8倍速未読スキップで乙女ゲームをクリアしたと言い張るヒロインをグーで殴る悪役令嬢
「あーあ、くっそー、負けた負けたー、まさか悪役令嬢も転生者とは思わへんやん」
私は乙女ゲームの世界に転生した日本人。生前プレイしていた乙女ゲームのヒロインとして転生していたのだが、卒業パーティで何か知らんけど隠しキャラ?ってのが敵に出てきて負けて牢屋行きである。
「これ、この後どーなるんやろ。1元の世界に帰る?2このまま死ぬ?3一生牢屋?4ゲーム開始まで戻る?1か4だとええなー」
「随分と余裕ですこと」
「あ、悪役令嬢…で良かったっけ?」
「貴方からすれば、そうなのでしょうね」
牢屋で先の展開予想をしていると、私をここへ閉じ込める様に命じたパープル髪の女がやって来た。
「パープルさん、何しに来たん?」
「誰がパープルよ!」
「ごめん、このゲームのキャラの名前難しくて、プレイ中は髪の色で呼んでた。で、何しに来たん?」
「貴方、どうして隠しキャラの事を知らなかったの?」
ほほう、パープルさんは私のプレイに疑問をお餅の様ですなあ。一人で先の展開予想するぐらい暇だったし、じっくり話してあげますかい。
「私が隠しキャラの存在を知らんかったのが気になってここに来た。そゆ事だね?」
「ええ、この世界の元になったゲームをクリアしているなら、彼の事は知らない方がおかしいのよ。貴方の記憶か、私の記憶か、この世界、どれがおかしいのかハッキリしたいわけ」
「おけ!私が隠しキャラ知らんかった訳、今こそ語ろうではないかー!」
そんな訳で回想!
「クソクソクソガリンの乙女尽くしでポン!かったどー!」
時は転生少し前!私は通販で買った乙女ゲームを頭上に掲げで乙女ゲームの舞を踊っていた。
『クソクソクソガリンの乙女尽くしでポン!』はお笑い芸人のクソクソクソガリンさんが全部のキャラを演ずる大人気乙女ゲームだ。毎年五十本乙女ゲームをやるマニアな私は速攻予約ボタンをポチッとな。んで、今日こーして届いた所さんよ。
「さて、神聖な儀式も終わったし、いざプレイんぐ」
予約特典のクソガリTシャツに着替えた私は、ゲームを差し込みスイッチオンすると、開始画面がテレビに映された。
「クソクソクソガリンの乙女尽くしでポン!どすこい!どすこい!コンフィグ〜!」
クソガリ師匠の声に打ち震えながら十字キーの下を二回押し、○ボタンでコンフィグを選ぶ。
「ほーほー、成歩堂ねー」
ゲームの良し悪しってのは、このコンフィグ画面で大体分かるんよ。機能が充実してる程、良作の可能性が高い。その基準で言えば、このガリポンは大当たりと言えた。なんせ、既読スキップ機能に加えて未読スキップまで存在し、更にスキップ速度も8倍速まで設定が可能ときたもんだ。
「ま、使えるもんはありがたく使いマッスル」
私は迷う事無く、未読スキップとスキップ8倍速をオンにしてゲームをスタートした。
「イケメン学園によくぞ来た!」
ゲームが始まると、老人の格好をしたクソガリ師匠が進行役として現れた。どうやらまだスキップは出来ないっぽいので、大人しく○ボタンを連打する!
「ワシはこの王国の公爵ファローズじゃ!イケメン学園の理事長もしておるから、学園生活で困った事があったらワシに相談すると良いぞ!それで…君の名前は何じゃったかな?」
【パメラ・アマクサ】
↓
【17時に卵洗剤・キッチンペーパー】
主人公の名前を変更した。まだスキップは出来ないので連打連打。
「ふむ、そうそう!17時に卵洗剤・キッチンペーパーじゃった!これから君は学園でイケメンをゲットしていく事になるのじゃが…入学前に紹介しておきたい子がおるのじゃ!」
ファローズ理事長の左にパープル頭の少女のコスプレをしたクソガリ師匠が出現。おそらくはこのゲームの悪役令嬢だろう。
「この子はワシの娘じゃ!君と同級生となり、イケメンを巡るライバルとなるじゃろう!」
「初めまして、17時に卵洗剤・キッチンペーパーさん。私、こちらのファローズ理事長の娘で…」
【セシリー・ファローズ】
↓
【近鉄バ・ファローズ】
「近鉄バ・ファローズと申します。入学後もよろしくお願いしますね」
悪役令嬢の名前変更が終わると、セーブ・ロード等が行えるメニュー画面が解禁された。つまり、未読スキップやり放題って事やね。私は当然の権利として未読スキップを実行。すると、メッセージが凄い速さで流れ出し、背景が目まぐるしく入れ替わり、人物が出たり消えたりを繰り返す。
「おもしれー女」「どけ、邪魔だ」「この学園にはイケメンBIG4と呼ばれるイケメンと彼らを従える王太子が」「君達にはこれよりダンジョンに挑んでもらう」「ピッビカチュウ!イケメンナンバー124番タメゴローくんの紹介じゃ!」「魔族が何故学園に!?」「ちくわ大明神」
未読スキップが正常に働いている事を確認した私は台所へ向かう。
「さーてと、選択肢が出てくるまでの間に昼ごはんっと」
私は毎日自炊している。今日は得意料理のカップ焼きそばにした。
「麺入れてー、かやく入れてー、ソース入れてー、お湯入れてー、マヨ入れてー、お湯を捨ててー、出来上がりっと」
真っ黒なお湯がシンクに流れ、ベコンと音を立てる。その間に選択肢が何度も出たので、私は選択肢の内容も見ずに一番上を選び続ける。ゲームオーバーになったら二番目。
「聖女の力は光の力」「お嬢さん、この先は一人では危険だ、そこでトレジャーハンターを雇わないか?」「コマネチコマネチ!我ら地獄のコマネチ兄弟!」「私はただの、近鉄バ・ファローズのファンですよ」「イケメンBIG4と魔王軍四天王、勝った方が願いの玉を手に」「ピッピカチュウ!イケメンナンバー149はジョンソン君の紹介じゃ!」「そうか、17時に卵洗剤・キッチンペーパー。私は今まで何故忘れていたのだ!二度と忘れるものか!」
カップ焼きそばを食べ終わって後片付けをして、昼寝が終わる頃には、テレビ画面にはスタッフロールが流れていた。
「はい、クリアクリア。んじゃ、買い物に行ってから、帰ってきたらCG眺めるかー」
こうして、見事このゲームをクリアした私は、卵とキッチンペーパーのセール品を買いに行き、その帰りにトラックに轢かれて異世界転生したのだった。
回想終了!
「と、ゆー話なのよ。やから、隠しキャラとか私にはわからんかったのさ。チャンチャン」
「.........................」
私の話を聞き終わったパープルは、無言で牢屋の鍵を開けると、中に入って来て拳を振り上げた。
「この馬鹿野郎!」
「いったー!正直に話したのに、何で殴るん?」
「お前にはこのゲームを語る資格はねぇー!」
「痛い!痛い!トラックで画太郎した時の痛さを100としたら、24ぐらい痛い!何で!私、何か悪い事した?」
私は必死な思いで、パープルの怒った理由を考える。
A:今回の話が彼女の役に立たなかった事に怒っている。
B:ただ単純にこのゲームのヒロインが嫌い。
C:カップ焼きそばの下りで飯テロされた気分になった。
D:洗剤買い忘れた事にブチ切れ金剛君。
「D!D!ファイナルファンタジー!」
「トゥトゥ!ヘヤー!」
私は必死に謝罪しているのに、パープルの連打は止まらない。謝ってるのに何で殴る?
「やっぱさ、悪役令嬢もののざまぁって、罪に対して罰が重すぎると思うんだよなー、皆はどう思う…ゴフッ」
そんな事を言いながら、私の意識は闇に沈んでいくのだった…。
げーむおーばー