。

「よろしい。君達のルールに合わせようじゃないか」


「テメェ、何を――」

 ニンジャ達ではなくトシオが訝しんだ、刹那。


 金星系紳士は緩慢な動きで立ち上がり、

「君達は何も分かっていない。このノヴォ・アスターテという星が置かれた状況を」


 演技がかった所作で両手を広げ掲げていき、

「この星は宇宙文明人類史からこぼれた一冊の本だ。まっさらな美しい本なんだ……っ! 地球圏の歴史的因業や七星連合体制の政治的軛から解放された、無地の白本なんだっ!」


 金星系特有の青い肌を上気させながら、言葉を喚き奏でる。

「だというのに、君達は愚かにも! 地球史の焼き直しにうつつを抜かしているっ! 愚か! あまりにも愚かっ! 君達は分かってない分かってなぁああいいっ!!」


 ニンジャ達は何の反応も返さない。透過型ヘルメットの中の顔貌は誰も彼も無表情のまま。

 隣のメイド少女もまた、人形のように座り込んだまま微動にせず。

 唯一ぽかんと口を開けていたトシオが気を取り直して、言った。

「お前、頭おかしいンじゃねェか?」


「ミスタ・イジューイン。私が狂っているのではない。この星にある奇跡と可能性に気付いていない君達が愚鈍なのだ」

 金星系紳士は落胆したように深々と嘆息した。


「うんざりだ。戯言は尋問官相手に好きなだけやれ」

 指揮官ヒロモト大尉の言葉を受け、ニンジャ達が金星系紳士の制圧へ動く。これ以上戯言に付き合えぬと判断したらしい。まったく妥当であろう。


「私は忙しいのでね。君達に付き合う気はないよ」

 にたり、と金星系紳士は薄く微笑み、


 爆ぜた。


 ぱん、と風船が弾けるように金星系紳士の青肌の体躯が血煙と化す。肉片はおろか髪一本、着衣の繊維片一つ残らず細胞単位で金星紳士の肉体は爆散し、広間は赤ペンキをスプレーしたように真っ赤に染まった。

 もちろん、トシオも少女メイドもニンジャ達もソファも卓も量も酒杯も由佳も天井も、赤一色に染まっていた。


「は?」

 トシオが返り血に染まった顔を唖然とさせながら、目を瞬かせた。

「はぁっ?」


 冷徹で冷静なニンジャ達もこの事態には困惑を隠せない。拉致対称が水風船の如く木っ端微塵に弾け飛んでしまったのだから、無理もなかろう。


「――なんなんだ、こいつは……っ!」

 血煙になってしまった目標に対して毒づき、ヒロモト大尉は心底忌々しげに舌打ちした。

「仕方ない。副次目標(トシオ)を確保。データ類を全て回収して撤収する」


「このガキは?」ニンジャの1人が微動にしないメイド少女を窺いながら問う。

「連れていく。わずかでも情報を得られるかもしれん」

 指揮官の命令を受け、ニンジャ達は暴れるトシオを強引に――腕をへし折りながら組み伏せ、座ったまま微動せぬ少女を捕縛しようと手を伸ばした。


 瞬間、大柄なニンジャが少女に触れる寸前だった()()()()()()()()


 10ミリ高速熱破砕弾を頭に浴び、脳殻の破片と柔らかな脳ミソをぶちまけながら崩れ落ちていくニンジャ。

「な――」

 驚愕と同時にニンジャ達が即応する。


 お互いに短機関銃を撃ち、お互いにサイボーグ・カラテを繰り出し、お互いにニンジャブレードを振るう。

 次の瞬間にはニンジャの半分が頭を撃ち抜かれ、頭を殴り砕かれ、頭をカチ割られ、血塗れの床に倒れた。そして、生き残ったニンジャ達が再び殺し合う。


「なんなんだっ!? なんなんだぁああああああああぁっ!?」

 突如始まったニンジャ達の“共食い”に縛り転がされているトシオが喚き散らす。


 首を斬り飛ばされた紅一点の女性ニンジャが倒れ込み、最後に残ったヒロモト大尉が頭を小刻みに、だが激しく痙攣させながら、睨み据えて怨嗟を浴びせる。

「き……ききききさっ貴様っ! きしゃしゃ貴様がっがっ!!」

 血塗れのメイド少女へ向かって。

「きしゃみゃが“名無しの権兵衛”かッ!!」


 今までぴくりともしなかった少女は不意に口端を限界まで吊り上げた。あまりにもおぞましい笑顔にトシオが『ひっ』と息を飲む。


 少女は優雅な所作で立ち上がり、血に濡れた金髪を掻き上げ、碧眼を細めた。

「まさかこんな小物の動向にまで網を張っているとはな。皇国情報部の仕事に対する熱意を見くびっていた」

 天使のようなソプラノ。しかし、その響きはあまりにもおどろおどろしい。


 少女は卓に置かれた拳銃を拾い上げ、状況がさっぱり把握できないトシオの頭に三発撃ち込んだ。呆気にとられたマヌケ面のまま命を散らしたトシオに何の興味も示さず視線を切り、ヒロモト大尉を見上げ、告げる。

「自害せよ」


 瞬間、ヒロモト大尉はニンジャブレードを自ら下顎から突き刺した。自ら脳殻を破壊してどさりと崩れ落ちるハイエンド軍用サイボーグ。


 生存者が絶えた広間で、メイド少女はふんと鼻を鳴らす。

「特殊部隊の義体でこの程度か。皇国は物理浸食(ボディクラッキング)の対策が甘いな。後はトシオの独立端末を焼いて終いか。いや」

 少女の美しい碧眼が床に転がる女性ニンジャの首を捉えた。

「あれの脳殻内にまだ残っているか」


 サイボーグとて脳ミソは生体脳だから生命活動が停止してしまえば、急速に脳細胞の自壊が始まる。が、軍用サイボーグの場合は脳殻のサバイバリィ機能により、数時間程度の活性保存が可能な場合がある。この保存時間中に生命維持機器へつなぐなり、新たな義体に積み替えるなりすれば、サイボーグは蘇生し得るし、脳から情報を抜き出すことが可能だった。

 宇宙文明時代の魔法染みた生命工学、というわけだ。


 血塗れのメイド少女が女性ニンジャの首を破壊しようと踏み出した、刹那。

 ぐるりと首を巡らせ、監視カメラを見据えた。

「……皇国だけでなく惑星再生機構(ニューオーダー)のネズミ共も紛れ込んでいたか」

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