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プロローグ


 天蓋付きの広いベッドで目覚めると、窓の外からパンの焼けるいい匂いが漂ってきた。

 そろそろ朝食の時間なのだろう。

 ダンテス伯爵家では、専門のパン職人が屋敷のなかで毎朝パンを焼く。

 特別な粉を使ったこのパンは香り高く、他ではちょっと食べられないくらい美味しい。


「おはようございます、セディー様。朝のお支度をお持ちしました」


 二人のメイドが洗面器や着替えを持って、にこやかに部屋へ入ってきた。


「うん、ありがとう」


 眠い目をこすりながら顔を洗い、しわひとつない純白のシャツに袖を通した。

 そこへ別の使用人がやってくる。


「おはようございます。朝食の準備が整いました」

「うん、ありがとう」

「朝食にはセディー坊ちゃまの好きなサクランボがございますよ」

「今年の初物だね。楽しみだなあ」


 今日も単調ながら何一つ不自由のない一日が始まるのだろう。

 それが、伯爵家の三男に与えられた僕の特権であり……、おや、また誰かがやってきたぞ。

 ずいぶんと急いでいる様子だな。

 足音を立てて廊下を走る使用人はめったにいない。

 そんなことをすれば厳格な父の雷が落ちるからだ。

 それにもかかわらずに高い靴音が通路から響いてくる。

 それくらい急用なのかな?

 ドアを開けて入ってきたのは顔を真っ赤にした執事の一人だった。


「セディー様、大変でございます! 伯爵が! 伯爵が事故に遭われて、お亡くなりになりました!」

「はぁっ!?」


 世界というのは実は微妙なバランスの元で成り立っているのかもしれない。

 当たり前だった日常はささいなきっかけで跡形もなくきえてしまうのだ。

 それこそ、優雅な生活を送っていた十二歳の僕が、父の死が原因で屋敷から追い出されてしまったみたいにね。

 ほら、こんな言葉があるだろう。


 祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声 諸行無常しょぎょうむじょうの響きあり


 まさにこういうこと。

 うんうん……、って、あれ? 

 フラッドランド王国フィンダス地方出身である僕が、なんでこんな言葉を知っているのだろう?

 家庭教師に習った記憶はないぞ。

 ではどうして? 

 わからない、わからない、わからない……。

 掘り下げて考えてみたかったけど、この報告に続くお葬式と遺産相続を控えた僕に、そんな余裕は微塵もなかった。


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