噛み合わない
「あ、なあなあ」
「んー、なあに?」
「おう」
「あー」
「この間さぁ、面白いことがあってさ」
「えー、またあの話ぃ?」
「ほーう」
「はははっ!」
「俺がよく行くハンバーガー屋があるんだけどさ」
「それより聞いてよぉ。あたし、この前買い物帰りにバスに乗ったらさぁ」
「おうおう、それで?」
「ははははっ!」
「そこでキャンペーンやっててさ。新商品の名前を正しく言って注文できたら、ちょっとしたグッズが貰えるみたいな、まあ、たまにあるじゃんそういうの」
「うん。全然、譲らないのね」
「ああ。あのふざけたやつな」
「はははははっ!」
「で、その新商品ってのが『チューっと大チューモク! チューチューして! チーズシェイク!』なんて名前のやつでさ」
「ほんと最悪……。鼻息荒いし、唇とがらせてさ」
「手に入れたのか? どうなんだ? 味は?」
「ははははははっ!」
「んで、おれ、もうピッタシそのまんま言ったんだよ! まー、相手がさ、女の店員だったから君にチューしたいっていう感じも、ちょっと出したりしてさ」
「クソ痴漢。ありえなくない?」
「で、そいつはどうした?」
「はははははははっ!」
「そしたらさぁ、その店員がなんて答えたと思う?」
「キモって」
「……死ねよ」
「ウチュウ!」
「『はい?』だってさ!」
「うふふふ、そりゃ言うでしょ」
「それから?」
「ははははははははっ!」
「そしたらさ。いやもう、自分でも不思議なんだけど、いやぁ脳がバグってたんだろうな」
「そうでしょ」
「おお、結局手に入れたのかどうなんだ?」
「はははははははははっ!」
「なんと、他のチェーン店だったんだよ! 間違えたってわけ! いやもう、顔熱っ! って」
「息臭っ! って」
「耳削げよ!」
「罰」
「いや、もう笑うしかないねー」
「って言ってやったのよ」
「聞けないなら、いらねーだろうがよぉ、そんな耳はよぉ」
「ははははははははははっ!」
「店員さんも察したのか、笑ってくれてさ」
「そしたらそいつ、バスを降りて逃げてったの」
「みすみす取り逃がしやがって」
「はははははははははははっ!」
「いい感じになって、あれ? これもしかしたら行けんじゃね? なんてさ。もうすでに恥をかいてるわけじゃん」
「えー、仕方ないじゃん。荷物で両手塞がってたんだってば」
「行けよ馬鹿がよ。言い訳ばっかしてんじゃねーよ」
「ははははははははははははっ」
「でも、だからこそじゃん? 恥の上塗り上等! その店員さんに言ったわけよ。連絡先とか交換してくれませんかって、そしたらさぁ!」
「でも、そしたらちょっとカッコイイ感じの人がさぁ、追いかけてさ!」
「おお、居所はつかめてるんだな。なに? 踏み込んだ? それで? マジか、銃まで持ってやがったのか!」
「その日、天から降りてくる」
「お客さん! 麺が伸びちゃうんで電話は食べた後にしてくれませんかねー! と……」
「すみま、あ、うん? 今? ラーメン屋。ん? 何だ今の音、アラート……?」
「やっば、店主さんに睨まれちゃった。そろそろ切るね。と、ははっ、店主さんも携帯見始めた、ん?」
「おい、声が聴こえねーぞ、おい……」
「来る」
「地震だ!」
「地震だ!」
「地震だ!」
「救済だ!」